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【七ノ章】日輪が示す道の先に
第二二六話 迷走の果てに
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アカツキ・クロトは迷っていた。
思いもよらない、壮大で途方も無い敵の残影。
近くに居て気づかない、気づけるはずもない仲間の真相。
日輪の国に蔓延った病魔の元凶にまつわる、悲壮な復讐譚。
これまでに知った度重なる驚愕の真実に思考を振り回され、難解で入り乱れ、複雑化した状況にクロトは迷っていた。
「具合はどうだ? 気分が悪かったりはしないか?」
「ひとまず、大丈夫です……なんとも、ありません」
食人衝動によって消耗し、気を失ったカグヤは目覚めた。しかし自身に起きた未知の現象に疲弊し、怯え、肩を竦ませている。
そんな彼女を心配して声を掛けるオキナもまた、当たり障りのない言葉で正気を取り戻しているか確認していた。
互いに間合いを見図って、上手く踏み込めず。
いずれ軋轢が生じるのは間違いないと思わせるほどに、家族間の空気は夏の季節と反対に冷え切っていた。
『疑念と困惑の頂点に達し、何をすればいいかも分からず、ただ惰性で応答しているだけのように見えるな』
『致し方あるまい。クロトを食いかけた自身の異常性など誰よりも把握している上、その反動ゆえか食欲も湧いていないようだからな。活力が無いように見えるのも仕方がない』
『そもそも呑気に飲食をしている場合ではない、という観念から来る拒絶反応にも思えますね。……うーん、ここにオキナさんの娘でないという情報を流し込んでよいものでしょうか?』
『鬼のアヤカシ族として、カグヤという子女としても自覚しなくてはならない事態だ。そう期間を空かずに再び食人衝動が起これば、今度は防げるかどうかわからんのだぞ。誰も彼もがクロトのように金剛の精神を保持し、受け入れる土台がある訳ではなかろうが……自身の血の定めを知るべきだ』
お前、後でシバくぞ、と。
脳内で語り、好き勝手にのたまうキノスへ心中で言及しながら、クロトはやるべき事柄をまとめていた。
“淵源の戒刀”及び黒の魔剣を入手するには、ナナシの復讐を手伝わねばならない。
復讐相手はかつて日輪の国に死を振り撒いた病魔の元凶であり、龍脈──星の命を蝕むホシハミの尖兵である可能性が高い。
目的を遂行する為には強力な仲間の存在が不可欠であり、その事情を抜きにしても食人衝動で苦しむカグヤを助けたい。
食人衝動を解消するには真に愛する者と支え合わねばならず、医学的にも体質的にも実証された解決法を実施しなくてはならない。
だというのに、オキナとツグミはカグヤの本当の両親ではない。
ナナシの詳細は省いた上で鬼のアヤカシ族と人間のハーフであると打ち明け、信じてもらわねばならない。
加えて早急に好いた者と恋仲にならねば今後一生、衝動に苛まれたまま生き続ける羽目になってしまうのだ、と。
今までの根底を覆すような、重く辛い現実を突きつけること。
それを身内のオキナはともかく、第三者であるクロトの口から伝えること。
聞かされた上でカグヤの精神状態が酷く揺らぎ、動揺すれば鬼の血がどう作用するか分からないこと。
エリックやシルフィには頼れない、センシティブでデリケートな問題。
解決するにはあまりにも、あまりにもやらなくてはならない事が多過ぎる。
室内に漂う無言の空気、目が合えば気まずそうに逸らし、歯噛みする両者に何か出来ることはないか、と。
ぐっと拳を握り、淡く光る結晶灯を見上げ、呼吸を繰り返して。
悩みに悩み、考え抜いた先で到達した答えは。
『──そうだ。ナナシの口から言わせればいいや』
『えっ』
思考放棄に近しい責任のぶん投げ、もとい事の発端に関与する当人からの証言と証拠を提示させることだった。
◆◇◆◇◆
そうして事情を知る者に心当たりがある、と。
ハッと顔を上げたカグヤ、目を見開くオキナの視線を一身に受けて。
とにかく今は身体を休め、早朝に三人で屋敷を出発しよう、と。
使用法を把握し始めた万縁の魔眼で、一度できたナナシとの繋がりを確認して。
淡い縁の糸が向かう先。
ナナシが潜伏していた廃屋を目指して突き進んだ彼らは。
「クロトさんから聞きました。貴方は私の身に起きた異変について詳しく知っている、と。……まさか、それがカラミティの構成員だとは思いもしませんでしたが」
先手を打って言葉を発したカグヤに動揺しつつも。
恨めしそうに視線をぶつけてくるナナシと対座し、事の全てを明らかにしてもらう事としたのだった。
思いもよらない、壮大で途方も無い敵の残影。
近くに居て気づかない、気づけるはずもない仲間の真相。
日輪の国に蔓延った病魔の元凶にまつわる、悲壮な復讐譚。
これまでに知った度重なる驚愕の真実に思考を振り回され、難解で入り乱れ、複雑化した状況にクロトは迷っていた。
「具合はどうだ? 気分が悪かったりはしないか?」
「ひとまず、大丈夫です……なんとも、ありません」
食人衝動によって消耗し、気を失ったカグヤは目覚めた。しかし自身に起きた未知の現象に疲弊し、怯え、肩を竦ませている。
そんな彼女を心配して声を掛けるオキナもまた、当たり障りのない言葉で正気を取り戻しているか確認していた。
互いに間合いを見図って、上手く踏み込めず。
いずれ軋轢が生じるのは間違いないと思わせるほどに、家族間の空気は夏の季節と反対に冷え切っていた。
『疑念と困惑の頂点に達し、何をすればいいかも分からず、ただ惰性で応答しているだけのように見えるな』
『致し方あるまい。クロトを食いかけた自身の異常性など誰よりも把握している上、その反動ゆえか食欲も湧いていないようだからな。活力が無いように見えるのも仕方がない』
『そもそも呑気に飲食をしている場合ではない、という観念から来る拒絶反応にも思えますね。……うーん、ここにオキナさんの娘でないという情報を流し込んでよいものでしょうか?』
『鬼のアヤカシ族として、カグヤという子女としても自覚しなくてはならない事態だ。そう期間を空かずに再び食人衝動が起これば、今度は防げるかどうかわからんのだぞ。誰も彼もがクロトのように金剛の精神を保持し、受け入れる土台がある訳ではなかろうが……自身の血の定めを知るべきだ』
お前、後でシバくぞ、と。
脳内で語り、好き勝手にのたまうキノスへ心中で言及しながら、クロトはやるべき事柄をまとめていた。
“淵源の戒刀”及び黒の魔剣を入手するには、ナナシの復讐を手伝わねばならない。
復讐相手はかつて日輪の国に死を振り撒いた病魔の元凶であり、龍脈──星の命を蝕むホシハミの尖兵である可能性が高い。
目的を遂行する為には強力な仲間の存在が不可欠であり、その事情を抜きにしても食人衝動で苦しむカグヤを助けたい。
食人衝動を解消するには真に愛する者と支え合わねばならず、医学的にも体質的にも実証された解決法を実施しなくてはならない。
だというのに、オキナとツグミはカグヤの本当の両親ではない。
ナナシの詳細は省いた上で鬼のアヤカシ族と人間のハーフであると打ち明け、信じてもらわねばならない。
加えて早急に好いた者と恋仲にならねば今後一生、衝動に苛まれたまま生き続ける羽目になってしまうのだ、と。
今までの根底を覆すような、重く辛い現実を突きつけること。
それを身内のオキナはともかく、第三者であるクロトの口から伝えること。
聞かされた上でカグヤの精神状態が酷く揺らぎ、動揺すれば鬼の血がどう作用するか分からないこと。
エリックやシルフィには頼れない、センシティブでデリケートな問題。
解決するにはあまりにも、あまりにもやらなくてはならない事が多過ぎる。
室内に漂う無言の空気、目が合えば気まずそうに逸らし、歯噛みする両者に何か出来ることはないか、と。
ぐっと拳を握り、淡く光る結晶灯を見上げ、呼吸を繰り返して。
悩みに悩み、考え抜いた先で到達した答えは。
『──そうだ。ナナシの口から言わせればいいや』
『えっ』
思考放棄に近しい責任のぶん投げ、もとい事の発端に関与する当人からの証言と証拠を提示させることだった。
◆◇◆◇◆
そうして事情を知る者に心当たりがある、と。
ハッと顔を上げたカグヤ、目を見開くオキナの視線を一身に受けて。
とにかく今は身体を休め、早朝に三人で屋敷を出発しよう、と。
使用法を把握し始めた万縁の魔眼で、一度できたナナシとの繋がりを確認して。
淡い縁の糸が向かう先。
ナナシが潜伏していた廃屋を目指して突き進んだ彼らは。
「クロトさんから聞きました。貴方は私の身に起きた異変について詳しく知っている、と。……まさか、それがカラミティの構成員だとは思いもしませんでしたが」
先手を打って言葉を発したカグヤに動揺しつつも。
恨めしそうに視線をぶつけてくるナナシと対座し、事の全てを明らかにしてもらう事としたのだった。
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