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謎の存在と自己の消失
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――あれ?
○○は体に伝わる冷たい感覚に違和感を覚え、瞼を開ける。何故だか知らないが、自分は灰色の床に突っ伏していたようだ。
数度瞬きを繰り返した後、○○はゆっくりと体を起こす。寝起き故か、頭は薄靄がかかったようにボーっとしており、はっきりしない。
――ここは、いったい――?
辺りを見回すと、床以外は暗闇に包まれていた。壁も天井も、どこまで続いているのか一切分からない。
『まったく、これで2回目だよ。君は車に轢かれるのが好きなの?』
背後から声をかけられた○○は肩をビクッと震わせ、反射的に振り向く。だが、自分以外の人影はなく、代わりに青白い煙を纏った球体がふよふよと浮いていた。
「……今の声、もしかしてアンタか?」
まさかと思い、○○は球体に声をかけてみる。すると『ああ、そうだよ』と、球体から声が返ってきた。
青白い球の声はノイズ混じりで、性別はおろか年齢すらも判別がつかない。口調も相まって人物像の捉えどころがなく、○○は警戒心を抱く。
『おはよう。良かった、目が覚めて。……あ、でもちゃんと会話ができるってことは、言語野の方は問題ないようだね』
会話? 言語野? 球体が発する言葉の意味を、○○は理解できない。
『ねぇ、1足す1は?』
「……はあ?」
『いいから。1足す1は?』
何の脈絡もなく、謎の青白い球は○○に質問を投げかけた。○○は特に頭を働かせるまでもなく「2」と答える。
『正解。じゃあ、戦国武将の織田信長が亡くなったお寺は?』
「……本能寺、だろ?」
『よしよし、合ってるよ』
「なあ、さっきからなんなんだ。何かのテストか?」
訳の分からない状況に対し、○○は苛立ち混じりに質問をする。
『まあ、そうだね。君の記憶はどこまで覚えているのか、ちょっと確認したかったんだ。言語、文法、一般常識については問題ないようで安心したよ』
小馬鹿にされている気がする。
青白い球体の鼻につくような言い方が気に入らず、○○はついに声を荒げた。
「いい加減にしろよ! アンタ、おれをからかってんのか!?」
『悪かったよ、そうイライラしないで。じゃあ最後の質問――君、名前は? 自分の名前って覚えてる?』
何を当たり前なことを。そう言いかけた○○の口は、あんぐりと空いたまま固まってしまった。
「あ……あれ? おれ、おれの……名前って……?」
『……やっぱり思い出せないか。じゃあ質問を変えよう。君はどこで育った?』
「…………」
『じゃあ、好きなものは?』
「………………」
『年齢は? 自分に関すること、何か一つでも思い出せることってない?』
○○は自分に関する質問に対して何も答えられなかった。
数式や歴史、物の名前などは覚えているのに、何故だか自分の記憶だけは何も思い出せない。
内包している一般常識と自身の現状を照らし合わせ、かろうじて分かることがあるとすれば、今こうして話している言葉は日本語。つまり、公用語が日本語であるから、そこに住まう日本人か移住者のどちらかだと絞れる。
では、性別はどうだろうか。ふと飛び出た一人称は「おれ」なので男の可能性がある。しかし、もしかしたら男性的な女性の可能性も捨てきれない。
そんなの自分の体に触れてみれば早い。
○○は胸元に手を伸ばそうとするも、手に感触が伝わらなかった。
「あれ!?」
否、そもそも自分の肉体が存在してなどいなかった。
「お、おれの体は!? じゃあ、おれって今どうなってるんだ!?」
『気づいてなかった? 今の君は意識だけの存在。つまり、肉体がなく魂だけの状態なんだよ』
謎の存在の声に、○○は愕然とする。
