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しおりを挟む元タナ国、城跡でキシュートと別れたクリスタ達一行は帰路の途中、マルゲルタからの手紙を受け取り急ぎヒヴァイス侯爵家に戻ってきた。
「──マルゲルタ!」
「クリスタ! 待ってたわ!」
クリスタが侯爵家に到着するなり、正門まで出迎えにやってきていたマルゲルタと再会し、熱く抱擁し合った。
「待たせちゃったわよね? ごめんなさい」
「いいのよ。私も急に来ちゃったから気にしないで」
クリスタとマルゲルタ二人が久々の再会でにこやかに会話をしている横で、ギルフィードとユーゼスが軽く挨拶を交わす。
「──お久しぶりです、ギルフィード様」
「ユーゼス、だったか? 久しぶりだな。それにしても突然だったな、クリスタ様と会う予定でも……?」
不思議そうに問いかけるギルフィードに、ユーゼスが苦笑いを浮かべ、頬をかいた。
「いえ……。皇女殿下のいつもの暴走ですよ……」
「ああ……心中察するよ……ご苦労さま」
二人が何とも言えない表情で言葉を交わし合っていると、クリスタと話していたマルゲルタがいつの間にか二人の隣にやって来ていて。
ユーゼスの肩を自分の拳で小突いた。
「随分な言い様ね、ユーゼス?」
「こ、皇女殿下……! いつから聞いて……っ」
「最初からよ。私がいつも暴走しているって、どういうことかしら?」
ムッとした表情で佇むマルゲルタにユーゼスはたじろぎ、クリスタに助けを求めるような視線を向ける。
その視線を受けたクリスタは困ったように笑いつつ、マルゲルタに向かって口を開いた。
「マルゲルタ、ユーゼス卿を揶揄うのもそれくらいに。それより、貴女がここに来てくれた理由を中で詳しく聞いても良い?」
クリスタの言葉を聞き、マルゲルタはハッとした後、神妙な面持ちで頷いた。
◇
場所を移したクリスタ達は、応接間で改めて顔を合わせた。
旅装束を解き、身支度を整えたクリスタとギルフィード二人はマルゲルタとユーゼスに改めて挨拶を行う。
クリスタはディザメイアの貴族として、ギルフィードはクロデアシアの王族として挨拶を行い、マルゲルタも二人の挨拶に皇族として返す。
そして人払いを行った応接間の中、四人だけの空間でソファに腰を下ろした一行の中で、クリスタが口火を切った。
「先ずは……私の手紙を受け、駆け付けてくれてありがとう、マルゲルタ。貴女のような友人を持ち、私は幸せだわ」
「水臭いことはよして頂戴。困った時はお互い様だし、クリスタの知識に我が国も沢山助けられてきたわ。貴女が困っているなら、今度は我が国が力になるわよ」
「当然でしょう?」と首を傾げ、勝ち気な笑みを浮かべるマルゲルタにクリスタも笑みを深める。
そして、マルゲルタはちらりとユーゼスに視線を向けたあとに「出して頂戴」と言葉を発した。
マルゲルタとユーゼスのやり取りを不思議そうに眺めていたクリスタとギルフィードの目の前で、ユーゼスが一冊の本を取り出す。
「これは、我が国ティータ帝国に伝わる書物よ。クリスタの役に立つと思うわ」
マルゲルタの言葉と共に、テーブルに置かれた一冊の本。
それはマルゲルタが国から持ち出した「魔術と歴史」という題名の本だ。
古代文字で書かれている表紙の文字を読んだクリスタは、驚きの表情を浮かべる。
その本は、どこからどう見ても国の重要な資料であることが分かる。
そんな物を気軽に提供してきたマルゲルタに、クリスタは驚きを隠せない。
その様子を見ていたマルゲルタは、本の表紙を手のひらでなぞりながら言葉を続けた。
「──最初は、クリスタの力になれるかもと思っていただけなの。……けれど、タナ国の報告をくれたでしょう?」
「え、ええ……そうね。あの国の城跡で得た情報を、ギルに手伝ってもらって貴女に知らせたわ」
「受け取って、しっかり読ませてもらったわ。それで……考えを改めたの」
「考えを……? それは──……貴女の表情を見る限り、あまり芳しくないようね」
クリスタの言葉に、マルゲルタは苦笑する。
そして重苦しくなってしまった室内の空気を更に重くしてしまう言葉を発した。
「……最初はクリスタの立場をどうにか挽回出来る手助けをしたかった……。けれど、タナ国で忌み物が存在していた痕跡を見付けたのであれば、クリスタだけの問題では済まないわ。……国同士で、争いが起きるかもしれないのよ」
マルゲルタの言葉に、クリスタもギルフィードも衝撃を受けたように固まってしまう。
自分たちが知っている忌み物の情報と、マルゲルタが知る忌み物の情報。
その情報の詳細に、大きな差が現れていることが直ぐに分かった。
クリスタやギルフィードが知る忌み物の情報。
忌み物がいた、という事実を知っても二人はマルゲルタ程事態が深刻だ、とは認識していなかった。
だが、魔術と深い関わりのある北大陸。
魔術発祥の地であると言われている北大陸の国出身のマルゲルタは、忌み物の存在を注視している。
「マルゲルタ……教えて。魔術って一体何なの? どんな存在なの……? 私たちが知っている魔術の知識以外に、隠された何かがあるの……?」
クリスタの言葉に、一瞬だけ迷うような素振りを見せたが、マルゲルタは一度固く瞼を閉じたあとゆっくり開き、魔術について、ゆっくりと語り始めた。
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