冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

文字の大きさ
106 / 118

106

しおりを挟む


「待って……、会うですって……!? 本気なの? 私はあの寵姫に魔力を奪われたのよ?」
「そうだ、マルゲルタ皇女。あの寵姫は魔術を使う。会うのは危険だ」

 マルゲルタの言葉に、慌ててクリスタとギルフィードが首を振る。
 マルゲルタの背後に控えているユーゼスもクリスタとギルフィードの言葉に同意らしく、神妙な面持ちでこくこくと頷いている。

 だが、マルゲルタはクリスタ同様自分で決めた事は意見を覆さない。
 お互い変な所で頑固なのだ。

 マルゲルタは心配する三人を他所に、何故か自信満々に言い放った。

「問題ないわ! ユーゼス、国王ヒドゥリオンに謁見の申し込みを!」
「──……承知いたしました」


◇◆◇

 マルゲルタがソニアに会う、と言い出した日から数日。
 ユーゼスの謁見申し入れは驚くほどすんなりと通り、クリスタとギルフィードは王城に向かうマルゲルタとユーゼスの見送りにやって来ていた。

「マルゲルタ皇女。魔術には対抗出来ないかもしれないが、手配していた魔道具が届いた。持って行ってくれ」

 馬車に乗り込むマルゲルタをギルフィードが呼び止め、自国から手配していた魔道具を手渡す。
 クリスタは勿論、キシュートの分も手配していたのだがキシュートとは別行動となってしまい、一つ余っている。

 干渉魔法を防ぐ効果のある魔道具のため、魔術には効力を発揮しない可能性が高いがそれでも何も持っていないよりは幾分かましだろう。
 そう考えたギルフィードがマルゲルタに手渡すと、マルゲルタは笑顔で受け取った。

「ありがとう、ギルフィード王子。心強いわ」
「ああ。だが、魔術は未知の魔法だ。油断しないでくれ」

 マルゲルタは「ありがとう」と晴れやかな笑顔でお礼を告げ、ユーゼスと共に馬車に乗り王城へ向かった。

 去って行く馬車を見送ったクリスタとギルフィードは邸に戻るため、歩き出した。

「……それにしても、私たちは魔術のことを何にも知らなかったわね」

 ぽつり、と呟いたクリスタの言葉にギルフィードも頷いた。

「ええ。魔術は遠い昔に滅びたとばかり……。残っている文献も、正確とは言えないでしょうね。間違った情報が数多く残っているかも……」
「そうね……。それに、北とうちの大陸で伝わっている忌み物の情報も大きな齟齬があったわ」
「──昔は、大陸間での交流もほとんど無かったとは言え、これ程の食い違いが起きるのも不思議です」
「……敢えてそうしたのかしら?」

 邸に入る寸前、クリスタが発した言葉にギルフィードは足を止める。
 そして、足を止めたギルフィードに倣うようにクリスタも立ち止まり、振り返った。

「……北大陸の魔術を、他の大陸に伝えたくなかったのかもしれないわね。……強大な力を、他所に渡したくなくて昔から戦争を行っていたのだもの。忌み物、も……もしかしたら昔は違う使い方をしていたのかもしれないわ」

 違う使い方。
 クリスタの言葉を聞き、ギルフィードは眉を顰めた。

「違う、使い方……。そんなの……戦争くらいしか……」

 ぽつり、と呟いたギルフィードの言葉に、クリスタは曖昧に頷き、邸に入って行った。




 マルゲルタがクリスタの実家、ヒヴァイス侯爵家にやって来た当初から、クリスタ宛の手紙が続々と届いていた。

 数多くの手紙は、クリスタの帰宅と共に彼女に手渡され、邸に戻り、漸く落ち着いた今日。
 クリスタは届いた手紙の数々の中から一通を開封した。

「──……」
「クリスタ様、俺も一旦自国に戻って忌み物と魔術の件を調べてみようかと思っています。キシュートが居ない今、クリスタ様の側を離れるのは心配ですが……」

 ギルフィードは自国に戻り、魔術のこと。そしてクリスタが失った魔力をどうにか取り戻す方法がないか。
 解決の糸口を探るため、自分の父親クロデアシアの国王に許可を得て、国家機密の文献を確認しようとしていた。

