15 / 66
京都医科大学VS冷泉堂大学剣道部改め剣道サークル
因縁
しおりを挟む
京都医科大学は、いかにも医学を学ぶ大学らしく、学生たちや教員が何やら難しそうな専門書を見ながら、難しい話をしていた。また、付属の病院が隣接しているためか、白衣をまとった医師や看護士の姿もあちこちに見られた。
体育館が近づいてくると、竹刀がぶつかり合う音、そして、勇ましい声が聞こえてくる。私たちが一礼して体育館に入ると、部員の稽古を見ていた白髪の男が「闖入者」たちに気づいた。
「稽古やめ」
白髪の男性は稽古を中断させると、私たちの方に向かって歩いてきた。私たちの顔を見渡すと、白髪の男は、
「代表者は誰?」
とぶっきらぼうに聞いた。
「私です」
メンバーと同じく紺の袴をはき、年季の入った防具を身に着けた松尾女史が一歩前に出た。
「ほお、松竹寺のお嬢さんでしたか」
どうやら白鬚の男は、松尾女史のことを知っているようだ。松尾女史は黙ったままだ。と言うよりも、私には白髭の男を睨みつけているように見えた。何かしらの因縁を感じさせる目つきだ。事情を何も知らない私たちは、松尾女史が今にも白髭の男を叩きのめしそうで、ハラハラした。
「ええ。松竹寺の松尾です。熊寺さんは京都医科大学の剣道部の顧問をお勤めでしたか」
松尾女史が表情一つ変えずに言う。
「松尾さん、この方をご存知なんですか?」
と私は尋ねた。
「ええ。この人は金閣寺で有名な衣笠で里田道場を経営している熊寺さんです。とっても道場の経営が上手でね、私たちが去年の京都市大学剣道競技会で惨敗するやいなや、松竹寺の弟子を大勢強奪していったのよ」
と言い、顔を怒りで赤くした。一方の熊寺は涼し気な表情で、
「負け犬の遠吠えってやつかな」
と嘲笑った。松尾女史は必死に挑発に乗らないように自分を律している。そして、溜息を一つつくと、今度は作り笑いを浮かべ、
「あなただけには絶対に負けません。ビジネス剣道家の熊さん」
と言い放った。松尾女史に冷ややかな視線を浴びせていた熊寺だったが、ビジネス剣道家呼ばわりされると顔を紅潮させた。そして、突然手にもっていた竹刀の先端を松尾女史の顔に向けると、
「ほざけ!」
と叫んだ。
異変に気づいた医科大学剣道部の部員たちが、師匠に続けとばかりに、殺気立った表情で駆け付けた。そして、竹刀を私たちに向けて構えた。
その時、ルーカスがすっと松尾女史と熊寺の間に割って入る。そして、表情一つ変えずに、
「これは私たちの戦いです。どうか剣を収めて下さい」
と言った。
「どけ、でくの坊!この減らず口の女を叩きのめさないと気が済まん!」
しかし、ルーカスはその場を一歩も動かない。苛立ちが頂点に達した熊寺は、竹刀の先をルーカスの胸元に突き付け、
「どけ!」
と怒鳴り、突然、ルーカスの額に向けて竹刀を振り下ろした。
次の瞬間、私たちは信じられない光景を目にする。
ルーカスは頭部に向かって振り下ろされた竹刀を右手でやすやすと掴むと、その恐るべき握力で竹刀を握りつぶしてしまった。
「あ・・・」
熊寺は言葉を失った。ルーカスの怪力を知らない京都医科大学剣道部の部員たちは口をあんぐりと開け、絶句した。
「これは冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルと京都医科大学剣道部の戦いです」
百九十センチを超える体躯を持つルーカスに睨まれた熊寺は、
「そ、そうだな。つい我を忘れてしまった」
と素直に反省すると、剣道部の部員を隅に集合させ、ミーティングを始めた。どうやら、団体戦に出場するメンバーを発表しているようだ。
「先鋒、倉田満!次鋒、高橋俊介!中堅、木村一郎太!副将、松平翔太!大将、坂巻俊!」
