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「王妃……! 王妃待て……!」
あれから。
クリスタはあの場で今は魔法を発動出来ない事を告げ、その場から辞した。
クリスタがそう告げた瞬間、周囲に居た貴族達はざわめき、数多くの胡乱気な視線が否応無しにクリスタに突き刺さり、ついつい逃げるようにその場を離れてしまった。
そして今。
足早に自分の控えの間に戻るクリスタの後をヒドゥリオンが追って来ている。
「──何故、逃げるような真似をした! 王妃が魔法を発動出来る事は私が良く分かっているだろう、あの場でそれを証明すれば良いのだ……!」
簡単にそう口にするヒドゥリオンに、クリスタは声を荒らげる。
「──どうやって証明すると言うのですか!? あの場で、このように魔法が発動出来ないと言う事を知らしめるべきだったのですか!?」
クリスタはそう叫びながら、造形魔法を発動しようと両手に魔力を込めるがギルフィードを治癒しようとした時と同じように、魔力の光が手のひらに集束した後、ぱしっとその光は眩く光った後に弾けて消え去ってしまう。
魔法を発動する事が出来ないクリスタの様子を見て、その事実にヒドゥリオンが信じられない、とばかりに目を見開く。
「このように、多くの貴族が見詰める中! 役立たずとなった自分を周知しろ、と言うのですか……!?」
「本当、に……? 本当に魔法が使えなくなったのか……? どうして、突然──」
「──証拠が無い以上、お伝え出来ません」
「原因に心当たりがあるのであれば……!」
ヒドゥリオンの言葉に、クリスタは嘲笑を浮かべる。
原因はソニアだ、と言った所でヒドゥリオンが激怒するのは目に見えている。
確たる証拠も無い状態で、ソニアの名前を出した所でソニアは決して認めないだろうし、激怒したヒドゥリオンがどんな処罰を言い出すか分からない。
(子をどうにかしようとして、難癖を付けた、とあの寵姫に言われてしまってはたまったものじゃないわ……。それならば、ギルフィード王子とキシュート兄さんに協力を仰ぎ、共に調査をしてもらった方が確実に良いわ)
ヒドゥリオンの問い掛けに口を噤むクリスタに、ヒドゥリオンは苛立ち自分の前髪をくしゃり、と掴む。
「こうなってしまった心当たりも何も無いのか……! 王族が魔力を失った、と言う事は瞬時に国内へ広まるぞ……! どう収拾を付けるつもりだ……!」
「──考え、ます……」
「考える……!? 時間は殆ど無いぞ……! 明日にでも正式に発表せねば、国内が混乱に陥る……王家への不信が国民の中で膨れ上がる……!」
「分かっております! 分かっているから、今は一人にして下さい……!」
言い合いによって、クリスタの語尾も荒くなり、その態度にカチンと来たヒドゥリオンはむっと眉を寄せて叫んだ。
「──好きにしろ!」
そう吐き捨てるなり、ヒドゥリオンはクリスタを残して控えの間を荒々しく出て行ってしまう。
そしてクリスタは一人になった室内で頭を抱え、ソファにどさりと力無く腰掛けた。
「──っ、どうしたら……。大勢の人の前で、私が魔法を発動する事が出来ない、と……」
バズワンをもっと早く抑え込む事が出来ていれば。
ソニアの提案──お願い、をもっと上手く断る事が出来ていたら。
そうすれば貴族の多くに不信感を抱かせてしまう事を回避出来たかもしれない。
それに、現状魔法を使う事が出来ないと言う事と、以前は魔法を発動出来ていた事を証明出来ていれば。
そうすれば、最初から騙していた、と言うようなバズワンの暴言を食い止める事が出来たかもしれない。
「私に魔法を教えて下さった先生は、もうご高齢でお亡くなりになっているし……先代の国王も、王妃もご病気で亡くなられている……」
それならば、自分の家族は──と考えてクリスタはふるふると頭を横に振った。
「お父様と、お母様にご迷惑をお掛けする事は出来ない……。今回の一件で私の実家であるヒヴァイス侯爵家にも非難が集中するわ……」
それならば、実家の侯爵家を助けなければならない。
色々考え過ぎて頭が痛いし、喉が渇いた──。
クリスタは入口の方向を確認する。
普段は自分の侍女達が控えている筈だが、外の混乱に巻き込まれてしまっているのだろうか。
「……ナタニア夫人達を、呼ばなければ……」
クリスタは座っていたソファから立ち上がり、入口からひょこり、と顔を出す。
周囲を見回してみても人の気配が無くて、おかしいと思いつつ一歩外に足を踏み出した。
近くに侍女か、侍従の誰かが居ないだろうか、と思っていた時にクリスタの耳に誰かの会話が聞こえて来た。
クリスタの控えの間があるのは広場の中心地。
国王であるヒドゥリオンの控えの間から程近い場所だ。
そして、その会話はヒドゥリオンの控えの間から聞こえて来て。
声から、会話をしているのはヒドゥリオンとソニアだと言う事が分かった。
そうして、信じられない会話をしているのがクリスタの耳に届いた。
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