【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

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少年がテオドロンと入れ替わりゲームをしようと約束してから、数日後。

テオドロンが少年の元に来た時に、少年が言ったように汚れを拭き取るような濡れた布を持参して来てくれた。

「あっ、鋏も持ってきたよ!」

テオドロンは笑顔を浮かべると、自分の洋服のポケットから鋏を取り出した。
わくわくとした表情を浮かべながらテオドロンは少年に鋏を渡すと、受け取った少年はペタペタと床を歩いて行き、床に割れて落ちている鏡の破片を手で掴むとテオドロンの元へと戻って来る。

「今日、入れ替わりやる?僕は洋服脱いでおいた方がいい?」
「うーん……。髪の毛をそっくりにしないといけないから、入れ替わりゲームをするのは次の時にしよう。君──テオドロンも、あまりここに長く居られないだろう?」
「……そっかぁ」

少年の言葉に、テオドロンは残念そうに溜息を吐き出すと少年が自分の髪の毛に鋏を入れているのをじっと見つめる。

ゆっくりと、慎重に髪の毛を揃えて行くのをテオドロンは興味深そうに見詰めている。

「──髪の毛切ってるだけだけど……楽しい……?」
「んー、どんどん僕と似てる顔が見えるようになってるから面白いよ!瞳も僕と同じ色だね」

テオドロンは、自分の瞳を指差しながらにっこりと笑う。
キョトン、と瞳を瞬かせる少年はテオドロンと同じブルーサファイアのような綺麗な瞳をしていた。





テオドロンが、地下牢で少年と会い始めてからひと月程経った頃だろうか。
入れ替わりのゲームの為に、少年はテオドロンから邸内に居る使用人の事を聞いていた。
使用人の特徴と、名前。そして、その使用人達がテオドロンにとってどんな人物なのか。
どんな性格をしているのか。

しっかりと下準備をした上で、少年はテオドロンと入れ替わりゲームを行う事にした。



「直ぐにバレちゃったらつまらないからね。三十分、三十分テオドロンと入れ替わってからバレなければ僕の負けだ。ここに戻って来るね」
「分かった!それじゃあ、僕はここで待ちながら君にやって貰う罰ゲームでも考えているね!」

そう言葉を交わすと、二人は楽しそうに笑い合いながら洋服を交換した。
少年は、顔や手足の汚れを出来るだけ落とし、髪の毛をテオドロンと同じように整えて鎖を外す。

「じゃあ、これから僕は"テオドロン"に」
「うん。僕は"君"に」

テオドロンに成り済ました少年は、にっこりと笑顔を浮かべると、テオドロンに向けて手を振り階段へと向かって行く。



少年は、湧き上がる歓喜に今にも叫び出しそうな気持ちになった。

気が付けばこの場所に居た。
ずっと薄暗く肌寒いこの地下牢に捕らわれていたのだ。
「外」に出れるのはこれが初めて。

テオドロンへと扮した少年は、このまま地下牢に帰らずに上で過ごしてやろうか、と考えたが「英才教育」と言う物を受けている本物のテオドロンと、自分の学の違いに数時間は周囲を騙せても、長時間騙し続けるのは難しい事は理解していた。

だから、テオドロンを安心させる為に初めは本当に三十分でここに戻って来る。
それを、何度も何度も繰り返す。

「頭がいいくせに、人を疑う事を知らないお坊ちゃんは御しやすいな……。少し話しただけで俺を信用しきってる」

何故、自分だけがこの場所に居るのか。
テオドロンと自分の顔がこれだけそっくりだと言う事は、自分もこの家の血縁なのだろうと言う事は察せれた。

だから少年は、邸に行くのでは無く、先ずはこの周辺を探索する事にした。

「三十分程しか時間が無いのであれば、遠くまで行く事は出来ないもんな」

実際、少年が捕らえられていた地下牢の周辺は、昼間だと言うのに人の気配が殆ど無く、周囲に気を付けて部屋に忍び込めば本が沢山保管されている部屋に入る事が出来た。

「──難しい言葉があるけど……テオドロンが持ってきてくれた本で、ある程度は読めるかな」




テオドロンに扮した少年は、「入れ替わりゲーム」を行う度に三十分の間で何度も何度も書斎へと趣き、本を確認した。
この国の事や、家族の事、地下牢に入れられるのは犯罪者だと言う事。
長い時間を掛けて沢山の事を学んだ。

そして、見付けてしまったのだ。
三代目公爵家の当主の手記を。


子供の手のひらからはみ出てしまうくらいの大きさのその手記は、洋服の間に入れてしまえば地下牢に持ち帰るのも可能そうだ。
地下牢に戻った時に、テオドロンに見えないように手記を取り出せば地下牢にいる間に手記を確認する事が出来るだろう。

「──もうそろそろ戻ろうかな」

少年はそう呟くと、その手記を大事に大事に洋服の間に隠すとテオドロンが待つ地下牢へと戻った。

そして、地下牢でその手記を読み進めて。
少年は理解してしまった。

自分がどう言う存在で、何故この地下牢に繋がれているのかを。













テオドロンは、学園内に戻ると午後の授業の為に教室へと戻って来ていた。

テオドロン・ティバクレール。
十年以上前に、その存在となってからテオドロンは初めて味わう感情に戸惑いを覚えていた。

何故、今頃躊躇うのか。
のうのうと生きていた貴族に恨みしかなく、貴族なんて全て滅んでしまえ、と呪っていたのに。

(何で今更ウルミリアの顔がチラつく……!)

公爵家と共に、道連れにしてやろうと侯爵家に目を付けた。
あの家の娘が、この国で英雄と言われたラフィティシア侯爵家が、謀反に関わっていたら王家はどれだけダメージを受けるだろうか、と。
そう考え、ウルミリアを、侯爵家を潰してやろうと思っていたのに。

(このままではいけない。放課後、ウルミリアを公爵家に連れて行こう)

公爵家に連れて行き、公爵と夫人から直接説得してもらう。
何でもいい。早くウルミリアと婚姻式を結んでしまわなければ。
そう考え、テオドロンは午後の授業が早く終わるようにと、そればかりを考え続けた。
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