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赤備え
復活
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「大将、前へ!」
審判の声で私は特設の試合会場へと足を踏み入れた。
今回の試合会場は、松竹寺道場や通常の会場とは明らかに雰囲気が違う。まず、社殿に囲まれて試合をすることは稀だ。いや、恐らく一生に一度の経験になるだろう。さながら御前試合のようである。南には京都のランドマークの一つに数えられる大鳥居が見える。
今回の大会では、京都のテレビ局のクルーが試合を撮影していた。どうやら、無類の強さを誇る京仙院大学の剣道部を取材しているようだ。
白線で囲まれたコートに入ろうとした時、北村雄平とネイサン・ミラーがインタビューを受けている姿が視界に入った。私に気づいた北村が少し驚いているように見えた。
コートに三歩ほど入ったところで、私は呼吸を整え、正面の相手を見据え、礼をした。相手も礼をした後、開始線に向けて歩みを進めた。
「それでは、冷泉堂大学と洛南大学の大将戦を始めます。今までの試合経過は二対二の五分。この試合に勝った方が京仙院大学との決勝戦に進みます」
「はい」
「はい」
私と洛南大学剣道部の大将は同時に言い、蹲踞した後、共に中段に構えた。
この試合は決勝戦へと駒を進めるチームを決める戦いであり、また、大将戦でもある。
会場のボルテージは一気に上がった。テレビ局の取材陣は北村雄平のインタビュー
を中断し、決戦の場にカメラを向けた。
洛南大学の大将、逸見清武は、大将を任されているだけあり、剣道歴十年をこえる強者だ。構えを見ただけで私は相手の強さが分かった。しかし、私は臆することなく勝負を挑んだ。胴を狙い、面を狙い、小手を狙い、そして、また面を狙う。相手もまた、積極的に攻撃を仕掛けてくる。
会場から両校の大将に対する声援が飛ぶ。私は完全に勝負に集中していた。一方の逸見は若干集中力を欠いているように私には思えた。テレビカメラが気になるようだ。
以前の私であれば同じように試合に身が入らなかったかもしれない。恐らく、無理やりカメラに映ろうとしただろう。ウィンクぐらいはしていたはずだ。
しかし、恋に破れ、友を裏切り、父に叩きのめされ、どん底を味わった私にとっては、そんなことはどうでもよかった。この勝負に自分の持つ力を全て注ぎ込むだけだ。
逸見の視線がちらちら私からカメラに移る。私は故意に逸見の顔がカメラに向くように誘導した。
その瞬間、逸見はカメラを直視し、そして、上目遣いでカメラを見た。一番自信のある表情なのだろう。
そこで私は電撃の面打ちを見舞った。
逸見から『しまった』という声が漏れた。その時には勝負は決していた。
「勝負あり」
逸見ががっくりと肩を落とし、自陣に戻っていく。
冷泉堂大学の陣営に戻る途中で、北村雄平が私を見ていることに気づいた。苦虫を噛み潰したような顔をしている。強い嫌悪感がにじみ出ていた。北村雄平が私をここまで嫌う理由が私には全く分からなかった。北村は恋敵である私に勝利したのであり、余裕で構えていてもいいはずである。
審判の声で私は特設の試合会場へと足を踏み入れた。
今回の試合会場は、松竹寺道場や通常の会場とは明らかに雰囲気が違う。まず、社殿に囲まれて試合をすることは稀だ。いや、恐らく一生に一度の経験になるだろう。さながら御前試合のようである。南には京都のランドマークの一つに数えられる大鳥居が見える。
今回の大会では、京都のテレビ局のクルーが試合を撮影していた。どうやら、無類の強さを誇る京仙院大学の剣道部を取材しているようだ。
白線で囲まれたコートに入ろうとした時、北村雄平とネイサン・ミラーがインタビューを受けている姿が視界に入った。私に気づいた北村が少し驚いているように見えた。
コートに三歩ほど入ったところで、私は呼吸を整え、正面の相手を見据え、礼をした。相手も礼をした後、開始線に向けて歩みを進めた。
「それでは、冷泉堂大学と洛南大学の大将戦を始めます。今までの試合経過は二対二の五分。この試合に勝った方が京仙院大学との決勝戦に進みます」
「はい」
「はい」
私と洛南大学剣道部の大将は同時に言い、蹲踞した後、共に中段に構えた。
この試合は決勝戦へと駒を進めるチームを決める戦いであり、また、大将戦でもある。
会場のボルテージは一気に上がった。テレビ局の取材陣は北村雄平のインタビュー
を中断し、決戦の場にカメラを向けた。
洛南大学の大将、逸見清武は、大将を任されているだけあり、剣道歴十年をこえる強者だ。構えを見ただけで私は相手の強さが分かった。しかし、私は臆することなく勝負を挑んだ。胴を狙い、面を狙い、小手を狙い、そして、また面を狙う。相手もまた、積極的に攻撃を仕掛けてくる。
会場から両校の大将に対する声援が飛ぶ。私は完全に勝負に集中していた。一方の逸見は若干集中力を欠いているように私には思えた。テレビカメラが気になるようだ。
以前の私であれば同じように試合に身が入らなかったかもしれない。恐らく、無理やりカメラに映ろうとしただろう。ウィンクぐらいはしていたはずだ。
しかし、恋に破れ、友を裏切り、父に叩きのめされ、どん底を味わった私にとっては、そんなことはどうでもよかった。この勝負に自分の持つ力を全て注ぎ込むだけだ。
逸見の視線がちらちら私からカメラに移る。私は故意に逸見の顔がカメラに向くように誘導した。
その瞬間、逸見はカメラを直視し、そして、上目遣いでカメラを見た。一番自信のある表情なのだろう。
そこで私は電撃の面打ちを見舞った。
逸見から『しまった』という声が漏れた。その時には勝負は決していた。
「勝負あり」
逸見ががっくりと肩を落とし、自陣に戻っていく。
冷泉堂大学の陣営に戻る途中で、北村雄平が私を見ていることに気づいた。苦虫を噛み潰したような顔をしている。強い嫌悪感がにじみ出ていた。北村雄平が私をここまで嫌う理由が私には全く分からなかった。北村は恋敵である私に勝利したのであり、余裕で構えていてもいいはずである。
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