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しおりを挟む「待って……、会うですって……!? 本気なの? 私はあの寵姫に魔力を奪われたのよ?」
「そうだ、マルゲルタ皇女。あの寵姫は魔術を使う。会うのは危険だ」
マルゲルタの言葉に、慌ててクリスタとギルフィードが首を振る。
マルゲルタの背後に控えているユーゼスもクリスタとギルフィードの言葉に同意らしく、神妙な面持ちでこくこくと頷いている。
だが、マルゲルタはクリスタ同様自分で決めた事は意見を覆さない。
お互い変な所で頑固なのだ。
マルゲルタは心配する三人を他所に、何故か自信満々に言い放った。
「問題ないわ! ユーゼス、国王ヒドゥリオンに謁見の申し込みを!」
「──……承知いたしました」
◇◆◇
マルゲルタがソニアに会う、と言い出した日から数日。
ユーゼスの謁見申し入れは驚くほどすんなりと通り、クリスタとギルフィードは王城に向かうマルゲルタとユーゼスの見送りにやって来ていた。
「マルゲルタ皇女。魔術には対抗出来ないかもしれないが、手配していた魔道具が届いた。持って行ってくれ」
馬車に乗り込むマルゲルタをギルフィードが呼び止め、自国から手配していた魔道具を手渡す。
クリスタは勿論、キシュートの分も手配していたのだがキシュートとは別行動となってしまい、一つ余っている。
干渉魔法を防ぐ効果のある魔道具のため、魔術には効力を発揮しない可能性が高いがそれでも何も持っていないよりは幾分かましだろう。
そう考えたギルフィードがマルゲルタに手渡すと、マルゲルタは笑顔で受け取った。
「ありがとう、ギルフィード王子。心強いわ」
「ああ。だが、魔術は未知の魔法だ。油断しないでくれ」
マルゲルタは「ありがとう」と晴れやかな笑顔でお礼を告げ、ユーゼスと共に馬車に乗り王城へ向かった。
去って行く馬車を見送ったクリスタとギルフィードは邸に戻るため、歩き出した。
「……それにしても、私たちは魔術のことを何にも知らなかったわね」
ぽつり、と呟いたクリスタの言葉にギルフィードも頷いた。
「ええ。魔術は遠い昔に滅びたとばかり……。残っている文献も、正確とは言えないでしょうね。間違った情報が数多く残っているかも……」
「そうね……。それに、北とうちの大陸で伝わっている忌み物の情報も大きな齟齬があったわ」
「──昔は、大陸間での交流もほとんど無かったとは言え、これ程の食い違いが起きるのも不思議です」
「……敢えてそうしたのかしら?」
邸に入る寸前、クリスタが発した言葉にギルフィードは足を止める。
そして、足を止めたギルフィードに倣うようにクリスタも立ち止まり、振り返った。
「……北大陸の魔術を、他の大陸に伝えたくなかったのかもしれないわね。……強大な力を、他所に渡したくなくて昔から戦争を行っていたのだもの。忌み物、も……もしかしたら昔は違う使い方をしていたのかもしれないわ」
違う使い方。
クリスタの言葉を聞き、ギルフィードは眉を顰めた。
「違う、使い方……。そんなの……戦争くらいしか……」
ぽつり、と呟いたギルフィードの言葉に、クリスタは曖昧に頷き、邸に入って行った。
◇
マルゲルタがクリスタの実家、ヒヴァイス侯爵家にやって来た当初から、クリスタ宛の手紙が続々と届いていた。
数多くの手紙は、クリスタの帰宅と共に彼女に手渡され、邸に戻り、漸く落ち着いた今日。
クリスタは届いた手紙の数々の中から一通を開封した。
「──……」
「クリスタ様、俺も一旦自国に戻って忌み物と魔術の件を調べてみようかと思っています。キシュートが居ない今、クリスタ様の側を離れるのは心配ですが……」
ギルフィードは自国に戻り、魔術のこと。そしてクリスタが失った魔力をどうにか取り戻す方法がないか。
解決の糸口を探るため、自分の父親クロデアシアの国王に許可を得て、国家機密の文献を確認しようとしていた。
だが、ギルフィードが最後まで言葉を発する前に手紙を読んでいたクリスタがぱっと顔を上げ、ギルフィードの服の裾を掴んだ。
引き止めるようなクリスタの行動にギルフィードが驚き、クリスタに視線を向ける。
するとクリスタは嬉しそうな表情で、ギルフィードに向かって口を開いた。
「待って、ギル……! 私の魔法の先生を覚えている?」
「──え、ええ。確か、魔法国家の……ラティアス……ラティアス国の出身ですよね?」
「ええ、そう! その先生の弟子がいるのだけどね、その子が来てくれるって……! 魔法研究に秀でた子だから、もしかしたら魔術についても私たちより知識があるかもしれないわ……! ラティアスから使節団の一員に紛れてやって来てくれるみたい!」
「……!?」
クリスタの言葉に、ギルフィードは驚愕の表情を浮かべる。
クリスタは友人がやって来る、というような軽い口調で簡単に言っているが、魔法国家ラティアスは、他国と外交を行っていない。
そもそも、クリスタの魔法の先生もラティアス出身ではあったが晩年はディザメイアで過ごし、ラティアスに戻ることはなかった。
そのため、ラティアスとは国交を確立していないと思っていたがそんなことはなかったらしい。
「ちょっ、待……っ、ラティアスの国と、クリスタ様は個人的にやり取りを……!? あの国は外交を遮断している気難しい国なのに!?」
「あら、あの国の人たちはみんな気さくで良い人たちよ? 話せば仲良くなれるわ」
にっこりと笑顔を浮かべ、なんて事ないように話すクリスタに、ギルフィードは驚きで開いた口が塞がらない。
そして、クリスタの下に届いた手紙の差出人達を見たギルフィードは目眩を覚えた。
クリスタの下に届いた数々の手紙。
その手紙の差出人達は、ギルフィードも良く知っている名前で溢れていた。
とある国の宰相や、王族。果てには国王の名前まで記載されている物もある。
ギルフィードは嬉しそうに手紙を読むクリスタを見て、「ああ、この人はこういう人だった」と若干恐ろしさを感じた。
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