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ノービス

稽古

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「…ただいま、買ってきましたよ」

「おう」

工房へ戻り、扉を開けると入口のすぐそばで親方が仁王立ちで待っていた。
買ってきた回復薬を鞄ごと渡すと二、三本摘み上げて鞄に戻すと溜息をこぼしてこちらを睨んできた。
…デフォルトで恐ろしい顔の親方の顔が2割増しで恐ろしい。

「親方…?」

「…ほれ、この間の客が下取りに置いていったもんだ、鋳つぶす予定だったしぶっ壊れても勿体なくないからうまく使って見せろ」

投げて寄こしたのはショートソード

「これからやるのは何時もの稽古だ、ただし今日は木剣じゃなくお前さんの獲物はそいつ俺はこいつだ」

親方の手にあるのは僕の作った小太刀

「今日は回復薬もある、本気で切るつもりで来い!」

訳も分からないまま稽古が始まった。
武器を作るものが武器の扱いを知らないようでは本物ができるわけがない
それが親方の教えである。
その親方の考えに基づいて稽古は何時ものことではある。
だが、真剣で斬り合うなんて行ったことは一度もない。

ショートソードを持ったまま立ち尽くしていると
親方の先制攻撃が飛んできた。
鞘からの一閃瞬速の一撃である居合切り、かすらされた頬から血が噴き出す。
親方は本気だ、本気で切りに来てる。

「うぉぉぉぉ」

恐怖を堪えこちらからも一合、二合踏み込むが全て受け止められ切り返される。
その度に薄皮一枚づつ切られていく。

「親方、刀術の心得が?」

「いや、この手の刃物は初めてだな」

剣術が使えるのは何時もの稽古で知っていただがありえない。
俗に言う西洋剣と刀では用途が違うため、振り方、足運び、間合いの取り方さえ違う
それなのに様になっている上、きちんと手加減され制御されている。
致命傷にならないように、切りすぎないように恐ろしい精度で振るわれているのだ。

「不思議そうな顔をしているがこれが職業とスキルの力、俺の職業である所のバトルスミスの力だ…ふん!」

「ぐぇ」

何とかショートソードの腹で受けたが、吹き飛ばされた。

「…飲め、立ち上がってよく見ていろ」

そういって投げ渡されたのは先ほど買ってきた初級回復薬だった。
一本飲み干せば体中の傷が光とともに消え疲労感が癒えていく。
親方は庭木の前へ移動すると言葉を続ける。

「職業もそうだがスキルのレベルが上がると技を覚える場合がある。」

親方が小太刀を中段へと構える、すると魔力が刀身へと纏われていくのが見えた。

「例えば、『ルナスラッシュ』」

今度は刀身だけじゃない親方の体の魔力も動きに合わせて魔力が巡ってゆく。
刀身の光が三日月の残滓を残す中段から一閃が放たれた。

スパン!

「別に技名は声に出さなくてもいいのだがな」

そんなドヤ顔の親方の後ろで30センチはあっただろう幹が見事に分断される。
チートだ、チートがいる。
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