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傘女
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雨が降るある日のこと。
大学生の男性は友人と飲みに行く約束をしていた。そして待ち合わせの場所に来たものの、待ち合わせの時間よりもだいぶ早かった。
そこで時間を潰すために喫茶店に入った。
そして待ち合わせの時間にあわせて喫茶店を出るのだが、店の外にある傘置きに置いたはずの自分の傘がなくなっていた。どうやら誰かに持って行かれてしまったようだ。
盗んだわけではなく、誰かが誤って持って行ったのかもしれないが、改めて傘を買うには少し離れたところにあるコンビニまで行かなくてはならない。それに自分の不注意というわけでもないのに、傘を改めて買うのは癪だった。
そこで傘立てを見て、自分が使っていたものに似たビニール傘をさして行ってしまった。
よくないことだと思ったが、安物で、街中で放置されているのを見かけるビニール傘。そのため大した罪の意識はなく、友人と一緒に飲んでいるうちに、このビニール傘が他人のものであるということを忘れてしまった。
思い出したのはほどよく酔いが回った状態で、自分が住むアパートに帰宅した時だった。
ビニール傘を玄関に置こうとした時に、開くスイッチのついている反対側に「佐藤」と苗字が書かれていた。
それを見て、他人の傘を持ってきたことを思い出した。
ただ酒にも酔っていたし、特に罪悪感が湧くこともなく、そのままワンルームの部屋に敷きっぱなしの布団に横になる。だが、眠りを妨げるように玄関の扉がコンコンとノックされた。
最初は気のせいかと思ったが、何度もノックされて自分の部屋の扉がノックされているのだと理解する。
時間は既に日を跨ごうとしていた。こんな時間に誰だと不思議に思いながらも、以前にも酔った友人が来たことがあったので、きっとまた友人の誰かだろうと玄関に向かう。
文句でも言ってやろうと思いながら玄関の扉の鍵を開けて、ノブに手をかける。そして扉が開きかけたその時。
「こんばんは、佐藤です」
扉の向こうから、か細い女性の声が聞こえた。
その声を聞いた時、男性はピタリと動きを止めた。聞いたことのない声だし、部屋を訪ねにくるような親しい女性はいない。そして佐藤という苗字。ふと玄関に置かれた傘に目を向ける。その傘に書かれている苗字も「佐藤」。
まさかこの傘の持ち主なのではと思っていると、その予感は当たってしまう。
「私の傘……もっていきましたよね? 返してください」
外にいる女性はこのビニール傘の持ち主で、取り返しにきたのだ。
しかし、それだけではないような気がして、男性はすぐに開きかけた扉を閉めようとする。だが、僅かに開いていた扉の隙間から指が入ってきて、閉めることができなかった。
そして信じられない力で扉を無理やり開けられてしまう。
そこにいたのは女性だった。街中を歩いていれば見掛けるような黒のパンツスーツ姿の女性。ただ全身がぐっしょりと濡れていて、長い黒髪は顔に張り付いていて顔ははっきり確認できない。
「傘を返してください……私の傘……返してくれないなら……あなたが傘になってください」
そこで男性の意識は途切れた。
翌日、路上で男性の死体が見つかった。
男性な死体を調べたところ死因はよくわからず、奇妙な痕跡があった。
鳩尾の部分に棒状のもので突き刺した痕、そしてそこを中心により細い棒状のものを通されたような痕が放射状に体内に広がっていた。
検視を担当した人はまるで傘のようだと言ったそうだ。
見分けがつきにくいビニール傘。もしこの女性の傘を誤って持って行ってしまったら……傘にされてしまうかもしれない。
大学生の男性は友人と飲みに行く約束をしていた。そして待ち合わせの場所に来たものの、待ち合わせの時間よりもだいぶ早かった。
そこで時間を潰すために喫茶店に入った。
そして待ち合わせの時間にあわせて喫茶店を出るのだが、店の外にある傘置きに置いたはずの自分の傘がなくなっていた。どうやら誰かに持って行かれてしまったようだ。
盗んだわけではなく、誰かが誤って持って行ったのかもしれないが、改めて傘を買うには少し離れたところにあるコンビニまで行かなくてはならない。それに自分の不注意というわけでもないのに、傘を改めて買うのは癪だった。
そこで傘立てを見て、自分が使っていたものに似たビニール傘をさして行ってしまった。
よくないことだと思ったが、安物で、街中で放置されているのを見かけるビニール傘。そのため大した罪の意識はなく、友人と一緒に飲んでいるうちに、このビニール傘が他人のものであるということを忘れてしまった。
思い出したのはほどよく酔いが回った状態で、自分が住むアパートに帰宅した時だった。
ビニール傘を玄関に置こうとした時に、開くスイッチのついている反対側に「佐藤」と苗字が書かれていた。
それを見て、他人の傘を持ってきたことを思い出した。
ただ酒にも酔っていたし、特に罪悪感が湧くこともなく、そのままワンルームの部屋に敷きっぱなしの布団に横になる。だが、眠りを妨げるように玄関の扉がコンコンとノックされた。
最初は気のせいかと思ったが、何度もノックされて自分の部屋の扉がノックされているのだと理解する。
時間は既に日を跨ごうとしていた。こんな時間に誰だと不思議に思いながらも、以前にも酔った友人が来たことがあったので、きっとまた友人の誰かだろうと玄関に向かう。
文句でも言ってやろうと思いながら玄関の扉の鍵を開けて、ノブに手をかける。そして扉が開きかけたその時。
「こんばんは、佐藤です」
扉の向こうから、か細い女性の声が聞こえた。
その声を聞いた時、男性はピタリと動きを止めた。聞いたことのない声だし、部屋を訪ねにくるような親しい女性はいない。そして佐藤という苗字。ふと玄関に置かれた傘に目を向ける。その傘に書かれている苗字も「佐藤」。
まさかこの傘の持ち主なのではと思っていると、その予感は当たってしまう。
「私の傘……もっていきましたよね? 返してください」
外にいる女性はこのビニール傘の持ち主で、取り返しにきたのだ。
しかし、それだけではないような気がして、男性はすぐに開きかけた扉を閉めようとする。だが、僅かに開いていた扉の隙間から指が入ってきて、閉めることができなかった。
そして信じられない力で扉を無理やり開けられてしまう。
そこにいたのは女性だった。街中を歩いていれば見掛けるような黒のパンツスーツ姿の女性。ただ全身がぐっしょりと濡れていて、長い黒髪は顔に張り付いていて顔ははっきり確認できない。
「傘を返してください……私の傘……返してくれないなら……あなたが傘になってください」
そこで男性の意識は途切れた。
翌日、路上で男性の死体が見つかった。
男性な死体を調べたところ死因はよくわからず、奇妙な痕跡があった。
鳩尾の部分に棒状のもので突き刺した痕、そしてそこを中心により細い棒状のものを通されたような痕が放射状に体内に広がっていた。
検視を担当した人はまるで傘のようだと言ったそうだ。
見分けがつきにくいビニール傘。もしこの女性の傘を誤って持って行ってしまったら……傘にされてしまうかもしれない。
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