霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第6章 剣士学校

第45話 片手剣士ソルト

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   目を開けるとそこは真っ暗だった。
   まるで、自分の生きている世界をそのまま見たかのような色をしてやがる。
   俺は、人間じゃない。そんな事はこの世に生を受けてから知っている変わらぬ事実。
   だが、運が良いのか悪いのか、姿形は人間のそれと酷似していて、尚も思考を与えられて産まれてきた。
   
   ある一族の最後の申し子として。

   そして、俺は心に決めていた。この世界を変えると。
   今の世界は簡単だ。
   弱肉強食。強者は弱者を喰らい、弱者は強者にねじ伏せられ弾圧される。
   だが、それを俺は認めない。
   弱い者だけが、弱いからと言ってその命を無下にされる世界は認めない。
   強い者だけが、我が物顔で世界を渡っていると勘違いしているのなら、俺はそいつらを許さない。
   そして、俺にはもう一つの野望……いや、目的があった。
   それは、表の世界と裏の世界をフェアにする事だ。裏の世界が表の世界を守り、表の世界の発展が、裏の世界に混ぜ込まれていて、調律している。
   だが、それじゃ以前何も変わらない。
   裏も表も等しく、強い者も弱い者も等しく。

   「そして俺が一番強いんだよ!」

   そう、そして何より、俺は常にトップに君臨している。何よりも強く、誰よりも強い。そして弱い者に手を差し伸べる。
   自意識過剰だと?そんな事は無い。揺るがぬ事実である。
   そして、それだけの自信が無いとこの世界では死ぬ。今はまだ、弱い者は狩り殺されるのだ。
   血の匂いが広がるこの学校では、命は確立されていない。死ぬ時は死に、殺す時は殺す。

   全校生徒の9割が妖怪、1割が人間の世界。
   血に埋め尽くされた、赤黒く、鉄臭い物語だ。

            
                   Episode 6 ~剣士学校~


   1、目標を見つけ次第、気配を殺し、敵に接近せよ

   2、接近が成功したら目標の弱点部位を見つけろ

   3、渾身の力で叩き切れ!!

   「きひっ」
   太陽が頭上を通り過ぎた風の強い昼下がり。自分の金色の頭髪は風で掻かれ、滲む汗を拭う。
   呼吸を殺し、気配を殺し、影を殺して情けを殺す。
   目の前を行く4足歩行生物、A2ランクの地獄の番犬ケルベロスは自分が接近している事にも気付かずに狩りで殺したのであろう獲物を喰らっている。
   「お前は俺の手の中にいる。」
   右手を二回、静かに開閉をする。指だけが出された黒いグローブは太陽を反射し、そしてその温度を吸収し、手に汗を握らせる。
   そして、目の前を行くケルベロスを視察し十分な準備を整えていく。
   三つ首のケルベロスは首が三つ分あるだけあって頭が重い。頭が重いということはその分支えるための首の筋肉と下半身、四肢の筋肉が発達している。
   頭を斬り飛ばしたい所だが、三つ分の首の筋肉を一撃で飛ばすほどの力となるとかなりの腕力を必要とし、しかも仕留めることができなかった場合の剣の状態を考えると流石に分が悪い。
   と、言うことは、どれだけ他が強化されていても、強化をすることがかなり難しい爪先を斬るのが妥当だろう。奴も化け物と言うだけであって、指を落とされて仕舞えば歩行は困難になる。
   「転んだ拍子に腹に剣を入れれば、ぐどばぃ」
   俺の名はソルト。何者にも縛られる事などない。戦闘方法、抹殺手段、全ては自分の思いついたままに。フリーダムにこの世を生きる。
   そんな俺に付けられた二つ名は『縛る事のできない虎(ソルト・フリーダム)』だ。因みに本名はソルト・ブレイクロックだ。剣士として一振りに命を込め、この世に天職を受けた者。
   手を愛剣の柄に触れた瞬間である。ケルベロスは次の獲物を探そうと背を向ける。その瞬間、ソルトは勝ちを確信した。
   「スキルを使うまでもねぇ。」
   息を飲むその刹那、ソルトは地を蹴り、目にも留まらぬ速さでケルベロスに向かって突撃する。
   鞘に設けられている留め具を器用に外すと、パキンと言う音が耳に届く。そして勢いよく抜き取る。耳触りのいい高い音が鳴ると、太陽光を眩く反射させる真紅の刀身が露わになる。
   「ハハハハハ!!!!今から死んでいくお前に俺が言葉をくれてやる!!ありがたく思いやがれ!!」
   肺が破裂してしまうのではと思うほど息を限界まで吸い込む。そして、腹の底から声を上げた。
   「死んでもお前は生きていける!!また俺に殺されろよ!!」
   その言葉に意味などない。ただ自分が思ったままに、叫ぶ。剣を振り被る。
   急に現れたソルトに驚いてか、ケルベロスは三つ首全てを此方へと向けるが、それはもう時既に遅しだった。
   肉を断裁する感触と反動、そして子気味の良い爽快な音が鼓膜を震わすと、ソルトの中の血は更に滾る。
   「グルッ!?ゴ……ガ……」
   地獄の番犬と言われようと、生物には変わりない。悲痛の声を上げ歩行力は失われる。
   「なっさけねぇな!あ、俺が強すぎるからか!?痛いだろ?今、楽にさせてやっからな。」
   ソルトは剣の持ち方を変えると、その切っ先をケルベロスの腹部に突き立てる。
   「おつかれさん。また会おうな、犬っころ」
   剣士が命を奪うその時は、戦った敵に向かい称賛の言葉を送る。
   「グッ!……キュウゥン…」
   ドクドクと脈打つ命の原動力に向かい剣を突き立てると、一度跳ね上がった身体も糸が切れたかのようにその行動をやめる。刺口部からは鮮血を吹き出し、剣を赤く染めた。

   「俺の勝利を祝福するにはいい花火だな。」

   剣に付いた血を取っ払うと、ソルトは鞘に静かにエモノを納める。

   これが、俺、片手剣士ソルトだ。
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