【完結】婚約者様、嫌気がさしたので逃げさせて頂きます

高瀬船

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 ──見られている。

「──~……っ」
「おい、どうした……? 顔を元に戻せ戻せ。酷い顔になっているぞ?」

 ぞわぞわとした歓喜にも似た感情が湧き上がり、イェルガがぴくりと反応した。
 そしてイェルガの隣に居たリュリュドはイェルガに怪訝な視線を向けた後、イェルガの顔を見てぎょっと目を見開き慌てて声を掛けた。

「酷い顔って……随分な言葉だな?」
「いや……だって、なぁ……? どうせまたあのご令嬢の事だろ?」

 むすっとしながら唇を尖らせるイェルガに、リュリュドはテーブルからグラスをひょい、と持ち上げて一つをイェルガに渡す。
 リュリュドから渡されたグラスを礼を言って受け取り、イェルガはグラスに口を付けた。

「だって仕方ないだろ……。一目惚れだったんだから……。俺たち魔法士は欲しい物はどんな手を使ってでも手に入れる。……そう言う感情が強いからな」
「魔法士でない人間には俺たちのこの気持ちを理解出来ないだろうなぁ……。何でこんなに執着するのか、俺たち自身も理由は分かってないんだもんな……」

 魔法士の困った習性だよな、とリュリュドが小さくぼやく。

 何故、魔法士にはこんな習性を持っているのだろうか、とイェルガも考える。

(……もしかしたら、魔力を宿した子孫を残すために適した相手を強く求めるのかもしれないな。けれど、ブリジット嬢は魔力が無いと聞いているが……。本人が魔力が有る無しに関係せず、子供には魔力が宿るのだろうか?)

 それとも、とイェルガは壁際で立っているブリジットを盗み見る。

(ブリジット嬢の家系には、昔魔法士が居たのか……?)

 もしそうであれば、自分との間に出来た子供は魔力を得て生まれる可能性が限りなく高い。

(一目惚れ、と言うのが魔力に惹かれてだったとしても今はもう関係無い。今の俺は本当にブリジット嬢が欲しい……。国に連れて帰ってしまいたい……)

 イェルガがそんな事を考えていると、隣に居たリュリュドがぽつりと呟いた。

「けれど、これ以上はもう辞めておけよ? こっちの魔法士に勘付かれるぞ」
「──はいはい」

 リュリュドの硬い声に、イェルガは「分かったよ」とばかりに肩を竦めてグラスをテーブルに戻した。



◇◆◇

「──あ。ブリジット、王女殿下が戻られたようだ。あの後、一体どちらに向かわれていたのか……俺が聞いてこようか?」

 ブリジット、気にしていただろう? とルーカスがブリジットに話し掛け、振り向く。
 するとブリジットはルーカスの声が聞こえていないのだろうか。
 ぽやん、と虚ろな目で虚空を見詰めている。

「ブリジット……?」

 ぼうっ、と唇を半開きにしてルーカスの言葉に反応しないブリジットを見て、ルーカスは「まさか!」と焦る。

 慌ててブリジットが両手で持つグラスに視線を向けてブリジットの手の中からグラスを奪う。

「ブリジット、まさか酒を──……っ」

 気を付けていたのにまさか間違えて口にしたのか、とルーカスが慌ててブリジットが飲んでいたグラスに口をつけ、自らの喉に流し込む。

 ふわり、と香る酒の香りに。喉を通った時に確かに感じるカッとしたアルコールの焼け付くような感覚。

 ブリジットは成人しているため、酒を口にするのは問題にはならない。
 誤って酒を口にしてしまう事だって夜会ではあるのだ。
 だが、ブリジットは酒に酔うと厄介だ。

「ブ、ブリジット……! 酔いが醒めるまで部屋で休もう……! ブリジットの父上……、ああ! あそこに……っ! アルテンバーク侯爵をお連れするから、休もう!」

 慌てるルーカスとは別に、ブリジットはルーカスについっと視線を向ける。

「大丈夫です、酔ってません。私ももう大人ですから、お酒に弱くなんてありません」
「だが、ブリジット……。ふにゃふにゃしてる……もう眠いんだろう? このままではパーティー中に寝てしまう。少し休憩室で仮眠しよう、ブリジットの父上を呼んで来るからそうした方が良い」
「ふにゃふにゃなんてしていません。それに寝ません……! 私はルーカス様とまだダンスを踊ってないのです、ダンスを踊るのです……!」

 きっ! とブリジットに強く睨まれるがちっとも怖くない。むしろ酒のせいで目尻は赤く染まり、潤む瞳が可愛らしい。
 ルーカスは「分かった分かった」とブリジットの肩をぽんぽんと叩いて宥めつつ、ブリジットの父親に助けを求めるような視線を向ける。

 酒に酔ったブリジットは、普段口にしない事を素直に口にするため、ルーカスにとってとても可愛らしく厄介な存在になる。
 しかも、酔った本人は翌日何も覚えていないと言うのだから本当に、とルーカスは顔を覆いたくなる。

 未だにダンスを踊るのです! と口にしているブリジットの手を引いて、ルーカスはブリジットの父親、アルテンバーク侯爵が居る方向に向かって歩いて行った。
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