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【六ノ章】取り戻した日常
第一四〇話 無敵要塞の突破方法
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「「うおらあああああああッ!」」
セリスと共に雄叫びを上げて、肉薄したキュクロプスの両脚へ攻撃を仕掛ける。
見た目よりも軽快に動くのは岩石投擲で把握済み。加えて、ミスリルの特性を備えたユニークモンスターに様子見なんてしていられない。息つく暇もなくこっちの勢いに引きずり込む!
右手で強く握り締めて、魔力操作で身体強化。紅の光芒が皮膚を走る。
腰を捻り、大外から遠心力を加えたトマホークを思いっきり膝にぶち当てた。
しかし、ガギンッ、と。
金属音と火花を散らしてトマホークが弾かれた。強烈な痺れが腕に残る。
横目で飛散する欠けた刃を視認し、攻撃を当てた箇所へ視線を向ければ傷一つ無かった。
比較的脆そうな関節に狙いを定めた、破壊力重視のトマホークでも有効打にならないのか。
御旗の槍斧を戦斧の如く振り回しているセリスも同様に、キュクロプスの鎧に瞠目していた。
「なんっじゃこりゃ、かってぇんだけど!」
『伊達にミスリルを喰ってるだけのことはあるか。生半可な攻撃ではダメージを与えられんな』
「心底めんどい! セリス、爆薬を投げる! 離れて!」
「あいよ!」
煙幕を展開する爆薬の導火線を点火。
セリスが離れていくのを確認し、使い物にならなくなったトマホークに括りつけ、見下ろそうとしてきたキュクロプスの顔面にぶん投げる。
ものの見事に弾かれた挙句、意にも介さないが、雲のように溢れ出した仄暗い色味の煙幕は虚を突いたらしい。目眩ましは効果あり、と。
短くも耳にした悲鳴はキュクロプスの動揺そのもの。煙幕に背を押されるように駆け出し、セリスと合流。
十分な間合いを取り、右膝をつき、左足を前に出して姿勢安定。背負っていた複合弓を構え、矢を二本番え、弦を引く。
身体に纏わりつく煙幕を払わんと、キュクロプスは両腕を大きく振り回していた。
奴の単眼は魔素器官も兼ねているようで、影に紛れていても光を灯していて目立つ。不気味なダンスを踊り続ける巨人を射るべく、そこに狙いを定めた。
静寂の中にあるのはただ矢を当てる一心のみ。静かに引き絞った弦を放す。
予測した弾道上の風を切り、吸い込まれるように的へ飛来した二本の矢が鈍い音を鳴らした。
『記憶を見たが、恐ろしく正確な射撃だ。遠・中・近距離においてここまで隙が無い者などそうはいないだろう』
「味方だと心強いぜ。んで、目は潰せた?」
「当たりはしたけど、手応えが無い。防がれたか?」
煙幕に動きは無い。それどころか、仰け反った姿勢からキュクロプスは微動だにしていない。
霊峰の風にミスリルの魔法耐性を考慮して、爆薬矢でなく普通の矢を射ることにしたが、判断ミスだったか。
今度は“終炎”を取り付けた矢を番おうと矢筒に手を掛けた瞬間、周囲の魔素が鳴動し、地面を揺らす。
「こいつは、ドレッドノートの時にも感じた……」
「魔素反応だ。でも指向性が無い……何かに感応している?」
さっきから鳥肌が止まらない。何か、良からぬことが起きようとしている。
その正体がキュクロプスであると、漠然な理解を得たと同時に。
煙幕の奥で光度を増した単眼がこちらに向けられた──死のイメージが脳裏をよぎる。
『っ、まずい!』
「セリスッ!」
「おわぁ!?」
複合弓と手にしていた爆薬矢を放り捨てて、セリスを担いで跳び退く。
その直後、矢のお返しと言わんばかりに。閃光の後に放たれた光線が射撃位置を通過。
熱を伴うそれは複合弓を破砕し、採掘現場を縦に溶断し、余波で爆発を巻き起こした。
砂地の部分を硝子化させる惨状を目の当たりにして、破片ごと衝撃を受けた俺達は何度か転がってようやく静止。
「おいおいおいおい!? ドレッドノートよりもシャレになってねぇ威力の技なんだが!?」
『光と土属性の魔素反応だ。好相性という訳でもあるまいに、何故……』
「俺の朱鉄と同じだ。ミスリルは魔装具としても優秀な素材なんだよ。異なる属性の魔力をまとめて扱える……二つの属性程度なら相性に関係なく使えるはずだ」
「小賢しいユニーク、というよりは変異種の特権ってことかい! ズルくね!?」
「まったくだ」
悪態を吐いたセリスと共に立ち上がり、魔導剣を抜いてトライアルマギアにアブソーブボトルを装填。
魔力エンチャントによる火力の上昇、シフトドライブは意味が無い。推進力を得るだけの組み合わせ、火属性と風属性で対応する。
「っつーか、矢は意味あったのか?」
「見てみ、アイツの口元」
『口元?』
ゴートの疑問口調に釣られてセリスがキュクロプスを睨みつける。
光線を放ったであろう単眼から煙を出しながら、歯茎剥き出しの笑みを浮かべる奴の口には矢が一本、挟まれていた。
もう一本は直撃したが貫通力が足りなかったのだろう。むしゃむしゃと噛み砕かれた矢を吐き捨て、更に意地悪く笑みを深めた。魔導剣を握る力が強まる。
「ふざけた挑発してくれるじゃあないかぁ……」
「いいツラしてんなぁ、野郎。ぶっ潰してやるよぉ……」
『光線の魔素反応に気を付けて殺意をぶつけてこい』
「「あいよ」」
使わなくなった矢を抜き捨てて、空になった矢筒の中にありったけの爆薬を詰め込んで駆け出す。
向こうもようやく攻勢に出れると踏んだのか、地面を揺らして走り出してきた。道中に転がっていた岩や光線によって形成された硝子の礫を投げてくる。
無造作でも人を殺すには過剰な殺傷力を持った質量の塊だ。狙いを分散させるよう左右に分かれ、セリスが動作の阻害を目的に魔法で水球を数個ほど形成。
キュクロプスの周囲に浮遊させ、内一つを胴体にぶつける。魔法はともかく、魔法で生成された水は無力化できない。
「ソラ、来てくれ」
『キュ、キュアッ!』
濡れ鼠になっても気にすることなく、水球も脅威でないと判断しているのか。
近づいてくるキュクロプスを見やってソラを召喚。召喚陣から飛び出してきたソラは臨戦態勢を取りつつ肩に乗る。
そのまま状況を把握し、何を求められているか理解したのだろう。
魔力を高め、周囲の魔素を手繰り寄せ、ソラは雷属性の魔法陣を展開。高所を取るべく、整備された坂道を上がっていく。
「《オーダー》=《コンセントレート》、《サンダー・レイジ》!」
『キュイィィ……キュ!』
スキルで強化された高火力、広範囲な雷魔法。紫電を散らしながら、キュクロプスに放出された魔法はセリスが漂わせていた水球と反応。
好相性な組み合わせによって威力が増大した上に、キュクロプス自体が水に濡れていたことも相まった結果。
巨大な光の柱が出来上がったと錯覚するほどの大雷が巨人を呑み込んだ。
鼓膜が破けそうな程の雷鳴と悲鳴が霊峰中に反響する。魔法接触の外傷は防げても内部を貫通し、焦げ付かせる雷撃は痛かろうて。
「セリス、ソラと一緒に待機してて!」
『キュッキュ!』
「アンタはどうする!?」
「雷を避けて悶えてるアイツの目玉を抉り抜く!」
『当たり前のように言っているが狂人の発想だぞ』
元気よく手を振り上げて応えたソラを肩から降ろし、大雷の下へ。
露天掘りの坂道を駆け下りながら、グリップを三回転。最大出力のシフトドライブを保ったまま、雷の壁を注視。
本来の魔法より強力になった即席の合体魔法といえど綻びは通常時よりは大きく、付け入る隙もある。
緩慢に流れる世界の中で確かに存在する魔法式、その構成が生み出す途切れを見定めて雷の壁をくぐり抜けた。