記憶もなければ肉体もない。○○の不安定な自己は、まるで片足で綱渡りをするピエロそのもの。一歩間違えれば転落するのと同様に、不安と焦燥感に駆られている○○の人格は今、崩壊寸前となっている。
「なんで……なんで何も思い出せない……? そもそも、ここはどこだ? アンタは誰だ?」
『――私は【i】。そしてここは異界の狭狭間さ』
○○の質問に、蒼玉は一泊置いて無機質に答えた。
「【i】……? 『私(i)』ってことか? ふざけてるのか?」
『ふざけてなんかない。まあ仮名というか、便宜上そう名乗ってることに変わりないけどね』
「よく分かんねえよ。じゃあ、ここが『狭間の世界』ってのも嘘か?」
『違うよ。本当の話さ。ここは異界と異界を繋ぐ中間地点。私はそこの住人であり、別世界と別世界を繋げられる唯一の存在だよ』
「……つまり、神……なのか?」
『うーん……当たらずとも遠からず、だね』
はっきりしない返答、抽象的な文言ばかりで、必死に自我を保っている○○の中に怒りが募る。
だが、謎の存在【i】とのやり取りを経て、○○の中である確信が芽生えた。
「じゃあ……おれをここに呼んだのも、アンタなのか?」
『正解。私が君を現実世界から召喚して、ここに呼びよせたのさ』
「……だったら……だったら、おれの記憶を奪ったのも……アンタなのか……? さっさとおれの記憶を返せ!!! それでおれを元の世界に戻せ!!!」
もし自分と相手に肉体があるのなら、今頃涙を浮かべて向こうの胸ぐらを掴んでいただろう。
ついに我慢ならなくなった○○は、全ての感情をぶつけるか如くまくし立てた。しかし、そんな○○の憤りは露知らず、【i】は冷静な物腰で諫めた。
『おっと、早合点はいけないな。人の話は最後まで聞くべきだよ。いいかい? 確かに私は、君から記憶を頂戴したさ。でも、何もかもを捨てて一からやり直して異世界に行きたいと願ったのは、他でもない――君自身なんだよ?』
「えっ……?」
突然告げられた真実に、○○は唖然とした。
まさか、自分がそう望んだというのか。全くもって身に覚えがない。いや、自分に関する記憶が全て抜け落ちているのなら、過去の自分の願いなど覚えているはずもないのだ。
「う……うそだ……」
『いいや、真実だよ。君がそう望んだから、私は行動に移しただけさ。まあ、君は自分が望んだことも忘れているから、狼狽するのは無理もないが……。だとしても、私を勝手に悪者扱いしたうえに自分の要望をクーリングオフとは、些か虫が良すぎるんじゃないかな?』
ぐうの音も出ない。球体の正論に返す言葉もなく、○○は俯いてしまった。
かつての自分は、望んで異世界に行きたがっていたのか。これまでの自分の過去を、何もかも、全てを捨ててまで。
「……じゃあ、なんでおれに関する記憶だけ抜き取った? もしおれが『一からやり直して異世界に行きたい』と望んだのなら、何故おれ自身が過去を捨て去ったという事実を教えたんだ?」
廃人のような○○は、涙声で青白い球体に問いかけた。謎の浮遊物は○○の様子を窺うと、少し間を開けてこう言った。
『試してみたかったんだよ』
○○は顔をあげて、浮遊する玉の言葉を待つ。
『もし君が、君に関する記憶以外を覚えていて、それで私と話してみたらどう反応するのかな、とね。真実を知ったうえで、それでもなお記憶がなくなっていても構わないというのなら、これまで培ってきた記憶や、こうして私と話したことすらも消して、異世界に送り届けようと思った。……でも、もし君が過去の自分の行いに疑問を持ち、記憶を取り戻したいというのなら、記憶を返してあげるよ』
「ほ、本当か?」
『もちろん、タダでは返せない。どんな物事にも順序やルールがあるからね。――さあ、どうする? 全てを忘れて異世界の住人になるか、私の条件を飲んで記憶を取り戻すか。好きな方を選ぶといいよ』
前者を取るか後者を取るか。○○は出された二択に暫し悩んだ。そして決意を固めると、球体を真っすぐ見据えて答えを出す。
「おれは……記憶を取り戻して、元の世界に帰りたい」
○○の反応は予想外だったのか、青白い玉は動揺するかのように一瞬上下に動いた。
『後悔するかもよ? かつての君は、全てを忘れて異世界に行きたいと願ったんだ。そう願うってことは、よっぽど嫌な現実から目を背けたかったからなのかもしれない。全てを思い出したとき、君はまたここに来たいと願うかもしれない。……それでもいいの?』
念を押すように、謎の存在は再び問いかける。
だが、もう○○に迷いはなかった。
「確かに、アンタの言う通りかもしれない。でも、人生を一度チャラにするのは、やっぱり間違ってる。一度起きたことをリセットするのは、ゲームのセーブデータくらいで十分だ」
先程まで荒んでいた○○の心は、記憶を失った者とは思えないくらいに澄んでいた。
新たな自分に生まれ変わる選択も良いのかもしれない。
しかし、○○は思ったのだ。目の前にいる謎の存在があえて二つの選択肢を与えたのは、『異世界に行きたい』と安易に願ってしまった自分の過ちと向き合って欲しいのではないか。つまり【i】にとって、おれが異世界に行くという願いは不本意なのではないか――と。
それに、過去の自分がいったいどんな考えをもってそう望んだのか、少し興味がある。記憶を全て取り戻し、それでもなお生まれ変わる方が幸せだという結論に至ったら、今度こそ本物の異世界の住人になればいい。パンドラの箱を覗く前に転生するのは時期尚早だ。
『……まさか、君の口からそんな言葉を聞けるとはね……いいよ。君に記憶を返そう』
球体は、○○の真っすぐな言葉に射抜かれて降参する。ノイズ混じりの声ではあるが、○○の返答に対して喜びを滲ませているようだ。
『だが、さっき言った通り、君の記憶を戻すには条件がある』
「ああ、構わない。記憶が戻るなら、なんでもやってやるさ」
挑発的な○○の返しに、【i】は小さく笑った。
『威勢がいいね、流石は君だ。条件っていうのは、いたってシンプル――私とゲームをして君が勝てば全ての記憶を返し、そして君を元の世界に返そう』
○○は体に伝わる冷たい感覚に違和感を覚え、瞼を開ける。何故だか知らないが、自分は灰色の床に突っ伏していたようだ。
数度瞬きを繰り返した後、○○はゆっくりと体を起こす。寝起き故か、頭は薄靄がかかったようにボーっとしており、はっきりしない。
――ここは、いったい――?
辺りを見回すと、床以外は暗闇に包まれていた。壁も天井も、どこまで続いているのか一切分からない。
『まったく、これで2回目だよ。君は車に轢かれるのが好きなの?』
背後から声をかけられた○○は肩をビクッと震わせ、反射的に振り向く。だが、自分以外の人影はなく、代わりに青白い煙を纏った球体がふよふよと浮いていた。
「……今の声、もしかしてアンタか?」
まさかと思い、○○は球体に声をかけてみる。すると『ああ、そうだよ』と、球体から声が返ってきた。
青白い球の声はノイズ混じりで、性別はおろか年齢すらも判別がつかない。口調も相まって人物像の捉えどころがなく、○○は警戒心を抱く。
『おはよう。良かった、目が覚めて。……あ、でもちゃんと会話ができるってことは、言語野の方は問題ないようだね』
会話? 言語野? 球体が発する言葉の意味を、○○は理解できない。
『ねぇ、1足す1は?』
「……はあ?」
『いいから。1足す1は?』
何の脈絡もなく、謎の青白い球は○○に質問を投げかけた。○○は特に頭を働かせるまでもなく「2」と答える。
『正解。じゃあ、戦国武将の織田信長が亡くなったお寺は?』
「……本能寺、だろ?」
『よしよし、合ってるよ』
「なあ、さっきからなんなんだ。何かのテストか?」
訳の分からない状況に対し、○○は苛立ち混じりに質問をする。
『まあ、そうだね。君の記憶はどこまで覚えているのか、ちょっと確認したかったんだ。言語、文法、一般常識については問題ないようで安心したよ』
小馬鹿にされている気がする。
青白い球体の鼻につくような言い方が気に入らず、○○はついに声を荒げた。
「いい加減にしろよ! アンタ、おれをからかってんのか!?」
『悪かったよ、そうイライラしないで。じゃあ最後の質問――君、名前は? 自分の名前って覚えてる?』
何を当たり前なことを。そう言いかけた○○の口は、あんぐりと空いたまま固まってしまった。
「あ……あれ? おれ、おれの……名前って……?」
『……やっぱり思い出せないか。じゃあ質問を変えよう。君はどこで育った?』
「…………」
『じゃあ、好きなものは?』
「………………」
『年齢は? 自分に関すること、何か一つでも思い出せることってない?』
○○は自分に関する質問に対して何も答えられなかった。
数式や歴史、物の名前などは覚えているのに、何故だか自分の記憶だけは何も思い出せない。
内包している一般常識と自身の現状を照らし合わせ、かろうじて分かることがあるとすれば、今こうして話している言葉は日本語。つまり、公用語が日本語であるから、そこに住まう日本人か移住者のどちらかだと絞れる。
では、性別はどうだろうか。ふと飛び出た一人称は「おれ」なので男の可能性がある。しかし、もしかしたら男性的な女性の可能性も捨てきれない。
そんなの自分の体に触れてみれば早い。
○○は胸元に手を伸ばそうとするも、手に感触が伝わらなかった。
「あれ!?」
否、そもそも自分の肉体が存在してなどいなかった。
「お、おれの体は!? じゃあ、おれって今どうなってるんだ!?」
『気づいてなかった? 今の君は意識だけの存在。つまり、肉体がなく魂だけの状態なんだよ』
謎の存在の声に、○○は愕然とする。
記憶もなければ肉体もない。○○の不安定な自己は、まるで片足で綱渡りをするピエロそのもの。一歩間違えれば転落するのと同様に、不安と焦燥感に駆られている○○の人格は今、崩壊寸前となっている。
「なんで……なんで何も思い出せない……? そもそも、ここはどこだ? アンタは誰だ?」
『――私は【i】。そしてここは異界の狭狭間さ』
○○の質問に、蒼玉は一泊置いて無機質に答えた。
「【i】……? 『私(i)』ってことか? ふざけてるのか?」
『ふざけてなんかない。まあ仮名というか、便宜上そう名乗ってることに変わりないけどね』
「よく分かんねえよ。じゃあ、ここが『狭間の世界』ってのも嘘か?」
『違うよ。本当の話さ。ここは異界と異界を繋ぐ中間地点。私はそこの住人であり、別世界と別世界を繋げられる唯一の存在だよ』
「……つまり、神……なのか?」
『うーん……当たらずとも遠からず、だね』
はっきりしない返答、抽象的な文言ばかりで、必死に自我を保っている○○の中に怒りが募る。
だが、謎の存在【i】とのやり取りを経て、○○の中である確信が芽生えた。
「じゃあ……おれをここに呼んだのも、アンタなのか?」
『正解。私が君を現実世界から召喚して、ここに呼びよせたのさ』
「……だったら……だったら、おれの記憶を奪ったのも……アンタなのか……? さっさとおれの記憶を返せ!!! それでおれを元の世界に戻せ!!!」
もし自分と相手に肉体があるのなら、今頃涙を浮かべて向こうの胸ぐらを掴んでいただろう。
ついに我慢ならなくなった○○は、全ての感情をぶつけるか如くまくし立てた。しかし、そんな○○の憤りは露知らず、【i】は冷静な物腰で諫めた。
『おっと、早合点はいけないな。人の話は最後まで聞くべきだよ。いいかい? 確かに私は、君から記憶を頂戴したさ。でも、何もかもを捨てて一からやり直して異世界に行きたいと願ったのは、他でもない――君自身なんだよ?』
「えっ……?」
突然告げられた真実に、○○は唖然とした。
まさか、自分がそう望んだというのか。全くもって身に覚えがない。いや、自分に関する記憶が全て抜け落ちているのなら、過去の自分の願いなど覚えているはずもないのだ。
「う……うそだ……」
