37 / 49
蛇男 出会編
1
しおりを挟む
腹が減った。
このままでは治る傷も治らぬ。
縄張り争いに敗けた。
このままでは腹の虫が収まらぬ。
おのれ。
おのれ。
必ず奪い返す。
まずは傷を癒さねば。
その為にはーーーーー。
若い女の肉が必要だ。
*
天定と永海が立ち寄ったここは、二人の故郷によく似た雰囲気の街であった。
領主の居住らしき大きな建物が街の出入り口である門から一番遠い場所に位置し、二階建ての建物に混じりぽつぽつと一階建ての平家も存在する。
「団子、うめぇな。」
「ああ、うまいな。」
青く広がる空。
熱くも冷たくもなく、心地いい風。
わいわいと賑やかな商人や街娘たちが行き交う賑やかな雰囲気を眺めながら、二人は甘味処で団子を頬張っていた。
資金不足により一皿を半分こにして、ここまでの旅の疲れを癒す。
「お兄さんたちは旅人さん?こんなにかっこいい人、一度見たら忘れれんわ。」
お店の看板娘が、お代わりの茶を持ってきてくれた。
「お?俺らそんなにかっこいい?」
「そりゃあもう。さっきからお兄さんたちをちらほら見てる人、結構いるんよ?」
「そりゃあ嬉しいね。」
看板娘の言葉に、商人に扮する永海が返す。
天定一人だったなら、今頃無言である。
永海がいてくれて良かったと、彼は早速湯呑みに手を伸ばして誤魔化すように飲み始めた。
女性に苦手意識のある天定は、不意に話しかけられたところで柔軟に対応ができない不器用さを持つ。
横目で従者を見ると、看板娘との会話に花を咲かせていた。
流石である。
「ところで、お兄さんはお侍さん?」
安心しきっていた矢先に声を掛けられ、天定は吹き出しそうになる茶を懸命に飲み込み咽せた。
咳込む彼に、永海が背をさする。
「ご、ごめんなさい。驚かすつもりは…。」
「はは、だーいじょうぶ大丈夫。」
すぐにお絞りを持ってきてくれた娘に礼を伝えたタイミングで、店内から彼女を呼ぶ声が聞こえる。
ぺこりと頭を下げてその場を離れていくと、やっと落ち着いた天定が口を開いた。
「すまんな永海、もう大丈夫だ。」
「そうか、なら良かった。」
手を離し、2人は視線を行き交う人たちへ向けた。
とても平和な時間が流れる。
「奴らの情報は、何か掴めたか?」
「今のところはさっぱりだ。こんなに人が多いと、ほんの少し期待もしてたんだけどな。」
「……そうか。」
奴らとは、二人の故郷を襲撃した謎の者たちの事を指す。
襲撃されたと聞いたあの日。
二人はすぐに村へ戻ったが、そこは見る影もないほど焼き尽くされていた。
所々から上かる黒煙。
漂う焦げ臭さ。
天定の実家があった場所にあったのはーーー。
「天定。」
名前を呼ばれて、天定はハッと我に戻った。
気がつくと永海に顔を覗き込まれている。
「…すまない。」
慌てて右手を額に当てて顔を隠そうとするが、時すでに遅しである。
「お前のことだ、昔からのそういう癖はよく分かってる。でもな、俺がいることを忘れないでくれ。」
「ああ、もちろんだ。」
天定はかつて永海に救われた。
それは永海も同じで、互いに相手へ恩を抱いている。
相手がいるから今を生きれる。
周りには言えないが、今や主従の関係を越えた関係の二人である。
「よかったら、また来てや。お兄さんたちなら安くするでの。」
支払いの際に娘にサービスをすると言われて天定は頭を軽く下げ、永海は笑いながら小さく手を振る。
店を出て通りを南の方へ歩いていると穏やかで平和な商店街の風景が広がり、より賑わいを見せた。
「さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
「洋の国から取り寄せた、"ぶろぉち"という装飾品ですよー!」
「中華の国から仕入れた、旨味の調味料だ!これがありゃあ、今夜のおかずは絶品だぜ!」
あちらこちらから声が聞こえる。
年頃の娘やお洒落にしている女性は雑貨屋に、婦人は八百屋に、男は…忙しく通りを行き来しているか店員の姿しか見えない。
「お?天定、あれ買ってかねぇ?」
「買ってどうするんだ。」
「どーするって、俺への贈り物とか。」
「……………。」
永海が指で示した先にあるのは、輝く小さなもの。
品名の部分に「ぶろぉち」と書かれている。
見た感じ女性が喜びそうな品物を見て、天定は眉間のシワを刻ませた。
「…仮に、だ。お前に贈ったとして、いったいどうするんだ?」
「どーするって、身につけるに決まってるじゃない。私、すっごく嬉しいし。」
むにっと柔らかいものが、腕に当たる。
天定の思考が、一瞬で固まった。
このままでは治る傷も治らぬ。
