冷泉堂大学剣道部改め剣道サークル

Karasumaru

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京都医科大学VS冷泉堂大学剣道部改め剣道サークル

奇策

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会場の全員の視線が審判に注がれる。審判は二本の旗を下方向に向け、身体の前で交差させた。この旗の振り方は、有効打ではないという意味だ。

冷泉堂大学陣営から安堵の溜息が漏れる。間一髪で、クリーンヒットを免れたようだ。

「命拾いしたな」
倉島がダンディー霧島に囁く。ダンディーは倉島を無視した。

自信に満ち溢れた表情の倉島であったが、内心軽いショックを受けていた。密かに冷泉堂大の戦力をチェックしていた師範の熊寺からダンディーの剣道歴を聞いていた倉島は、楽に勝てると考えていた。実際にダンディーの胴打ちをかわした時、絶対的な実力差を体感していた。そのため、プレッシャーをかければ、確実に一発で仕留められると思っていた。ある程度の手応えはあったが、有効打にはならなかった。確かにダンディーの面には当たっていたが、ダンディーは竹刀が当たる瞬間に少し顔をそむけていた。そのため、倉島の竹刀はダンディーの面の中央ではなく、端を叩いていた。

この攻防をきっかけに、試合の展開は大きく変わった。倉島が積極的に攻め始めたのだ。

倉島の面打ちが再びダンディーの面を襲う。ヒットした。しかし、審判は有効打とは認めなかった。再び竹刀が面に当たる瞬間に顔を横に傾け、クリーンヒットを逃れていたのだ。三打目、四打目と、そして、五打目もダンディーの面に当たったが、やはり有効打とは見なされなかった。それどころか空振りが目立つようになった。

「何遊んでるんだ、倉島!さっさと仕留めろ!」
熊寺の甲高い怒号が飛んだ。

『なぜだ、なぜ、有効打にならない』
倉島は焦燥に駆られた。表面的な形勢に関しては、積極的に攻撃を仕掛けている倉島が圧倒的に有利であった。このまま試合が終了すれば、判定で倉島が勝つはずだ。しかし、心理面の戦いでは完全に形勢逆転していた。

試合が再開され、倉島はダンディー霧島を睨みつけようとしたが、できなかった。ダンディーがウィンクを投げかけてきたのだ。

ダンディーの奇抜な挑発を受けた倉島は、
「この素人が!なめんなよ!」
と叫び、渾身の力を込めて面打ちを放った。しかし、やはり有効打にはならず、竹刀で弾かれてしまった。

倉島は鍔迫り合いを挑んだ。自力で勝る倉島が徐々にダンディーを後退させる。しかし、ダンディーはまったく焦っていなかった。むしろ、その表情からは余裕すら感じられた。

そして、ウィンクに続き、今度は口をすぼめ、キスするような表情を作った。
「貴様ぁぁぁ!!!!」
完全に頭に血がのぼった倉島は、鍔迫り合いを止め、再び面を打つため、少し距離を取ろうとした。

次の瞬間、信じられない出来事が私たちの目の前で起きていた。

しばらくは顔のパーツしか動かしていなかったダンディーが、距離を取ろうとして後退した倉島の一瞬の隙をついて、力の入った面打ちを食らわしたのだ。

再び会場中の視線が審判に集まる。

審判は赤い旗を斜め上方向に上げ、
「面あり」
と、ダンディー霧島の勝利を宣言した。
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