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【六ノ章】取り戻した日常
第一四九話 エピローグ①
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フェネスの騒動を耳にして、エリックからの連絡もあって準備済みだったのだろう。
強制連行された診療所の入り口で両腕を組み、青筋を立てたオルレスさんに診察室で治療を受けた。
といっても、麓村のお医者様に手当てしてもらってそのままの包帯を取ってもらい、怪我の経過を確認してもらっただけで……本命は無茶し過ぎた説教だ。
キュクロプスの光線で残った火傷痕やら殴打によって出来たセリスの青痣など。
かれこれ一時間、良心の呵責とせめぎ合う申し訳なさを感じる口振りで言い聞かせられた。懐かしさを感じる裏にあった、ランク昇格で浮かれた気持ちが沈んでいく。
しょんぼりと肩を落として、控え室で待っていたエリック達と診療所を出る。外で待機していたフェネスの背中へセリスと一緒によじ登り、アカツキ荘まで送ってもらう。
大きなひよこ状態なら定員は二名が限度だ。カグヤの羨ましげな声が聞こえてくる。
呆れ気味なエリックにバックパックを担いで先導してもらい、不思議な集団が昼間のニルヴァーナを闊歩することに。また注目を集めてしまいそうだが、今更だ。
そうして辿り着いた、夏の陽射しに照らされた我が家たるアカツキ荘。
フェネスから降りた途端、彼女は玄関脇の空いたスペースに移動し、足を畳み、日向ぼっこに勤しみ出した。可愛い物好きなカグヤがその仕草に悶える。
思えば霊峰からずっと働きっぱなしだったからな、休んでもらわないと。……でも召喚陣に戻ろうとしないんだよなぁ。
ソラも勝手に出てきたりするし、彼女なりに理由があるのだろう。ゆっくり休んで、と告げてからアカツキ荘に入る。
リビングでエリック達とバックパックの片付け──中に入っていたミスリル鉱石に度肝を抜かれていた──を行い、帰ってきたばかりなんだからお前らも休んでろ、と。
言われてみれば疲れがぶり返してきた気がする……学園に戻る二人を見送り、しかし自室に戻る気力もなく、俺はテーブルに突っ伏して。
セリスもソファーに身体を預けると、少ししてから寝息が聞こえてきた。
開けた窓から入り込む、夏の暑さを孕んだ風に撫でられながら、まどろみに呑まれて沈んでいった──
◆◇◆◇◆
「ただいまーっ!」
大音量の元気な声でぱっと目が覚めた。
上体を起こして寝ぼけた目で辺りを見渡せば、空が夕焼けに染まりかけている。昼ご飯も食わずぐっすり眠っていたしまったらしい。
セリスも目を覚ましたが、突然の大声に驚いてソファーから転げ落ちた。頭からいったぞ、大丈夫か?
「にぃに! セリスねぇ! お帰りーっ!」
「ぐおぁ!?」
心配よりも先にリビングの扉が開かれ、背中に衝撃が走る。せ、背骨が折れるかと……!
なんとか耐えて背後に視線をやれば、衝撃の正体、というか抱き着いてきたのはユキだった。耳と尻尾が忙しなく動いている。
「た、ただいま……嬉しい気持ちは分かるけど、いきなり飛びつくのはやめてね? 腰が死んでしまうよ」
「えへへ、にぃにの匂いだぁ」
「話、聞いてる?」
腕を胴に回され、背中に顔を押し付けられる。
んもー、女の子がそんなことしないの。でも非力な俺じゃ引き剥がせないんだよね、うん……悲しいなぁ。
「ユキ? クロトさん達は護衛依頼の疲れが溜まっているのですから、あまり無理をさせてはいけませんよ」
己の貧弱な腕力を恨んでいると、続いて現れたシルフィ先生がユキを取り外してくれた。
残念そうに口を尖らせたユキは、ソファーから落ちて痛みに悶えているセリスの下へ駆け寄っていく。
「お疲れさまです。お二人とも、無事にランク昇格を果たしたとカグヤさん達から聞きました。学園長も喜んでいましたよ。何故か、執務室で盛大にコーヒーを溢していたようですが」
「何やってんだアイツ……?」
「それとオルレスさんからも連絡を頂きました。霊峰にてユニークモンスター、しかも変異種と戦闘になって負傷したそうですね? 具合が悪かったり、大事はありませんか?」
「おっふ、根回しが早い……なんともないので、その心配と怒りが混じった冷たい視線を抑えてほしいですが」
「そう思わせるだけのことをしてきたのですよ? こちら、その大きな理由となります」
ユキに介抱されているセリスを尻目に、祝いを述べる口調とは裏腹に詰めるような雰囲気を纏い、差し出してきたのはニルヴァーナで発行されている朝刊新聞。
新聞配達のアルバイトで無償配布される機会があるそれの一面には、地表露出型迷宮“霊峰”、その近辺から寄せられたであろう情報が細かく記載されていた。思わず目玉が飛び出そうになる。伝達早くない!?
霊峰の迷宮資源が市場を賑わせている、と。ロベルトさんの話から薄々と感じてはいたが、それも関係しての見出しということか。
あまりにもタイムリーな情報が広まれば、そりゃ何が起きたか問い詰めたくもなる。
「加えて、アカツキ荘の玄関脇で眠っている黄色い毛玉にも心当たりがなく、詳細を教えていただけると嬉しいのですが?」
「ええと、そのぉ……」
霊峰でのこと、キュクロプスのこと、怪我のこと、フェネスのこと。
あとついでに空中輸送でニルヴァーナへ降り立ったこと。
どれもこれも第三者が聞くには内容が濃い可能性があるし、時間も長くなりそうなのだが……
『うわーっ!? なんか毛玉がいるぅ!?』
言い淀んでいると、アカツキ荘の外から絶叫が響く。
聞き覚えのある声に誘われ、みんな揃って玄関の方へ顔を出してみれば……フェネスに抱き着く学園長の姿があった。
仕事カバンを放置して、夕焼けに照らされながらフェネスの羽毛に顔を埋める姿は、正しく不審者そのもの。自警団へ通報しかけたデバイスをポケットに仕舞う。
「うおお……モフモフだぁ……! 感覚的に召喚獣かしら? なんか荷台を運んでた時と姿が違うけど、こんなおっきくて可愛くてモフりがいがあるなら些細な話よね!」
『クルッ』
「んまぁーっ、こっちの言葉を理解してるのね? なんて賢い子なのかしら! にしても、このまま眠りたいくらい心地良い感触だわぁあああああうふふふふふっ!」
なんだか情緒不安定過ぎないか? よく見れば顔色も悪いぞ。
「先生、あの不審者どうします?」
「見るに堪えないのでリビングにつれてきてください」
「「あいあいさー」」
「はーい!」
先生の指示に従い、三人で学園長の腕、肩を取ってフェネスから引き剥がす。
「ウワーッ!? やめろー、放せぇ! “空飛ぶ馬車”に関する問い合わせやらの対応で疲れてるの! 早急に癒しが欲しいの! モフらせろぉーっ!」
「ええい、暴れるな叫ぶな黙りたまえ!」
「埒が明かねぇな。がっつり拘束してくか」
「ユキ、こっち持つね」
セリスに腕を、ユキにがっしりと足を固めてもらい、担架のような状態で連行。そのまま
いきなり変人に絡まれたフェネスのフォローに回ろうとしたが、突然の事態に驚いてはいたものの、学園長の奇行に困惑していた訳ではないらしい。
大人しく撫でられて、そして十分に身体を休めたのだろう。
学園長のカバンを回収している途中に、勝手に召喚陣を出して勝手に消えていった。自由過ぎる。
◆◇◆◇◆
「依頼主の意向で霊峰の調査、異変の原因だった迷宮主相当のキュクロプス討伐、果てには霊鳥フェネスに懐かれて契約を交わした……?」
「言っている意味は分かるのによく分からない……たった一日でどうしてそこまで不思議な体験が出来るの……?」
「すんげぇ百面相してらぁ」
リビングのテーブルで向かい合うように座って報告会をしていたが、先生と正気に戻った学園長の様子が芳しくない。
心当たりは色々とあるが、終わりよければすべてヨシッ! ということにならないだろうか。肩に頭を乗せて、甘えてきたユキを撫でながら考える。
「とりあえず、事情は把握しました。結果として護衛依頼は無事に完遂され、ランク昇格も叶い、クランとしてのアカツキ荘もギルドに認められていくことでしょう……」
「だいじょーぶ? 先生」
「問題ないですよ。ええ、何も問題はありません」
「自分に言い聞かせてないかい?」
「初めての郊外活動で暴れ過ぎたのかもしれない。胃痛の原因にならなければいいが……」
「もうなってるのよ、手遅れなのよ」
テーブルに頬杖をついて話を聞き入っていた学園長が、実に頭が痛そうに抱えた。
有無を言わせない先生の雰囲気に押されるがまま、霊峰で起きた出来事を詳しく説明しただけなのに。
「まあ、納涼祭の一件で名が売れたせいってのもあるだろうけど、しばらくは注目の的になる、くらいの認識で大丈夫だと思うわ。外野が騒ぎ立てたところで、君や他の皆は気にもしないだろうし」
「そうだねぇ……難癖付けてくるような奴が出てくるなら話は変わるが」
「不穏なこと言わないで。そうならないように情報は広めておくけど、真っ当な依頼や仕事をしていればやっかみなんて受けないんだから」
「なるほど。だから色々と斡旋してもらう為に、シエラさんを仲介人に任命したんだ?」
「根性があって強かな子だから、上手く付き合っていけると思ったのよ。シュメルとの兼ね合いもあるし、今後とも仲良くしてあげてね?」
学園長なりにアカツキ荘や“麗しの花園”との事情を考慮して動いてくれていたようだ。
ありがたい話だが、護衛依頼でニルヴァーナを少し離れていただけなのに、随分と環境が様変わりした気がする。
ランクが上がって冒険者としても一人前になった訳だし、これからはより頑張っていかないと。
子ども達の入学金返済もしないといけないからな……迷宮関連の依頼、受けていくかぁ。
「何はともあれ、期末試験の実技も無事完了したって訳で。今月の特待生依頼と合わせても面倒な用事が終わったんだし、お祝いしましょうか!」
「気に掛かることはありましたが、学生や冒険者として成長した事実に変わりはありませんからね」
「よーっし、今日は私が腕によりをかけてご飯を作ってあげる! こんなサービス、滅多にしないんだから!」
空気を切り替えるように手を叩き、学園長は諸手を挙げて意気込みを見せる。
「えっ。学園長が料理作るのか? 人のことを言えた義理じゃあねぇが、出来んのかい?」
「意外かもしれないけど、この人シルフィ先生やカグヤぐらい料理上手なんだよ。面倒くさがって普段はやらないが……だから期待していい」
「ええっ!? ただの有能なのんだくれじゃなかったのか……意外な一面だな」
「ふふん、失礼な物言いだけど許してあげる。エリック君たちもそろそろ帰ってくるだろうし、早速準備を始めましょうか。シルフィ、手伝ってくれる?」
「いいですよ。三人は、お皿とカトラリーの用意をお願いしますね」
「「「あいあいさー!」」」
先ほどの応答をマネしたユキとセリスを連れて夕食の用意を進める。
ほどなくして学園から帰ってきたエリック、カグヤも交えて、護衛依頼中の出来事を話題に出しながら。
学園長と先生が手塩にかけて作ってくれた料理に舌鼓を打って、ニルヴァーナの夜が更けていった──
強制連行された診療所の入り口で両腕を組み、青筋を立てたオルレスさんに診察室で治療を受けた。
といっても、麓村のお医者様に手当てしてもらってそのままの包帯を取ってもらい、怪我の経過を確認してもらっただけで……本命は無茶し過ぎた説教だ。
キュクロプスの光線で残った火傷痕やら殴打によって出来たセリスの青痣など。
かれこれ一時間、良心の呵責とせめぎ合う申し訳なさを感じる口振りで言い聞かせられた。懐かしさを感じる裏にあった、ランク昇格で浮かれた気持ちが沈んでいく。
しょんぼりと肩を落として、控え室で待っていたエリック達と診療所を出る。外で待機していたフェネスの背中へセリスと一緒によじ登り、アカツキ荘まで送ってもらう。
大きなひよこ状態なら定員は二名が限度だ。カグヤの羨ましげな声が聞こえてくる。
呆れ気味なエリックにバックパックを担いで先導してもらい、不思議な集団が昼間のニルヴァーナを闊歩することに。また注目を集めてしまいそうだが、今更だ。
そうして辿り着いた、夏の陽射しに照らされた我が家たるアカツキ荘。
フェネスから降りた途端、彼女は玄関脇の空いたスペースに移動し、足を畳み、日向ぼっこに勤しみ出した。可愛い物好きなカグヤがその仕草に悶える。
思えば霊峰からずっと働きっぱなしだったからな、休んでもらわないと。……でも召喚陣に戻ろうとしないんだよなぁ。
ソラも勝手に出てきたりするし、彼女なりに理由があるのだろう。ゆっくり休んで、と告げてからアカツキ荘に入る。
リビングでエリック達とバックパックの片付け──中に入っていたミスリル鉱石に度肝を抜かれていた──を行い、帰ってきたばかりなんだからお前らも休んでろ、と。
言われてみれば疲れがぶり返してきた気がする……学園に戻る二人を見送り、しかし自室に戻る気力もなく、俺はテーブルに突っ伏して。
セリスもソファーに身体を預けると、少ししてから寝息が聞こえてきた。
開けた窓から入り込む、夏の暑さを孕んだ風に撫でられながら、まどろみに呑まれて沈んでいった──
◆◇◆◇◆
「ただいまーっ!」
大音量の元気な声でぱっと目が覚めた。
上体を起こして寝ぼけた目で辺りを見渡せば、空が夕焼けに染まりかけている。昼ご飯も食わずぐっすり眠っていたしまったらしい。
セリスも目を覚ましたが、突然の大声に驚いてソファーから転げ落ちた。頭からいったぞ、大丈夫か?
「にぃに! セリスねぇ! お帰りーっ!」
「ぐおぁ!?」
心配よりも先にリビングの扉が開かれ、背中に衝撃が走る。せ、背骨が折れるかと……!
なんとか耐えて背後に視線をやれば、衝撃の正体、というか抱き着いてきたのはユキだった。耳と尻尾が忙しなく動いている。
「た、ただいま……嬉しい気持ちは分かるけど、いきなり飛びつくのはやめてね? 腰が死んでしまうよ」
「えへへ、にぃにの匂いだぁ」
「話、聞いてる?」
腕を胴に回され、背中に顔を押し付けられる。
んもー、女の子がそんなことしないの。でも非力な俺じゃ引き剥がせないんだよね、うん……悲しいなぁ。
「ユキ? クロトさん達は護衛依頼の疲れが溜まっているのですから、あまり無理をさせてはいけませんよ」
己の貧弱な腕力を恨んでいると、続いて現れたシルフィ先生がユキを取り外してくれた。
残念そうに口を尖らせたユキは、ソファーから落ちて痛みに悶えているセリスの下へ駆け寄っていく。
「お疲れさまです。お二人とも、無事にランク昇格を果たしたとカグヤさん達から聞きました。学園長も喜んでいましたよ。何故か、執務室で盛大にコーヒーを溢していたようですが」
「何やってんだアイツ……?」
「それとオルレスさんからも連絡を頂きました。霊峰にてユニークモンスター、しかも変異種と戦闘になって負傷したそうですね? 具合が悪かったり、大事はありませんか?」
「おっふ、根回しが早い……なんともないので、その心配と怒りが混じった冷たい視線を抑えてほしいですが」
「そう思わせるだけのことをしてきたのですよ? こちら、その大きな理由となります」
ユキに介抱されているセリスを尻目に、祝いを述べる口調とは裏腹に詰めるような雰囲気を纏い、差し出してきたのはニルヴァーナで発行されている朝刊新聞。
新聞配達のアルバイトで無償配布される機会があるそれの一面には、地表露出型迷宮“霊峰”、その近辺から寄せられたであろう情報が細かく記載されていた。思わず目玉が飛び出そうになる。伝達早くない!?
霊峰の迷宮資源が市場を賑わせている、と。ロベルトさんの話から薄々と感じてはいたが、それも関係しての見出しということか。
あまりにもタイムリーな情報が広まれば、そりゃ何が起きたか問い詰めたくもなる。
「加えて、アカツキ荘の玄関脇で眠っている黄色い毛玉にも心当たりがなく、詳細を教えていただけると嬉しいのですが?」
「ええと、そのぉ……」
霊峰でのこと、キュクロプスのこと、怪我のこと、フェネスのこと。
あとついでに空中輸送でニルヴァーナへ降り立ったこと。
どれもこれも第三者が聞くには内容が濃い可能性があるし、時間も長くなりそうなのだが……
『うわーっ!? なんか毛玉がいるぅ!?』
言い淀んでいると、アカツキ荘の外から絶叫が響く。
聞き覚えのある声に誘われ、みんな揃って玄関の方へ顔を出してみれば……フェネスに抱き着く学園長の姿があった。
仕事カバンを放置して、夕焼けに照らされながらフェネスの羽毛に顔を埋める姿は、正しく不審者そのもの。自警団へ通報しかけたデバイスをポケットに仕舞う。
「うおお……モフモフだぁ……! 感覚的に召喚獣かしら? なんか荷台を運んでた時と姿が違うけど、こんなおっきくて可愛くてモフりがいがあるなら些細な話よね!」
『クルッ』
「んまぁーっ、こっちの言葉を理解してるのね? なんて賢い子なのかしら! にしても、このまま眠りたいくらい心地良い感触だわぁあああああうふふふふふっ!」
なんだか情緒不安定過ぎないか? よく見れば顔色も悪いぞ。
「先生、あの不審者どうします?」
「見るに堪えないのでリビングにつれてきてください」
「「あいあいさー」」
「はーい!」
先生の指示に従い、三人で学園長の腕、肩を取ってフェネスから引き剥がす。
「ウワーッ!? やめろー、放せぇ! “空飛ぶ馬車”に関する問い合わせやらの対応で疲れてるの! 早急に癒しが欲しいの! モフらせろぉーっ!」
「ええい、暴れるな叫ぶな黙りたまえ!」
「埒が明かねぇな。がっつり拘束してくか」
「ユキ、こっち持つね」
セリスに腕を、ユキにがっしりと足を固めてもらい、担架のような状態で連行。そのまま
いきなり変人に絡まれたフェネスのフォローに回ろうとしたが、突然の事態に驚いてはいたものの、学園長の奇行に困惑していた訳ではないらしい。
大人しく撫でられて、そして十分に身体を休めたのだろう。
学園長のカバンを回収している途中に、勝手に召喚陣を出して勝手に消えていった。自由過ぎる。
◆◇◆◇◆
「依頼主の意向で霊峰の調査、異変の原因だった迷宮主相当のキュクロプス討伐、果てには霊鳥フェネスに懐かれて契約を交わした……?」
「言っている意味は分かるのによく分からない……たった一日でどうしてそこまで不思議な体験が出来るの……?」
「すんげぇ百面相してらぁ」
リビングのテーブルで向かい合うように座って報告会をしていたが、先生と正気に戻った学園長の様子が芳しくない。
心当たりは色々とあるが、終わりよければすべてヨシッ! ということにならないだろうか。肩に頭を乗せて、甘えてきたユキを撫でながら考える。
「とりあえず、事情は把握しました。結果として護衛依頼は無事に完遂され、ランク昇格も叶い、クランとしてのアカツキ荘もギルドに認められていくことでしょう……」
「だいじょーぶ? 先生」
「問題ないですよ。ええ、何も問題はありません」
「自分に言い聞かせてないかい?」
「初めての郊外活動で暴れ過ぎたのかもしれない。胃痛の原因にならなければいいが……」
「もうなってるのよ、手遅れなのよ」
テーブルに頬杖をついて話を聞き入っていた学園長が、実に頭が痛そうに抱えた。
有無を言わせない先生の雰囲気に押されるがまま、霊峰で起きた出来事を詳しく説明しただけなのに。
「まあ、納涼祭の一件で名が売れたせいってのもあるだろうけど、しばらくは注目の的になる、くらいの認識で大丈夫だと思うわ。外野が騒ぎ立てたところで、君や他の皆は気にもしないだろうし」
「そうだねぇ……難癖付けてくるような奴が出てくるなら話は変わるが」
「不穏なこと言わないで。そうならないように情報は広めておくけど、真っ当な依頼や仕事をしていればやっかみなんて受けないんだから」
「なるほど。だから色々と斡旋してもらう為に、シエラさんを仲介人に任命したんだ?」
「根性があって強かな子だから、上手く付き合っていけると思ったのよ。シュメルとの兼ね合いもあるし、今後とも仲良くしてあげてね?」
学園長なりにアカツキ荘や“麗しの花園”との事情を考慮して動いてくれていたようだ。
ありがたい話だが、護衛依頼でニルヴァーナを少し離れていただけなのに、随分と環境が様変わりした気がする。
ランクが上がって冒険者としても一人前になった訳だし、これからはより頑張っていかないと。
子ども達の入学金返済もしないといけないからな……迷宮関連の依頼、受けていくかぁ。
「何はともあれ、期末試験の実技も無事完了したって訳で。今月の特待生依頼と合わせても面倒な用事が終わったんだし、お祝いしましょうか!」
「気に掛かることはありましたが、学生や冒険者として成長した事実に変わりはありませんからね」
「よーっし、今日は私が腕によりをかけてご飯を作ってあげる! こんなサービス、滅多にしないんだから!」
空気を切り替えるように手を叩き、学園長は諸手を挙げて意気込みを見せる。
「えっ。学園長が料理作るのか? 人のことを言えた義理じゃあねぇが、出来んのかい?」
「意外かもしれないけど、この人シルフィ先生やカグヤぐらい料理上手なんだよ。面倒くさがって普段はやらないが……だから期待していい」
「ええっ!? ただの有能なのんだくれじゃなかったのか……意外な一面だな」
「ふふん、失礼な物言いだけど許してあげる。エリック君たちもそろそろ帰ってくるだろうし、早速準備を始めましょうか。シルフィ、手伝ってくれる?」
「いいですよ。三人は、お皿とカトラリーの用意をお願いしますね」
「「「あいあいさー!」」」
先ほどの応答をマネしたユキとセリスを連れて夕食の用意を進める。
ほどなくして学園から帰ってきたエリック、カグヤも交えて、護衛依頼中の出来事を話題に出しながら。
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