 だが、ギルフィードが最後まで言葉を発する前に手紙を読んでいたクリスタがぱっと顔を上げ、ギルフィードの服の裾を掴んだ。

 引き止めるようなクリスタの行動にギルフィードが驚き、クリスタに視線を向ける。
 するとクリスタは嬉しそうな表情で、ギルフィードに向かって口を開いた。

「待って、ギル……! 私の魔法の先生を覚えている?」
「──え、ええ。確か、魔法国家の……ラティアス……ラティアス国の出身ですよね?」
「ええ、そう! その先生の弟子がいるのだけどね、その子が来てくれるって……! 魔法研究に秀でた子だから、もしかしたら魔術についても私たちより知識があるかもしれないわ……! ラティアスから使節団の一員に紛れてやって来てくれるみたい!」
「……!?」

 クリスタの言葉に、ギルフィードは驚愕の表情を浮かべる。

 クリスタは友人がやって来る、というような軽い口調で簡単に言っているが、魔法国家ラティアスは、他国と外交を行っていない。
 そもそも、クリスタの魔法の先生もラティアス出身ではあったが晩年はディザメイアで過ごし、ラティアスに戻ることはなかった。
 そのため、ラティアスとは国交を確立していないと思っていたがそんなことはなかったらしい。

「ちょっ、待……っ、ラティアスの国と、クリスタ様は個人的にやり取りを……!? あの国は外交を遮断している気難しい国なのに!?」
「あら、あの国の人たちはみんな気さくで良い人たちよ? 話せば仲良くなれるわ」

 にっこりと笑顔を浮かべ、なんて事ないように話すクリスタに、ギルフィードは驚きで開いた口が塞がらない。

 そして、クリスタの下に届いた手紙の差出人達を見たギルフィードは目眩を覚えた。
 クリスタの下に届いた数々の手紙。
 その手紙の差出人達は、ギルフィードも良く知っている名前で溢れていた。
 とある国の宰相や、王族。果てには国王の名前まで記載されている物もある。


 ギルフィードは嬉しそうに手紙を読むクリスタを見て、「ああ、この人はこういう人だった」と若干恐ろしさを感じた。
しおりを挟む
感想 112

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をありがとう

あんど もあ
ファンタジー
リシャール王子に婚約破棄されたパトリシアは思った。「婚約破棄してくれるなんて、なんていい人!」 さらに、魔獣の出る辺境伯の息子との縁談を決められる。「なんて親切な人!」 新しい婚約者とラブラブなバカップルとなったパトリシアは、しみじみとリシャール王子に感謝する。 しかし、当のリシャールには災難が降りかかっていた……。

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

あなたの事は好きですが私が邪魔者なので諦めようと思ったのですが…様子がおかしいです

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のカナリアは、原因不明の高熱に襲われた事がきっかけで、前世の記憶を取り戻した。そしてここが、前世で亡くなる寸前まで読んでいた小説の世界で、ヒーローの婚約者に転生している事に気が付いたのだ。 その物語は、自分を含めた主要の登場人物が全員命を落とすという、まさにバッドエンドの世界! 物心ついた時からずっと自分の傍にいてくれた婚約者のアルトを、心から愛しているカナリアは、酷く動揺する。それでも愛するアルトの為、自分が身を引く事で、バッドエンドをハッピーエンドに変えようと動き出したのだが、なんだか様子がおかしくて… 全く違う物語に転生したと思い込み、迷走を続けるカナリアと、愛するカナリアを失うまいと翻弄するアルトの恋のお話しです。 展開が早く、ご都合主義全開ですが、よろしくお願いしますm(__)m

【完結】元サヤに戻りましたが、それが何か?

ノエル
恋愛
王太子の婚約者エレーヌは、完璧な令嬢として誰もが認める存在。 だが、王太子は子爵令嬢マリアンヌと親交を深め、エレーヌを蔑ろにし始める。 自分は不要になったのかもしれないと悩みつつも、エレーヌは誇りを捨てずに、婚約者としての矜持を守り続けた。 やがて起きた事件をきっかけに、王太子は失脚。二人の婚約は解消された。

高慢な王族なんてごめんです! 自分の道は自分で切り開きますからお気遣いなく。

恋愛
よくある断罪に「婚約でしたら、一週間程前にそちらの有責で破棄されている筈ですが……」と返した公爵令嬢ヴィクトワール・シエル。 婚約者「だった」シレンス国の第一王子であるアルベール・コルニアックは困惑するが……。 ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

処理中です...