88 / 118
88
しおりを挟む新聞を力一杯握り潰してしまったギルフィードに、酒場に居た男達は「あー!」と大声で叫び、ギルフィードに詰め寄る。
「おいおいおい兄ちゃん! そりゃないぜ!」
「まだ全部読んでねえんだよ!」
自分に詰め寄る男達を処理しようと護衛達が動き出そうとするが、ギルフィードは護衛達に向かって手のひらを差し出して留めおく。
ここで大きな騒ぎになっては困る。
「──悪い悪い! 酔いが回っちまったのか……、力加減を間違えた……! すまない、この新聞の二倍料金を払うから、これは俺に譲ってくれないか?」
「え? 二倍……? いいのか? 俺たちはそれで新しいのを買えるが、後で交換しろっつっても応じないぜ……?」
「ああ、構わない。すぐ内容を確認したくてな。読ませて貰いたいんだよ。そっちは新品買ってくれ」
「──そこまで言うんなら仕方ねえなぁ! 酒も奢ってもらっちまって悪いなあ、兄ちゃん!」
ギルフィードはにこやかに笑いながら男の一人に新聞の二倍の金額を渡す。
そうして、俺はそろそろ休むよと言い残し、男達に挨拶をしてその場を後にした。
ギルフィードから金を貰い受けた男達は嬉しそうに騒ぎ、ギルフィードが置いていった酒と金で追加注文をしているのが見える。
「──部屋に戻る。内容を確認する」
「かしこまりました、主」
ギルフィードは護衛達に伝え、階段を上っていく。
変に思われぬよう、時間差で護衛達に戻るように伝え、一足早く自分の部屋に戻ったギルフィードは先程酒場の男達から譲ってもらった新聞をテーブルにぽい、と置き寝支度を済ませてしまう。
隣の部屋にいるクリスタは既に眠っている時間帯だろう。
音を立てないよう慎重に寝支度を終えたギルフィードは部屋の魔道具ランプに自分の魔力で火を灯し、ベッドに腰掛け新聞に目を通す。
新聞の中表紙には、話をしていた通りの内容が記載されておりクリスタとヒドゥリオン二人の事が面白おかしく書かれていた。
ソニアに嫉妬し、怒り狂ったクリスタが子に手を出そうとしてヒドゥリオンに罰される。
その罰を受けるのも時間の問題で、その罰は離婚。王妃が王妃ではなくなり、捨てられた廃妃となるか!? とふざけた見出しで書かれていて、ギルフィードは不快感を顕に眉を寄せる。
「──寧ろ、クリスタ様が国王を捨てたと言うのに……」
ぱら、ぱら、と新聞を何枚か捲り内容を確認していく。
そしてあるページを開いた所でギルフィードはぴたり、と手を止めた。
「……何だこの失礼な記事は……」
最近、巷では真実の愛を見つけたとある国の王様と、亡き王国の王女の演劇が流行っているらしい。
この国で有名な劇場でもその演目は連日チケットが完売の嵐らしく、貴族達や平民の間でも人気が出て来ているらしい。
物語の導入部分を確認してみれば、とある国の、とぼかしてはいるがどう見てもこの国ディザメイア王国の国王、ヒドゥリオンと滅んだタナ国の王女ソニア二人をイメージしたラブロマンスだ。
二人の名前を変えただけで、二人の出会いの話も、そしてその国王にはクリスタのように冷酷な王妃と呼ばれている王妃が居るのも同じ。
そして、その王妃が国王に捨てられてしまい、真実の愛の相手、亡国の王女と結ばれて末永く幸せになるという物語は大衆に人気らしく、今やチケットはとても手に入りにくくとても高額となっているらしい。
「こんな、ふざけた新聞が出回っているのか──」
既にくしゃくしゃになっている新聞を再び握り潰したギルフィードは、くしゃくしゃと自分の前髪を掻き回した後、火魔法で手の中の新聞を燃やしてしまう。
「これ、は……キシュートを救出したらすぐにクリスタ様をこの国から逃がさなくてはならないか……」
国民からの悪感情が想定していたよりも大きくなる可能性がある。
そして、噂に踊らされクリスタに悪意を抱く人間も出て来てしまうかもしれない。
民衆からの心無い視線や感情にクリスタがこれ以上晒されてしまうのは出来れば避けたい。
「クリスタ様には……何も気にせず穏やかに暮らしてもらいたいのに……」
あの男と結婚さえしなければ、とギルフィードは過去の事にまで憤りを感じてしまう。
あと少し、クリスタと自分の出会いが早ければ。
あと少し、自分が生まれるのが早ければ。
もし、自分が王太子と言う地位だったらば。
今更どうしようも無い事ばかりが頭の中を巡る。
「……一先ず、キシュートだ……」
目の前の事から考え、処理していかなければならない。
「王太子になるのも、クリスタ様を招くのも、まだゆっくりで良い……」
幸い、時間は出来た。
取り敢えずはキシュートを助け、自分が去った後の王城跡での出来事を確認しよう、とギルフィードはベッドに横になった。
103
あなたにおすすめの小説
あなたの事は好きですが私が邪魔者なので諦めようと思ったのですが…様子がおかしいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のカナリアは、原因不明の高熱に襲われた事がきっかけで、前世の記憶を取り戻した。そしてここが、前世で亡くなる寸前まで読んでいた小説の世界で、ヒーローの婚約者に転生している事に気が付いたのだ。
その物語は、自分を含めた主要の登場人物が全員命を落とすという、まさにバッドエンドの世界!
物心ついた時からずっと自分の傍にいてくれた婚約者のアルトを、心から愛しているカナリアは、酷く動揺する。それでも愛するアルトの為、自分が身を引く事で、バッドエンドをハッピーエンドに変えようと動き出したのだが、なんだか様子がおかしくて…
全く違う物語に転生したと思い込み、迷走を続けるカナリアと、愛するカナリアを失うまいと翻弄するアルトの恋のお話しです。
展開が早く、ご都合主義全開ですが、よろしくお願いしますm(__)m
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
何でもするって言うと思いました?
糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました?
王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…?
※他サイトにも掲載しています。
君を自由にしたくて婚約破棄したのに
佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」
幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。
でもそれは一瞬のことだった。
「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」
なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。
その顔はいつもの淡々としたものだった。
だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。
彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。
============
注意)ほぼコメディです。
軽い気持ちで読んでいただければと思います。
※無断転載・複写はお断りいたします。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
【完結】元サヤに戻りましたが、それが何か?
ノエル
恋愛
王太子の婚約者エレーヌは、完璧な令嬢として誰もが認める存在。
だが、王太子は子爵令嬢マリアンヌと親交を深め、エレーヌを蔑ろにし始める。
自分は不要になったのかもしれないと悩みつつも、エレーヌは誇りを捨てずに、婚約者としての矜持を守り続けた。
やがて起きた事件をきっかけに、王太子は失脚。二人の婚約は解消された。
高慢な王族なんてごめんです! 自分の道は自分で切り開きますからお気遣いなく。
柊
恋愛
よくある断罪に「婚約でしたら、一週間程前にそちらの有責で破棄されている筈ですが……」と返した公爵令嬢ヴィクトワール・シエル。
婚約者「だった」シレンス国の第一王子であるアルベール・コルニアックは困惑するが……。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる