5 / 10
第五話
しおりを挟む
「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
上から落下してくる黒い煙の塊は何やらものすごい雄叫びを上げています。
「ねえ、あれは何!?何なの!?」
するとニヤニヤしながら魔法使いのおばあさんが言います。
「あんたの腕試しの相手さ。あいつを倒すなり何なり、どうにかしてあんたは自分が勇者であることを証明しなければならない」
いや、なんかめっちゃ怖くて強いやつですよね、あれ。
「そんなこと言ったって!?」
「おい、勇者様!戸希乃《ときの》!こっちへ来い!俺の後ろにいるんだ!」
剣を構えたゴルガスさんが私を手招きします。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
雄叫びはどんどん近づいてきます。
私は身をかがめながらゴルガスさんの背後に隠れました。
「魔王!あれは何なの!?」
私の背中におんぶひもでくくりつけられた魔王が言います。
「あー、あれはまずいな……」
え?それって?
魔王が恐れるほどの厄介なやつってこと!?
「戸希乃《ときの》!剣を構えろ!迎え撃つぞ!」
うう……怖いけど、やるしかないみたい……。
おんぶひもを解くと魔王をマリアさんに渡して剣を構えます。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
黒い煙の塊は広場の中央に地響きとともに着地します!
その衝撃で塊を構成していた煙が広場を埋め尽くし、視界塞ぎました。
「さまあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
……へ?なんて?
もうもうと巻き上がる煙が晴れると、そこにいたのは、正装をして魔王に向かって片膝を付き胸の前にうやうやしく手をあてて頭《こうべ》を垂れお辞儀をする、長身の……紳士さん?
見ようによってはこれ、マリアさんに向かって跪《ひざまず》いてるようにも見えますね。
「探しましたぞ、魔王様」
しばしの沈黙。
「突然いなくなられて驚きましたぞ。魔王軍の皆も心配しております。どうか早急にお戻りいただけませんか」
またしばしの沈黙。
「な、何をおっしゃいますか!」
何しているんだろう紳士さん?
ああ、魔王が紳士さんと話してるんだ。
もしもーし、こっちにも聞こえるように話してくださいー。
「は……そういえば随分縮まられたと言うか……これは……」
また沈黙。
「ゆ・う・しゃ!?」
そして突然、紳士さんの周りに見えないはずのオーラのようなものが見えたような気がしたかと思うと、胃がずんと重くなったと言うか、心臓を氷のように冷たい手で鷲掴みにされたと言うか、そういう明らかにやばい雰囲気に包まれました。
これ、もしかして殺気というやつですか!?
紳士さんの視線がここにいる一人ひとりを舐めるようにたどって、私を睨みつけます。
「お前か……お前が魔王様を殺したのだな……!?」
ひぃ。
ゴルガスさんが私と紳士さんの間に割って入り叫びます。
「戸希乃《ときの》、ここは逃げるんだ!」
逃げられるなら光よりも早く逃げるところですけど、あいにく腰が抜けていまして……。
「どけっ!」
紳士さんが片腕を薙ぎ払うように振ると、ゴルガスさんは部屋の端までふっ飛ばされました!
「ゴ、ゴルガスさん!」
紳士さんは私のところまで歩み寄って、尻餅をついている私の胸ぐらをつかむとその目の前まで持ち上げます。絶体絶命、私史上最大のピンチです。二番目のピンチが王様の前だったっていうのは考えてみるとどうかと思いますが。
「わた、わた、私は押しただけで……」
「んんんんん!?」
地の底から響いてくるような声で紳士さんが私を威圧してきます。
ひぃ。
でもまた突然に紳士さんが魔王を振り返りました。
「……しかし魔王様……」
またまたしばしの沈黙。
突然今度は紳士さんが無言で私を手放したため、私はまっすぐ床に落下してお尻をしたたかに打ち付けてしまいました。
痛い……。
一方紳士さんは再び魔王に向かって跪《ひざまず》きます。
「魔王様、今一度申し上げます。どうかお戻りいただけないでしょうか」
しばしの沈黙。
「しかし……!」
その時紳士の背後に何かがすごい勢いで飛んできます。
「おうらぁ!!!」
「へぶっ!!」
飛んできたのはゴルガスさんのフライングドロップキックでした。
「よくもやってくれたな、このモクモクやろう!」
ていうかあの、ゴルガスさん!なんか血が!流血が!
さっき紳士さんに弾き飛ばされて壁に突っ込んだ時に付いたんでしょうか、なんかあちこち出血してますよー?!
「貴様よくも!!」
立ち上がった紳士さんも負けずに反撃します。
素手の殴り合いなのに破壊力が尋常でないように見えるのですが!
「あらあら、まあまあ」
「ああっマリアさん、なんか言ってあげてください!」
「男の子っていくつになってもヤンチャねぇ」
ちっがーう!
とにかく二人を止めないと、痛そうで見てられません。
あと死んじゃったりしたら大変です。
いえ……死んじゃうほうが大事かもしれません?どっちだろ?
「二人とも、もうやめてください!やーめーてー!」
するとお二人、こちらを向いて……。
「いやだね!!」
「ここで引けるか!!」
ひぃ。
戦闘再開。
野蛮すぎです!なんで話し合いとかで解決できないんですか!
「これはあれだな。殴り合いして友情が芽生えるやつ」
魔王も呑気な……。
ま、魔法使いさんっ!
「どうでもいいけど、ここを誰が片付けてくれるんだい?」
……デスヨネー。
「えーと勇者様、彼らを止めた方が良いですか?」
ああっ、ちっちゃい魔法使いさん!
「お願いします!ぜひ!直ちに!」
「わかりましたー」
ちっちゃい魔法使いさんは「えいっ」という掛け声とともに自分よりも背の高い杖の先端をゴルガスさんと紳士さんの方に向けました。
その様子に何かを感じ取ったらしい二人はさっと身をかわします。その瞬間二人の立っていた場所に轟音とともに雷が落ちました。え、雷?マジで!?
落雷があんまり近かったので、視界は真っ白、耳もキーンとしています。
しばらくして視力が戻ってくると騒ぎは収まっていました。
ちっちゃい魔法使いさんをゴルガスさんと紳士さんが取り押さえているのが見えます。
「あのー……大丈夫ですか?」
「誰が!?」
「誰のことを言っている!?」
「私ですかー?」
ええと、全体的に?
「すまないねぇ、妹は才能はあるけれど、どうにもお馬鹿で」
「あ、魔法使いのおばあさん。それより妹さんは大丈夫……妹!?」
「ああ、あの子は私の妹のエルマだよ。なんだい、自己紹介もしてなかったのかい」
「いえ、おばあさんの……妹?」
「そうだよ。ちなみに私は姉のアルマ。私たちは双子なのさ」
「双子!?」
いや、片やどう見てもおばあちゃんで、片やどう見ても小学生の低学年ぐらいですよね?
「おばあちゃんと孫の間違いでは……」
「どうやってそれと双子の姉妹を間違えるのさ。私たちは間違いなく双子だよ」
「じゃ、じゃああの子の、エルマちゃんの姿はなんなんですか!?」
「私たち妖精族は精神年齢で外見が決まるからね」
「妖精族 ?」
「ああ、妖精族」
「人間じゃない!?」
「狭義にはまあそうだね」
「じゃあエルマちゃんはロリババァ!?」
「ロリバ……なんだって?」
「なんてことでしょう、じゃあエルマちゃんは未成年にはしてはいけない感じの愛で方をしてもオッケーってこと!?」
「この勇者様は何を言ってるんだい?」
ちょっと飛ばしすぎたかも。ああ、なんか視線が痛い。
それはともかくゴルガスさんと紳士さんの殴り合いはなんかいつのまにかうやむやになった感じです。
「で、どうするよ?とりあえず魔法使いの言った相手はなんとかなったようだが」
突然割り込んでくる魔王。さっきまでは私に聞こえないように話してたのに。
「あ、そうだった。魔王鋭い。どうですか魔法使いさん、私を勇者と認めてくださいますか?」
「こんな無茶苦茶なのが認められるかい……というかあんた、魔王ってなんのことだい?」
「あう、それはちょっと説明がめんどくさいのですが……」
私は魔法使いのおばあさん……アルマさんに経緯を説明します。かくかくしかじか。
「こいつが魔王だって?」
ですよね。びっくりですよね。テンプレ反応しちゃいますよね。
「ふーん、道理で」
え、何それ?何を納得したの?
「……ああ、そういうことかい」
あれ、もしかしてまた魔王が私に聞こえないように話してますか?
仲間外れみたいで、戸希乃《ときの》ちゃん、いやだなー、悲しいなー。
「お前、ほんとブツブツうるさいな」
「魔王、もっと私のことをちゃんとみて、ちゃんと話そうよ」
「なんだその破局寸前のカップルみたいなのは」
え、カップル?
いやそんなー。
まだ私たち出会ったばっかりじゃないのー。
「また気持ち悪い感じになっている勇者は置いといて」
魔王ひどい。
「アルマは仲間になってくれるってことでいいんだよな」
「ああ、少しばかり気になることができたんでな」
「え、仲間になるのはエルマちゃんじゃないの?」
「心配せんでもエルマも連れて行くわい。あいつを放し飼いにしたら何をしでかすかわからん」
そんな犬みたいに……。
「待たれよ!」
あれ、紳士さんどうかしましたか?
「魔王様がお戻りになられぬのなら、私も付いて行くぞ」
え、魔界のかなり偉いっぽい人みたいだったけど、大丈夫なの?
「なに、お前もくんの?」
「当然です、魔王様」
「そんなこと言ってもなぁ。どうするよ、勇者?」
「どうするって言われても……紳士さんは敵の人ですよねぇ?」
「なに……ついてくるなというのか?」
ひぃ。
紳士さんにめっちゃ睨まれました。
「ご……ご自由に……どうぞ……」
「ふん……ではそうさせてもらおう」
ううう、怖いよう。
「それじゃあ仲間も増えたことだし、自己紹介と行こうぜ」
マリアさんに抱っこされた魔王が提案します。
「あれ、ここ魔王が仕切るの?」
「別にいいだろ。じゃあ勇者から」
ええっ、いきなり?
「あ、どうも、勇者です。名前は戸希乃《ときの》です。えーと、がんばります……みたいな?」
なんかまばらな拍手。
「2番目は俺だな。魔王だ。以上!」
そんな適当な。
「あんた名前とかないの?」
「魔王は一人しかいないから魔王で十分だからなぁ」
「ふーん……?」
なんか納得行かない。
続けてマリアさん。
「3番目は私ですね。乳母のマリアです。お食事とかお洗濯とかお繕い物とかはお任せください」
ゴルガスさんの拍手がやたら目立ってます。
そしてゴルガスさん。
「4番目は俺か?戦士のゴルガスだ。勇者とともに旅をして魔王を討伐して名を挙げるのが目的だ」
「なんだと!?」
「なんだぁ!?」
ゴルガスさんの「魔王を討伐」発言に紳士さんが猛烈に反応しました。
「わああ、紳士さん、ゴルガスさん、抑えて!」
殴り合いして友情はどうなったのさ。
次は双子の魔法使いのお姉さん、アルマさん。
「5番目は私かね?魔法使いのアルマじゃ。よろしくな」
そして双子の魔法使いの妹、エルマさん。
「……」
あれ?なんかぼんやりしてます。
「ほれ、エルマよ。自己紹介をせんか」
「え?あー……エルマですー。魔法使い?ですー。よろしくー」
アルマさんに促されてようやくご挨拶。
よくできました。
最後は紳士さん。
「最後は私か。私はヴィルゴースト。魔王軍にて魔王の補佐役を任じられておる」
「よろしくおねがいします」
「こいつはエルダーヴァンパイアでな」
と、魔王が補足説明。
……。
……。
……。
えぇぇぇぇぇぇ!?
「おい、ヴァンパイアってあの血を吸うアンデッドモンスターのあれか!?」
ゴルガスさんもびっくりです。
「そんなにしょっちゅう吸っているわけではないぞ。それに相手は選ぶ」
そういう問題かな?
「太陽の光とか、大丈夫なんですか!?」
思わず私も。
「私の発明した黒い煙をまとえば、昼間でも活動できるのだ。今は我々の頭上で傘のように展開してある」
あ、本当だ。
広場の上を見上げると、たしかに黒い煙が頭上を覆っていました。
なんか予定よりも若干人数が多くなった気はしますけれど、とにかく魔法使いさんが無事仲間になってくれました。
さあ、私達の冒険の旅は、まだまだ続きますよ!
