霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第5章 蠱惑、カマラアサマラ

第43話 予測の裏

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   「____紫電っ!!」
   空を裂く凄まじい音と共に一閃が放たれる。光や煙がやがて掻き消され現れた情景には、カマラアサマラの首から上は何処にもなかった。
   「首から上が…ない…倒したのか?」
   コアンの言葉に安心する事も、不安になる事もないまま、音の無くなった洞窟内では、誰一人とてピクリとも動かなくなった。
   今は固唾を呑む音だけが、聞こえた。
   「こんな…」

   こんなに、あっさりと倒せるものなのか?

   カマラアサマラはA3ランク、確かにこっちにはAランクが3人いるが……結局今倒したのはレオンのBランク級の技なのである。いくらメイトの持つ力の中で最強の威力を持つ紫電だとしても、こんなにあっさりと倒れるものなのだろうか?
   そこまで考えると、いつかの自分が感じていた嫌な予感と言うものを思い出す。
   そういえば、どうしてこいつは首を飛ばされても倒れずに佇んでいられる。脳からの信号が無くなれば自律神経は無くなり確実に崩れ落ちる。そうして、心臓の動きは停止し、絶命する。それなのにどうしてこいつは立っていられる。
   「………あ。」
   思考を捻っていたレオンが、やがて一つの考えに辿り着く。
   脳からの信号が無くなれば倒れる。つまり、脳からの信号が無くなってさえ居なければ通常の行動が可能なのだ。
   世界に置いて一番繁殖に成功している生物は虫だ。さらにその虫の中でも古代から姿形を変えず、大量の繁殖に成功にしている虫の中でゴキブリという者がいる。
   ゴキブリは凄まじい繁殖力とその生命力で人の間ではかなりの嫌われ者だが、奴らは潰されても暫くすれば活動する。
   その理由は、奴らは大量の脳を持っているからだ。頭だけでなく脚にも脳があるという話を聞いた事がある。
   つまりはそれと同じ、カマラアサマラにも幾つかの脳があるのだろう。それ故に倒れず、未だに佇んでいられるのだ。
   じゃあ、それと等しく生命力もあったら?治癒力があったら?そこまでを考えると今日何度目かもわからない寒気が身を捩らせた。
   「こいつはまだ生きている!!!!」
   レオンが悲鳴の様に叫ぶと、皆の顔も徐々に険しくなっていく。このまま放っておけば、また活動を再開するかもしれない。それだけは阻止せねばとレオンは左手を強く握る。
   「このクソムシが!!消えろ!」
   レントが怒りと共に虚空に二つの魔法陣を生成する。魔法陣はその場で右と左に分かれゆっくりと回り光を発する。段々とその動きが早くなったかと思うと、中心から一本の太い矢が放たれた。
   「二重魔法陣!!衝撃の矢(インパクト・アロー)!!!」
   真っ直ぐに飛ばされた矢は残光を残しカマラアサマラの腹に食い込む様に当たる…はずだった。
   あろうことかカマラアサマラの腹に当たるというほんの数センチ前に壁が現れ光を撒き散らした。透明で見えなかったその壁は、レントの放った魔術をくらい虹色に乱反射する。
   それはさながら、レオンが見た事があるあの姿と同じだった。
   「非科学的能力者が使う…魔法壁?」
   そう、それは幾度となくレントが使っている所を見た魔法壁である。レントのその攻撃に続き皆が攻撃を仕掛けるも、全てカマラアサマラの魔法壁に弾かれてしまった。
   「不可侵領域ってとこかな…っ」
   「硬い……全然攻撃が通らない…」
   コアンとアカネが息を上げながら言う。そんな時、更にカマラアサマラの様子が変わっていった。
   今まで緑色…若葉色に近かった体表はほんのりと赤みがかかり、グジュグジュと音を立てる首からは新たに頭部が再生されつつある。全神経を集中させて斬り飛ばした足は既に再生されていた。
   「妖怪って…なんなのよ…」
   情報と全く違う敵の行動にアイは驚きを隠せずに棒立ちになる。
   「ち…虫が…三重魔法陣!断裁分離!」
   縦に並んだ3つのサークルが勢いよく回り一閃を穿ちカマラアサマラのハサミとなっている左手を攻撃する。が、硬すぎる外殻はその攻撃を通さない。
   そればかりか、カマラアサマラは虚空に二つの魔法陣を生み出し攻撃までしてくる。
   「思えば筋肉硬化も魔術だったな…そんな奴が攻撃魔術を使えないわけなかったか。虫が魔術を使わないという勝手な妄想が招いた最悪の事態だったか…。」
   レオンは既に、何度目かもわからない自分の浅はかな考えを悔やむ。世界は不思議であり理不尽で溢れていた。

   「みんな…行くぞ!!」

   レオンの声に、全員が地を蹴った。
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