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第五話
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「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
上から落下してくる黒い煙の塊は何やらものすごい雄叫びを上げています。
「ねえ、あれは何!?何なの!?」
するとニヤニヤしながら魔法使いのおばあさんが言います。
「あんたの腕試しの相手さ。あいつを倒すなり何なり、どうにかしてあんたは自分が勇者であることを証明しなければならない」
いや、なんかめっちゃ怖くて強いやつですよね、あれ。
「そんなこと言ったって!?」
「おい、勇者様!戸希乃《ときの》!こっちへ来い!俺の後ろにいるんだ!」
剣を構えたゴルガスさんが私を手招きします。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
雄叫びはどんどん近づいてきます。
私は身をかがめながらゴルガスさんの背後に隠れました。
「魔王!あれは何なの!?」
私の背中におんぶひもでくくりつけられた魔王が言います。
「あー、あれはまずいな……」
え?それって?
魔王が恐れるほどの厄介なやつってこと!?
「戸希乃《ときの》!剣を構えろ!迎え撃つぞ!」
うう……怖いけど、やるしかないみたい……。
おんぶひもを解くと魔王をマリアさんに渡して剣を構えます。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
黒い煙の塊は広場の中央に地響きとともに着地します!
その衝撃で塊を構成していた煙が広場を埋め尽くし、視界塞ぎました。
「さまあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
……へ?なんて?
もうもうと巻き上がる煙が晴れると、そこにいたのは、正装をして魔王に向かって片膝を付き胸の前にうやうやしく手をあてて頭《こうべ》を垂れお辞儀をする、長身の……紳士さん?
見ようによってはこれ、マリアさんに向かって跪《ひざまず》いてるようにも見えますね。
「探しましたぞ、魔王様」
しばしの沈黙。
「突然いなくなられて驚きましたぞ。魔王軍の皆も心配しております。どうか早急にお戻りいただけませんか」
またしばしの沈黙。
「な、何をおっしゃいますか!」
何しているんだろう紳士さん?
ああ、魔王が紳士さんと話してるんだ。
もしもーし、こっちにも聞こえるように話してくださいー。
「は……そういえば随分縮まられたと言うか……これは……」
また沈黙。
「ゆ・う・しゃ!?」
そして突然、紳士さんの周りに見えないはずのオーラのようなものが見えたような気がしたかと思うと、胃がずんと重くなったと言うか、心臓を氷のように冷たい手で鷲掴みにされたと言うか、そういう明らかにやばい雰囲気に包まれました。
これ、もしかして殺気というやつですか!?
紳士さんの視線がここにいる一人ひとりを舐めるようにたどって、私を睨みつけます。
「お前か……お前が魔王様を殺したのだな……!?」
ひぃ。
ゴルガスさんが私と紳士さんの間に割って入り叫びます。
「戸希乃《ときの》、ここは逃げるんだ!」
逃げられるなら光よりも早く逃げるところですけど、あいにく腰が抜けていまして……。
「どけっ!」
紳士さんが片腕を薙ぎ払うように振ると、ゴルガスさんは部屋の端までふっ飛ばされました!
「ゴ、ゴルガスさん!」
紳士さんは私のところまで歩み寄って、尻餅をついている私の胸ぐらをつかむとその目の前まで持ち上げます。絶体絶命、私史上最大のピンチです。二番目のピンチが王様の前だったっていうのは考えてみるとどうかと思いますが。
「わた、わた、私は押しただけで……」
「んんんんん!?」
地の底から響いてくるような声で紳士さんが私を威圧してきます。
ひぃ。
でもまた突然に紳士さんが魔王を振り返りました。
「……しかし魔王様……」
またまたしばしの沈黙。
突然今度は紳士さんが無言で私を手放したため、私はまっすぐ床に落下してお尻をしたたかに打ち付けてしまいました。
痛い……。
一方紳士さんは再び魔王に向かって跪《ひざまず》きます。
「魔王様、今一度申し上げます。どうかお戻りいただけないでしょうか」
しばしの沈黙。
「しかし……!」
その時紳士の背後に何かがすごい勢いで飛んできます。
「おうらぁ!!!」
「へぶっ!!」
飛んできたのはゴルガスさんのフライングドロップキックでした。
「よくもやってくれたな、このモクモクやろう!」
ていうかあの、ゴルガスさん!なんか血が!流血が!
さっき紳士さんに弾き飛ばされて壁に突っ込んだ時に付いたんでしょうか、なんかあちこち出血してますよー?!
「貴様よくも!!」
立ち上がった紳士さんも負けずに反撃します。
素手の殴り合いなのに破壊力が尋常でないように見えるのですが!
「あらあら、まあまあ」
「ああっマリアさん、なんか言ってあげてください!」
「男の子っていくつになってもヤンチャねぇ」
ちっがーう!
とにかく二人を止めないと、痛そうで見てられません。
あと死んじゃったりしたら大変です。
いえ……死んじゃうほうが大事かもしれません?どっちだろ?
「二人とも、もうやめてください!やーめーてー!」
するとお二人、こちらを向いて……。
「いやだね!!」
「ここで引けるか!!」
ひぃ。
戦闘再開。
野蛮すぎです!なんで話し合いとかで解決できないんですか!
「これはあれだな。殴り合いして友情が芽生えるやつ」
魔王も呑気な……。
ま、魔法使いさんっ!
「どうでもいいけど、ここを誰が片付けてくれるんだい?」
……デスヨネー。
「えーと勇者様、彼らを止めた方が良いですか?」
ああっ、ちっちゃい魔法使いさん!
「お願いします!ぜひ!直ちに!」
「わかりましたー」
ちっちゃい魔法使いさんは「えいっ」という掛け声とともに自分よりも背の高い杖の先端をゴルガスさんと紳士さんの方に向けました。
その様子に何かを感じ取ったらしい二人はさっと身をかわします。その瞬間二人の立っていた場所に轟音とともに雷が落ちました。え、雷?マジで!?
落雷があんまり近かったので、視界は真っ白、耳もキーンとしています。
しばらくして視力が戻ってくると騒ぎは収まっていました。
ちっちゃい魔法使いさんをゴルガスさんと紳士さんが取り押さえているのが見えます。
「あのー……大丈夫ですか?」
「誰が!?」
「誰のことを言っている!?」
「私ですかー?」
ええと、全体的に?
「すまないねぇ、妹は才能はあるけれど、どうにもお馬鹿で」
「あ、魔法使いのおばあさん。それより妹さんは大丈夫……妹!?」
「ああ、あの子は私の妹のエルマだよ。なんだい、自己紹介もしてなかったのかい」
「いえ、おばあさんの……妹?」
「そうだよ。ちなみに私は姉のアルマ。私たちは双子なのさ」
「双子!?」
いや、片やどう見てもおばあちゃんで、片やどう見ても小学生の低学年ぐらいですよね?
「おばあちゃんと孫の間違いでは……」
「どうやってそれと双子の姉妹を間違えるのさ。私たちは間違いなく双子だよ」
「じゃ、じゃああの子の、エルマちゃんの姿はなんなんですか!?」
「私たち妖精族は精神年齢で外見が決まるからね」
「妖精族 ?」
「ああ、妖精族」
「人間じゃない!?」
「狭義にはまあそうだね」
「じゃあエルマちゃんはロリババァ!?」
「ロリバ……なんだって?」
「なんてことでしょう、じゃあエルマちゃんは未成年にはしてはいけない感じの愛で方をしてもオッケーってこと!?」
「この勇者様は何を言ってるんだい?」
ちょっと飛ばしすぎたかも。ああ、なんか視線が痛い。
それはともかくゴルガスさんと紳士さんの殴り合いはなんかいつのまにかうやむやになった感じです。
「で、どうするよ?とりあえず魔法使いの言った相手はなんとかなったようだが」
突然割り込んでくる魔王。さっきまでは私に聞こえないように話してたのに。
「あ、そうだった。魔王鋭い。どうですか魔法使いさん、私を勇者と認めてくださいますか?」
「こんな無茶苦茶なのが認められるかい……というかあんた、魔王ってなんのことだい?」
「あう、それはちょっと説明がめんどくさいのですが……」
私は魔法使いのおばあさん……アルマさんに経緯を説明します。かくかくしかじか。
「こいつが魔王だって?」
ですよね。びっくりですよね。テンプレ反応しちゃいますよね。
「ふーん、道理で」
え、何それ?何を納得したの?