「ああ、今朝のモンスターの話、この伏線だったの?」
「お前そういう事言うなよ」
<< つづく >>
上から落下してくる黒い煙の塊は何やらものすごい雄叫びを上げています。
「ねえ、あれは何!?何なの!?」
するとニヤニヤしながら魔法使いのおばあさんが言います。
「あんたの腕試しの相手さ。あいつを倒すなり何なり、どうにかしてあんたは自分が勇者であることを証明しなければならない」
いや、なんかめっちゃ怖くて強いやつですよね、あれ。
「そんなこと言ったって!?」
「おい、勇者様!戸希乃《ときの》!こっちへ来い!俺の後ろにいるんだ!」
剣を構えたゴルガスさんが私を手招きします。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
雄叫びはどんどん近づいてきます。
私は身をかがめながらゴルガスさんの背後に隠れました。
「魔王!あれは何なの!?」
私の背中におんぶひもでくくりつけられた魔王が言います。
「あー、あれはまずいな……」
え?それって?
魔王が恐れるほどの厄介なやつってこと!?
「戸希乃《ときの》!剣を構えろ!迎え撃つぞ!」
うう……怖いけど、やるしかないみたい……。
おんぶひもを解くと魔王をマリアさんに渡して剣を構えます。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
黒い煙の塊は広場の中央に地響きとともに着地します!
その衝撃で塊を構成していた煙が広場を埋め尽くし、視界塞ぎました。
「さまあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
……へ?なんて?
もうもうと巻き上がる煙が晴れると、そこにいたのは、正装をして魔王に向かって片膝を付き胸の前にうやうやしく手をあてて頭《こうべ》を垂れお辞儀をする、長身の……紳士さん?
見ようによってはこれ、マリアさんに向かって跪《ひざまず》いてるようにも見えますね。
「探しましたぞ、魔王様」
しばしの沈黙。
「突然いなくなられて驚きましたぞ。魔王軍の皆も心配しております。どうか早急にお戻りいただけませんか」
またしばしの沈黙。
「な、何をおっしゃいますか!」
何しているんだろう紳士さん?
ああ、魔王が紳士さんと話してるんだ。
もしもーし、こっちにも聞こえるように話してくださいー。
「は……そういえば随分縮まられたと言うか……これは……」
また沈黙。
「ゆ・う・しゃ!?」
そして突然、紳士さんの周りに見えないはずのオーラのようなものが見えたような気がしたかと思うと、胃がずんと重くなったと言うか、心臓を氷のように冷たい手で鷲掴みにされたと言うか、そういう明らかにやばい雰囲気に包まれました。
これ、もしかして殺気というやつですか!?
紳士さんの視線がここにいる一人ひとりを舐めるようにたどって、私を睨みつけます。
「お前か……お前が魔王様を殺したのだな……!?」
ひぃ。
ゴルガスさんが私と紳士さんの間に割って入り叫びます。
「戸希乃《ときの》、ここは逃げるんだ!」
逃げられるなら光よりも早く逃げるところですけど、あいにく腰が抜けていまして……。
「どけっ!」
紳士さんが片腕を薙ぎ払うように振ると、ゴルガスさんは部屋の端までふっ飛ばされました!
「ゴ、ゴルガスさん!」
紳士さんは私のところまで歩み寄って、尻餅をついている私の胸ぐらをつかむとその目の前まで持ち上げます。絶体絶命、私史上最大のピンチです。二番目のピンチが王様の前だったっていうのは考えてみるとどうかと思いますが。
「わた、わた、私は押しただけで……」
「んんんんん!?」
地の底から響いてくるような声で紳士さんが私を威圧してきます。
ひぃ。
でもまた突然に紳士さんが魔王を振り返りました。
「……しかし魔王様……」
またまたしばしの沈黙。
突然今度は紳士さんが無言で私を手放したため、私はまっすぐ床に落下してお尻をしたたかに打ち付けてしまいました。
痛い……。
一方紳士さんは再び魔王に向かって跪《ひざまず》きます。
「魔王様、今一度申し上げます。どうかお戻りいただけないでしょうか」
しばしの沈黙。
「しかし……!」
その時紳士の背後に何かがすごい勢いで飛んできます。
「おうらぁ!!!」
「へぶっ!!」
飛んできたのはゴルガスさんのフライングドロップキックでした。
「よくもやってくれたな、このモクモクやろう!」
ていうかあの、ゴルガスさん!なんか血が!流血が!
さっき紳士さんに弾き飛ばされて壁に突っ込んだ時に付いたんでしょうか、なんかあちこち出血してますよー?!
「貴様よくも!!」
立ち上がった紳士さんも負けずに反撃します。
素手の殴り合いなのに破壊力が尋常でないように見えるのですが!
「あらあら、まあまあ」
「ああっマリアさん、なんか言ってあげてください!」
「男の子っていくつになってもヤンチャねぇ」
ちっがーう!
とにかく二人を止めないと、痛そうで見てられません。
あと死んじゃったりしたら大変です。
いえ……死んじゃうほうが大事かもしれません?どっちだろ?
「二人とも、もうやめてください!やーめーてー!」
するとお二人、こちらを向いて……。
「いやだね!!」
「ここで引けるか!!」
ひぃ。
戦闘再開。
野蛮すぎです!なんで話し合いとかで解決できないんですか!
「これはあれだな。殴り合いして友情が芽生えるやつ」
魔王も呑気な……。
ま、魔法使いさんっ!
「どうでもいいけど、ここを誰が片付けてくれるんだい?」
……デスヨネー。
「えーと勇者様、彼らを止めた方が良いですか?」
ああっ、ちっちゃい魔法使いさん!
「お願いします!ぜひ!直ちに!」
「わかりましたー」
ちっちゃい魔法使いさんは「えいっ」という掛け声とともに自分よりも背の高い杖の先端をゴルガスさんと紳士さんの方に向けました。
その様子に何かを感じ取ったらしい二人はさっと身をかわします。その瞬間二人の立っていた場所に轟音とともに雷が落ちました。え、雷?マジで!?
落雷があんまり近かったので、視界は真っ白、耳もキーンとしています。
しばらくして視力が戻ってくると騒ぎは収まっていました。
ちっちゃい魔法使いさんをゴルガスさんと紳士さんが取り押さえているのが見えます。
「あのー……大丈夫ですか?」
「誰が!?」
「誰のことを言っている!?」
「私ですかー?」
ええと、全体的に?
「すまないねぇ、妹は才能はあるけれど、どうにもお馬鹿で」
「あ、魔法使いのおばあさん。それより妹さんは大丈夫……妹!?」
「ああ、あの子は私の妹のエルマだよ。なんだい、自己紹介もしてなかったのかい」
「いえ、おばあさんの……妹?」
「そうだよ。ちなみに私は姉のアルマ。私たちは双子なのさ」
「双子!?」
いや、片やどう見てもおばあちゃんで、片やどう見ても小学生の低学年ぐらいですよね?
「おばあちゃんと孫の間違いでは……」
「どうやってそれと双子の姉妹を間違えるのさ。私たちは間違いなく双子だよ」
「じゃ、じゃああの子の、エルマちゃんの姿はなんなんですか!?」
「私たち妖精族は精神年齢で外見が決まるからね」
「妖精族 ?」
「ああ、妖精族」
「人間じゃない!?」
「狭義にはまあそうだね」
「じゃあエルマちゃんはロリババァ!?」
「ロリバ……なんだって?」
「なんてことでしょう、じゃあエルマちゃんは未成年にはしてはいけない感じの愛で方をしてもオッケーってこと!?」
「この勇者様は何を言ってるんだい?」
ちょっと飛ばしすぎたかも。ああ、なんか視線が痛い。
それはともかくゴルガスさんと紳士さんの殴り合いはなんかいつのまにかうやむやになった感じです。
「で、どうするよ?とりあえず魔法使いの言った相手はなんとかなったようだが」
突然割り込んでくる魔王。さっきまでは私に聞こえないように話してたのに。
「あ、そうだった。魔王鋭い。どうですか魔法使いさん、私を勇者と認めてくださいますか?」
「こんな無茶苦茶なのが認められるかい……というかあんた、魔王ってなんのことだい?」
「あう、それはちょっと説明がめんどくさいのですが……」
私は魔法使いのおばあさん……アルマさんに経緯を説明します。かくかくしかじか。
「こいつが魔王だって?」
ですよね。びっくりですよね。テンプレ反応しちゃいますよね。
「ふーん、道理で」
え、何それ?何を納得したの?
「……ああ、そういうことかい」
あれ、もしかしてまた魔王が私に聞こえないように話してますか?