縄張り争いに敗けた。
このままでは腹の虫が収まらぬ。
おのれ。
おのれ。
必ず奪い返す。
まずは傷を癒さねば。
その為にはーーーーー。
若い女の肉が必要だ。
*
天定と永海が立ち寄ったここは、二人の故郷によく似た雰囲気の街であった。
領主の居住らしき大きな建物が街の出入り口である門から一番遠い場所に位置し、二階建ての建物に混じりぽつぽつと一階建ての平家も存在する。
「団子、うめぇな。」
「ああ、うまいな。」
青く広がる空。
熱くも冷たくもなく、心地いい風。
わいわいと賑やかな商人や街娘たちが行き交う賑やかな雰囲気を眺めながら、二人は甘味処で団子を頬張っていた。
資金不足により一皿を半分こにして、ここまでの旅の疲れを癒す。
「お兄さんたちは旅人さん?こんなにかっこいい人、一度見たら忘れれんわ。」
お店の看板娘が、お代わりの茶を持ってきてくれた。
「お?俺らそんなにかっこいい?」
「そりゃあもう。さっきからお兄さんたちをちらほら見てる人、結構いるんよ?」
「そりゃあ嬉しいね。」
看板娘の言葉に、商人に扮する永海が返す。
天定一人だったなら、今頃無言である。
永海がいてくれて良かったと、彼は早速湯呑みに手を伸ばして誤魔化すように飲み始めた。
女性に苦手意識のある天定は、不意に話しかけられたところで柔軟に対応ができない不器用さを持つ。
横目で従者を見ると、看板娘との会話に花を咲かせていた。
流石である。
「ところで、お兄さんはお侍さん?」
安心しきっていた矢先に声を掛けられ、天定は吹き出しそうになる茶を懸命に飲み込み咽せた。
咳込む彼に、永海が背をさする。
「ご、ごめんなさい。驚かすつもりは…。」
「はは、だーいじょうぶ大丈夫。」
すぐにお絞りを持ってきてくれた娘に礼を伝えたタイミングで、店内から彼女を呼ぶ声が聞こえる。
ぺこりと頭を下げてその場を離れていくと、やっと落ち着いた天定が口を開いた。
「すまんな永海、もう大丈夫だ。」
「そうか、なら良かった。」
手を離し、2人は視線を行き交う人たちへ向けた。
とても平和な時間が流れる。
「奴らの情報は、何か掴めたか?」
「今のところはさっぱりだ。こんなに人が多いと、ほんの少し期待もしてたんだけどな。」
「……そうか。」
奴らとは、二人の故郷を襲撃した謎の者たちの事を指す。
襲撃されたと聞いたあの日。
二人はすぐに村へ戻ったが、そこは見る影もないほど焼き尽くされていた。
所々から上かる黒煙。
漂う焦げ臭さ。
天定の実家があった場所にあったのはーーー。
「天定。」
名前を呼ばれて、天定はハッと我に戻った。
気がつくと永海に顔を覗き込まれている。
「…すまない。」
慌てて右手を額に当てて顔を隠そうとするが、時すでに遅しである。
「お前のことだ、昔からのそういう癖はよく分かってる。でもな、俺がいることを忘れないでくれ。」
「ああ、もちろんだ。」
天定はかつて永海に救われた。
それは永海も同じで、互いに相手へ恩を抱いている。
相手がいるから今を生きれる。
周りには言えないが、今や主従の関係を越えた関係の二人である。
「よかったら、また来てや。お兄さんたちなら安くするでの。」
支払いの際に娘にサービスをすると言われて天定は頭を軽く下げ、永海は笑いながら小さく手を振る。
店を出て通りを南の方へ歩いていると穏やかで平和な商店街の風景が広がり、より賑わいを見せた。
「さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
「洋の国から取り寄せた、"ぶろぉち"という装飾品ですよー!」
「中華の国から仕入れた、旨味の調味料だ!これがありゃあ、今夜のおかずは絶品だぜ!」
あちらこちらから声が聞こえる。
年頃の娘やお洒落にしている女性は雑貨屋に、婦人は八百屋に、男は…忙しく通りを行き来しているか店員の姿しか見えない。
「お?天定、あれ買ってかねぇ?」
「買ってどうするんだ。」
「どーするって、俺への贈り物とか。」
「……………。」
永海が指で示した先にあるのは、輝く小さなもの。
品名の部分に「ぶろぉち」と書かれている。
見た感じ女性が喜びそうな品物を見て、天定は眉間のシワを刻ませた。
「…仮に、だ。お前に贈ったとして、いったいどうするんだ?」
「どーするって、身につけるに決まってるじゃない。私、すっごく嬉しいし。」
むにっと柔らかいものが、腕に当たる。
天定の思考が、一瞬で固まった。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる