彩のミステリーデビュー

愛媛海

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中学生編

転校生

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2学期早々遅刻だ。「いってきます」
「気をつけてね」
いつも通りの通学路、いつも通りの快晴。走り抜ける。
「痛て」
「あ、ごめんなさい」
走り去ってしまった、ファイルを置いて。朝の会が後5分で始まるのに、20秒もそこから動けなかった。遅刻することは確定したのでゆっくり歩いた。ついでに、さっきのファイルを職員室に届けた。

「遅れてすみません。あ」
「あ」
「君たち知りあいなのか? 早く増刈は席に着け」 
「はい」
「では、転校生の挨拶だ」
朝ぶつかってきた女は視線を集めた。
そういえばなんで黒板に名前書くんだろう。4月の時黒板に名前書いたの先生だけだったんだけど。
「北海道から来ました、服野彩です。よろしくお願いします」
転校生だったのか。
「席は増刈の隣な」
「はい」
なんで転校生が隣に来るんだよ。
「よ、よろしく」
「よろしく」
まあ、挨拶できただけでもいいか。
「あ、後、ファイル落としたでしょ、職員室に届けてるから」
「うわ、本当だ。ありがとう」
「北海道から来たんだな」
「うん。知ってるの? 」
「知ってる。小学2年生くらいの時に幼馴染みが北海道に行くって言ってたから。今は全然会ってないけど」
小学生の時に北海道なんて習うだろ。
「そうなんだ。あ、でも1回だけ東京の方から来た子と一緒のクラスになったことあるよ」
「ふーん」
正直興味がない。
「うちら運命じゃない?付き合おうよ」
「な、いきなり何言ってるの」
「風太おめでとう」
外野がうるさい。
「ちょっと待ってよお前ら。まだ状況が飲み込めてないんだって」
「風太、お前ん家連れてってやれよ」
「いや、いきなりはちょっと」
「もしかしたら、あんなことやこんなことができちゃうかもしれないんだぞ」
「いきなり耳打ちすんな」
「いやー、これはすごい。運命的な出会い、明日、明後日はクラスのみんなでパーティーだな」
「わ、分かったよ。付き合おう」
つい流れで付き合ってしまった。どんな人が全然知らないのに。
「親に挨拶しなきゃだね」
「いや、祖母しかいない」
「じゃあ、夜まで待つよ」
「祖母と2人で暮らしているんだ」
「じゃあ、祖母に挨拶するね」
「うん」
「でもなんでいないの? 別居? でもなさそうだし」
「今は、話したくない」
「そ、そっか。ご、ごめんね」
「……」
「 む、虫に土土でなんて読むの? 」
「え、かえるだよ」
「そうなの?さけかと思った」
なんでそっちは読めるんだよ。
「蛙野って地名なんだ。てか町名、私と同じ漢字が入ってるね」
「さいとえどまちって読むんだ」
「ふーん」
なんとか会話を繋ぐことができた。
「ここが俺の……」
パトカーが止まっていて立入禁止のテープが張られていた。
「工事してるのかな? 」
「どうみても何か事件が起きたんでしょ」
「ここに住んでる方ですか」
「はい。何かあったんですか」
「ここで連続事件が起きているんだ」
「え、こわ」
「祖母は大丈夫ですか? 」
「何番ですか」
「11番の増刈です」
「えーと蛙マークは、2番の金子、3番の江原、5番の留守、7番の野崎、9番の内山までか。次犯人に狙われる可能性があります。厳重に警備しているので心配しないでください。おい、お前、2人を11番に」
「分かりました」
「素数かな」
「9番って言ってなかったか」
「犯人が間違えたのかな。でも、もしかしたら、次はここかもよ」
「それはある」
「ちょっと怖いけどうちらで事件解決してみない? 」
「何言ってるんだ子供じゃないだろ」
「まだ子供だし」
「小学生じゃないだろ」
「ま、前まで小学生だったし」
「前までな」
「もう、23時57分11秒だ。寝るぞ」
「時間細かすぎない」

「警察が見ているから少し安心するけど心配だな」
「おはよう」
「おはよう」
「13番だ」
「外が騒がしいな」
「ね」
「13番は田辺さんだった気がする」
「つぎつぎ事件起きてるけど警察無能じゃない」
「それは言わないお約束」
「そうだ、うちらで解決するんだった」
「できないって」
「やってみないと分かんないじゃん。いいからここの全員の名前と番号見せて」
「1番加藤、4番良知、6番杉山、8番成瀬、10番銭口、12番名古屋、14番栗星、15番野口、16番外野(がいの)17番宮原か」
「警察によると、起きたところの家に蛙の置物と手紙があったんだって。手紙の内容を見てロープを使わせてるのかも」
「手紙の内容どんなの? 」
「教えてくれなかった」
「次、17番の可能性が高そう」
「1番じゃなくて2番、あるいは9番のところが引っ掛かるけど。仮定としてこれが1番妥当だ」
「手紙だから先に出してることもあるね」
「謎の手紙が届いてそれを警察などに話してはいけないと書いていたのか」
「それか話せなかったか」
「あれ、ここの地名なんて読むんだっけ?さけの? 」
「かえるだって昨日言ったじゃん。ちなみにここは蛙がたくさん鳴いていた場所だから蛙野って名前」
「田んぼじゃないのに? 」
「うん」
「待って」
「どうしたの?彩」
「頭文字を読むとかえるのうたになる」
「ほ、本当だ。とすると、次は、この人? 」
「そうみたい」
「犯人は誰だろう」
「さっき、引っ掛かるって言ったよね」 
「そっか」

「次吊られるのは……」
「外野さん、ですよね」
「なんなんだお前たち」
「同じ地域に住んでいるんですけど」
「私はちょっと別の場所だけど」
「逃げないでください。あなたが手紙を書いて渡し、吊った後に置物を置いたんですよね」
「誰が蛙の置物なんて置くんだよ。リスクがあるじゃないか」
「蛙とは言ってません」
「いや、それは……」
「警察の人たち、この人、加藤さんが犯人です」
「犯人じゃない」
「全員吊りたかったわけではないですよね」
「いわゆるabcか」
「誰一人としてこんなことはしてはいけないんですよ」
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