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07.エピローグ
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「……よく仕上げたもんだな」
トラックから徐々に姿を表したそれを見ながら、私はため息を漏らした。感心すると言うより、呆れる。
「ま、こうなったのは私の責任でもあるからね。超特急で仕上げさせてもらったよ」
タバコなどくわえながら、社長が満足そうに横に並んでいる。目の下に隈がくっきりとあるのが痛々しい。
「それより、綾君のほうが驚異的だよ。本当に大丈夫なのかね?」
と、言っても、綾の怪我は大したことはない。ケーニギンネン・ドラッヘの損傷と比べるまでもなく。表面的なダメージばかりで、骨や内臓には何ら支障ない。
「ま、怪我がどうだろうと乗せるんだがな。泣き言っても知るか」
「ひどい監督だねえ。ま、人のこと言えないか。スタッフ三人ばかり病院送りにしたしね」
遠くから歓声が聞こえる。前座のジャズバンドのショーが終わったらしい。
「まあ、実働テストをさせてあげる暇がなくて、その点だけは済まなかったと思うよ」
「間に合っただけでも驚異でしょう。……ま、その辺はパイロットがなんとかするさ」
「あ、届いたんですね」
噂をすると。控えの方から綾が飛び出してくる。
「わー、すごい、ホント直ってる」
「人ごとみたいに言うなよ。誰が壊したと思ってるんだ」
しかしまあ、本当によくこの短期間に直したものだ。と同時に、妙な違和感を覚えなくもない。実はこの修理費、私の方からは全く出していないのだ。全て調停機構軍からの持ち出し。
テスト中に破損したならともかく、勝手にテロを起こして自滅したヤツの機体を無償で直したわけである。しかも綾にもおとがめなし。あれだけ大騒ぎになってなお、玖島の奴が握りつぶしたのか? わけがわからない。その上計画の方の仕事を放っぽってまで、ドラッヘの修理に費やしてくれたという。至れり尽くせりで言うことなしだが、それはそれで引っかかる。
さっそくスタッフがタラップをかけ、綾が乗り込む。そして控えの方に機体を運んでいく。
『ほわー。これ、前よりすごく動きがいい感じがしますよ! ステータスパネルの位置も見やすくなってますし』
わざわざ外部スピーカーを使って報告してくる綾。
「綾君に合わせて再設計したからね。性能は変わらないが、使い勝手は良くなってるだろう」
まったくご丁寧なことだ。修理するだけでも時間がないというのに、わざわざそんな手の込んだことまで――ん?
「社長。綾に合わせて、と言いましたよね」
社長がこちらを見る。何気ない素振りをしているが、一瞬わずかに肩が跳ねたのを見逃さなかった。
「もしかしてあれ、最初から社長が仕組んだんじゃないでしょうね?」
「いや……まあ……そうだね」
意味のない言葉を二、三吐いたのち、社長は観念したように息を吐いた。
「隠し事は私の性に合わないしね。言える範囲ではっきり言っておくか」
うつむきながらそう呟き、私の方に向き直る。
「実はまあ、綾君がALICEと戦いたがっているのを知って、抜き打ちでセキュリティシステムの稼働実験をしてみよう、ということになってたんだ。もちろん事前に知っていたのは私と玖島君と、あと数人の責任者だけだった。もちろん実弾は使わないでね。でも、綾君はそれより早く、自らの意志でそれをやってしまった。理由は知らないけど、彼女は真剣勝負がしたかったんだね」
「つまり、あのときの戦闘データは全部……」
「ケーニギンネン・ドラッヘにもフィード・バックさせてもらったよ」
……なんて反応していいやら、よくわからない。結局綾が迷惑をかけたのは事実で、しかしそのきっかけは社長らのせいなわけで……。
私は息を吐いた。まあ、いいか。考えても仕方ないことは考えないに限る。
「よう、バアル」
声に振り向くと、なにやら大所帯が控えに押しかけていた。クロセルら数人と――その家族達だろうか? 子供や奥さんらしき女性も数人見える。
「バアルはやめろ。ここは戦場じゃないぞ」
「戦場みたいなもんだろ」
「あと、控えにいきなり大勢で押しかけてくるな! これから試合だってのに――」
「よう、綾ちゃーん、応援してるからなー」
「話を聞けっ! だいたいお前ら、なんでまだこんなところに」
「いやまあ、せっかくなので休暇もかねて、とね」
意味もなく眼鏡を直しながら、エリゴス。……うん。よく考えたら、私もこいつらの本名を知らないのだった。
「それにもう、僕ら傭兵が活躍する時代じゃないでしょ。僕だってもう、ただの郵便配達員ですし」
「人工知能が席巻していくこの時代、傭兵あがりなんざ、綾さんの応援でもして気を紛らわすしかないのさ」
真顔で言ったのは……アモン。こんな軽口を叩く男だったとは知らなかった。
「まあ、それでも、あの時ほどの熱戦は期待できないだろうけどな」
あの時――アリスと命を賭けた戦いを見せた時。気楽に言ってくれる。人の気も知らないで。
私は元傭兵どものごろつきの中をかき分け、ピットの表、いくつかのモニターが用意された監督席の前に立った。インカムを着け、檄を飛ばす。
「綾、遠慮するな。叩きのめしてやれ!」
――準決勝、第二試合。キリムラファクトリー、ケーニギンネン・ドラッヘ対、チーム・ガントレット、セラフィム・フレアー!
会場の歓声がひときわ高く巻き起こる。
もしかすると、この会場に、人工知能の戦士が登場する時が来るかもしれない――
そんな漠然とした思いが沸いてきて――とりあえずそれを私は汗とともに服の袖で拭った。
トラックから徐々に姿を表したそれを見ながら、私はため息を漏らした。感心すると言うより、呆れる。
「ま、こうなったのは私の責任でもあるからね。超特急で仕上げさせてもらったよ」
タバコなどくわえながら、社長が満足そうに横に並んでいる。目の下に隈がくっきりとあるのが痛々しい。
「それより、綾君のほうが驚異的だよ。本当に大丈夫なのかね?」
と、言っても、綾の怪我は大したことはない。ケーニギンネン・ドラッヘの損傷と比べるまでもなく。表面的なダメージばかりで、骨や内臓には何ら支障ない。
「ま、怪我がどうだろうと乗せるんだがな。泣き言っても知るか」
「ひどい監督だねえ。ま、人のこと言えないか。スタッフ三人ばかり病院送りにしたしね」
遠くから歓声が聞こえる。前座のジャズバンドのショーが終わったらしい。
「まあ、実働テストをさせてあげる暇がなくて、その点だけは済まなかったと思うよ」
「間に合っただけでも驚異でしょう。……ま、その辺はパイロットがなんとかするさ」
「あ、届いたんですね」
噂をすると。控えの方から綾が飛び出してくる。
「わー、すごい、ホント直ってる」
「人ごとみたいに言うなよ。誰が壊したと思ってるんだ」
しかしまあ、本当によくこの短期間に直したものだ。と同時に、妙な違和感を覚えなくもない。実はこの修理費、私の方からは全く出していないのだ。全て調停機構軍からの持ち出し。
テスト中に破損したならともかく、勝手にテロを起こして自滅したヤツの機体を無償で直したわけである。しかも綾にもおとがめなし。あれだけ大騒ぎになってなお、玖島の奴が握りつぶしたのか? わけがわからない。その上計画の方の仕事を放っぽってまで、ドラッヘの修理に費やしてくれたという。至れり尽くせりで言うことなしだが、それはそれで引っかかる。
さっそくスタッフがタラップをかけ、綾が乗り込む。そして控えの方に機体を運んでいく。
『ほわー。これ、前よりすごく動きがいい感じがしますよ! ステータスパネルの位置も見やすくなってますし』
わざわざ外部スピーカーを使って報告してくる綾。
「綾君に合わせて再設計したからね。性能は変わらないが、使い勝手は良くなってるだろう」
まったくご丁寧なことだ。修理するだけでも時間がないというのに、わざわざそんな手の込んだことまで――ん?
「社長。綾に合わせて、と言いましたよね」
社長がこちらを見る。何気ない素振りをしているが、一瞬わずかに肩が跳ねたのを見逃さなかった。
「もしかしてあれ、最初から社長が仕組んだんじゃないでしょうね?」
「いや……まあ……そうだね」
意味のない言葉を二、三吐いたのち、社長は観念したように息を吐いた。
「隠し事は私の性に合わないしね。言える範囲ではっきり言っておくか」
うつむきながらそう呟き、私の方に向き直る。
「実はまあ、綾君がALICEと戦いたがっているのを知って、抜き打ちでセキュリティシステムの稼働実験をしてみよう、ということになってたんだ。もちろん事前に知っていたのは私と玖島君と、あと数人の責任者だけだった。もちろん実弾は使わないでね。でも、綾君はそれより早く、自らの意志でそれをやってしまった。理由は知らないけど、彼女は真剣勝負がしたかったんだね」
「つまり、あのときの戦闘データは全部……」
「ケーニギンネン・ドラッヘにもフィード・バックさせてもらったよ」
……なんて反応していいやら、よくわからない。結局綾が迷惑をかけたのは事実で、しかしそのきっかけは社長らのせいなわけで……。
私は息を吐いた。まあ、いいか。考えても仕方ないことは考えないに限る。
「よう、バアル」
声に振り向くと、なにやら大所帯が控えに押しかけていた。クロセルら数人と――その家族達だろうか? 子供や奥さんらしき女性も数人見える。
「バアルはやめろ。ここは戦場じゃないぞ」
「戦場みたいなもんだろ」
「あと、控えにいきなり大勢で押しかけてくるな! これから試合だってのに――」
「よう、綾ちゃーん、応援してるからなー」
「話を聞けっ! だいたいお前ら、なんでまだこんなところに」
「いやまあ、せっかくなので休暇もかねて、とね」
意味もなく眼鏡を直しながら、エリゴス。……うん。よく考えたら、私もこいつらの本名を知らないのだった。
「それにもう、僕ら傭兵が活躍する時代じゃないでしょ。僕だってもう、ただの郵便配達員ですし」
「人工知能が席巻していくこの時代、傭兵あがりなんざ、綾さんの応援でもして気を紛らわすしかないのさ」
真顔で言ったのは……アモン。こんな軽口を叩く男だったとは知らなかった。
「まあ、それでも、あの時ほどの熱戦は期待できないだろうけどな」
あの時――アリスと命を賭けた戦いを見せた時。気楽に言ってくれる。人の気も知らないで。
私は元傭兵どものごろつきの中をかき分け、ピットの表、いくつかのモニターが用意された監督席の前に立った。インカムを着け、檄を飛ばす。
「綾、遠慮するな。叩きのめしてやれ!」
――準決勝、第二試合。キリムラファクトリー、ケーニギンネン・ドラッヘ対、チーム・ガントレット、セラフィム・フレアー!
会場の歓声がひときわ高く巻き起こる。
もしかすると、この会場に、人工知能の戦士が登場する時が来るかもしれない――
そんな漠然とした思いが沸いてきて――とりあえずそれを私は汗とともに服の袖で拭った。
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