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しおりを挟むぼそぼそ、と声を潜めて会話をしている。
その様はまるで密談をしているようで。
この会話を外部に聞かれてはならない、と細心の注意を払っているようで。
クリスタはヒドゥリオンの控えの間から聞こえて来る会話に呆然と立ち尽くした。
──このままではクリスタ王妃が国内の貴族達から反感を買ってしまいます。
──もしかしたら、暴動まで起きてしまうかもしれません。
──分かっている、だがそれをどう抑え込めば良いのか……。
──それならば、クリスタ王妃をお守りするために、わざと罰を与えては如何でしょう?
──国民を、国内の貴族達を欺いた罰としてクリスタ王妃の王妃としての権利も、権限も全て廃してしまうのです。
──それはっ、王妃を廃すると言う事か……!? 流石にそれは……っ
──ですが、そうしないと国民が納得しないかもしれません……!
──クリスタ王妃がヒドゥリオン様と私の子を手にかけようとした噂は貴族達に広まっています。見せ掛けだけです、パフォーマンスとしてクリスタ王妃に罰を与える形にして、お時間が経過し、ほとぼりが冷めた頃に再びクリスタ王妃に王妃の座に戻って頂くのです!
──な、なるほど……。一時だけ……一時だけだとクリスタに説明すれば……。
──そうです、ヒドゥリオン様。一時だけクリスタ王妃と離婚する事にすれば良いのです……!
「嘘、でしょう……」
クリスタは、控えの間から聞こえて来る会話にざり、と後ずさってしまう。
良い考えだ、とばかりに一時だけクリスタと離婚してまた時間が経った頃に元に戻せば良いと考えているようだが、そんな事がまかり通る訳が無い。
ヒドゥリオンと離婚し、一度廃妃となってしまえばクリスタの国内での信用も何もかもが地の底に落ちてしまい、一時は王族で、国の国政に深く関わっているクリスタをそのまま放置しておく筈が無い。
廃妃となった時点で、クリスタの下には暗殺者がやって来る可能性は高いだろう。
その危険性も何もかもを見過ごし、廃した後はまた元に戻せば良いと軽く考えているヒドゥリオンにも、ソニアにもクリスタは正気を失っているのではないか、と考える。
それに。
クリスタが幼い頃からどれだけこの国の王妃となるべく努力して来ていたか。
どれだけこの国をより良くしよう、と国政に心血を注いでいたか。
その様を長年隣で見ていたヒドゥリオンは良く分かっている筈なのに。
それなのに、簡単にクリスタを廃そうとするヒドゥリオンにクリスタは今度こそ、僅かに残っていた家族としての情も、信頼も何もかもを失った。
クリスタは外に侍女を探しに出て来ていたが、くるりと振り返りそのまま足早に自分の控えの間に戻った。
◇
「──クリスタ様。いらっしゃいますか?」
入口の外から焦ったようなギルフィードの声が聞こえ、クリスタはそちらに顔を向けた。
「居るわ。どうしたの?」
「っ、失礼します……!」
入口をバサリと開けて慌てたように入室して来たギルフィードに、クリスタは座っていたソファから立ち上がる。
これ程までに慌てふためく様子のギルフィードの姿は珍しい。
外でまた何かあったのだろうか、と考えたクリスタだったが、次にギルフィードの口から出た言葉に何故ギルフィードがこれ程慌てているか理解した。
「クリスタ、様……っ。今、国王と、あの寵姫が……っ」
「──……ああ……。貴方も聞いてしまった……?」
はっ、と声を出して薄らと笑みすら浮かべているクリスタにギルフィードは混乱する。
「クリスタ様……? 既にご存知なのですか? ──それならば、何故……!」
「国王陛下が決めてしまった事を覆すと言う事は簡単じゃないわ。足掻くだけ無駄な事よ」
けれど、とクリスタは仄暗い笑みを浮かべる。
「あの人は、私の十数年をどう思っているのかしらね……。あのような下策を提案されて、それを妙案ばかりと明るい声を出して……っ」
クリスタはくしゃり、と自分の前髪を握り締める。
「──っ、どれだけ……っ」
先代の国王と先代の王妃の心を蔑ろにし、最後まで国を想っていた前両陛下を思うとクリスタはやるせない気持ちを抱く。
そして、今度はソニアに言われた言葉を鵜呑みにしてその行動を実行に移すだろうヒドゥリオンにふつふつと怒りを抱く。
「──っ、絶対に許さないわ……っ」
ヒドゥリオンの控えの間がある方向を強く強く睨み付け、クリスタは憎しみすら籠った声音で許すものか、と続けた。
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