「……ああ、そういうことかい」
あれ、もしかしてまた魔王が私に聞こえないように話してますか?
仲間外れみたいで、戸希乃《ときの》ちゃん、いやだなー、悲しいなー。
「お前、ほんとブツブツうるさいな」
「魔王、もっと私のことをちゃんとみて、ちゃんと話そうよ」
「なんだその破局寸前のカップルみたいなのは」
え、カップル?
いやそんなー。
まだ私たち出会ったばっかりじゃないのー。
「また気持ち悪い感じになっている勇者は置いといて」
魔王ひどい。
「アルマは仲間になってくれるってことでいいんだよな」
「ああ、少しばかり気になることができたんでな」
「え、仲間になるのはエルマちゃんじゃないの?」
「心配せんでもエルマも連れて行くわい。あいつを放し飼いにしたら何をしでかすかわからん」
そんな犬みたいに……。
「待たれよ!」
あれ、紳士さんどうかしましたか?
「魔王様がお戻りになられぬのなら、私も付いて行くぞ」
え、魔界のかなり偉いっぽい人みたいだったけど、大丈夫なの?
「なに、お前もくんの?」
「当然です、魔王様」
「そんなこと言ってもなぁ。どうするよ、勇者?」
「どうするって言われても……紳士さんは敵の人ですよねぇ?」
「なに……ついてくるなというのか?」
ひぃ。
紳士さんにめっちゃ睨まれました。
「ご……ご自由に……どうぞ……」
「ふん……ではそうさせてもらおう」
ううう、怖いよう。
「それじゃあ仲間も増えたことだし、自己紹介と行こうぜ」
マリアさんに抱っこされた魔王が提案します。
「あれ、ここ魔王が仕切るの?」
「別にいいだろ。じゃあ勇者から」
ええっ、いきなり?
「あ、どうも、勇者です。名前は戸希乃《ときの》です。えーと、がんばります……みたいな?」
なんかまばらな拍手。
「2番目は俺だな。魔王だ。以上!」
そんな適当な。
「あんた名前とかないの?」
「魔王は一人しかいないから魔王で十分だからなぁ」
「ふーん……?」
なんか納得行かない。
続けてマリアさん。
「3番目は私ですね。乳母のマリアです。お食事とかお洗濯とかお繕い物とかはお任せください」
ゴルガスさんの拍手がやたら目立ってます。
そしてゴルガスさん。
「4番目は俺か?戦士のゴルガスだ。勇者とともに旅をして魔王を討伐して名を挙げるのが目的だ」
「なんだと!?」
「なんだぁ!?」
ゴルガスさんの「魔王を討伐」発言に紳士さんが猛烈に反応しました。
「わああ、紳士さん、ゴルガスさん、抑えて!」
殴り合いして友情はどうなったのさ。
次は双子の魔法使いのお姉さん、アルマさん。
「5番目は私かね?魔法使いのアルマじゃ。よろしくな」
そして双子の魔法使いの妹、エルマさん。
「……」
あれ?なんかぼんやりしてます。
「ほれ、エルマよ。自己紹介をせんか」
「え?あー……エルマですー。魔法使い?ですー。よろしくー」
アルマさんに促されてようやくご挨拶。
よくできました。
最後は紳士さん。
「最後は私か。私はヴィルゴースト。魔王軍にて魔王の補佐役を任じられておる」
「よろしくおねがいします」
「こいつはエルダーヴァンパイアでな」
と、魔王が補足説明。
……。
……。
……。
えぇぇぇぇぇぇ!?
「おい、ヴァンパイアってあの血を吸うアンデッドモンスターのあれか!?」
ゴルガスさんもびっくりです。
「そんなにしょっちゅう吸っているわけではないぞ。それに相手は選ぶ」
そういう問題かな?
「太陽の光とか、大丈夫なんですか!?」
思わず私も。
「私の発明した黒い煙をまとえば、昼間でも活動できるのだ。今は我々の頭上で傘のように展開してある」
あ、本当だ。
広場の上を見上げると、たしかに黒い煙が頭上を覆っていました。
なんか予定よりも若干人数が多くなった気はしますけれど、とにかく魔法使いさんが無事仲間になってくれました。
さあ、私達の冒険の旅は、まだまだ続きますよ!
「ああ、今朝のモンスターの話、この伏線だったの?」
「お前そういう事言うなよ」
<< つづく >>
上から落下してくる黒い煙の塊は何やらものすごい雄叫びを上げています。
「ねえ、あれは何!?何なの!?」
するとニヤニヤしながら魔法使いのおばあさんが言います。
「あんたの腕試しの相手さ。あいつを倒すなり何なり、どうにかしてあんたは自分が勇者であることを証明しなければならない」
いや、なんかめっちゃ怖くて強いやつですよね、あれ。
「そんなこと言ったって!?」
「おい、勇者様!戸希乃《ときの》!こっちへ来い!俺の後ろにいるんだ!」
剣を構えたゴルガスさんが私を手招きします。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
雄叫びはどんどん近づいてきます。
私は身をかがめながらゴルガスさんの背後に隠れました。
「魔王!あれは何なの!?」
私の背中におんぶひもでくくりつけられた魔王が言います。
「あー、あれはまずいな……」
え?それって?
魔王が恐れるほどの厄介なやつってこと!?
「戸希乃《ときの》!剣を構えろ!迎え撃つぞ!」
うう……怖いけど、やるしかないみたい……。
おんぶひもを解くと魔王をマリアさんに渡して剣を構えます。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
黒い煙の塊は広場の中央に地響きとともに着地します!
その衝撃で塊を構成していた煙が広場を埋め尽くし、視界塞ぎました。
「さまあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
……へ?なんて?
もうもうと巻き上がる煙が晴れると、そこにいたのは、正装をして魔王に向かって片膝を付き胸の前にうやうやしく手をあてて頭《こうべ》を垂れお辞儀をする、長身の……紳士さん?
見ようによってはこれ、マリアさんに向かって跪《ひざまず》いてるようにも見えますね。
「探しましたぞ、魔王様」
しばしの沈黙。
「突然いなくなられて驚きましたぞ。魔王軍の皆も心配しております。どうか早急にお戻りいただけませんか」
またしばしの沈黙。
「な、何をおっしゃいますか!」
何しているんだろう紳士さん?
ああ、魔王が紳士さんと話してるんだ。
もしもーし、こっちにも聞こえるように話してくださいー。
「は……そういえば随分縮まられたと言うか……これは……」
また沈黙。
「ゆ・う・しゃ!?」
そして突然、紳士さんの周りに見えないはずのオーラのようなものが見えたような気がしたかと思うと、胃がずんと重くなったと言うか、心臓を氷のように冷たい手で鷲掴みにされたと言うか、そういう明らかにやばい雰囲気に包まれました。
これ、もしかして殺気というやつですか!?
紳士さんの視線がここにいる一人ひとりを舐めるようにたどって、私を睨みつけます。
「お前か……お前が魔王様を殺したのだな……!?」
ひぃ。
ゴルガスさんが私と紳士さんの間に割って入り叫びます。
「戸希乃《ときの》、ここは逃げるんだ!」
逃げられるなら光よりも早く逃げるところですけど、あいにく腰が抜けていまして……。
「どけっ!」
紳士さんが片腕を薙ぎ払うように振ると、ゴルガスさんは部屋の端までふっ飛ばされました!
「ゴ、ゴルガスさん!」
紳士さんは私のところまで歩み寄って、尻餅をついている私の胸ぐらをつかむとその目の前まで持ち上げます。絶体絶命、私史上最大のピンチです。二番目のピンチが王様の前だったっていうのは考えてみるとどうかと思いますが。
「わた、わた、私は押しただけで……」
「んんんんん!?」
地の底から響いてくるような声で紳士さんが私を威圧してきます。
ひぃ。
でもまた突然に紳士さんが魔王を振り返りました。
「……しかし魔王様……」
またまたしばしの沈黙。
突然今度は紳士さんが無言で私を手放したため、私はまっすぐ床に落下してお尻をしたたかに打ち付けてしまいました。
痛い……。
一方紳士さんは再び魔王に向かって跪《ひざまず》きます。
「魔王様、今一度申し上げます。どうかお戻りいただけないでしょうか」
しばしの沈黙。
「しかし……!」
その時紳士の背後に何かがすごい勢いで飛んできます。
「おうらぁ!!!」
「へぶっ!!」
飛んできたのはゴルガスさんのフライングドロップキックでした。
「よくもやってくれたな、このモクモクやろう!」
ていうかあの、ゴルガスさん!なんか血が!流血が!
さっき紳士さんに弾き飛ばされて壁に突っ込んだ時に付いたんでしょうか、なんかあちこち出血してますよー?!
「貴様よくも!!」
立ち上がった紳士さんも負けずに反撃します。
素手の殴り合いなのに破壊力が尋常でないように見えるのですが!
「あらあら、まあまあ」
「ああっマリアさん、なんか言ってあげてください!」
「男の子っていくつになってもヤンチャねぇ」
ちっがーう!
とにかく二人を止めないと、痛そうで見てられません。
あと死んじゃったりしたら大変です。
いえ……死んじゃうほうが大事かもしれません?どっちだろ?
「二人とも、もうやめてください!やーめーてー!」
するとお二人、こちらを向いて……。
「いやだね!!」
「ここで引けるか!!」
ひぃ。
戦闘再開。
野蛮すぎです!なんで話し合いとかで解決できないんですか!
「これはあれだな。殴り合いして友情が芽生えるやつ」
魔王も呑気な……。
ま、魔法使いさんっ!
「どうでもいいけど、ここを誰が片付けてくれるんだい?」
……デスヨネー。
「えーと勇者様、彼らを止めた方が良いですか?」
ああっ、ちっちゃい魔法使いさん!
「お願いします!ぜひ!直ちに!」
「わかりましたー」
ちっちゃい魔法使いさんは「えいっ」という掛け声とともに自分よりも背の高い杖の先端をゴルガスさんと紳士さんの方に向けました。
その様子に何かを感じ取ったらしい二人はさっと身をかわします。その瞬間二人の立っていた場所に轟音とともに雷が落ちました。え、雷?マジで!?
落雷があんまり近かったので、視界は真っ白、耳もキーンとしています。
しばらくして視力が戻ってくると騒ぎは収まっていました。
ちっちゃい魔法使いさんをゴルガスさんと紳士さんが取り押さえているのが見えます。
「あのー……大丈夫ですか?」
「誰が!?」
「誰のことを言っている!?」
「私ですかー?」
ええと、全体的に?
「すまないねぇ、妹は才能はあるけれど、どうにもお馬鹿で」
「あ、魔法使いのおばあさん。それより妹さんは大丈夫……妹!?」
「ああ、あの子は私の妹のエルマだよ。なんだい、自己紹介もしてなかったのかい」
「いえ、おばあさんの……妹?」
「そうだよ。ちなみに私は姉のアルマ。私たちは双子なのさ」
「双子!?」
いや、片やどう見てもおばあちゃんで、片やどう見ても小学生の低学年ぐらいですよね?
「おばあちゃんと孫の間違いでは……」
「どうやってそれと双子の姉妹を間違えるのさ。私たちは間違いなく双子だよ」
「じゃ、じゃああの子の、エルマちゃんの姿はなんなんですか!?」
「私たち妖精族は精神年齢で外見が決まるからね」
「妖精族 ?」
「ああ、妖精族」
「人間じゃない!?」
「狭義にはまあそうだね」
「じゃあエルマちゃんはロリババァ!?」
「ロリバ……なんだって?」
「なんてことでしょう、じゃあエルマちゃんは未成年にはしてはいけない感じの愛で方をしてもオッケーってこと!?」
「この勇者様は何を言ってるんだい?」
ちょっと飛ばしすぎたかも。ああ、なんか視線が痛い。
それはともかくゴルガスさんと紳士さんの殴り合いはなんかいつのまにかうやむやになった感じです。
「で、どうするよ?とりあえず魔法使いの言った相手はなんとかなったようだが」
突然割り込んでくる魔王。さっきまでは私に聞こえないように話してたのに。
「あ、そうだった。魔王鋭い。どうですか魔法使いさん、私を勇者と認めてくださいますか?」
「こんな無茶苦茶なのが認められるかい……というかあんた、魔王ってなんのことだい?」
「あう、それはちょっと説明がめんどくさいのですが……」
私は魔法使いのおばあさん……アルマさんに経緯を説明します。かくかくしかじか。
「こいつが魔王だって?」
ですよね。びっくりですよね。テンプレ反応しちゃいますよね。
「ふーん、道理で」
え、何それ?何を納得したの?
「……ああ、そういうことかい」
あれ、もしかしてまた魔王が私に聞こえないように話してますか?
仲間外れみたいで、戸希乃《ときの》ちゃん、いやだなー、悲しいなー。
「お前、ほんとブツブツうるさいな」
「魔王、もっと私のことをちゃんとみて、ちゃんと話そうよ」
「なんだその破局寸前のカップルみたいなのは」
え、カップル?
いやそんなー。
まだ私たち出会ったばっかりじゃないのー。
「また気持ち悪い感じになっている勇者は置いといて」
魔王ひどい。
「アルマは仲間になってくれるってことでいいんだよな」
「ああ、少しばかり気になることができたんでな」
「え、仲間になるのはエルマちゃんじゃないの?」
「心配せんでもエルマも連れて行くわい。あいつを放し飼いにしたら何をしでかすかわからん」
そんな犬みたいに……。
「待たれよ!」
あれ、紳士さんどうかしましたか?
「魔王様がお戻りになられぬのなら、私も付いて行くぞ」
え、魔界のかなり偉いっぽい人みたいだったけど、大丈夫なの?
「なに、お前もくんの?」
「当然です、魔王様」
「そんなこと言ってもなぁ。どうするよ、勇者?」
「どうするって言われても……紳士さんは敵の人ですよねぇ?」
「なに……ついてくるなというのか?」
ひぃ。
紳士さんにめっちゃ睨まれました。
「ご……ご自由に……どうぞ……」
「ふん……ではそうさせてもらおう」
ううう、怖いよう。
「それじゃあ仲間も増えたことだし、自己紹介と行こうぜ」
マリアさんに抱っこされた魔王が提案します。
「あれ、ここ魔王が仕切るの?」
「別にいいだろ。じゃあ勇者から」
ええっ、いきなり?
「あ、どうも、勇者です。名前は戸希乃《ときの》です。えーと、がんばります……みたいな?」
なんかまばらな拍手。
「2番目は俺だな。魔王だ。以上!」
そんな適当な。
「あんた名前とかないの?」
「魔王は一人しかいないから魔王で十分だからなぁ」
「ふーん……?」
なんか納得行かない。
続けてマリアさん。
「3番目は私ですね。乳母のマリアです。お食事とかお洗濯とかお繕い物とかはお任せください」
ゴルガスさんの拍手がやたら目立ってます。
そしてゴルガスさん。
「4番目は俺か?戦士のゴルガスだ。勇者とともに旅をして魔王を討伐して名を挙げるのが目的だ」
「なんだと!?」
「なんだぁ!?」
ゴルガスさんの「魔王を討伐」発言に紳士さんが猛烈に反応しました。
「わああ、紳士さん、ゴルガスさん、抑えて!」
殴り合いして友情はどうなったのさ。
次は双子の魔法使いのお姉さん、アルマさん。
「5番目は私かね?魔法使いのアルマじゃ。よろしくな」
そして双子の魔法使いの妹、エルマさん。
「……」
あれ?なんかぼんやりしてます。
「ほれ、エルマよ。自己紹介をせんか」
「え?あー……エルマですー。魔法使い?ですー。よろしくー」
アルマさんに促されてようやくご挨拶。
よくできました。
最後は紳士さん。
「最後は私か。私はヴィルゴースト。魔王軍にて魔王の補佐役を任じられておる」
「よろしくおねがいします」
「こいつはエルダーヴァンパイアでな」
と、魔王が補足説明。
……。
……。
……。
えぇぇぇぇぇぇ!?
「おい、ヴァンパイアってあの血を吸うアンデッドモンスターのあれか!?」
ゴルガスさんもびっくりです。
「そんなにしょっちゅう吸っているわけではないぞ。それに相手は選ぶ」
そういう問題かな?
「太陽の光とか、大丈夫なんですか!?」
思わず私も。
「私の発明した黒い煙をまとえば、昼間でも活動できるのだ。今は我々の頭上で傘のように展開してある」
あ、本当だ。
広場の上を見上げると、たしかに黒い煙が頭上を覆っていました。
なんか予定よりも若干人数が多くなった気はしますけれど、とにかく魔法使いさんが無事仲間になってくれました。
さあ、私達の冒険の旅は、まだまだ続きますよ!
「ああ、今朝のモンスターの話、この伏線だったの?」
「お前そういう事言うなよ」
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……そうですか。では、私の役目は終わりですね」
王太子ロイド・ヴァルシュタインの婚約者として、
国と王宮を“滞りなく回す存在”であり続けてきた令嬢
マルグリット・フォン・ルーヴェン。
感情を表に出さず、
功績を誇らず、
ただ淡々と、最善だけを積み重ねてきた彼女に突きつけられたのは――
偽りの奇跡を振りかざす“聖女”による、突然の婚約破棄だった。
だが、マルグリットは嘆かない。
怒りもしない。
復讐すら、望まない。
彼女が選んだのは、
すべてを「仕組み」と「基準」に引き渡し、静かに前線から降りること。
彼女がいなくなっても、領地は回る。
判断は滞らず、人々は困らない。
それこそが、彼女が築いた“完成形”だった。
一方で、
彼女を切り捨てた王太子と偽聖女は、
「彼女がいない世界」で初めて、自分たちの無力さと向き合うことになる。
――必要とされない価値。
――前に出ない強さ。
――名前を呼ばれない完成。
これは、
騒がず、縋らず、静かに去った令嬢が、
最後にすべてを置き去りにして手に入れる“自由”の物語。
ざまぁは静かに、
恋は後半に、
そして物語は、凛と終わる。
アルファポリス女子読者向け
「大人の婚約破棄ざまぁ恋愛」、ここに完結。
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