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しおりを挟む全く持ってテオドロンの言う通りだ。
もしかしたら、テオドロンには兄弟など居なく、元から一人息子だったのでは?と言う淡い希望も砕かれた。
ウルミリアは、苦虫を噛み潰したような表情で肯定するようにこくり、と頷く。
「──テオドロン様がなさろうとしている事は、この国を混乱に貶めてしまうのでは?」
「ああ、そうだな。寧ろその為に僕は十数年間学び、耐えて来たんだ。まさかこんな早くに情報が漏れるとは……僕の失態ではあるがどうとでもなる」
「何を、どうされようとしているのかは分かりませんがきっとテオドロン様のお考えは失敗する……いえ、ラフィティシア侯爵家が絶対に止めると思います。そうしたら、テオドロン様を守る物が無くなりますわよ?」
「だから、僕に考え直せと?」
「……テオドロン様のご両親だって、きっとお止めになります」
「両親、両親か……!」
ウルミリアの言葉に、テオドロンは何が可笑しいのか、自分の腹に手を当てて笑っている。
その様子に、ウルミリアは戸惑うばかりだ。
きっと、大事な公爵家の嫡男であるテオドロンが道を誤れば悲しむだろう。
確かに、公爵家が王家から受けていた仕打ちは酷い物だ。
公爵家の嫡男であるテオドロンがその事を学び、大事な弟か、妹がきっと犠牲になっている。
自分の大事な片割れがそのような目に合い、王家を恨むのは分かる。
だが、公爵夫妻をこのように嘲笑うのは何故なのだろうか。
ただ大人しく、王家の命令に従うしかなかった両親を軽蔑しているのか。だが、仕方ない事だとテオドロンも頭では分かっている筈だ。
幼い頃に、公爵家の辛く悲しい歴史は学んでいなかった筈。
(──でも、何だか……テオドロン様の態度が……)
違和感を感じる。
ただ単に怒りを覚えているのではない。
何も出来なかった公爵家に対しての、単純な怒りではないような気がする。
「テオドロン、様……?」
「くっ、はは……っ、そうか。そうだよな……、傍から見ればそうなる。あの間抜けな両親はここ十数年間、全く気付いていないのだからな……」
低く、トーンを落とした声がウルミリアにはよく聞こえなくて、「え?」と小さく聞き返したが、テオドロンは表情を一変させると馬車の窓に視線を向けて「着いたようだ」と小さく呟いた。
テオドロンの言葉と同時に、馬車がカタンと小さな音を立てて公爵邸の正門に止まる。
正門が開き、そのまま馬車はゆっくりと正面玄関へと進んで行くのをウルミリアはただただ眺めた。
「──手を」
「……ありがとうございます」
馬車の扉を開けてテオドロンが先に地面に降り立つと、ウルミリアに向かって手のひらを差し出して来る。
テオドロンに手を借りてウルミリアも地面へ降り立つと、久しぶりに訪れた公爵邸をぐるり、と見回した。
昔は、まだテオドロンとの関係を改善しようとしていた時は、何度か公爵邸に来た事がある。
その時は、ただただ広大な敷地に、煌びやかな庭園に、豪奢な邸宅に驚いた物だ。
だが、公爵家がそれだけの権力や財力を築いた背景を知ってしまい、何とも言えない気持ちになって来る。
ウルミリア達の背後から、ジルが馬車から降りて来た気配を感じる。
いつものようにウルミリアの斜め後ろにジルの気配を感じて、ウルミリアは知らず知らず緊張し、強ばっていた体がジルの気配に安堵して、ふっと体から力が抜けた。
その様子を横目で見ていたテオドロンは、面白く無さそうに瞳を細めると、そのまま玄関へと向かって行く。
「一先ずサロンへ案内しよう。夕食の時間になるまで、そこで話をしようじゃないか。……勿論、両親も呼んで、な……」
「……承知致しました」
嫌な笑みを浮かべそう言葉を掛けて来るテオドロンに、ウルミリアは「どう切り抜けようか」と必死に頭を回転させる。
公爵家当主を交えた席で、不敬な物言いは出来ない。
「この場に、お父様が居たらどんなに良かったか……」
ウルミリアがポツリと零した言葉に、ジルがそっとウルミリアの隣に歩み寄り、耳打ちする。
「ウルミリアお嬢様。こちらに向かう最中、旦那様へ急ぎ鳥で知らせをお送り致しました。直ぐの合流は難しいかもしれませんが、ウルミリアお嬢様をお迎えに上がるかと思います」
「──それは本当?助かったわ、ありがとうジル」
「お褒めに預かり光栄です」
ウルミリアとジルがこそこそ、ヒソヒソと話していると、前を歩いていたテオドロンが二人の方へと振り向く。
「──何をこそこそしているか分からないが……。僕は一旦着替えて来る。サロンへは使用人に案内して貰ってくれ。ここからそう遠く無い」
「分かりましたわ」
テオドロンが、着替えに側を離れる。
それならば、ウルミリアとジル二人になればこの後の事、先程まで馬車内でテオドロンと話した事の共有を出来る、と思い立ったウルミリアはにっこりとテオドロンに笑みを向けると笑顔で見送る。
「ご案内致します」
テオドロンから声を掛けられた公爵家の使用人が、ウルミリアとジルに一礼すると、サロンまでの道を案内し始めた。
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