雷光が弾ける空間の中で、身体を硬直させたキュクロプスの頭部を目掛けて跳躍。
腐ってもユニーク変異種なだけあって頑健だ。しかも、自身の両手で魔素器官たる単眼を守っている。
瞼を閉じればいいものを……だが、狙わせてもらう。
わずかに隙間が見えた。レバーを引き、噴き出した火属性の推進力を得た高威力の突きを……
『──クロト、罠だッ! 奴は光線をバラ撒くつもりだ!』
「……何!?」
視界を通して危険を察知したゴートの、焦りを含んだ制止の声で身体が止まる。
見下ろしたキュクロプスの両手からは、確かに光線と同じ色味の魔素が漏れ出していた。雷光に何もかも遮られて気付くのが遅れた。
緩慢に流れる視界の中で、光線の輝きが徐々に増していく。
ニヤリ、と。両手の奥でキュクロプスが瞳を細め、涎を滴らせる口が弧を描く。
『っ、そうか、単眼を両手で守っていたんじゃない。あえて塞ぐことでミスリルの魔力分散を利用し、自分ごと巻き込んだ広範囲攻撃で雷を相殺しようと……』
『離脱しろ! いかに頑丈な君でも直撃は耐えられん!』
『無理だ。既に発射寸前だし、どこに逃げても雷に焼かれる!』
大雷の中へ無理矢理に突っ込んだ弊害がここで来るか。速攻で倒すことを意識し過ぎて、選択を見誤った!
完全同調なら……ダメだ、間に合わない! くそ……自滅覚悟ってんなら、こっちにだって考えがあんだよ!
「お、らあああああああああッ!!」
シフトドライブの突きから大上段へ構え直し、強化された腕力で振り下ろす。
甲高い金属音と衝撃。赤熱した朱鉄の魔導剣とミスリルが拮抗し、しかし押し切って。
キュクロプスの両手を更に頭部へ押し当てる。困惑が口元から読み取れた。
『それだけやるんならよぉ、密着状態でぶっ放したら、自分の目玉も無事とはいかないんじゃあないのか? 我慢比べは得意な方だぜ、やってみろよくそったれ!』
『何度も尋ねている気もするが正気か!?』
『痛覚は切っておけよ、巻き込まれたくなければな……!』
直後、雷にも負けない眩い閃光が視界を埋め尽くした──
セリスと共に雄叫びを上げて、肉薄したキュクロプスの両脚へ攻撃を仕掛ける。
見た目よりも軽快に動くのは岩石投擲で把握済み。加えて、ミスリルの特性を備えたユニークモンスターに様子見なんてしていられない。息つく暇もなくこっちの勢いに引きずり込む!
右手で強く握り締めて、魔力操作で身体強化。紅の光芒が皮膚を走る。
腰を捻り、大外から遠心力を加えたトマホークを思いっきり膝にぶち当てた。
しかし、ガギンッ、と。
金属音と火花を散らしてトマホークが弾かれた。強烈な痺れが腕に残る。
横目で飛散する欠けた刃を視認し、攻撃を当てた箇所へ視線を向ければ傷一つ無かった。
比較的脆そうな関節に狙いを定めた、破壊力重視のトマホークでも有効打にならないのか。
御旗の槍斧を戦斧の如く振り回しているセリスも同様に、キュクロプスの鎧に瞠目していた。
「なんっじゃこりゃ、かってぇんだけど!」
『伊達にミスリルを喰ってるだけのことはあるか。生半可な攻撃ではダメージを与えられんな』
「心底めんどい! セリス、爆薬を投げる! 離れて!」
「あいよ!」
煙幕を展開する爆薬の導火線を点火。
セリスが離れていくのを確認し、使い物にならなくなったトマホークに括りつけ、見下ろそうとしてきたキュクロプスの顔面にぶん投げる。
ものの見事に弾かれた挙句、意にも介さないが、雲のように溢れ出した仄暗い色味の煙幕は虚を突いたらしい。目眩ましは効果あり、と。
短くも耳にした悲鳴はキュクロプスの動揺そのもの。煙幕に背を押されるように駆け出し、セリスと合流。
十分な間合いを取り、右膝をつき、左足を前に出して姿勢安定。背負っていた複合弓を構え、矢を二本番え、弦を引く。
身体に纏わりつく煙幕を払わんと、キュクロプスは両腕を大きく振り回していた。
奴の単眼は魔素器官も兼ねているようで、影に紛れていても光を灯していて目立つ。不気味なダンスを踊り続ける巨人を射るべく、そこに狙いを定めた。
静寂の中にあるのはただ矢を当てる一心のみ。静かに引き絞った弦を放す。
予測した弾道上の風を切り、吸い込まれるように的へ飛来した二本の矢が鈍い音を鳴らした。
『記憶を見たが、恐ろしく正確な射撃だ。遠・中・近距離においてここまで隙が無い者などそうはいないだろう』
「味方だと心強いぜ。んで、目は潰せた?」
「当たりはしたけど、手応えが無い。防がれたか?」
煙幕に動きは無い。それどころか、仰け反った姿勢からキュクロプスは微動だにしていない。
霊峰の風にミスリルの魔法耐性を考慮して、爆薬矢でなく普通の矢を射ることにしたが、判断ミスだったか。
今度は“終炎”を取り付けた矢を番おうと矢筒に手を掛けた瞬間、周囲の魔素が鳴動し、地面を揺らす。
「こいつは、ドレッドノートの時にも感じた……」
「魔素反応だ。でも指向性が無い……何かに感応している?」
さっきから鳥肌が止まらない。何か、良からぬことが起きようとしている。
その正体がキュクロプスであると、漠然な理解を得たと同時に。
煙幕の奥で光度を増した単眼がこちらに向けられた──死のイメージが脳裏をよぎる。
『っ、まずい!』
「セリスッ!」
「おわぁ!?」
複合弓と手にしていた爆薬矢を放り捨てて、セリスを担いで跳び退く。
その直後、矢のお返しと言わんばかりに。閃光の後に放たれた光線が射撃位置を通過。
熱を伴うそれは複合弓を破砕し、採掘現場を縦に溶断し、余波で爆発を巻き起こした。
砂地の部分を硝子化させる惨状を目の当たりにして、破片ごと衝撃を受けた俺達は何度か転がってようやく静止。
「おいおいおいおい!? ドレッドノートよりもシャレになってねぇ威力の技なんだが!?」
『光と土属性の魔素反応だ。好相性という訳でもあるまいに、何故……』
「俺の朱鉄と同じだ。ミスリルは魔装具としても優秀な素材なんだよ。異なる属性の魔力をまとめて扱える……二つの属性程度なら相性に関係なく使えるはずだ」
「小賢しいユニーク、というよりは変異種の特権ってことかい! ズルくね!?」
「まったくだ」
悪態を吐いたセリスと共に立ち上がり、魔導剣を抜いてトライアルマギアにアブソーブボトルを装填。
魔力エンチャントによる火力の上昇、シフトドライブは意味が無い。推進力を得るだけの組み合わせ、火属性と風属性で対応する。
「っつーか、矢は意味あったのか?」
「見てみ、アイツの口元」
『口元?』
ゴートの疑問口調に釣られてセリスがキュクロプスを睨みつける。
光線を放ったであろう単眼から煙を出しながら、歯茎剥き出しの笑みを浮かべる奴の口には矢が一本、挟まれていた。
もう一本は直撃したが貫通力が足りなかったのだろう。むしゃむしゃと噛み砕かれた矢を吐き捨て、更に意地悪く笑みを深めた。魔導剣を握る力が強まる。
「ふざけた挑発してくれるじゃあないかぁ……」
「いいツラしてんなぁ、野郎。ぶっ潰してやるよぉ……」
『光線の魔素反応に気を付けて殺意をぶつけてこい』
「「あいよ」」
使わなくなった矢を抜き捨てて、空になった矢筒の中にありったけの爆薬を詰め込んで駆け出す。
向こうもようやく攻勢に出れると踏んだのか、地面を揺らして走り出してきた。道中に転がっていた岩や光線によって形成された硝子の礫を投げてくる。
無造作でも人を殺すには過剰な殺傷力を持った質量の塊だ。狙いを分散させるよう左右に分かれ、セリスが動作の阻害を目的に魔法で水球を数個ほど形成。
キュクロプスの周囲に浮遊させ、内一つを胴体にぶつける。魔法はともかく、魔法で生成された水は無力化できない。
「ソラ、来てくれ」
『キュ、キュアッ!』
濡れ鼠になっても気にすることなく、水球も脅威でないと判断しているのか。
近づいてくるキュクロプスを見やってソラを召喚。召喚陣から飛び出してきたソラは臨戦態勢を取りつつ肩に乗る。
そのまま状況を把握し、何を求められているか理解したのだろう。
魔力を高め、周囲の魔素を手繰り寄せ、ソラは雷属性の魔法陣を展開。高所を取るべく、整備された坂道を上がっていく。
「《オーダー》=《コンセントレート》、《サンダー・レイジ》!」
『キュイィィ……キュ!』
スキルで強化された高火力、広範囲な雷魔法。紫電を散らしながら、キュクロプスに放出された魔法はセリスが漂わせていた水球と反応。
好相性な組み合わせによって威力が増大した上に、キュクロプス自体が水に濡れていたことも相まった結果。
巨大な光の柱が出来上がったと錯覚するほどの大雷が巨人を呑み込んだ。
鼓膜が破けそうな程の雷鳴と悲鳴が霊峰中に反響する。魔法接触の外傷は防げても内部を貫通し、焦げ付かせる雷撃は痛かろうて。
「セリス、ソラと一緒に待機してて!」
『キュッキュ!』
「アンタはどうする!?」
「雷を避けて悶えてるアイツの目玉を抉り抜く!」
『当たり前のように言っているが狂人の発想だぞ』
元気よく手を振り上げて応えたソラを肩から降ろし、大雷の下へ。
露天掘りの坂道を駆け下りながら、グリップを三回転。最大出力のシフトドライブを保ったまま、雷の壁を注視。
本来の魔法より強力になった即席の合体魔法といえど綻びは通常時よりは大きく、付け入る隙もある。
緩慢に流れる世界の中で確かに存在する魔法式、その構成が生み出す途切れを見定めて雷の壁をくぐり抜けた。
雷光が弾ける空間の中で、身体を硬直させたキュクロプスの頭部を目掛けて跳躍。
腐ってもユニーク変異種なだけあって頑健だ。しかも、自身の両手で魔素器官たる単眼を守っている。
瞼を閉じればいいものを……だが、狙わせてもらう。
わずかに隙間が見えた。レバーを引き、噴き出した火属性の推進力を得た高威力の突きを……
『──クロト、罠だッ! 奴は光線をバラ撒くつもりだ!』
「……何!?」
視界を通して危険を察知したゴートの、焦りを含んだ制止の声で身体が止まる。
見下ろしたキュクロプスの両手からは、確かに光線と同じ色味の魔素が漏れ出していた。雷光に何もかも遮られて気付くのが遅れた。
緩慢に流れる視界の中で、光線の輝きが徐々に増していく。
ニヤリ、と。両手の奥でキュクロプスが瞳を細め、涎を滴らせる口が弧を描く。
『っ、そうか、単眼を両手で守っていたんじゃない。あえて塞ぐことでミスリルの魔力分散を利用し、自分ごと巻き込んだ広範囲攻撃で雷を相殺しようと……』
『離脱しろ! いかに頑丈な君でも直撃は耐えられん!』
『無理だ。既に発射寸前だし、どこに逃げても雷に焼かれる!』
大雷の中へ無理矢理に突っ込んだ弊害がここで来るか。速攻で倒すことを意識し過ぎて、選択を見誤った!
完全同調なら……ダメだ、間に合わない! くそ……自滅覚悟ってんなら、こっちにだって考えがあんだよ!
「お、らあああああああああッ!!」
シフトドライブの突きから大上段へ構え直し、強化された腕力で振り下ろす。
甲高い金属音と衝撃。赤熱した朱鉄の魔導剣とミスリルが拮抗し、しかし押し切って。
キュクロプスの両手を更に頭部へ押し当てる。困惑が口元から読み取れた。
『それだけやるんならよぉ、密着状態でぶっ放したら、自分の目玉も無事とはいかないんじゃあないのか? 我慢比べは得意な方だぜ、やってみろよくそったれ!』
『何度も尋ねている気もするが正気か!?』
『痛覚は切っておけよ、巻き込まれたくなければな……!』
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