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しおりを挟む映し出された映像には、クリスタの国ディザメイア王国の王城と引けを取らない程煌びやかで荘厳な城の内部が映っていた。
ジジッと時折映像に乱れが生じるが映像は鮮明で。
壁に取り付けられている魔道ランプも。
壁画も。
そして所々に刻まれている古代文字。その古代文字はクリスタも目にした事がある。
ギルフィードがタナ国から持ち帰って来てくれた城壁の瓦礫。そこに刻まれていた古代文字と種類は同じだろう。
そして、その映像が流れている時にキシュートの声が聞こえる。
〈──これだけの地下空間を創り出すとは……魔術と言うのはこんな事まで出来るのか?〉
〈そのよう、ですね……。我々が使用している魔法はこのような空間を創り出せたとて、維持する事が難しいですよね?〉
〈ああ。半永久的に……しかも発動者が居ない状況でこれ程状態を保てているのが奇跡のようなものだ〉
キシュートと、誰かの声。
恐らく護衛の声だろう。
だが、その護衛はもうキシュートの側には居ない。その事からこの後、キシュート達になんらかの出来事が起きて護衛達が全滅してしまったのだろうと言う事が分かる。
映像はまだ続き、地下空間を更に降りて行く。
キシュートと、護衛の足音だけが映像に記録されていて、最下層まで降りたキシュート達が火魔法で周囲を明るく照らした。
──瞬間。
ガッ! と鈍い音がして、映像が突然途切れた。
「──えっ!?」
「何があったんだ、キシュート?」
クリスタと、映像を覗き込んでいたギルフィードが同時にキシュートに顔を向ける。
するとキシュートは申し訳なさそうに眉を下げ、口を開いた。
「……最下層には得体の知れない獣が居た」
「獣……!?」
「得体の知れないって、一体どう言う事だ……!?」
キシュートの言葉に、クリスタもギルフィードもギョッとして声が裏返ってしまう。
そんなクリスタとギルフィードにキシュートはどう説明したらいいか、と言葉に悩み獣の姿を思い出すように虚空を見ながら口を開いた。
「……そう、だな……。大型犬くらいの大きさで……だが犬とは違う。口が大きく、牙も太く鋭い。そして犬には無い大きな鉤爪を持っている真っ黒い獣だ。……それが、最下層に巣食っていた」
「巣食う……!? 複数いた、と言う事なの!?」
「良く無事で……っ」
クリスタは青ざめ、自分の口元を覆いギルフィードはキシュートが無事だった事に驚いている。
そんな二人の様子に、キシュートは自嘲気味に笑い、弱々しく言葉を零した。
「──っ、私を逃がすために複数が犠牲になったからな……っ」
予想はしていたが、護衛達の犠牲と言う直接的な言葉をキシュートから聞き、クリスタもギルフィードも胸に重たい気持ちが満ちる。
きゅ、と唇を噛み眉を寄せるクリスタにギルフィードが寄り添う。
そんな二人の様子を見て、キシュートは意外そうに僅かに目を見開いた後安心したように目を細めた。
「……そうか。そう、か……。良かった」
「──? キシュート兄さん?」
「いや、何でもない。以前より二人が仲良くなったみたいで良かったな、と思ってな」
にこり、と微笑むキシュートにクリスタはきょとりと目を瞬かせ、ギルフィードは頬を僅かに染める。そしてキシュートをじとっとした目で睨む姿は照れ隠しをしているようで。
キシュートは本当に、心の底から良かったと安心した。
クリスタの側にギルフィードが居てくれるだけで安心して自分は動く事が出来る。
(ギルフィードが居てくれれば、大切な妹分のクリスタはきっと大丈夫だな)
一人、気恥しい気持ちになってしまったギルフィードは気を取り直すようにこほん、と咳払いをしてからキシュートに視線を向けた。
「──、それ、で……キシュート。最下層に居たその獣類は処理し終わったのか……?」
ギルフィードの言葉にキシュートは「そうだった」と気持ちを切り替え、クリスタとギルフィードを真っ直ぐ見詰める。
「いや。全てを処理し切れてはいない。数体はどうにか出来たのだが、その数体を処理している最中に私の護衛達が負傷してしまってな……。退避した後……ああなってしまった。だからギルフィードとクリスタを待っていたのもある」
キシュートの言葉を聞き、「なるほど」とギルフィードは納得する。
護衛が全滅してしまい、キシュート一人ではどうする事も出来なかった。
キシュート程力がある人間がそう判断する程、その獣は手強いのだろう。
確かにクリスタとギルフィードがキシュートを救出しに来れば、二人には複数の護衛が随行する。
その力を借りたいのだろうと察したギルフィードだったが、問題がある。
「理由は分かった。……だが、キシュート」
「……何だ? 何か問題でもあったか?」
歯切れ悪く、言葉を濁すギルフィードに違和感を感じたキシュートは何があったのか、と言葉を続けた。
「……クリスタ様」
「私から話すわ、ギル……」
ギルフィードから視線を向けられたクリスタはきゅ、と拳を握り締めて自分の置かれている状況をキシュートに説明するため、口を開いた。
「キシュート兄さん……。力になりたいのは山々なの。だけれど……今の私には魔力が無くて……最下層には一緒に行く事は出来ないわ」
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