【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

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どれ程ウルミリアが下を向いていただろうか。
その間も、ゆっくりとではあるが書斎へ向かう足は止まらず一歩一歩確かに侯爵の居る書斎へは近付いている。

ウルミリアがふと何かを思い出すように顔を上げた。

「そう言えば……先程のテオドロン様は何かを確認しようとしていたわね」
「──確認、ですか?」

ウルミリアの言葉に不思議そうな表情を浮かべてジルが言葉を返す。
あの場で、何を確認すると言うのだろうか。

「あの時のテオドロン様は、私が動けるようになっているのかどうかを確認するように私の顔に腕を伸ばそうとしていたわね……」

触られたく無かったから、顔を必死に逸らしていたけどね。
とウルミリアが笑いながらそう言う。

「動けるかどうかを、確認しようとしていたのですか?──それは、不思議ですね……何故そのような確認をしようとしたのか……」
「ええ。こればっかりはテオドロン様に訳を聞かないと分からないけれど……どうでもいい事ね。ただ、学園に入ってからテオドロン様の行動は褒められた物ではないわ。お父様からも再三抗議はしているけれど、聞き入れられない……少し調べてみようかしら?」
「そうですね。その方が宜しいかもしれません……。何なりとご命令下さい」
「ありがとう、ジル」

ウルミリアに微笑まれ、ジルは薄らと頬を染めると嬉しそうに笑む。

ウルミリアがやれと言うのであれば何でもやろう。
流石に侯爵家より爵位が上の貴族を調べるのは骨が折れるだろうが、それでもウルミリアが望むのであれば叶えないと言う選択肢は無い。

二人はゆっくりと歩きながら書斎へと足を動かし続けた。







長い廊下を通り、階段を上り、侯爵の居る書斎まで辿り着くとウルミリアは目の前の扉をそのまま数回ノックする。

「──お父様、私です。体調が戻り始めましたのでお話に参りました」

ウルミリアが扉へ向かって声を掛けると、中から「入れ」と言う声と共に内側から扉が開かれる。

開かれた扉から室内を確認すると、侯爵の侍従が二人程疲労困憊と言う表情を隠しもせず、ウルミリアを疲れた笑顔で出迎えた。

「まだ、自力では歩けないか?」
「ええ。ですが、ジルに支えて頂ければこの通りです」

ウルミリアの方へと歩いて来た侯爵が、眉を寄せてそう聞くと、ウルミリアは問題無いと言うように笑って見せた。

「──ふむ。報告も上がっているからソファへ掛けなさい。ジルも座れ」

侯爵の言葉に、ウルミリアとジルは了承の言葉を紡ぐとそのままソファへと腰を下ろした。

二人がソファに座るのを横目で見ながら、侯爵は一度自分の執務机へと戻ると何枚か書類を手に取り、そしてその書類を持ちこちらへと戻って来る。

「ウルミリアへ痺れ薬を盛った犯人が自供したぞ。嘆かわしい事に我が家のメイドだった。金を握らされてウルミリアの飲むお茶に数滴垂らしたそうだ」

侯爵は淡々とそう説明しながらソファに腰掛け、書類をウルミリアへと手渡す。

「──まあ……。そうでしたの……何と愚かな事を……依頼人は供述したのでしょうか?」

ウルミリアは、手渡された書類に目を通しながらそう父親に話し掛けると、侯爵は目頭を軽く指先で揉みながら唇を開く。

「ああ。そのメイドはラシェル・ミクシオンからその話を持ち掛けられたそうだ。本当に本人からか、と確認したが間違いないと証言した」
「そうですか……それならばその先は暴けませんわね……」
「いや、だがそのラシェル・ミクシオンが先の人間の関与を証拠として差し出せば或いは……」
「ですが、それこそ揉み消されませんか……?あとは、証拠を残すような愚かな事はしないと思います……」
「今までの八人がそうだったからか?」

侯爵の言葉に、ウルミリアは真っ直ぐと侯爵の瞳を見つめ直して「ええ」と強く頷いた。

そして、ウルミリアは書類を隣に座っているジルへとそのまま手渡すとジルはその書類に視線を落として行く。

その内容は、二人が今話した事が記載されているのと、その後の処置についてが記載されている。

あの時、学園に残した侍従達が調べたのであろう事柄が書類には記載されている。

「メイドはまだ我が家に勤めて一年未満ですものね……金銭に目が眩んでも仕方ないですわ」
「ああ。だが、こうして調べればすぐに分かる犯行だ。目撃者も居たしな。やり方、実行がとても稚拙だ。それなのに、毎回その先を暴こうとしてもその先までは痕跡を追えない。痕跡を残さず綺麗に消しているくせに犯行は稚拙な内容……どうもおかしい、気持ち悪い」
「ええ……」
「過去の八人の内、我が家で処理したのは二人だけだ。それ以外の六人は綺麗さっぱり足取りが掴めない……可哀想だから今回のラシェル・ミクシオンは我が家で裁くぞ?それでいいか、ウルミリア」
「ええ。ただ嫉妬に狂った、と言う可愛らしい理由だけで消えてしまうのは少し……。ですのでお父様に全てお任せ致します」

ウルミリアの言葉に侯爵は「分かった」と頷くと、重苦しい溜息を吐き出し、瞳を閉じる。

侯爵は瞳を閉じたまま、唇を開いた。

「学園を卒業するまでには、何とかしたいのだが……すまんな……」
「いいえ、いいえ。とんでもございません」
「取り敢えず……今回の結果はウルミリアを診た医者がお茶の成分を鑑定してから正式に行う。ウルミリアも休み明け、学園に通うようにな……」
「分かりました。お話頂きありがとうございます」

ここで、話は終わりだと言うように会話が途切れると、ウルミリアはソファから腰を上げるような素振りをする。
ジルはウルミリアの行動に気付き、素早くウルミリアを支えると侯爵に向けて唇を開いた。

「こちらの書類、ありがとうございました──」
「ああ、その書類はジルが持っておけ」

侯爵の言葉にジルは僅かに目を見開いたが、すぐに表情を引き締めると一礼してウルミリアを伴い、書斎を出て行く。

書類を持たされた。
内容を良く確認し、そしてウルミリアの助けになるように動け、と言う事だろう。

侯爵は学園を卒業するまでに何とかしたい、と言っていた。
それは、誰もはっきりと口に出さず明言していないが、確実にテオドロン・ティバクレールの事だろう。

侯爵邸内とは言え、公爵家の名を出して名を貶めるような発言は出来ない。

何処で誰が聞いているのか分からない。

ウルミリアとジルはお互い顔を見合わせた。
そして、ウルミリアはジルに庭へと向かうように指示を出した。
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