【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

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学園の午後の授業が全て終わり、ウルミリアはテオドロンに捕まらない内に早くこの教室を出てしまおうと帰り支度を急いでいた。
ウルミリアの考えを察してか、ジルも無言でウルミリアの帰り支度を手伝う。

机から、最後の教材を取り出し鞄に入れた所で、ウルミリアの目の前の机に人影が映る。

(──逃げ遅れた……っ)

その人影が誰の物なのかなど、視線を上げなくても分かる。
このタイミングで声を掛けてくる者など、一人しかいない。

ウルミリアは諦めにそっと瞳を閉じた。

「そんなに急いで帰り支度をするなんて、少しでも僕と共に居る時間が欲しかったのか?ウルミリアは存外可愛い所があるんだな」
「──っ、ご冗談を……テオドロン様。急いでなんかおりませんわ、いつも通りです」

ウルミリアは瞳を開け、ぐっと眉間に力を入れると微笑みを自分の顔に貼り付けて顔をあげる。

まるで狐と狸の化かし合いのような問答だ。

冷え冷えとした声音でそう言葉を交わす二人に、周囲の生徒達は不思議そうにちらちらと視線を向けてくる。

その周囲の視線を気にもせず、テオドロンはウルミリアの鞄をウルミリアの背後に居たジルに押し付けると、ウルミリアの手首を掴んで歩き出す。

「──っ、ちょ、お待ち下さいっテオドロン様……」
「今日は我が公爵邸に招待しよう。公爵邸に慣れる為にもいいんじゃないか?邸を案内しよう」
「け、結構ですわ……っ。今日は、そう!お父様とお兄様とお話がありまして、早く家に帰らなければならないのです……!」
「そうか。それは残念だ。それならば邸の案内は明日にしようか。夕食は食べて行けばいい、夕食後ウルミリアを侯爵邸まで送り届けるよ」

にこやかに、有無を言わせぬ雰囲気でスタスタと歩みを進めるテオドロンに、ウルミリアは必死に止まってくれるよう掴まれた腕に力を篭めるがテオドロンはちっとも止まる気配が無い。

(──ジルっ)

ウルミリアが助けを求めるように背後に居るだろうジルに視線を向けると、呆気に取られていたジルがハッとしたように表情を引き締め、テオドロンの前へと急いで立ちはだかった。

「テオドロン様。ウルミリアお嬢様と旦那様のご予定を最優先事項として伺っております。ご容赦下さい」

ウルミリアの咄嗟の嘘に、ジルも乗ってくれテオドロンにそう言葉を掛けているが、テオドロンは珍しくジルにも好意的な表情を向けると唇を開いた。

「──そうか。それならば、侯爵には私から謝罪の手紙を書こう。ウルミリアの侍従である君が、しっかりと、侯爵に届けてくれ」
「それ、は……っ」

今までテオドロンはジルの事を「使用人」とその他大勢の呼称として嘲り呼んでいたのに、突然「侍従」と言う言葉を使い、ウルミリアの専属の侍従として動かざるを得ないような仕事を頼んで来た。
テオドロンの、「ごちゃごちゃ言うのであればお前を邸に帰すぞ」と言う意思表示だろう。

このままではアマルを迎えに行く事も出来ない。
その状態で、ジルだけが邸に戻されてしまえばウルミリアは一人で公爵家へと赴かなければいけなくなる。

それだけは駄目だ。

そう考えたジルは、テオドロンに視線を向けると唇を開いた。

「いえ……。テオドロン様のお手を煩わせる事は致しません……。私が後ほど侯爵家には遣いを出します……」
「そうか?それならば頼もう」

テオドロンは満足気に笑うと、ウルミリアを伴い学園の玄関を出て、馬車へと歩いて行く。

ウルミリアとテオドロンが乗る馬車に同乗する事は出来ない。
アマルには悪いが、侯爵家の馬車を使わせて貰おう。
ウルミリアとジルが迎えに来ず、侯爵家の馬車が無い事である程度アマルは状況を察してくれる筈だ。

ジルは急いでウルミリアとテオドロンが乗る馬車と、自分が乗る侯爵家の馬車の御者の元へ駆け寄ると馬車の準備をする。

公爵家へ無理矢理連れて行って、どうするつもりなのだろうか。
ジルは不安を感じながらも、馬車に乗り込んだ。






公爵家へ向かう馬車の道中、テオドロンは珍しくウルミリアから視線を外さない。

「──ウルミリア。公爵の手記と歴史書は貴重な書物だから破損などには気を付けて欲しいんだが、大丈夫か?」
「──……、」

なんて事ないように、世間話をするようにテオドロンがそう口にして、ウルミリアは言葉に詰まる。
どう返答するのがいいのだろうか。

知らぬ存ぜぬを通した方がいいのか。
だが、手記と歴史書が何処にあるかはっきりとテオドロンは確信を得ている。
ここで下手に惚ける事は出来ない、とウルミリアは観念したように息を一つ吐くとテオドロンへしっかりと視線を合わせた。

「貴重な物と言う事は重々承知ですわ。勿論ぞんざいに等扱いません」
「それは有難い。あれは、ティバクレール公爵家の全てだからな」

テオドロンは口端を持ち上げながらそう言うと、足を組んで深く座席に背を預ける。

「それにしても……軽々と我が公爵邸に侵入出来るとは、本当にあの従者は何者だ?あの男を真っ先に消しておけば良かった」
「ジルはとても優秀な私の専属侍従ですわ。ジルが簡単に消されるとお思いで?」
「……ふん。相当あの男を信頼しているみたいだな?ああ、本当に失敗したよ。あの歴史だけ古い家々の奴ら何て後回しにして、君の家を徹底的に調べて邪魔な奴を先に消しておけば良かった」
「──あの歴史書と、手記は全て真実なのですね」
「嘘を語ってどうする?歴史書はその家の大事な歴史だ。まあ、多少誇張する事はあっても嘘を記すメリットは無いだろう?」
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