冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 そもそも、魔術と魔法とは何が違うのか。
 二つとも、体の中に流れている魔力を媒介にして人智を超越した現象を起こす。それは変わらない。
 だが、今現在主流となっている魔法と、滅びたとされる魔術。
 魔法と魔術の違いについては詳細は解明されていない、とされている。

 クリスタの国、ディザメイアではそのように伝わっている。
 そしてそれはディザメイアと同じ大陸にあるギルフィードの国、クロデアシアでも同じことだ。

 だが、魔術発祥の地であると言われる北大陸では魔術について、他のどの大陸よりも研究が行われ、そして解明も進んでいる、とマルゲルタは話して聞かせてくれた。

 魔術とは、術式を必要とする。
 術式の構築は繊細な魔力調整と、綿密な構築式を組み立てる必要があり、その構築式の種類は数億種類にも及ぶ。
 現代に伝わる魔術の構築式はその数億種類の中でもひと握り。
 数多くの構築式は遠い昔に闇に葬られ、全てを解明出来ていない。

 また、魔術を発動するためには「適性」が必要であり、魔力を持つ者が構築式を知っていても必ず魔術を発動出来るとは限らない。
 その「適性」とは一体なんなのか。
 詳細まではまだ解明されておらず、北大陸では研究を続けている、とマルゲルタは説明してくれた。

 そして「魔術」によって造られる「忌み物」
 忌み物は対象の身代わり人形のような存在だと教えてくれた。
 身代わり人形にするための術式、魔術の発動にはそれ相応の「犠牲」が必要。
 その犠牲の数が多ければ多いほど、対象の人物へのあらゆる厄災を忌み物が引き受ける。



 そのことをマルゲルタから説明されたクリスタやギルフィードは信じられない、とばかりに顔色を悪くさせた。

「──っ、そんな……。それほどの犠牲を……?」
「それに……魔術が綿密な構築式が必要だったとは……」

 クリスタとギルフィードが呟いた言葉に、マルゲルタも重々しく頷く。

「……魔術の研究は、北大陸以外でもされてはいると思うけれど……。間違った情報も多いわ。私も魔術を発動する人間をこの目で見たことがないから、今までそれほど注視してはいなかったけど……」
「──その魔術の痕跡が、今回タナ国で見つかってしまった。だから、我々に情報を……?」
「ええ。これが他の国であれば我が国は静観、若しくはその情報を得た人間を人知れず処理していたかもしれないわ。けれど、情報を得たのがディザメイアだし……クリスタが関わっているでしょう? だから、私が直接来たの」

 それほど、北大陸の王族であるマルゲルタが自ら足を運ぶほど重要な事柄だった、ということだ。

 さきほど「暴走」だなんだと冗談交じりにユーゼスが口にしていたが、他の人間もいる手前あのように誤魔化したのだろう。
 人払いを済ませたこの部屋の中で、マルゲルタは北大陸ティータ帝国の機密情報とでも言える重要な情報を話してくれた。

 クリスタは自分の口元に手を当て、考えつつ口を開いた。

「……城跡の地下にあった部屋は、やっぱり忌み物が生活していた場所で間違いないようね。部屋の惨状を思い返せば、犠牲を払い、魔術を発動したのでしょう」
「ええ。恐らくそうね。……けれど、その部屋にいた忌み物が、どうやって魔術に必要な犠牲を用意したのかしら……? 対象を殺すような反転の魔術をどういう経緯で……」
「──! 戦争を、わざと起こしたのではないかしら?」

 マルゲルタの言葉にはっとしたようにクリスタは告げる。
 すると、クリスタの言葉を聞いたギルフィードも納得するように深く頷いた。

「……クリスタ様の言う通りでしょうね。どうやったかは分かりませんが、恐らく忌み物は他の国と通じ、タナ国に攻め入るように画策した。忌み物一人ではこれほどのことを出来ない。きっと協力者がいる……」
「ええ、ギルの意見に私も同意するわ。あの寵姫一人じゃあ、きっと出来ないわ」
「……クリスタ。その寵姫に会うことは出来ないかしら?」

 マルゲルタの言葉にクリスタもギルフィードも「えっ!?」と驚きの声を上げた。
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