冷泉堂大学剣道部改め剣道サークル

Karasumaru

文字の大きさ
51 / 66
赤備え

復活

しおりを挟む
「大将、前へ!」

審判の声で私は特設の試合会場へと足を踏み入れた。

今回の試合会場は、松竹寺道場や通常の会場とは明らかに雰囲気が違う。まず、社殿に囲まれて試合をすることは稀だ。いや、恐らく一生に一度の経験になるだろう。さながら御前試合のようである。南には京都のランドマークの一つに数えられる大鳥居が見える。

今回の大会では、京都のテレビ局のクルーが試合を撮影していた。どうやら、無類の強さを誇る京仙院大学の剣道部を取材しているようだ。

白線で囲まれたコートに入ろうとした時、北村雄平とネイサン・ミラーがインタビューを受けている姿が視界に入った。私に気づいた北村が少し驚いているように見えた。

コートに三歩ほど入ったところで、私は呼吸を整え、正面の相手を見据え、礼をした。相手も礼をした後、開始線に向けて歩みを進めた。

「それでは、冷泉堂大学と洛南大学の大将戦を始めます。今までの試合経過は二対二の五分。この試合に勝った方が京仙院大学との決勝戦に進みます」
「はい」
「はい」
私と洛南大学剣道部の大将は同時に言い、蹲踞した後、共に中段に構えた。

この試合は決勝戦へと駒を進めるチームを決める戦いであり、また、大将戦でもある。

会場のボルテージは一気に上がった。テレビ局の取材陣は北村雄平のインタビュー
を中断し、決戦の場にカメラを向けた。

洛南大学の大将、逸見清武は、大将を任されているだけあり、剣道歴十年をこえる強者だ。構えを見ただけで私は相手の強さが分かった。しかし、私は臆することなく勝負を挑んだ。胴を狙い、面を狙い、小手を狙い、そして、また面を狙う。相手もまた、積極的に攻撃を仕掛けてくる。

会場から両校の大将に対する声援が飛ぶ。私は完全に勝負に集中していた。一方の逸見は若干集中力を欠いているように私には思えた。テレビカメラが気になるようだ。

以前の私であれば同じように試合に身が入らなかったかもしれない。恐らく、無理やりカメラに映ろうとしただろう。ウィンクぐらいはしていたはずだ。

しかし、恋に破れ、友を裏切り、父に叩きのめされ、どん底を味わった私にとっては、そんなことはどうでもよかった。この勝負に自分の持つ力を全て注ぎ込むだけだ。

逸見の視線がちらちら私からカメラに移る。私は故意に逸見の顔がカメラに向くように誘導した。

その瞬間、逸見はカメラを直視し、そして、上目遣いでカメラを見た。一番自信のある表情なのだろう。

そこで私は電撃の面打ちを見舞った。

逸見から『しまった』という声が漏れた。その時には勝負は決していた。
「勝負あり」
逸見ががっくりと肩を落とし、自陣に戻っていく。

冷泉堂大学の陣営に戻る途中で、北村雄平が私を見ていることに気づいた。苦虫を噛み潰したような顔をしている。強い嫌悪感がにじみ出ていた。北村雄平が私をここまで嫌う理由が私には全く分からなかった。北村は恋敵である私に勝利したのであり、余裕で構えていてもいいはずである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...