冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 二日後。
 最後の村を出発して、キシュートが潜んでいると言う国境付近の村に到着したクリスタは自分の目の前に広がる光景に我が目を疑った。

「──っ、何これ……」
「クリスティー……?」

 呆然と呟くクリスタに、ギルフィードも倣って村に目を向ける。

 以前、自分が訪れた時と大きく変わらない。
 変わらない、と言う事は今も尚王都からの援助も人員も増員されていないと言う事だ。

 小さな村である事から例え国境付近としても、王都では復興を重要視していないのかと思っていたギルフィードは、クリスタの表情を見てその考えが間違っていた事に気付いた。

「何故、まだこの村がこんな状況なの? ここは、本当に国境近くのウイラ村よね?」
「え……。クリスティー、どう言う事?」
「……っ、何故戦争が終わった後これだけ時間が経っていると言うのにこの村がまだこんな状況なの……!? 復興に掛かる人員も、費用もしっかり回しているのよ……!? それなのに村に憲兵も居ないし、破壊された家々が修繕されていない……!? ……っ、人は……? 飢えは起きていないの!?」
「まっ、待って……! 待ってクリスティー!」

 慌てた様子で村に駆け込もうとしたクリスタをギルフィードが止める。
 村の治安はお世辞にも良いとは言えない。
 飢えた村人が旅人を襲い、金品や食料を奪おうとする事だってある。
 そして数多くの憲兵が派遣されていないため、敗戦した隣国の敗残兵が周囲を彷徨いている可能性だってある。
 敗残兵は村に住み着き、村人を襲う。
 生きて行くのに必死なためなりふり構わず襲いかかって来る。

「……一先ず、この村の安全な場所に行こうクリスティー。その後にキシュートが潜伏している村外れの森に」
「──っ、分かった……分かったわ……っ」

 何故こんな状況になっているのか分からない。
 クリスタは村の惨状を悲痛な面持ちで確認しつつ、ギルフィードに着いて行った。



 村の廃屋。
 住民は今回の戦争で亡くなってしまったのだろう。
 今はもう誰も住んでいない廃屋を見付けたクリスタ達は一旦そこで体を落ち着ける事にした。

 周囲の警戒は二人の護衛が行ってくれているため、二人はこの村にやって来てから初めて緊張を解き、近場にあった椅子に腰掛ける。

 埃が舞い、とても衛生的な場所ではないが外に居続けるよりはましである。
 クリスタとギルフィードは外套を脱ぎ、軽装になると話し始める。

「クリスタ様」
「ええ、そうね……そうよ。どう考えてもおかしいわ」

 室内で、誰にも聞かれる恐れが無いためギルフィードは以前のようにクリスタの名前を呼び、今までのように問い掛ける。

 ギルフィードの問い掛けにクリスタは自分の額に手をあてながら首を横に振る。

「陛下が戻られてから、戦後処理は私が行ったの。自分で指示したのだもの、しっかり覚えているわ。復興に必要な支援を行う書類に署名したのは私よ。戦火に見舞われた国民に、少しでも今までと同じように安心して暮らしてもらいたいと……。それなのに、何故憲兵も居なければ修繕もされておらず、食料も行き渡っていないの……っ」

 村を歩いている時に視界に映った、家と家の間の細い道で事切れていた幼い子供の姿が頭に過ぎる。

「情けない……っ、本当に情けないわ……っ。書類の手続きだけして、本当にそれらが問題なく実行されているかどうか、微塵も疑わなかった……っ」

 この数ヶ月の間、村の人間はどれだけ苦しい生活をしていたのか、とクリスタは自分の行いを恥じた。

 書類上の手続き。
 綺麗な城で、豪奢な王都で、飢えに苦しまない場所で処理をして来ていた。
 何も感じず、ただただ淡々と処理をして来ていたけれど現実にはこれだけの人々が苦しみ、王都から一向にやってこない支援を期待しつつ毎日を過ごして来たのだろう。

「──着服、若しくは重要書類の改竄が行われていた、と言う事ですね」

 ギルフィードの冷静な声が耳に届き、クリスタは唇を噛み締めたままこくり、と強く頷く。

「少なくとも、今まではちゃんと行われていた筈よ……。と言っても、過去に戦争が起きたのは私が王妃になる前だから……前国王陛下の時代だけれど……」
「と、なると近年になって急にとなりますね……。今の国王になって、何故……。それに突然隣国との諍いが発生したのも最近ですよね?」
「え、ええ……確かに決して安心出来るような状況では無かったけれど……」

 クリスタの言葉を聞いて、ギルフィードは考え込む。

(……だから、キシュートはわざわざクリスタ様をこの村に呼んだ、のか……? タナ国の城跡にあったものを見せる目的もあるだろうが……キシュートも異変を感じていた……?)

 公爵家当主として仕事上他国に赴く事が多かったキシュートがこのタイミングでギルフィードを呼び寄せ、この国に滞在させた理由も何か関係しているのかもしれない。

 そう考えたギルフィードは、自分達が何か得体の知れない大きな出来事に巻き込まれていっているのでは、と背中に嫌な汗が伝った。
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