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しおりを挟む「──ちょっと、そこに居るのは……ブリジットの家の使用人よね……!?」
待機室に入るなり、ティファは自分の家の使用人では無くブリジットの家の使用人の下に駆け寄る。
「えっ!? は、はい! アルテンバークの者です。お嬢様のご友人のシトニー侯爵令嬢でお間違い無いでしょうか?」
使用人がガタリ、と椅子から立ち上がり慌てた様子のティファに狼狽える。
ティファは使用人の言葉には答えず、使用人に詰め寄った。
「ブリジットは今日、お休みじゃなかったの……!? 昼食の時間まで教室に現れなかったわ!」
「──なっ!」
ティファの剣幕に使用人は一瞬ぽかんとしたが、ブリジットが姿を見せていない、と言う言葉を聞いて顔面蒼白になる。
「た、確かにお嬢様は学院の建物に……! しっかりとお見送り致しました……っだ、旦那様にお知らせをしなければ……っ」
「ブリジットは確かに学院に来たのね!? シトニー侯爵家の人間も使いなさい! ブリジットの家に行かせるわ、貴方は私と一緒にブリジットを探すわよ!」
ティファ達の会話に待機室にいた他家の使用人たちもざわざわと騒ぎ出す。
学院で、一人の人間が拐かされた可能性があるのだ。
しかも、姿を消したのはこの国の侯爵令嬢である人物。
ティファはブリジットの婚約者であるルーカスの家にも知らせを送るよう、家の使用人に告げた。
狼狽えるブリジットの家の使用人を連れて、ティファは慌てて廊下に出る。
これは自分達で探すよりも、教師に報告して捜索を手伝ってもらった方が早いだろう。
もしかしたら国の魔法士の協力も得られる可能性がある。
(それでなくとも、もしかしたら特別科の協力を得られれば……! 魔法学を学ぶ学院生に手伝ってもらえれば……!)
ティファと使用人はカツカツと靴音を立てて教師が待機している別棟に向かった。
◇◆◇
機嫌良さげな鼻歌が聞こえて来る。
部屋の持ち主はどこか影に隠れているのか、姿は見えないが鼻歌が聞こえてくる事から間違いなく室内にいるのだろう。
交換留学生達に与えられている特別室。
私室代わりに使用したり、交流の場として学院の者達を招いて歓談する場所にしたりと様々な使い方をしていたのだが、その中の一人、イェルガ・ノーズビートは学院生の誰もその部屋に招いた事が無かった。
彼の友人、リュリュドはイェルガに呼ばれて特別室に来たのだが、部屋に入り部屋の中を見た瞬間、驚きに目を見開いた。
そして、ご機嫌に鼻歌を奏で続けるイェルガにあんぐりと開けた口をそのままに視線だけを向ける。
「──……っ、おま……っ、お前……っやってくれたな……!? 国際問題に発展しかねない事をやらかすな、と言っただろう!?」
「……、? 何をそんなに怒っているんだ。仕方ないだろ」
「仕方なくないだろ! 何故お前が執着しているアルテンバーク嬢がここに居るんだ!? 魅了で操ったのか!?」
リュリュドが怒声を上げながら、無表情でソファに座るブリジットを指差す。
「大事になる前に早くアルテンバーク嬢を解放してこい!」
「いやぁ……それがやりたくても出来ないんだよ……」
「何で!?」
これでは最早誘拐だ。
友好的な関係を築くために交換留学生としてやって来たと言うのに、これでは争いの火種を灯しているような物になる。
リュリュドは真っ青になってイェルガにそう言うが、当の本人であるイェルガはひょい、と肩を竦めて軽く答える。
「ブリジット嬢に良く効く魅了の香水をな……実験してたんだが……。ちょっと効きすぎて……ほら、何にも反応しない」
イェルガがブリジットの座るソファの背後に回り、後ろからブリジットを抱き締めるがブリジットには何の反応も無い。
「どさくさに紛れて触るな! お前のやっている事は犯罪と同じだぞ……! 魅了の香水って何だ、早くその効果を消せよっ。消したらアルテンバーク嬢を俺が解放するからな、お前に任せたらそのまま国に連れ帰りそうだ……っ」
「……本当に連れ帰ってしまうか? この国の魔法士達の力量は我が国には到底及ばない。そう報告すれば……」
「魔法士の数は少ないが、軍部は優秀だ……! あの王女殿下と話しただろう、この国を崩すのは無理だ……!」
「そうなんだよなぁ。まあ、俺たちはこの国の力量を探って来るのも仕事の内だったし……。あとは真面目に交換留学生の役目を全うするだけか……」
「そうだな、何事も問題無く済ませるために令嬢を解放するために早く効果を消せ……!」
リュリュドの頑なな態度に、イェルガも流石にブリジットをこの場で無理矢理連れて帰るのは無理か、と諦める。
「ブリジット嬢が自らお願いしてくればいいんだよな?」
「魅了や、魔法の力を使わずにな……!」
「分かったよ。魅了が変に掛かって、ブリジット嬢の意識が混濁しちゃってる今は楽しく無い。ちゃんと自分の意思で俺を選んで欲しいしな……」
イェルガはブリジットを抱き締めていた腕を解き、ブリジットから離れる。
「──ただ、香水の効果がどれだけ継続するか分からない。その実験をしてたから。効果が抜けて来たらブリジット嬢を解放するよ」
自分ではどうにも出来ないんだ、と気楽にそう話すイェルガにリュリュドは気を失いたくなってしまった。
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