仲間外れみたいで、戸希乃《ときの》ちゃん、いやだなー、悲しいなー。
「お前、ほんとブツブツうるさいな」
「魔王、もっと私のことをちゃんとみて、ちゃんと話そうよ」
「なんだその破局寸前のカップルみたいなのは」
え、カップル?
いやそんなー。
まだ私たち出会ったばっかりじゃないのー。
「また気持ち悪い感じになっている勇者は置いといて」
魔王ひどい。
「アルマは仲間になってくれるってことでいいんだよな」
「ああ、少しばかり気になることができたんでな」
「え、仲間になるのはエルマちゃんじゃないの?」
「心配せんでもエルマも連れて行くわい。あいつを放し飼いにしたら何をしでかすかわからん」
そんな犬みたいに……。
「待たれよ!」
あれ、紳士さんどうかしましたか?
「魔王様がお戻りになられぬのなら、私も付いて行くぞ」
え、魔界のかなり偉いっぽい人みたいだったけど、大丈夫なの?
「なに、お前もくんの?」
「当然です、魔王様」
「そんなこと言ってもなぁ。どうするよ、勇者?」
「どうするって言われても……紳士さんは敵の人ですよねぇ?」
「なに……ついてくるなというのか?」
ひぃ。
紳士さんにめっちゃ睨まれました。
「ご……ご自由に……どうぞ……」
「ふん……ではそうさせてもらおう」
ううう、怖いよう。
「それじゃあ仲間も増えたことだし、自己紹介と行こうぜ」
マリアさんに抱っこされた魔王が提案します。
「あれ、ここ魔王が仕切るの?」
「別にいいだろ。じゃあ勇者から」
ええっ、いきなり?
「あ、どうも、勇者です。名前は戸希乃《ときの》です。えーと、がんばります……みたいな?」
なんかまばらな拍手。
「2番目は俺だな。魔王だ。以上!」
そんな適当な。
「あんた名前とかないの?」
「魔王は一人しかいないから魔王で十分だからなぁ」
「ふーん……?」
なんか納得行かない。
続けてマリアさん。
「3番目は私ですね。乳母のマリアです。お食事とかお洗濯とかお繕い物とかはお任せください」
ゴルガスさんの拍手がやたら目立ってます。
そしてゴルガスさん。
「4番目は俺か?戦士のゴルガスだ。勇者とともに旅をして魔王を討伐して名を挙げるのが目的だ」
「なんだと!?」
「なんだぁ!?」
ゴルガスさんの「魔王を討伐」発言に紳士さんが猛烈に反応しました。
「わああ、紳士さん、ゴルガスさん、抑えて!」
殴り合いして友情はどうなったのさ。
次は双子の魔法使いのお姉さん、アルマさん。
「5番目は私かね?魔法使いのアルマじゃ。よろしくな」
そして双子の魔法使いの妹、エルマさん。
「……」
あれ?なんかぼんやりしてます。
「ほれ、エルマよ。自己紹介をせんか」
「え?あー……エルマですー。魔法使い?ですー。よろしくー」
アルマさんに促されてようやくご挨拶。
よくできました。
最後は紳士さん。
「最後は私か。私はヴィルゴースト。魔王軍にて魔王の補佐役を任じられておる」
「よろしくおねがいします」
「こいつはエルダーヴァンパイアでな」
と、魔王が補足説明。
……。
……。
……。
えぇぇぇぇぇぇ!?
「おい、ヴァンパイアってあの血を吸うアンデッドモンスターのあれか!?」
ゴルガスさんもびっくりです。
「そんなにしょっちゅう吸っているわけではないぞ。それに相手は選ぶ」
そういう問題かな?
「太陽の光とか、大丈夫なんですか!?」
思わず私も。
「私の発明した黒い煙をまとえば、昼間でも活動できるのだ。今は我々の頭上で傘のように展開してある」
あ、本当だ。
広場の上を見上げると、たしかに黒い煙が頭上を覆っていました。
なんか予定よりも若干人数が多くなった気はしますけれど、とにかく魔法使いさんが無事仲間になってくれました。
さあ、私達の冒険の旅は、まだまだ続きますよ!
「ああ、今朝のモンスターの話、この伏線だったの?」
「お前そういう事言うなよ」
<< つづく >>
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
政略結婚の意味、理解してますか。
章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。
マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。
全21話完結・予約投稿済み。
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる