冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 ばさばさ、と新聞を叩き面白おかしく雑談をする声が聞こえる。

「──それにしても。この国の王妃様も結局は醜悪な嫉妬深い、ただの女だったって事かぁ!」
「治世の腕も、民の声も聞いてくれる綺麗だけど、どこかおっかねぇお人だなぁ、と思ってたけどまさかなぁ……!」

 ケラケラ、と酒を飲み赤い顔でクリスタの悪い噂話をし始める数人の男達に、ギルフィードの護衛達は「不味い」と心の中で呟き、男達に向けていた視線を慌ててギルフィードに戻す。

「主──……っ!?」

 だが、護衛達が視線を戻した先には既にギルフィードの姿はとっくに無くなっていて。

 慌てて再び男達の方に視線を戻した護衛達は自分達の視線の先で酒瓶を片手に持ち、男達に混ざるギルフィードの姿に頭を抱えたくなってしまった。

「あの方の事となると……!」

 困ったように呟く護衛の声はギルフィードには届かず、酒を持って乱入して来たギルフィードに男達は戸惑っている。

「やあやあやあ、面白い話をしているな? 俺も混ぜてくれないか」
「だ、誰だお前……?」

 にゅっ、と突然自分達の輪に入って来たギルフィードに男達は警戒し、訝しげるがギルフィードは手に持っていた酒数本をテーブルに置き、男が持っていた新聞に指を向ける。

「ああ、これ皆で飲もうぜ? 飲みきれないのに頼み過ぎちまって……。それはそうと、その新聞……平民おれたちの間で流行ってる大衆新聞か?」
「あ、ああ……。そうだが……。本当にこれ飲んで良いのか?」
「ああ。いいぞいいぞ、飲んでくれ。残しちまうのは勿体ねえだろ?」

 男達は、ギルフィードが置いた酒に釘付けで飲んでくれと笑顔で告げるギルフィードにごくり、と喉を鳴らす。
 そして好きに飲め、と言うギルフィードに短く礼を告げるなり酒を自分のコップに注ぎ始めた。

「わりぃなぁ、兄ちゃん! ありがてえっ! カミさんから小遣いを少なくされちまって満足に酒も楽しめなくてなぁ」
「それは辛いだろう? この国は今やこんな騒ぎだ……この先どうなっちまうのか不安なのに酒まで満足に飲めねえんじゃあなあ……」
「そうなんだよ、俺たちだって毎日汗水流して必死に働いてるってのによぉー」
「給金は下げられるわ、変な所に仕事に行かされるわ。人使いが荒くなっちまってよぉ……」

 ギルフィードは男達に適当に相槌を打ちつつ、大衆新聞を手に取る。

 貴族達が見るような物に比べ、信憑性が無い大衆新聞。ゴシップが多く、国民の中で噂話程度に流れているような内容が多いが、時には貴族向けの新聞よりもゴシップ紛いのこちらの新聞の方が役に立つ。
 今のギルフィードやクリスタにとってもこちらの新聞の方が国民の間で自分達がどのように噂をされているのか。自分達の事がどのように広まっているのかを把握するのに優れている。

 ギルフィードが新聞に視線を落とすと、男達がギルフィードの肩に手を置き話し始める。

「それにしても、本当女ってのは恐ろしいもんだぞ、兄ちゃん」
「そうそう。この国の王妃様だってよお、あんな冷たい表情でひと一人の命を狙ってんだ」
「しかも、命を狙ったってのが腹の中の赤ん坊だって言うからなぁ。何も感じねぇ氷のような方だと思ってたけど、女として腹が立ったってのかねぇ」
「──……王妃が、第二妃様の子供を」

 ギルフィードはぽつり、と呟く。

「ああ、そうらしいぜぇ。そんで、怒った国王に離婚されそうだってよぉ!」
「王妃じゃなくなったら、どうなっちまうんだろうなあ」

 ──まさか、ここまで早く噂が出回るとは。

(これは……やはりクリスタ様を早く処理してしまおうとしている人間が居るな……)

 ギルフィードは自分の手の中にある新聞を力一杯握り締めてしまった。
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