冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

文字の大きさ
76 / 115

76

しおりを挟む

 クリスタが何も言葉を返さない、と言う事が最早その事実を認めたような物である。

 クリスタの表情、視線の動き、態度から周囲に居た貴族達は皆「ディザメイア王国の王妃が魔法を使えなくなった」と言う事を理解した。
 そして、その瞬間。こうなる事を待っていた、と言わんばかりにバズワン伯爵が騒ぎ立てる。

「──なんと言う事だ……! まさか、王妃殿下……! 王妃殿下は魔法を使う事が出来ないと仰るのですか!? それは一大事ですぞ……!」

 バズワンの言葉に、ざわめきの波紋が瞬く間に広がって行く。
 ディザメイアの貴族のみならず、この狩猟大会に合同参加しているクロデアシアの貴族達にもその騒ぎは伝染し、何事だ、と注目を集めている。

 狩猟大会の開会の挨拶が済んだと言うのに、貴族達は誰一人として狩りに出発する者はおらず、この出来事の終結を見守るように。この出来事が、どう着地をするのかを確認するために誰一人動こうとはしない。

 クリスタの居る場所から少し離れた場所でギルフィードが心配そうな、悲しげな顔をしているのが視界に入る。
 クリスタに向けられる疑心に満ちた視線が多い中、気遣うような視線を向けてくれるのはギルフィードだけで。
 気を抜いてしまえば途端、その場に膝を着いてしまいそうな状況の中でも自分を信じてくれている誰かが居る、と言うだけで崩れ落ちそうな心情をどうにか保てている。

「──王妃、話を聞きたい……」
「分かりました、陛下──」
「お待ち下さい国王陛下! この場から王妃殿下を連れ出し、有耶無耶にされてしまっては私共もこの先、王家に対してどのように対応すれば良いのか、猜疑心が芽生えますぞ!」

 場所を変え、詳細を聞きたいと言うようなヒドゥリオンの言葉にクリスタが言葉を返した時。
 バズワンが言葉を挟んで来る。
 その内容は王族に対する不敬罪で罰されても文句が言えない程の言葉だったが、ディザメイアの貴族達がバズワンの言葉に頷き、「そうだ」「はっきりとして頂きたい」と言う言葉を口にし出してしまう。
 このまま、王族への不敬罪で一方的にバズワン伯爵を罰してしまえば王家への不信感は高まるばかりで、王族に対する貴族達の忠誠心が離れてしまう。

 それをヒドゥリオンも分かっているのだろう。
 ぐっ、と悔しそうに唇を噛み締め、バズワンに向き直り口を開いた。

「──では、どうすればそなたらは納得すると言うのだ……!?」

 ヒドゥリオンの言葉に、バズワンは「その言葉を待っていた」とばかりに嫌な笑みを浮かべ、ヒドゥリオンに言葉を返す。

「恐れながら、申し上げます。今、この場には運良く我が国の貴族の半数近くが集まっております。それに、友好国としてクロデアシアからは多くの貴族に……。──王族であられるギルフィード・トニク・クロデアシア殿下が。他国の王族であられるギルフィード殿下の眼前で、王妃殿下には魔法が発動出来ないと言う事を正式に言葉にして、発して頂きたい」
「──っ」

 バズワンの言葉に、クリスタもヒドゥリオンも目を見開く。

 そのような事を正式に発言してしまえばどうなるか。
 取り返しの付かない事となってしまう。

 クリスタの顔を見ながら、バズワンはにやにやと嫌な笑みを浮かべながら肩を竦めて言葉を続けた。

「そのような発言が出来ぬ、と仰るのであれば、今ここで魔法が発動出来る事を証明して下されば良いだけです。何も、難しい事ではございませんでしょう?」

 ああ、それとも、とバズワンは自分の顎髭に手を当て、撫でつつ口を開いた。

「まさか、……本当は殆ど魔法が使えなかった、などありませんよね……?」
「──っ、不敬だぞ、バズワン!!」

 バズワンの言葉に、流石にヒドゥリオンを声を荒らげ怒りを顕にする。

 幼い頃から婚約者として過ごして来ていたヒドゥリオンは勿論クリスタが魔法を発動出来る事は知っている。何度も目にして来ている。
 だが、国内の貴族や国民の多くが平民である彼らはヒドゥリオン程、クリスタの魔法をその目で確かめて来た事は少ない。
 国の式典や、祭典などで時折王族の魔法を見る事が出来る程度だ。

 王族の魔法はとても貴重で、その目で見る事が出来る者はとても幸運だとこの国では言われている。
 それ程、貴族や国民の前でクリスタやヒドゥリオンが大きな魔法を使う事は少ない。

 だからこそ。
 だからそこバズワンは、クリスタが元々魔力を殆ど持たず、魔法すら発動する事が出来ない状態を隠して王家に入ったのではないか、と言う事を言いたいのだろう。

 生まれた疑念、疑心は人から人へ伝染し、瞬く間に広がる。

 そして、もしかしたら自分たちは騙されていたのではないか? と言う考えに誰もが行き着く。
 疑念に満ちた瞳や、態度。それらに晒されてクリスタはすうっと血の気が引いて行くのを感じると同時に、バズワンやソニアの言葉を簡単に信じ込み、王家を王族を簡単に疑ってしまう貴族達に失望した。
しおりを挟む
感想 108

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

処理中です...