『いいや、真実だよ。君がそう望んだから、私は行動に移しただけさ。まあ、君は自分が望んだことも忘れているから、狼狽するのは無理もないが……。だとしても、私を勝手に悪者扱いしたうえに自分の要望をクーリングオフとは、些か虫が良すぎるんじゃないかな?』
ぐうの音も出ない。球体の正論に返す言葉もなく、○○は俯いてしまった。
かつての自分は、望んで異世界に行きたがっていたのか。これまでの自分の過去を、何もかも、全てを捨ててまで。
「……じゃあ、なんでおれに関する記憶だけ抜き取った? もしおれが『一からやり直して異世界に行きたい』と望んだのなら、何故おれ自身が過去を捨て去ったという事実を教えたんだ?」
廃人のような○○は、涙声で青白い球体に問いかけた。謎の浮遊物は○○の様子を窺うと、少し間を開けてこう言った。
『試してみたかったんだよ』
○○は顔をあげて、浮遊する玉の言葉を待つ。
『もし君が、君に関する記憶以外を覚えていて、それで私と話してみたらどう反応するのかな、とね。真実を知ったうえで、それでもなお記憶がなくなっていても構わないというのなら、これまで培ってきた記憶や、こうして私と話したことすらも消して、異世界に送り届けようと思った。……でも、もし君が過去の自分の行いに疑問を持ち、記憶を取り戻したいというのなら、記憶を返してあげるよ』
「ほ、本当か?」
『もちろん、タダでは返せない。どんな物事にも順序やルールがあるからね。――さあ、どうする? 全てを忘れて異世界の住人になるか、私の条件を飲んで記憶を取り戻すか。好きな方を選ぶといいよ』
前者を取るか後者を取るか。○○は出された二択に暫し悩んだ。そして決意を固めると、球体を真っすぐ見据えて答えを出す。
「おれは……記憶を取り戻して、元の世界に帰りたい」
○○の反応は予想外だったのか、青白い玉は動揺するかのように一瞬上下に動いた。
『後悔するかもよ? かつての君は、全てを忘れて異世界に行きたいと願ったんだ。そう願うってことは、よっぽど嫌な現実から目を背けたかったからなのかもしれない。全てを思い出したとき、君はまたここに来たいと願うかもしれない。……それでもいいの?』
念を押すように、謎の存在は再び問いかける。
だが、もう○○に迷いはなかった。
「確かに、アンタの言う通りかもしれない。でも、人生を一度チャラにするのは、やっぱり間違ってる。一度起きたことをリセットするのは、ゲームのセーブデータくらいで十分だ」
先程まで荒んでいた○○の心は、記憶を失った者とは思えないくらいに澄んでいた。
新たな自分に生まれ変わる選択も良いのかもしれない。
しかし、○○は思ったのだ。目の前にいる謎の存在があえて二つの選択肢を与えたのは、『異世界に行きたい』と安易に願ってしまった自分の過ちと向き合って欲しいのではないか。つまり【i】にとって、おれが異世界に行くという願いは不本意なのではないか――と。
それに、過去の自分がいったいどんな考えをもってそう望んだのか、少し興味がある。記憶を全て取り戻し、それでもなお生まれ変わる方が幸せだという結論に至ったら、今度こそ本物の異世界の住人になればいい。パンドラの箱を覗く前に転生するのは時期尚早だ。
『……まさか、君の口からそんな言葉を聞けるとはね……いいよ。君に記憶を返そう』
球体は、○○の真っすぐな言葉に射抜かれて降参する。ノイズ混じりの声ではあるが、○○の返答に対して喜びを滲ませているようだ。
『だが、さっき言った通り、君の記憶を戻すには条件がある』
「ああ、構わない。記憶が戻るなら、なんでもやってやるさ」
挑発的な○○の返しに、【i】は小さく笑った。
『威勢がいいね、流石は君だ。条件っていうのは、いたってシンプル――私とゲームをして君が勝てば全ての記憶を返し、そして君を元の世界に返そう』
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