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ない噂
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大学生の百合さんという女性が、高校生の頃に経験した話。
彼女は当時不良で、学校をよくサボり、深夜に出歩いては補導をされるといった高校生活を過ごしていた。あの時はそれがとても楽しかったそうだ。
そんな生活を送っていた高校二年生の夏休み。不良仲間の一人の男子が肝試しに行こうと提案してきた。
百合さんは悪ぶっているが、実は怖いものは苦手だったので、正直行きたくなかった。だが、ここで行かないと言って、白けさせるのも悪いと思い、肝試しに参加することにした。
肝試しの場所は地元にある廃病院。
そこは昔、多くの医療ミスを隠蔽していたのがバレて潰れた病院。そこの地下の霊安室に、医療ミスで亡くなった患者の幽霊が出るという噂があった。
深夜二時に廃病院前で待ち合わせをして、百合さんを含めた六人で廃病院の中に入った。
百合さんたちのように肝試しを目的に侵入する人が多いせいで、周りを囲む金網にはところどころに穴が開いていて、建物の玄関は破壊されている。そのため容易に侵入することができた。
中に入ると当時使われた椅子や棚が残されていたが、壁には落書きがされ、窓ガラスは割られ、患者のカルテと思われる紙が床に散乱していた。かなり荒らされていて当時の面影はほとんど残っていない。
百合さんたちは早速幽霊が出ると言われている霊安室へ行こうと地下への階段を探した。
しかし二階に向かう階段はあるものの、どれだけ探しても地下への階段は見つからなかった。そこで三人ずつ二手に分かれて探してみることにした。二手に分かれて十分ほど探してみたが、それでも地下への階段は見つからない。
地下室がない。怖がっていた百合さんとしては、地下はなく、噂はあくまで噂だったんだと安堵していた。
だが、もう一つのグループが遠くの方で「おおい! 階段を見つけたぞ!」という声が聞こえた。
見つけてしまったのかと絶望しながら百合さんは他の二人とともに、もう一つのグループと合流しようと向かった。
もう一つのグループの声がした方向へ向かうと、確かに地下への階段があった。だが、百合さんはその階段に違和感を覚える。
階段がある場所、そこは一度全員で確認した階段の脇にあった。最初に気付けなかったことに、合流した百合さんたちは首を傾げる。
だが、見つけたグループの仲間たちは、何も違和感を覚えていない様子で、見つけたことを興奮気味に喜んでいた。
「こんなところにあったんだな!」
「気付かなかった!」
「早く行こうぜ!」
そう言って百合さんたちを連れて地下へと行こうとする。
そこで彼らの様子が変だと百合さんは思い、落ち着くように言うが、こちらの言葉がまるで聞こえていないようで「行こう行こう」と言うばかり。
百合さんたちの手をぐいぐい引っ張る。
地下への階段に引っ張られる百合さんは、ふと地面に落ちたあるものに気付く。
それは各階の案内板だった。一階は診察室などと書かれていて、上の階は入院する患者の部屋番が記されていた。ただ、不思議なことに地下一階については何も記載されていなかった。
この病院には、地下はなかったのだ。
もしかすると一般には地下は開放されていないから、案内板には書かれていない可能性も考えられる。だが、改めて地下への階段を見て百合さんは心臓が止まりそうになる。
地下へと続く階段を改めて見ると、そこには真っ黒な闇が広がっていた。暗いとかではなかった。懐中電灯を向けても何も見えないのだ。
そして何も見えないはずなのに、百合さんはその闇はウゾウゾと蠢いていて、まるで闇が生きているように感じたという。
これはマズいと思った百合さんは「離して!」と叫んで自分の腕を掴む仲間の手を引き剝がそうとするが、まったくビクともしない。
目を血走らせ、唾を飛ばしながら「行こう行こう」と言い続ける。百合さんと一緒に行動していた仲間たちも抵抗するが無駄だった。
引き込まれる。そう思って目を瞑った時、手を引かれる感覚が突然なくなる。
手を引いていたはずの仲間たちが消えていたのだ。いったい何が……と思っていると、背後から先程まで百合さんたちの手を引いていた仲間たちが現れた。
背後から現れた仲間たちは、まるで今合流したかのように「地下への階段は見つかったか?」と話しかけてくる。
「い、いや、地下への階段って、あんたたちが見つけたって言って……あれ?」
自分たちを地下へと連れて行こうとしたではないかと言おうとして、百合さんは階段に目を向ける。
だが、そこには上へと向かう階段はあっても、下に向かう階段はなかった。そして彼らにも確認するが、今来たところだと言う。
訳が分からず、百合さんたちはもちろん、百合さんたちの話を聞いた三人も怯えて慌てて廃病院を後にした。
あの地下への階段は、そして仲間だと思っていたものが、何だったのかは百合さんには分からない
ただ、今でもその廃病院の地下の霊安室の噂をよく耳にするそうだ。
彼女は当時不良で、学校をよくサボり、深夜に出歩いては補導をされるといった高校生活を過ごしていた。あの時はそれがとても楽しかったそうだ。
そんな生活を送っていた高校二年生の夏休み。不良仲間の一人の男子が肝試しに行こうと提案してきた。
百合さんは悪ぶっているが、実は怖いものは苦手だったので、正直行きたくなかった。だが、ここで行かないと言って、白けさせるのも悪いと思い、肝試しに参加することにした。
肝試しの場所は地元にある廃病院。
そこは昔、多くの医療ミスを隠蔽していたのがバレて潰れた病院。そこの地下の霊安室に、医療ミスで亡くなった患者の幽霊が出るという噂があった。
深夜二時に廃病院前で待ち合わせをして、百合さんを含めた六人で廃病院の中に入った。
百合さんたちのように肝試しを目的に侵入する人が多いせいで、周りを囲む金網にはところどころに穴が開いていて、建物の玄関は破壊されている。そのため容易に侵入することができた。
中に入ると当時使われた椅子や棚が残されていたが、壁には落書きがされ、窓ガラスは割られ、患者のカルテと思われる紙が床に散乱していた。かなり荒らされていて当時の面影はほとんど残っていない。
百合さんたちは早速幽霊が出ると言われている霊安室へ行こうと地下への階段を探した。
しかし二階に向かう階段はあるものの、どれだけ探しても地下への階段は見つからなかった。そこで三人ずつ二手に分かれて探してみることにした。二手に分かれて十分ほど探してみたが、それでも地下への階段は見つからない。
地下室がない。怖がっていた百合さんとしては、地下はなく、噂はあくまで噂だったんだと安堵していた。
だが、もう一つのグループが遠くの方で「おおい! 階段を見つけたぞ!」という声が聞こえた。
見つけてしまったのかと絶望しながら百合さんは他の二人とともに、もう一つのグループと合流しようと向かった。
もう一つのグループの声がした方向へ向かうと、確かに地下への階段があった。だが、百合さんはその階段に違和感を覚える。
階段がある場所、そこは一度全員で確認した階段の脇にあった。最初に気付けなかったことに、合流した百合さんたちは首を傾げる。
だが、見つけたグループの仲間たちは、何も違和感を覚えていない様子で、見つけたことを興奮気味に喜んでいた。
「こんなところにあったんだな!」
「気付かなかった!」
「早く行こうぜ!」
そう言って百合さんたちを連れて地下へと行こうとする。
そこで彼らの様子が変だと百合さんは思い、落ち着くように言うが、こちらの言葉がまるで聞こえていないようで「行こう行こう」と言うばかり。
百合さんたちの手をぐいぐい引っ張る。
地下への階段に引っ張られる百合さんは、ふと地面に落ちたあるものに気付く。
それは各階の案内板だった。一階は診察室などと書かれていて、上の階は入院する患者の部屋番が記されていた。ただ、不思議なことに地下一階については何も記載されていなかった。
この病院には、地下はなかったのだ。
もしかすると一般には地下は開放されていないから、案内板には書かれていない可能性も考えられる。だが、改めて地下への階段を見て百合さんは心臓が止まりそうになる。
地下へと続く階段を改めて見ると、そこには真っ黒な闇が広がっていた。暗いとかではなかった。懐中電灯を向けても何も見えないのだ。
そして何も見えないはずなのに、百合さんはその闇はウゾウゾと蠢いていて、まるで闇が生きているように感じたという。
これはマズいと思った百合さんは「離して!」と叫んで自分の腕を掴む仲間の手を引き剝がそうとするが、まったくビクともしない。
目を血走らせ、唾を飛ばしながら「行こう行こう」と言い続ける。百合さんと一緒に行動していた仲間たちも抵抗するが無駄だった。
引き込まれる。そう思って目を瞑った時、手を引かれる感覚が突然なくなる。
手を引いていたはずの仲間たちが消えていたのだ。いったい何が……と思っていると、背後から先程まで百合さんたちの手を引いていた仲間たちが現れた。
背後から現れた仲間たちは、まるで今合流したかのように「地下への階段は見つかったか?」と話しかけてくる。
「い、いや、地下への階段って、あんたたちが見つけたって言って……あれ?」
自分たちを地下へと連れて行こうとしたではないかと言おうとして、百合さんは階段に目を向ける。
だが、そこには上へと向かう階段はあっても、下に向かう階段はなかった。そして彼らにも確認するが、今来たところだと言う。
訳が分からず、百合さんたちはもちろん、百合さんたちの話を聞いた三人も怯えて慌てて廃病院を後にした。
あの地下への階段は、そして仲間だと思っていたものが、何だったのかは百合さんには分からない
ただ、今でもその廃病院の地下の霊安室の噂をよく耳にするそうだ。
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