【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

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「結婚はするが、お互い交友関係に口出しは無用だ。僕は僕で好きな女性を、君は君で好きな男性と過ごせばいい」

ある日の昼下がり、目の前の青年から放たれた言葉に、室内の温度が一気に下がる。

男性の両親は呆れた、とでも言うように額に手をやり、溜息を吐き出し。
少女の座るソファの両側に居た少女の両親は驚きに目を見開き、ポカンとしている。
その気持ちは少女も同じで、侯爵家の長女──ウルミリア・ラフィティシアは可憐なかんばせを唖然とさせた。



今日は、この国の筆頭公爵家であるティバクレール公爵家の嫡男、テオドロン・ティバクレールとこの国で一番の武力を誇る国軍の総指揮官を務めるラフィティシア侯爵家の長女、ウルミリア・ラフィティシアの婚約を結ぶ大事な顔合わせの日だ。
国王陛下から半強制的に打診された婚約ではあるが、筆頭公爵家と縁を結べるのは悪い事ではない。
それに、公爵家の嫡男テオドロンは侯爵家のウルミリアと同い年と言う事もあり、来年からは学園にも通う事になる。
学園卒業までの二年間、学園生活で仲睦まじく日々を過ごしてくれればいいと両家は考え、顔合わせを行ったのだが、まさか公爵家のテオドロンが開口一番、先程のような事を言い放つとは大人達は誰も想像していなかった。


「──君を妻としては尊重しよう。公爵家に関わる事は共に協力し合う事は仕方ない、譲歩する。だが、僕が誰を好きになるかは僕の自由。君と結婚するのは我慢するから恋愛はお互い口出し無用にしてくれ」
「──テオドロン……!」

流石に息子の言葉に怒りを顕にした公爵家の現当主である彼の父親がテオドロンの名前を呼び、ソファから立ち上がる。

「──顔合わせはもう十分でしょう?"顔"は見ました。僕はこれで失礼します」

テオドロンは、父親である公爵の制止の声を振り切るように勢い良くソファから立ち上がりウルミリアの顔をチラリとも見ずに足早に退出して行ってしまった。













「──懐かしい思い出ね」

ウルミリアは、湯気の立つカップを優雅に自分の口元へ運ぶとこくり、と中身を一口含む。

あれは、自分の婚約者であるテオドロンと初めて顔を合わせた日であった。
初めての顔合わせで、挨拶をした後いきなりテオドロンからそう言い放たれ、ウルミリアは驚きで二の句を紡げなかった。

テオドロンが退出した後、彼の両親達は慌てて謝罪してくれたが、筆頭公爵家の公爵夫妻に謝られる、などと言う恐怖等もう二度と味わいたくはない。

そしてあんな顔合わせではあったが、元々は陛下から婚約を打診された両家に婚約話を白紙に出来るはずもなく、後日正式に両家の婚約は結ばれてしまった。



「気苦労が絶えませんね」

男の苦笑する声がすぐ側から聞こえる。
ウルミリアの座るソファの側で、新しいお茶をカップに注ぎながらウルミリアの前にカップを戻すと、青年は声と同じように苦笑いをその整った顔立ちに浮かべるとウルミリアに視線を向ける。

「学園生活は日に日に苦痛を伴う物になっているのでは?旦那様にお伝えして婚約解消を視野に入れても良いかと思いますが……」
「──大丈夫よ、ジル。こうなる事は予想出来ていたし……。愛情を伴わない婚約や婚姻は貴族社会では当たり前の事よ」

ウルミリアにジル、と呼ばれた青年はウルミリアより一つ年上の執事兼侍従である。
フォグブルーの髪がさらり、と揺れて瞼にかかる。髪色と同じ睫毛が縁取り、その奥の瞳は満月を思わすような金色に輝き、端正な顔立ちも相まって上位貴族の生まれであれば引く手数多であっただろうに、と想像出来る。
すらりと伸びた手足で優雅にお茶の準備を行い終えると、"いつものように"ジルはウルミリアの隣へと腰を下ろす。

ちらり、とジルに視線を向けるウルミリアもジルの隣に居ても遜色ない程の美貌の持ち主であり、美しく手入れをされた少し赤みがかったプラチナブロンドが緩く編み込まれ、肩から流している。
空色の瞳はウルミリアのパキッとした性格を表すように真っ直ぐと前を見据えている。
その瞳の先に、テオドロンの姿を思い浮かべているのだろうか、とジルは考えてしまい、不快感に表情を歪める。

「ウルミリアお嬢様のような素晴らしい女性と婚約をしておきながら、他の女性に現を抜かす等愚の骨頂。いつかテオドロン様にも天罰が下りましょう」

低く、冷たいジルの言葉にウルミリアはぱちぱち、と瞳を瞬かせて隣に座ったジルの顔へ視線を向ける。
視線の先には、不機嫌さを隠しもせずにカップを口元に運ぶジルが居て、ウルミリアは眉を下げて笑む。

「……ふふ、駄目よジルそんな事を言っては……でも、そうね……そう言ってくれる人が私の身近に居る、と言うのが分かるだけで元気が出るわ」
「恐縮です。……ですが、本当の事ですので」

ジルの言葉に、ウルミリアは嬉しそうに笑みを浮かべると残り少ないいつものお茶の時間が終わりに近付いている事に気付き、ふう、と溜息を零す。

貴族と使用人が同じテーブルに着く事等、通常では有り得ない。
だが、ウルミリアは自分にとても尽くしてくれる侍従であり、身の回りの世話をしてくれる執事も兼任してこなしてくれるジルにとても有り難さを感じている。
もし、学園で味方がいない状態であればもっと早くに挫けていただろう。
だが、学園でも側に付き従い、守ってくれるジルをとても信頼しているし本人にはとても言えないが友のように思っている。

だからこそウルミリアはジルに自分の気持ちを隠さないし、友人のように色々な事を包み隠さず相談する。
自室に招いてこうしてお茶を楽しむ事だって今では侯爵家の中では見慣れた光景になっている。
──決して外では出来ない事ではあるが。

「さて……また明日も宜しくね、ジル」
「ええ、お任せ下さい。ウルミリアお嬢様」

二人はにこり、と笑顔を交わし合うと残り少ないお茶の時間をのんびりと楽しんだ。
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