10 / 10
第十話
しおりを挟む
自分を信じるって、言葉で言うほど簡単ではありません。
他人を信じるのは簡単です。
他人のすごいところなんてすぐに見つかりますから。
でも、自分のことはわかりません。
何もできない自分のことをどうやれば信じることができるんだろう。
自分には何ができるんだろう。
……。
ツッコミ役がいないと、気持ちがどんどん下がっていきます。
でも、そんなことも言ってられません。
待っていたら世界が滅びかねない状況です。
「私は……まず何をすればいいと思いますか?」
ゴルガスさんと一緒に作戦タイム。
「そうだな……まずは王様への報告だな。魔王軍がいつ来るかはわからないが、そう遠くはないだろう。王様に状況を説明して、守りを固めてもらう必要があるな」
なるほど。
「可能なら魔王軍の動向を調べられればな。ただこれは一人じゃ難しいだろうから、これも王様に頼んで人を集めないとな」
なるほど。
「戸希乃《ときの》はなにかないか?」
私?
私は……。
「アルマさんを探さないと……。それに魔王にもう一度会って、話してみたい……ていうか、殴ってやりたい!」
するとゴルガスさんはニヤリと笑います。
「はっはっは!いいじゃないか、それ!それならまず仲間を探さないとな」
「え、ゴルガスさんは……?」
「すまんが……俺はしばらくは動けなさそうだ。なに、傷が癒えたら必ず駆けつけるから、心配するな」
「そんなぁ……」
「またそんな顔をする。今までだってちゃんと仲間を見つけられたじゃないか」
「それは王様のお薦めもあったし、運も良かったし……」
「運だって実力のうちさ。とにかくやってみろよ。案外うまくいくもんだぜ?」
そんなもんかなぁ。
「じゃあ、仲間探しもやらないとですね……あと気になってるのが、ヴィルゴーストさんの「全てを知る必要がある」って言葉なんです」
「……ふーむ、意味深だな。全てというのがどういうことなのか、なにについての全てなのか……」
「賢者様とか、そういう便利そうな人って、いないのかな?」
「そうだな。その辺も含めた情報集めもしないとな」
情報集めかぁ。どうやればいいんだろう?誰かに聞く?図書館とかで調べる?
作戦会議が終わったわたしはエルマちゃんの部屋をノックします。
これからしばらくはエルマちゃんと二人旅。
出発前に様子を見ておきます。
返事がないので中を覗いてみるとエルマちゃんは部屋の真ん中でぼんやり座っていました。
「エルマちゃん、調子はどう?」
「はい、だいじょぶです」
あんまり大丈夫そうには見えません。
「なにか私にできることはある?」
するとエルマちゃんはしばらく考えてから言いました。
「勇者さま、おねえちゃんを探してくれますか?」
アルマさんはあのポータルで離れ離れになったまま、まだ戻って来ていません。
エルマちゃんも当然心配でしょう、けど……。
「ごめんね、今すぐは無理なの」
「わかりました」
やけに素直、どうしたんだろう?
「アルマさんのこと、心配だね」
するとエルマちゃん、俯いて答えました。
「おねえ……ししょーが、あのとき、勇者様のいうことを、ちゃんとききなさいって、ゆったから」
「……そっか」
エルマちゃん、本当は探しに行きたいのに、我慢してたんだ。
私はエルマちゃんを抱きしめて考えます。
そして、決めました。
「アルマを探しにいくだって?」
ゴルガスさんが驚いた声をあげます。
「はい、今は世界よりそっちが大事だと思います」
私は決めました。世界も大事だけど、今すぐにするべきことは、やっぱりこっちです。
「ふーむ、なるほどな」
「それで、何かアドバイスはありますか?」
ゴルガスさんは少し考えます。
「そうだな……捜索には本来ならある程度の人数を割くべきだが、今はそれはできない。だったらまずは、目標を明確に決めろ。なにを探すのか、よく考えるんだ」
「はい」
「時間はかけるな。当初の目標が見つからなかったとしても、別の目標を作ってはダメだ。見つからなければ切り上げろ。新しい目標は仕切り直してからだ」
「はい」
「もし敵がいても、絶対戦うな。見つからないように隠れて様子を見ろ。うまくすれば情報が得られるかもしれない。もし見つかった場合は即時撤退だ」
「はい」
「あとは……楽観的に考えろ。そこになにもなかったなら、それはどこかに逃げ延びて生きているということだと思え」
「はい」
「そんなところか……魔王軍にとってポータルはもう用済みだろうから、あれから1日たった今なら進軍して誰もいないかもしれない。だが油断はするなよ」
「はい」
「よし、じゃあ行ってこい」
「はい、行ってきます!」
エルマちゃんのテレポートの魔法で、ポータルまでひとっ飛びです。
取り残されたようなポータルは相変わらずそこにありました。
少し揺らいでいるように見えるのは、気のせいでしょうか?
辺りには誰もいないようで、人影もありません。
「勇者様、どうするの?」
ポータル付近に着いて、エルマちゃんが不安そうにしています。
「まずはアルマさんに関係するものを探そう。アルマさんの物が落ちてないか、怪我をした様子がないか」
「わかった!」
私はあの時の状況を思い出しながら、現場を歩きます。
最後にアルマさんを見たのは、怪我をしたゴルガスさんと一緒にテレポートされた時だから……。
あの時ゴルガスさんが斬り捨てた数匹のゴブリンの死体が転がる中、地面に重いものを引きずった跡を見つけました。
「エルマちゃん、これ」
「なんですか?」
あの時私がゴルガスさんを引きずった跡です。
「私が知る限り、アルマさんが最後に立っていたのはこの辺りなはずだけど」
「あたしが見たのも、たぶんそうです。勇者様に魔法を使って、すぐあたしにもしたから」
「じゃあ、この辺りを探そう。何か落ちているものはない?」
でも二人で探してみてもなにも見つかりません。
アルマさんの遺留品も、出血の跡も。
「たぶん……少なくともここを離れた時には怪我なんかはしてなかったんだと思う」
楽観的に。
「おねえちゃんはだいじょぶ?」
「うん、きっと大丈夫だよ」
「よかったぁ」
ゴルガスさんのアドバイスに従って、今は……ここまで。
「エルマちゃん、一旦戻ろう。見つけるのはまた今度」
「はーい」
でもアルマさんはどこに行ったんだろう?
再びエルマちゃんの魔法でテレポートして迷いの森の木の家まで戻ります。
家に戻るとゴルガスさんに報告です。
「そうか、アルマは見つからなかったか……」
「でも、アルマさんが最後に立っていた付近では戦闘の跡もなかったし、少なくともその時点までは無事だったと思うんですよね」
「ああ、俺も同意見だな。もしそうならアルマのことだ、逃げるなり守るなりの手は打てたはずだ」
ですよね。
ゴルガスさんと話してみて、少しだけ安心できました。
ゴルガスさんとマリアさんに見送られて、改めて出発です。
「じゃあ、王都までしゅっぱーつ!」
「おー!」
エルマちゃんがトコトコ歩き始めます。
「あれ?テレポートは?」
「わたし、王都はいったことないので、テレポートはできません」
て事はもしかして……。
再び徒歩の旅です。
人里離れて狩猟採取生活が続きます。
ベッドもなし、行水もなし、マリアさんのおいしいご飯もです。
ていうかマリアさん、旅の間どうやって料理してたんだろう?
私は焚き火を起こしてその火で食材を炙って焼くことしかできません。
味付けも塩味くらい。
「マリアさん、魔法が使えるとか……?」
ああ、おいしい料理が恋しい……。
「勇者様のご飯もおいしいですよ」
「ありがとう、エルマちゃん」
勇者にはサバイバル料理のスキルも必要です。
あと、お鍋とかの調理器具も。
そんなこんなで王都までたどり着きました。
いよいよ王様に報告です。
なにを言われるんだろう、怒られるのかな……。
あの日、旅立って以来の王都のメインストリートは、全く様子も変わらず平和そのもの。
まだ誰も魔界と人間界の壁がなくなったことを知らないみたいです。
通りに面したお店はどこも普通に営業中。
金物屋さんにも立派な鍋が置いてあります。
そうだ、お鍋を買わないと。
「いらっしゃい、なにをお探しで?」
金物屋の店主さんが愛想よく出てきました。
なんとなく踏み込んだ店内には鍋以外にも色々置いてあります。
あ、包丁もいいな。
「その大鍋と包丁をお願いします」
今日は街まで来て本当に良い買い物ができました。
それでは目的も果たしたので、帰りましょう……。
王様に会うんですよね、分かってます。
「分かってますよー」
「勇者様、どしたの?」
「気にしないで、ただの独り言だから」
さて、それじゃあお城へ!王様に会うために!いざ行かん!
くっ、ツッコミが足りない。
「勇者よ、久しいな」
王様は相変わらず威厳たっぷりです。
取り巻きの偉そうな人もいっぱい。
ここであの大失敗を報告したら、何を言われるんだろう。
でもここはゴルガスさんの「俺達はまだ失敗していない」という言葉を胸に、強気の態度で臨みます!
……そうできたらいいな。
「えーと……王様にご報告が……あります」
「よかろう、申せ」
なんて言えばいいんだろう?
グッと拳に力を込めて、なんとか言葉を探しながら切り出しました。
「えーと、つまり……魔界と人間界をつなぐポータルを破壊するつもりが魔王に騙されて、魔界と人間界を隔てる空間断層を消してしまいました」
すると王様は驚いた様子で立ち上がって、言います。
そりゃ驚きますよね。
「なんと、それでは魔界と人間界は地続きになったということではないか!」
理解が早くて助かります。
それを聞いて王様の取り巻きの方々がざわつき始めました。
取り巻きさんたちは口々に声をあげます。
「それでは魔王軍がいずれ全軍で攻めてくるということでは……」
まあそのうちには。
「もうおしまいだ……」
いや、諦めるのはまだ早いと……。
「魔王に騙されたって、それでは勇者は魔王と通じていたということか……!」
そうじゃないってば……。
みんな言いたいこといってるなぁ。
「つきましては王都の守りを固めるとともに、各地に連絡して迎撃態勢をとってほしいなー……て……」
でもわたしの声はどんどん大きくなるざわめきにかき消されそうになります。
そこへ王様。
「皆の者、静まれ!」
と、一喝。
さすが王様、ざわつく取り巻きの人たちを一瞬で黙らせました。
うう、相変わらず怖い……。
「勇者よ、その方の申し出、しかと聞き入れたぞ。直ちに王都の守りを固め、各都市に伝令を出そう」
「あ、ありがとうございます」
「他にはなにかあるか?」
他には……そういえば……。
「物知りな人とか、ご存じないですか?賢者様とかそんな感じの」
「ふむ、何を知りたい?」
「えーと……魔王とかこの世界とかの秘密……とか?」
「秘密?なんのことだ?」
デスヨネー。
わたしもそんな質問のされ方したら、何を答えていいのかわからないと思います。
「ええと、魔王のお友達?付き人?側近?みたいな人が、「……お前は一度、全てを知る必要があるということだ」って言ってたんですけど……」
思わず口真似。
わたしが説明し終わると、王様は取り巻きの人たちとヒソヒソ会議を始めました。
こういう時間、息苦しくて嫌いです。
しばらくして会議が終わると王様はおもむろに切り出しました。
「勇者よ、そなたに見せておきたいものがある」
なんでしょう?
もしかして、冥土の土産?
<<つづく>>
他人を信じるのは簡単です。
他人のすごいところなんてすぐに見つかりますから。
でも、自分のことはわかりません。
何もできない自分のことをどうやれば信じることができるんだろう。
自分には何ができるんだろう。
……。
ツッコミ役がいないと、気持ちがどんどん下がっていきます。
でも、そんなことも言ってられません。
待っていたら世界が滅びかねない状況です。
「私は……まず何をすればいいと思いますか?」
ゴルガスさんと一緒に作戦タイム。
「そうだな……まずは王様への報告だな。魔王軍がいつ来るかはわからないが、そう遠くはないだろう。王様に状況を説明して、守りを固めてもらう必要があるな」
なるほど。
「可能なら魔王軍の動向を調べられればな。ただこれは一人じゃ難しいだろうから、これも王様に頼んで人を集めないとな」
なるほど。
「戸希乃《ときの》はなにかないか?」
私?
私は……。
「アルマさんを探さないと……。それに魔王にもう一度会って、話してみたい……ていうか、殴ってやりたい!」
するとゴルガスさんはニヤリと笑います。
「はっはっは!いいじゃないか、それ!それならまず仲間を探さないとな」
「え、ゴルガスさんは……?」
「すまんが……俺はしばらくは動けなさそうだ。なに、傷が癒えたら必ず駆けつけるから、心配するな」
「そんなぁ……」
「またそんな顔をする。今までだってちゃんと仲間を見つけられたじゃないか」
「それは王様のお薦めもあったし、運も良かったし……」
「運だって実力のうちさ。とにかくやってみろよ。案外うまくいくもんだぜ?」
そんなもんかなぁ。
「じゃあ、仲間探しもやらないとですね……あと気になってるのが、ヴィルゴーストさんの「全てを知る必要がある」って言葉なんです」
「……ふーむ、意味深だな。全てというのがどういうことなのか、なにについての全てなのか……」
「賢者様とか、そういう便利そうな人って、いないのかな?」
「そうだな。その辺も含めた情報集めもしないとな」
情報集めかぁ。どうやればいいんだろう?誰かに聞く?図書館とかで調べる?
作戦会議が終わったわたしはエルマちゃんの部屋をノックします。
これからしばらくはエルマちゃんと二人旅。
出発前に様子を見ておきます。
返事がないので中を覗いてみるとエルマちゃんは部屋の真ん中でぼんやり座っていました。
「エルマちゃん、調子はどう?」
「はい、だいじょぶです」
あんまり大丈夫そうには見えません。
「なにか私にできることはある?」
するとエルマちゃんはしばらく考えてから言いました。
「勇者さま、おねえちゃんを探してくれますか?」
アルマさんはあのポータルで離れ離れになったまま、まだ戻って来ていません。
エルマちゃんも当然心配でしょう、けど……。
「ごめんね、今すぐは無理なの」
「わかりました」
やけに素直、どうしたんだろう?
「アルマさんのこと、心配だね」
するとエルマちゃん、俯いて答えました。
「おねえ……ししょーが、あのとき、勇者様のいうことを、ちゃんとききなさいって、ゆったから」
「……そっか」
エルマちゃん、本当は探しに行きたいのに、我慢してたんだ。
私はエルマちゃんを抱きしめて考えます。
そして、決めました。
「アルマを探しにいくだって?」
ゴルガスさんが驚いた声をあげます。
「はい、今は世界よりそっちが大事だと思います」
私は決めました。世界も大事だけど、今すぐにするべきことは、やっぱりこっちです。
「ふーむ、なるほどな」
「それで、何かアドバイスはありますか?」
ゴルガスさんは少し考えます。
「そうだな……捜索には本来ならある程度の人数を割くべきだが、今はそれはできない。だったらまずは、目標を明確に決めろ。なにを探すのか、よく考えるんだ」
「はい」
「時間はかけるな。当初の目標が見つからなかったとしても、別の目標を作ってはダメだ。見つからなければ切り上げろ。新しい目標は仕切り直してからだ」
「はい」
「もし敵がいても、絶対戦うな。見つからないように隠れて様子を見ろ。うまくすれば情報が得られるかもしれない。もし見つかった場合は即時撤退だ」
「はい」
「あとは……楽観的に考えろ。そこになにもなかったなら、それはどこかに逃げ延びて生きているということだと思え」
「はい」
「そんなところか……魔王軍にとってポータルはもう用済みだろうから、あれから1日たった今なら進軍して誰もいないかもしれない。だが油断はするなよ」
「はい」
「よし、じゃあ行ってこい」
「はい、行ってきます!」
エルマちゃんのテレポートの魔法で、ポータルまでひとっ飛びです。
取り残されたようなポータルは相変わらずそこにありました。
少し揺らいでいるように見えるのは、気のせいでしょうか?
辺りには誰もいないようで、人影もありません。
「勇者様、どうするの?」
ポータル付近に着いて、エルマちゃんが不安そうにしています。
「まずはアルマさんに関係するものを探そう。アルマさんの物が落ちてないか、怪我をした様子がないか」
「わかった!」
私はあの時の状況を思い出しながら、現場を歩きます。
最後にアルマさんを見たのは、怪我をしたゴルガスさんと一緒にテレポートされた時だから……。
あの時ゴルガスさんが斬り捨てた数匹のゴブリンの死体が転がる中、地面に重いものを引きずった跡を見つけました。
「エルマちゃん、これ」
「なんですか?」
あの時私がゴルガスさんを引きずった跡です。
「私が知る限り、アルマさんが最後に立っていたのはこの辺りなはずだけど」
「あたしが見たのも、たぶんそうです。勇者様に魔法を使って、すぐあたしにもしたから」
「じゃあ、この辺りを探そう。何か落ちているものはない?」
でも二人で探してみてもなにも見つかりません。
アルマさんの遺留品も、出血の跡も。
「たぶん……少なくともここを離れた時には怪我なんかはしてなかったんだと思う」
楽観的に。
「おねえちゃんはだいじょぶ?」
「うん、きっと大丈夫だよ」
「よかったぁ」
ゴルガスさんのアドバイスに従って、今は……ここまで。
「エルマちゃん、一旦戻ろう。見つけるのはまた今度」
「はーい」
でもアルマさんはどこに行ったんだろう?
再びエルマちゃんの魔法でテレポートして迷いの森の木の家まで戻ります。
家に戻るとゴルガスさんに報告です。
「そうか、アルマは見つからなかったか……」
「でも、アルマさんが最後に立っていた付近では戦闘の跡もなかったし、少なくともその時点までは無事だったと思うんですよね」
「ああ、俺も同意見だな。もしそうならアルマのことだ、逃げるなり守るなりの手は打てたはずだ」
ですよね。
ゴルガスさんと話してみて、少しだけ安心できました。
ゴルガスさんとマリアさんに見送られて、改めて出発です。
「じゃあ、王都までしゅっぱーつ!」
「おー!」
エルマちゃんがトコトコ歩き始めます。
「あれ?テレポートは?」
「わたし、王都はいったことないので、テレポートはできません」
て事はもしかして……。
再び徒歩の旅です。
人里離れて狩猟採取生活が続きます。
ベッドもなし、行水もなし、マリアさんのおいしいご飯もです。
ていうかマリアさん、旅の間どうやって料理してたんだろう?
私は焚き火を起こしてその火で食材を炙って焼くことしかできません。
味付けも塩味くらい。
「マリアさん、魔法が使えるとか……?」
ああ、おいしい料理が恋しい……。
「勇者様のご飯もおいしいですよ」
「ありがとう、エルマちゃん」
勇者にはサバイバル料理のスキルも必要です。
あと、お鍋とかの調理器具も。
そんなこんなで王都までたどり着きました。
いよいよ王様に報告です。
なにを言われるんだろう、怒られるのかな……。
あの日、旅立って以来の王都のメインストリートは、全く様子も変わらず平和そのもの。
まだ誰も魔界と人間界の壁がなくなったことを知らないみたいです。
通りに面したお店はどこも普通に営業中。
金物屋さんにも立派な鍋が置いてあります。
そうだ、お鍋を買わないと。
「いらっしゃい、なにをお探しで?」
金物屋の店主さんが愛想よく出てきました。
なんとなく踏み込んだ店内には鍋以外にも色々置いてあります。
あ、包丁もいいな。
「その大鍋と包丁をお願いします」
今日は街まで来て本当に良い買い物ができました。
それでは目的も果たしたので、帰りましょう……。
王様に会うんですよね、分かってます。
「分かってますよー」
「勇者様、どしたの?」
「気にしないで、ただの独り言だから」
さて、それじゃあお城へ!王様に会うために!いざ行かん!
くっ、ツッコミが足りない。
「勇者よ、久しいな」
王様は相変わらず威厳たっぷりです。
取り巻きの偉そうな人もいっぱい。
ここであの大失敗を報告したら、何を言われるんだろう。
でもここはゴルガスさんの「俺達はまだ失敗していない」という言葉を胸に、強気の態度で臨みます!
……そうできたらいいな。
「えーと……王様にご報告が……あります」
「よかろう、申せ」
なんて言えばいいんだろう?
グッと拳に力を込めて、なんとか言葉を探しながら切り出しました。
「えーと、つまり……魔界と人間界をつなぐポータルを破壊するつもりが魔王に騙されて、魔界と人間界を隔てる空間断層を消してしまいました」
すると王様は驚いた様子で立ち上がって、言います。
そりゃ驚きますよね。
「なんと、それでは魔界と人間界は地続きになったということではないか!」
理解が早くて助かります。
それを聞いて王様の取り巻きの方々がざわつき始めました。
取り巻きさんたちは口々に声をあげます。
「それでは魔王軍がいずれ全軍で攻めてくるということでは……」
まあそのうちには。
「もうおしまいだ……」
いや、諦めるのはまだ早いと……。
「魔王に騙されたって、それでは勇者は魔王と通じていたということか……!」
そうじゃないってば……。
みんな言いたいこといってるなぁ。
「つきましては王都の守りを固めるとともに、各地に連絡して迎撃態勢をとってほしいなー……て……」
でもわたしの声はどんどん大きくなるざわめきにかき消されそうになります。
そこへ王様。
「皆の者、静まれ!」
と、一喝。
さすが王様、ざわつく取り巻きの人たちを一瞬で黙らせました。
うう、相変わらず怖い……。
「勇者よ、その方の申し出、しかと聞き入れたぞ。直ちに王都の守りを固め、各都市に伝令を出そう」
「あ、ありがとうございます」
「他にはなにかあるか?」
他には……そういえば……。
「物知りな人とか、ご存じないですか?賢者様とかそんな感じの」
「ふむ、何を知りたい?」
「えーと……魔王とかこの世界とかの秘密……とか?」
「秘密?なんのことだ?」
デスヨネー。
わたしもそんな質問のされ方したら、何を答えていいのかわからないと思います。
「ええと、魔王のお友達?付き人?側近?みたいな人が、「……お前は一度、全てを知る必要があるということだ」って言ってたんですけど……」
思わず口真似。
わたしが説明し終わると、王様は取り巻きの人たちとヒソヒソ会議を始めました。
こういう時間、息苦しくて嫌いです。
しばらくして会議が終わると王様はおもむろに切り出しました。
「勇者よ、そなたに見せておきたいものがある」
なんでしょう?
もしかして、冥土の土産?
<<つづく>>
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
私が消えたその後で(完結)
毛蟹
恋愛
シビルは、代々聖女を輩出しているヘンウッド家の娘だ。
シビルは生まれながらに不吉な外見をしていたために、幼少期は辺境で生活することになる。
皇太子との婚約のために家族から呼び戻されることになる。
シビルの王都での生活は地獄そのものだった。
なぜなら、ヘンウッド家の血縁そのものの外見をした異母妹のルシンダが、家族としてそこに溶け込んでいたから。
家族はルシンダ可愛さに、シビルを身代わりにしたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる