霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第5章 蠱惑、カマラアサマラ

第44話 万物流転

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   「ギシャァァアァァァァァァ!!!」
   耳を劈く金切音の様なカマラアサマラの声に、幾重にも重なる能力の発動音。爆発したかと思うかのような激しい衝撃と煙が自分の平衡感覚と視界をスクランブルする。ひんやりとしてた洞窟内は既に自分の高揚した体温で微塵にも感じない。
   汗がひどく吹き出る。自分の制服に括り付けられた霊飼い術師専門学校の校章が刻印されたネクタイを毟り取り近場に投げ捨てる。右手から出た赤雷は空中でうねるも狙ったところに吸い込まれる。
   「三重魔法陣・重力の矢(グラビティ・アロー)!」
   隣ではレントが右手に持つ魔道書を使い能力を発動。放物線を軽く描いた矢はカマラアサマラが生成した魔法壁を魔法陣ごと砕きその胸を貫いた。
   「っしゃ!頂き!!」
   「たった一発で粋がってんじゃねぇぞ」
   それに続きミヤモンが能力を発動。虚空に現れた4つの魔法陣は眩くも優しい輝きを放つ。何百もの現れた実体のない深紅の刃がカマラアサマラを傷つけ追い討ちにとその傷から少量の炎が吹き出る。
   「四重魔法陣・業炎の刃(ブレイズ・カット)。どうだ?こっちは何百だ。」
   「はっ!調子こいてんじゃねえよ!四重魔法陣!!」
   ミヤモンの挑発にも似た言葉にレントはイタズラな笑みを浮かべ4つの魔法陣を生成する。その魔法陣は今まで見たように縦や横に重ねられているのでは無く横に並列されて置かれている。
   「千本の矢(サウザンド・アロー)!!!」
   壁がなくなったカマラアサマラは最早サンドバッグ状態だった。雫が水面に落ちた様なポツリという音がなったと同時に視界を覆い尽くす程の矢の雨がカマラアサマラに降り注いだ。
   「やるね、君の友達と言うのも」
   コアンが優しい目を浮かべてレオンの方へと視線を投げる。
   「どうだ白いの?こちとら千本打ち込んでやったぜ?」
   「クロゴギブリが…湧きやがって…!」
   二人は笑みを交差させると、それに続いてアイとアカネが躍り出る。
   「音波断裂!!」
   アイは声を使いカマラアサマラの元々開きかけていたミヤモンが与えた傷を更に開く。虫特有の半透明の黄色の血液は一瞬噴き出すがすぐさまそれを塞ごうと治癒を開始する。
   「ありがとうアイちゃん!!」
   地を蹴り空中に身を投げたアカネはその傷が塞ぐ前に一塊の砂鉄を投下する。そして傷が塞がったと同時にアカネは能力を発動させた。
   「咲け(裂け)!茨の棘よ!!」
   アカネの声に呼応して一輪の薔薇が咲き誇る。砂鉄で出来た薔薇とその茎部に当たる棘はカマラアサマラの背を裂き血が弾けた。
   「ほう、美しいじゃないか。」
   「アカネですからね。」
   「だから君が汚く見えるんだな。」
   「それ失礼じゃないですか?」
   「それは失敬。」
   いつも通りのコアンからの弄りを受け辟易としてるとカマラアサマラが奇しくも再起しようとしていた。
   「私の可愛い後輩ちゃん。あれは丸ごと焼き払うしかないぞ。」
   「らしいですね。」
   レオンを中心に淡い紫の光が発生する。
   「久しぶりに見るな、その儀式。」
   コアンが目を瞑るとレオンは言葉を静かに紡いだ。
   「我、命失った者に第二の命を与える者…霊飼い術師レオン也…」
   その言葉と同期して、紫の光はより強く増した。
   
   「召喚!雨村 狐(キツネ)!!!」

   レオンの右目が茶色に染まる。次第にその目は紅く染まり、右目が炎に包まれる。
   「キツネ、使わせてもらう!能力、視点発火!!!」
   キツネの能力、視点発火は右目で見つめた部分から火柱が立つ物だ。虚空を見つめるとその部分から炎が現れ意のままに操る事も可能だと言う。キツネの言う『ぐるぐるふぁいあー』こと"鬼火"だ。
   もちろんレオンが見つめるのはカマラアサマラの頭である。そして使うのはキツネの言う『じ~っとどっかーん』だ。
   
   ゴォオオオオン!!!

  凝視して僅かコンマ数秒。凄まじい爆裂音と共に巨大な炎柱が吹き上がる。炎の柱は洞窟の天井にぶつかるとあたりに炎を撒き散らした。
   「…は?」
   思わず声が出てしまった。これじゃ『じ~っとどっかーん』どころの騒ぎじゃない。『じ~っとずどぼぁーーん』の領域だ。
   よくよく考えればキツネは小さい割には高ランク能力者だった事を思い出した。寧ろなんでBランクの自分が使って此処までの威力が出るんだ。
   『ご主人すごいすごーい!!おっきい花火ー!』
   頭の中ではキツネが感嘆と嬉々の声を上げている。無邪気が一番怖いと言うことを今更ながらに知った。
   「これは…化け狐だな…化けてる。」
   コアンもこれにはさぞかし驚いたのだろう。口を開けて呆気を取られている。
   カマラアサマラは未だに炎に包まれ蠢いている。
   「こ…これで俺も治るな…」
   表情を引きつらせたレントも呆気を取られていた。
   「どうしてくれる。私の任務はカマラアサマラの首を持ち帰る事だったのに。君が焼いたせいで首ごと無くなったじゃないか」
   「僕のせいですか!?」
   「当たり前だ。それとも君はこんな可愛いちびっこに全責任を押し付けて自分だけ逃げ出すつもりかな?」
   「いえ、焼き払えとか言ったコアン先輩のせいにします。」
   「公務執行妨害としてレオン・シャローネを拘束し、無期の禁固労働刑に処す。」
   「まって!?僕そんな重罪犯しました?!」
   「二人とも何やってるの…」
   やはりここは自分だと言わんばかりにアカネが止めに入る。
   「ま、まぁ!これで俺の命も長引くわけだから帰ろう……ぜ?」
    レントが帰路を歩みを促そうとするとふとその動きを止める。
   「おい、邪魔ださっさと行けクロゴギ……ブリ?」
   続いてミヤモンも行こうとするとレントと同じくその動きを止める。
   「二人ともどうしたんだ?」
   二人の視線の先を追うと、まだ燃え盛っている炎柱を見ていることがわかる。まだ理解できないレオンは視力について神経を集中させると、違和感に気づいた。
    炎の中には崩れ落ちて黒く灰になったカマラアサマラが居る。そこは何でもないのだが、そのもっと奥、炎の中に1人の人の影が見えた。
   「誰だ……」
   八頭身はあるであろう長身から伸びる四肢は細い。炎の中で両手を広げた得体の知れない人型は、何処と無く笑みを浮かべたように見えた。
   「こんにちは」
   炎の奥から声が聞こえたかと思うと今まで轟々と燃え盛っていた炎が一瞬にして掻き消された。それも、カマラアサマラの亡骸も掻き消されていた。
   その瞬間、今までに無いような恐怖と寒気が一瞬にしてレオンを貫いた。
   五感の強いレオン。その更に奥の感覚、第六感とでも形容しよう感覚が働いたのである。
  
   "此奴と相対してはいけない"と。

   「お前はいつからそこにいた。」
   コアンが睨みを利かせ声のトーンを低くして発声するが、それはまさに、レオンの頭に犬死にという言葉が生まれた瞬間だった。
   「コアン先輩っ、そいつは危ない!逃げてください!!!」
   レオンが叫ぶも虚しく、コアンは頭上に『?』を浮かべる。そしてその一瞬後に大きな影がレオンとコアンの視界を暗くする。
   「酷いですねぇ、構ってくださいよぉ」
   さっきまで炎の奥に居た人物が目の前に居たのだ。その人物は男だと言うことに気づく。身長はレオンより頭一つ分くらい高く男にしては長い髪は全体的には黒だが、先の方だけ合反する様に白く染まっている。長い前髪の奥で光る双眸はつり上がっていて細い瞳は黄色に光る。まるで猫…いや、蛇かと思わせる目だった。
   「その服は、国周兵かぁ!」
   男は感嘆したかのような声を上げ両手をまた広げる。三日月に湾曲した口からは舌がちろちろと覗いていた。
   「非常識だな…っ!」
   コアンは苛立った様子で右手を握る。能力を発動したのだろう手は淡い白に光り、殴りつける様に男に向かって振るう。
   しかし、寸での所で避けた男はコアンの手首を鷲掴みにする。ギリリと言う音がコアンの手首から聞こえたあたり、かなり強い力なのだろう。コアンは顔を顰めると舌打ちをした。
   「おぉ、怖い怖い。そんな顔せんといてやぁ…美人が台無しやで?」
   「うっさいな…っ、このクソ野郎が……」
   「ふーん……。」
   男は一度真顔になるとコアンの手首を拘束したまま左手を広げる。甲高い音と共に現れたのは魔法陣だ。
   「ワイにそんな口聞いて無事でいれると思うなよぉおおおお♪」
   甲高い音が連続して響く、手中に出来た魔法陣は合計で8つ、見慣れないぐらいの大量の魔法陣だった。
   「ばーいばい」
   その腕をコアン身体に押し当てる。その瞬間、コアンはまるで最初からそこにいなかったかのように音を無くして消えた。 
   「……あ?」
   そこまで見て初めて気づく、此奴はなにをした?
   「衝撃の矢(インパクト・アロー)!!」
   刹那、レントが飛び込み矢を放つ。
   「ははっ、ワイに飛びかかってきた!!」
   だが、瞬間、男は音もなく消えた。かと思えばレントの背後に回りこんでいた。
   「あははははは!!!!」
   未だ健在する左手の魔法陣を同じようにレントに押し付けると、またもやレントはその場から消える。
   「…な…ぁ…」
   「ヒヒヒヒ…面白いな!」
   「こ……」
   こいつ……狂ってる……
   「死んではいないよぉー!多分ね!!」
   気づけばレオンはその地を蹴っていた。握った右拳からは赤雷が飛び散る。
   「あぁぁあぁあ!!!」
   「ほう?!お前は…まさか…ヒヒッ!そうかそうか!!」
   男はまた瞬間的に消える。そして次は、アイの前にいた。
   「もっと本気見せてくれやぁ、緑のしょーねん♪」
   アイは消える。
   「テメェ!!!アイをぉおお!!」
   「お?お?怒った?」
   男の行動にミヤモンが激昂し、飛び掛かるは末路は同じである。
   「貴様ぁああ!!」
   レオンはついに右手に握りしめた赤雷を男に向かって投げつけた。
   「ははっ!!やっぱりかぁ!やっぱりやっぱり!!懐かしいなぁ!!!」
   「なに訳のわからない事を言ってんだ!!!」
   「はっ!!此奴が一番大事だったか?」
   男が消え、再度現れるとそこにはアカネがいた。
   「れ…レオン…くん…」
   「ははっ!怖いか?」
   「や、やめろ!!」
   「ひひひひひひひひ!!!!」
   そんな声も虚しく、男は行動を止めずにアカネに触れる。
   「うわぁぁぁぁあああ!!!!!」
   レオンは無我夢中に赤雷を男に向かって投げつける。だが、男は先程と同じく、その姿を消した。
   「ワイは優しいからいい事教えたる。」
   「……っ!!」
   「動くなよ~、動いたらいい事聞く前に飛ばされるで。」
   クソがっ…やられた…!それじゃあ此奴の手玉だ。
   「動いてもええけど?」
   「……ちっ」
   落ち着け…理性的になれ。
   自分に言い聞かすように息を整えると、レオンは能力の発動を解いた。
   「利口やな。ワイは一回目は優しいんでな、良い事教えたる。」
   すっと一息。
   「今飛ばした奴らは一人も死んでないで?ちゃんと飛ばしたから死んではない。ただ、その後にどうなるかはそいつら次第や。」
   「……っ!」
   「そんでちゃんと男2人女2人で分けといたで、ああ、あの国周兵の女は別の場所に飛ばしたけどな!」
   「ふざけるな…っ」
   「まぁまぁ、そう怒らんと。まぁ、そんなとこや、お前には特別な場所に送っといたる!」
   声が切れたその刹那、レオンは勢いよく振り向き左手に紫電を宿し男に向けて射出しようとするも、男はそれを待っていたと言わんばかりに笑った。

   「またあおうなぁあ!」
  
   男の左手は自分の脇腹へと押し付けられる。
  
   途端に視界は黒に染められた。
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