熊寺に名前を呼ばれた部員は、威勢のいい声とともに立ち上がった。
体育館が近づいてくると、竹刀がぶつかり合う音、そして、勇ましい声が聞こえてくる。私たちが一礼して体育館に入ると、部員の稽古を見ていた白髪の男が「闖入者」たちに気づいた。
「稽古やめ」
白髪の男性は稽古を中断させると、私たちの方に向かって歩いてきた。私たちの顔を見渡すと、白髪の男は、
「代表者は誰?」
とぶっきらぼうに聞いた。
「私です」
メンバーと同じく紺の袴をはき、年季の入った防具を身に着けた松尾女史が一歩前に出た。
「ほお、松竹寺のお嬢さんでしたか」
どうやら白鬚の男は、松尾女史のことを知っているようだ。松尾女史は黙ったままだ。と言うよりも、私には白髭の男を睨みつけているように見えた。何かしらの因縁を感じさせる目つきだ。事情を何も知らない私たちは、松尾女史が今にも白髭の男を叩きのめしそうで、ハラハラした。
「ええ。松竹寺の松尾です。熊寺さんは京都医科大学の剣道部の顧問をお勤めでしたか」
松尾女史が表情一つ変えずに言う。
「松尾さん、この方をご存知なんですか?」
と私は尋ねた。
「ええ。この人は金閣寺で有名な衣笠で里田道場を経営している熊寺さんです。とっても道場の経営が上手でね、私たちが去年の京都市大学剣道競技会で惨敗するやいなや、松竹寺の弟子を大勢強奪していったのよ」
と言い、顔を怒りで赤くした。一方の熊寺は涼し気な表情で、
「負け犬の遠吠えってやつかな」
と嘲笑った。松尾女史は必死に挑発に乗らないように自分を律している。そして、溜息を一つつくと、今度は作り笑いを浮かべ、
「あなただけには絶対に負けません。ビジネス剣道家の熊さん」
と言い放った。松尾女史に冷ややかな視線を浴びせていた熊寺だったが、ビジネス剣道家呼ばわりされると顔を紅潮させた。そして、突然手にもっていた竹刀の先端を松尾女史の顔に向けると、
「ほざけ!」
と叫んだ。
異変に気づいた医科大学剣道部の部員たちが、師匠に続けとばかりに、殺気立った表情で駆け付けた。そして、竹刀を私たちに向けて構えた。
その時、ルーカスがすっと松尾女史と熊寺の間に割って入る。そして、表情一つ変えずに、
「これは私たちの戦いです。どうか剣を収めて下さい」
と言った。
「どけ、でくの坊!この減らず口の女を叩きのめさないと気が済まん!」
しかし、ルーカスはその場を一歩も動かない。苛立ちが頂点に達した熊寺は、竹刀の先をルーカスの胸元に突き付け、
「どけ!」
と怒鳴り、突然、ルーカスの額に向けて竹刀を振り下ろした。
次の瞬間、私たちは信じられない光景を目にする。
ルーカスは頭部に向かって振り下ろされた竹刀を右手でやすやすと掴むと、その恐るべき握力で竹刀を握りつぶしてしまった。
「あ・・・」
熊寺は言葉を失った。ルーカスの怪力を知らない京都医科大学剣道部の部員たちは口をあんぐりと開け、絶句した。
「これは冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルと京都医科大学剣道部の戦いです」
百九十センチを超える体躯を持つルーカスに睨まれた熊寺は、
「そ、そうだな。つい我を忘れてしまった」
と素直に反省すると、剣道部の部員を隅に集合させ、ミーティングを始めた。どうやら、団体戦に出場するメンバーを発表しているようだ。
「先鋒、倉田満!次鋒、高橋俊介!中堅、木村一郎太!副将、松平翔太!大将、坂巻俊!」
熊寺に名前を呼ばれた部員は、威勢のいい声とともに立ち上がった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる