264 / 361
短編 アカツキ荘のおしごと!
短編 アカツキ荘のおしごと!《第十九話》
しおりを挟む
【調査報告書】
学園長、そして冒険者ギルドへ再開発区画改めレムリアの整備、進展状況の報告になります。
レムリア整備三日目。
作業エリア……図面に基づいて建築開始。基礎工事完了。
宿舎エリア……宿舎ごとに街路結晶灯を設置。光量の調整中につき夜間作業を実施。
倉庫エリア……図面に基づいて骨組み・屋根の施工完了。
農園エリア……区画の一部で生花及び錬金術の触媒を生育開始。温室も建設。
昨日、アカツキ荘の協力によって用意されたトレントの木材が建材として使用可能な水準となっていた為、各エリアの進捗が大幅に促進されました。
宿舎エリアの工事がほぼ完了したため作業・倉庫エリアへ合流。以前から力をお借りしている土木、建築関係の職人方との協力もあり、めざましい変化を遂げています。
さらに本日、農園の改善案に繋がるとして生花栽培を営む業者を外部から誘致。
意見を取り入れ、安定した生育環境の維持を目的とした温室の施工をアカツキ荘のリーダー、クロトが担当。
木製の枠組みに、柔軟性の高いガラス素材を錬金術で精製し用いた温室を三棟、建造。需要に応じて適宜追加する見込みです。
さらに夕方、夜の視界確保の為、整備された道に沿って街路結晶灯も設置。こちらは夜間での調整が必須な為、アカツキ荘はレムリアに残留し作業をおこないます。
依頼期限まで残り四日。さらなる発展の為に尽力していきますので、吉報をお待ちください。
クラン“アカツキ荘”専属仲介人、シエラより。
「……ツッコミどころはまあ、あるにはある、けど」
「先日と比べて大人しめの内容ですね。よかったじゃないですか、今日は叫ばなくて」
「そうなんだけどぉ、なーんか嫌な予感がするのよねぇ」
「考え過ぎですよ。毎日の業務で疲れているだけですって……あっ、クロトさんからメッセージが来ました。“みんなと夜勤作業するのでアカツキ荘に帰りません。夕食は作り置きしておいたので温めて食べてください”だそうです」
「気遣いが大家族の母親……」
つい先ほどシエラが提出してきた報告書をフレン、シルフィは見下ろしながら。
胸に湧いた漠然とした不安を否定するシルフィとは違い、フレンは忘れることが出来なかった。
──その不安の正体が翌日早朝。
新聞の一面に大きく掲載された“真夜中の旧再開発区画、レムリアで発生した珍現象とは!?”“数年前、冒険者界隈を騒がせた悪徳クラン『アヴァニエ』が再逮捕!”など。
どこぞの新聞社で学生ながらも席を置いて働く、真実を追い求める女性記者──ナラタ。
急な頼みでありながらも快く応えてくれた彼女の協力によって、迅速に編集された出来事がニルヴァーナ中に広まった。
誰がどう見たって関連性のある見出しを読み、アイツらやりやがった、と。
胃が捻じれる事態となることを、彼女達はまだ知らない。
◆◇◆◇◆
朝焼けに包まれたセギラン家の別荘。
神経質な顔立ちの痩せぎすな中年男性──クルガは自身の寝室にて、使用人が慌てた様子で運んできた朝刊を手に持ち、震えていた。
「な、んだ、コレは……ふざけるな!?」
憤りを露わにするのも仕方のないこと。
アヴァニエとは長年の付き合い、且つ冒険者とギルド職員というお互いの利益を理解した立場。
それぞれの目的の為に協力関係を持ち、大枚をはたいて鉱山送りとされた彼らを釈放し、ニルヴァーナに匿っていた張本人なのだ。
「……こんな、バカな話が……!」
そんな彼らを自信満々に送りだしておきながら安眠を貪っていた彼は、朝刊の見出しに載っている、捕縛された見覚えのある顔に冷や汗を流していた。
再開発区画もといレムリアの利権、それらに付随する人物──シュメルに対してありとあらゆる手段で妨害行為を講じた。
一週間という、常識では不可能な依頼期限を設けたレムリアの整備。
ありえない速度で進んでいく区画整理を阻止するべく送り込んだ悪徳クラン。
提携を結んでいるアカツキ荘、引いては関係する人物に対して障害を振り撒く。
精神的にも組織的にも、クルガが関与していないと思わせた上で痛手を負わせられる、と。
幼稚で先を見据えていない、甘過ぎる想定で事を進めていたクルガに突然の悲報が降りかかったのだ。絶対に上手くいくと信じて疑わなかった彼は、焦らざるを得なかった。
「マズい……! 一度のみならず二度までも失態を重ねてしまっては、いくら私の権力を用いても彼らを取り戻すことはできない!」
クルガとアヴァニエは周りから見れば、あくどい手法で金銭を稼いでいた悪人だ。
しかし当人たちの間には確かな友情があり、だからこそ今日に至るまで協力関係を築けていた。
生涯の友であるドラミル家を潰したシュメルを陥れ、ゆくゆくは貴族として一つ上のステージに上がる為ならば、と。
多少の罪、道理を蹴散らしてでも突き進む。それがクルガの矜持。ロクでもないことこの上ない。
そして時に正道、時に邪道を敷いていく……ダブルスタンダードな悪知恵の働く彼は察した。
アヴァニエを釈放したのは正規の手段に則したもの。つまり、帳簿類や書類にはクルガ・フェル・セギランの名が残っている。
いかに冒険者ギルドの役員という立場を利用しても、改ざん不可能な管轄に置かれていては手の出しようがない。
加えて不祥事を起こした相手を慈悲──実態は都合の良い駒を得るため──で釈放し、身柄を預かった者として二度の犯罪を許した、など。責任を問われれば、自身が築いてきた地位は跡形も無く崩れ去るだろう。
そうでなくとも、万が一にも無いと思うが。
自己保身に走ったアヴァニエが、クルガの事情を包み隠さず打ち明けるかもしれない。
「どうにか、しなくては……!」
このまま冒険者ギルドへ出勤すれば間違いなく問い詰められ、アヴァニエ捕縛に動いた自警団が押しかけてくるのは時間の問題だ。
かと言って無様に実家へ帰ったところでいずれはお縄につくのが関の山。親戚筋を頼る? 普段から傲慢で考えの浅いセギラン家を引き入れたいと思う者など欠片もいない。
クルガは焦燥に思考を煽られながらも指の爪を噛み、考える。
既に逃げ道などどこにもない事実を知らないが故の、実に滑稽な姿だった。
──ピピピッ、ピピピッ。
そんな時だ。
ベッドの真横に備え付けられたテーブルの上。置かれていた自身のデバイスから音が鳴る。大きく肩を震わせ、恐る恐る手に取って確認してみれば、それは通話の通知音だった。
しかし相手は不明……この状況では怪しいが、されど無視する訳にもいかない。画面を操作し、耳に宛がう。
「だ、誰だ……!?」
『やあ、クルガ・フェル・セギラン。朝早くに申し訳ないね』
「その声は、お前……っ! いや、貴方様はヴィヴラス卿!?」
通話相手はグランディアの南方辺境を治める大貴族、シリウス・ド・ヴィヴラス。
たまたま前領主の令嬢に見初められ、流れるように婚姻を結び、現領主の椅子へと座った小賢しい男。
しっかりと貴族としても領主としても知識を蓄え、経験を重ね、魅力を携えた、ノブレス・オブリージュを掲げる立派な人物。
伊達に辺境を任せられている訳ではないのだが、クルガから見れば生意気で運がいい奴なだけという評価であった。
まるで自分が高潔な人種であるとでも言いたげな様子。なんとも身勝手な言い分だ。
「どうして、私の通話先を……」
『そんなことよりも伝えておくべきことがあるんだ。──君は我が娘が懇意にしている個人と、その子が所属している冒険者クランに加え、関連する組織の施設に手を出したらしいね』
「……え? な、なんのことを……」
『とぼけなくたっていい。どの道、結論は変わらないからね。……辺境伯は他貴族に対して、グランディア王からある程度の裁量権を持たされている。治安維持と和平の為にね』
「ですから、何を……!」
唐突な会話の切り出し方から感じる不穏な空気に、クルガは動揺を隠せない。
『──グランディア南方辺境伯ヴィヴラス家により命ずる。セギラン家はグランディアに仕える身でありながら、ニルヴァーナとの関係性に軋轢を生みだし損害を招く恐れがあった。加えて、自身の権力を悪戯に振るい混乱をもたらしたこと、もはや許しがたし。追って沙汰が下されるまで、ニルヴァーナの警備組織に身を置くように』
「は、なっ……なんですか、それは!?」
『身に覚えがないとは言わせない。普段から目に余る問題ばかり起こしていたのだから、自業自得だと思いたまえ。では、また後で会おう』
「ちょ、ちょっと待っ……!」
怒涛の勢いで告げられた言葉を噛み砕けず、クルガは聞き返そうとするが通話は切れてしまった。
呆然と腕を脱力させていると何やら外が騒がしくなり始め、窓の方へ近づけば──
『ニルヴァーナ自警団団長、エルノールだ! 辺境伯ヴィヴラス卿の要請によりクルガ・フェル・セギランの身柄を捕らえに来た! 神妙にお縄についてもらおうか!』
既に業務を開始していた、仕事熱心な自警団たちの声が響く。
ニルヴァーナの本部・支部から寄せ集めた団員たちがセギラン家別荘を包囲しているようだ。今にも踏み込んできそうなほどの熱量を感じる。
「なぜ、なぜだ……私は、きき、貴族として……!」
自分以外の誰もが敵になったかのような錯覚を覚え、クルガは頭を抱えた。哀れなり。
シュメル、もしくはクロト個人を狙うのであればまだ良かったものの、友人や知人、そして居場所を傷つけるようなマネをしたばかりに。余計な怒りを買う結果となり、それでも自分は悪くないと思い込んでいる。
貴族としてでなく、そもそも人として問題があることにすら気づけないのだ。なんとも凝り固まった思想だ、救いようがない。
混乱したままで行動を起こせるはずが無く、突入してきた自警団により呆気なく確保。
こうしてレムリアにまつわる騒動の黒幕は無事に捕まり、安寧を取り戻したのだった──
学園長、そして冒険者ギルドへ再開発区画改めレムリアの整備、進展状況の報告になります。
レムリア整備三日目。
作業エリア……図面に基づいて建築開始。基礎工事完了。
宿舎エリア……宿舎ごとに街路結晶灯を設置。光量の調整中につき夜間作業を実施。
倉庫エリア……図面に基づいて骨組み・屋根の施工完了。
農園エリア……区画の一部で生花及び錬金術の触媒を生育開始。温室も建設。
昨日、アカツキ荘の協力によって用意されたトレントの木材が建材として使用可能な水準となっていた為、各エリアの進捗が大幅に促進されました。
宿舎エリアの工事がほぼ完了したため作業・倉庫エリアへ合流。以前から力をお借りしている土木、建築関係の職人方との協力もあり、めざましい変化を遂げています。
さらに本日、農園の改善案に繋がるとして生花栽培を営む業者を外部から誘致。
意見を取り入れ、安定した生育環境の維持を目的とした温室の施工をアカツキ荘のリーダー、クロトが担当。
木製の枠組みに、柔軟性の高いガラス素材を錬金術で精製し用いた温室を三棟、建造。需要に応じて適宜追加する見込みです。
さらに夕方、夜の視界確保の為、整備された道に沿って街路結晶灯も設置。こちらは夜間での調整が必須な為、アカツキ荘はレムリアに残留し作業をおこないます。
依頼期限まで残り四日。さらなる発展の為に尽力していきますので、吉報をお待ちください。
クラン“アカツキ荘”専属仲介人、シエラより。
「……ツッコミどころはまあ、あるにはある、けど」
「先日と比べて大人しめの内容ですね。よかったじゃないですか、今日は叫ばなくて」
「そうなんだけどぉ、なーんか嫌な予感がするのよねぇ」
「考え過ぎですよ。毎日の業務で疲れているだけですって……あっ、クロトさんからメッセージが来ました。“みんなと夜勤作業するのでアカツキ荘に帰りません。夕食は作り置きしておいたので温めて食べてください”だそうです」
「気遣いが大家族の母親……」
つい先ほどシエラが提出してきた報告書をフレン、シルフィは見下ろしながら。
胸に湧いた漠然とした不安を否定するシルフィとは違い、フレンは忘れることが出来なかった。
──その不安の正体が翌日早朝。
新聞の一面に大きく掲載された“真夜中の旧再開発区画、レムリアで発生した珍現象とは!?”“数年前、冒険者界隈を騒がせた悪徳クラン『アヴァニエ』が再逮捕!”など。
どこぞの新聞社で学生ながらも席を置いて働く、真実を追い求める女性記者──ナラタ。
急な頼みでありながらも快く応えてくれた彼女の協力によって、迅速に編集された出来事がニルヴァーナ中に広まった。
誰がどう見たって関連性のある見出しを読み、アイツらやりやがった、と。
胃が捻じれる事態となることを、彼女達はまだ知らない。
◆◇◆◇◆
朝焼けに包まれたセギラン家の別荘。
神経質な顔立ちの痩せぎすな中年男性──クルガは自身の寝室にて、使用人が慌てた様子で運んできた朝刊を手に持ち、震えていた。
「な、んだ、コレは……ふざけるな!?」
憤りを露わにするのも仕方のないこと。
アヴァニエとは長年の付き合い、且つ冒険者とギルド職員というお互いの利益を理解した立場。
それぞれの目的の為に協力関係を持ち、大枚をはたいて鉱山送りとされた彼らを釈放し、ニルヴァーナに匿っていた張本人なのだ。
「……こんな、バカな話が……!」
そんな彼らを自信満々に送りだしておきながら安眠を貪っていた彼は、朝刊の見出しに載っている、捕縛された見覚えのある顔に冷や汗を流していた。
再開発区画もといレムリアの利権、それらに付随する人物──シュメルに対してありとあらゆる手段で妨害行為を講じた。
一週間という、常識では不可能な依頼期限を設けたレムリアの整備。
ありえない速度で進んでいく区画整理を阻止するべく送り込んだ悪徳クラン。
提携を結んでいるアカツキ荘、引いては関係する人物に対して障害を振り撒く。
精神的にも組織的にも、クルガが関与していないと思わせた上で痛手を負わせられる、と。
幼稚で先を見据えていない、甘過ぎる想定で事を進めていたクルガに突然の悲報が降りかかったのだ。絶対に上手くいくと信じて疑わなかった彼は、焦らざるを得なかった。
「マズい……! 一度のみならず二度までも失態を重ねてしまっては、いくら私の権力を用いても彼らを取り戻すことはできない!」
クルガとアヴァニエは周りから見れば、あくどい手法で金銭を稼いでいた悪人だ。
しかし当人たちの間には確かな友情があり、だからこそ今日に至るまで協力関係を築けていた。
生涯の友であるドラミル家を潰したシュメルを陥れ、ゆくゆくは貴族として一つ上のステージに上がる為ならば、と。
多少の罪、道理を蹴散らしてでも突き進む。それがクルガの矜持。ロクでもないことこの上ない。
そして時に正道、時に邪道を敷いていく……ダブルスタンダードな悪知恵の働く彼は察した。
アヴァニエを釈放したのは正規の手段に則したもの。つまり、帳簿類や書類にはクルガ・フェル・セギランの名が残っている。
いかに冒険者ギルドの役員という立場を利用しても、改ざん不可能な管轄に置かれていては手の出しようがない。
加えて不祥事を起こした相手を慈悲──実態は都合の良い駒を得るため──で釈放し、身柄を預かった者として二度の犯罪を許した、など。責任を問われれば、自身が築いてきた地位は跡形も無く崩れ去るだろう。
そうでなくとも、万が一にも無いと思うが。
自己保身に走ったアヴァニエが、クルガの事情を包み隠さず打ち明けるかもしれない。
「どうにか、しなくては……!」
このまま冒険者ギルドへ出勤すれば間違いなく問い詰められ、アヴァニエ捕縛に動いた自警団が押しかけてくるのは時間の問題だ。
かと言って無様に実家へ帰ったところでいずれはお縄につくのが関の山。親戚筋を頼る? 普段から傲慢で考えの浅いセギラン家を引き入れたいと思う者など欠片もいない。
クルガは焦燥に思考を煽られながらも指の爪を噛み、考える。
既に逃げ道などどこにもない事実を知らないが故の、実に滑稽な姿だった。
──ピピピッ、ピピピッ。
そんな時だ。
ベッドの真横に備え付けられたテーブルの上。置かれていた自身のデバイスから音が鳴る。大きく肩を震わせ、恐る恐る手に取って確認してみれば、それは通話の通知音だった。
しかし相手は不明……この状況では怪しいが、されど無視する訳にもいかない。画面を操作し、耳に宛がう。
「だ、誰だ……!?」
『やあ、クルガ・フェル・セギラン。朝早くに申し訳ないね』
「その声は、お前……っ! いや、貴方様はヴィヴラス卿!?」
通話相手はグランディアの南方辺境を治める大貴族、シリウス・ド・ヴィヴラス。
たまたま前領主の令嬢に見初められ、流れるように婚姻を結び、現領主の椅子へと座った小賢しい男。
しっかりと貴族としても領主としても知識を蓄え、経験を重ね、魅力を携えた、ノブレス・オブリージュを掲げる立派な人物。
伊達に辺境を任せられている訳ではないのだが、クルガから見れば生意気で運がいい奴なだけという評価であった。
まるで自分が高潔な人種であるとでも言いたげな様子。なんとも身勝手な言い分だ。
「どうして、私の通話先を……」
『そんなことよりも伝えておくべきことがあるんだ。──君は我が娘が懇意にしている個人と、その子が所属している冒険者クランに加え、関連する組織の施設に手を出したらしいね』
「……え? な、なんのことを……」
『とぼけなくたっていい。どの道、結論は変わらないからね。……辺境伯は他貴族に対して、グランディア王からある程度の裁量権を持たされている。治安維持と和平の為にね』
「ですから、何を……!」
唐突な会話の切り出し方から感じる不穏な空気に、クルガは動揺を隠せない。
『──グランディア南方辺境伯ヴィヴラス家により命ずる。セギラン家はグランディアに仕える身でありながら、ニルヴァーナとの関係性に軋轢を生みだし損害を招く恐れがあった。加えて、自身の権力を悪戯に振るい混乱をもたらしたこと、もはや許しがたし。追って沙汰が下されるまで、ニルヴァーナの警備組織に身を置くように』
「は、なっ……なんですか、それは!?」
『身に覚えがないとは言わせない。普段から目に余る問題ばかり起こしていたのだから、自業自得だと思いたまえ。では、また後で会おう』
「ちょ、ちょっと待っ……!」
怒涛の勢いで告げられた言葉を噛み砕けず、クルガは聞き返そうとするが通話は切れてしまった。
呆然と腕を脱力させていると何やら外が騒がしくなり始め、窓の方へ近づけば──
『ニルヴァーナ自警団団長、エルノールだ! 辺境伯ヴィヴラス卿の要請によりクルガ・フェル・セギランの身柄を捕らえに来た! 神妙にお縄についてもらおうか!』
既に業務を開始していた、仕事熱心な自警団たちの声が響く。
ニルヴァーナの本部・支部から寄せ集めた団員たちがセギラン家別荘を包囲しているようだ。今にも踏み込んできそうなほどの熱量を感じる。
「なぜ、なぜだ……私は、きき、貴族として……!」
自分以外の誰もが敵になったかのような錯覚を覚え、クルガは頭を抱えた。哀れなり。
シュメル、もしくはクロト個人を狙うのであればまだ良かったものの、友人や知人、そして居場所を傷つけるようなマネをしたばかりに。余計な怒りを買う結果となり、それでも自分は悪くないと思い込んでいる。
貴族としてでなく、そもそも人として問題があることにすら気づけないのだ。なんとも凝り固まった思想だ、救いようがない。
混乱したままで行動を起こせるはずが無く、突入してきた自警団により呆気なく確保。
こうしてレムリアにまつわる騒動の黒幕は無事に捕まり、安寧を取り戻したのだった──
0
あなたにおすすめの小説
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる