自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

文字の大きさ
281 / 361
【七ノ章】日輪が示す道の先に

第一六二話 四季家会合《中編》

しおりを挟む
「まず初めに、私からの呼び立てだというのに皆を待たせてしまったこと、再度謝罪させてほしい。本当にすまなかった」
「いや! 待たされたとしても数分程度! さほど気にする事ではない!」
しかりっ。何事も順調に進みはしないっ。我らに比べてそちらは人も多い、致し方ないと思われますっ」

 腹の底から吐き出すような大声で、オキナさんの謝罪に応えたのはがっしりとした体格の男性二人。
 オキナさんと同等の肩幅に快活そうな表情を浮かべた人は、四季家の一つ。夏を担当するフヅキ家の象徴、鈴生りに咲いた青い花が着物に描かれていた。
 フヅキ家の二人、というかこの場にいる四季家の人間は親である当主と、息子か娘の組で座っているようだ。どことなく雰囲気が似ているから、間違いないと思う。

「して、ウチらを待たせるだけの価値のある人物なのかえ? そちらは」
「見ただけではあまりにも非力というか、雑多な集団と思えますが」

 次いで値踏みするような、見下しを隠そうともしない声音の女性が二人。
 花魁じみた見た目に独特な香水の匂い。衣服には雪の結晶をモチーフにした家紋が刻まれているのが特徴的だ。冬を担当する四季家の人か。

「紹介が遅れたな。彼らはアカツキ荘、カグヤが在籍しているニルヴァーナ冒険者学園で、クランを組んでいる方々だ」

 そう言って俺たちをよく見えるように、オキナさんとカグヤは座った位置を変える。

「右からクロト、エリック、セリス、ユキ。そして冒険者学園にて教鞭を執っているミィナ教諭。彼らは学園行事である国外遠征で日輪の国アマテラスに来訪してくれたんだ。しかし、大霊桜だいれいおうに関する取り決めで彼らがこなせる依頼がギルドや分校側に無く……」
「そんで私らに、大霊桜だいれいおうの祭りと神器展覧会に警備として参加させられないかって持ち掛けてきた訳かい」
「前もって聞いといた通りではあるなぁ」

 民族感の強い衣装を身に着け、豪快に胡坐で座る女性と幼さの残る男子は顔を見合わせて呟く。
 どことなく見覚えのある風貌に、ニルヴァーナにおける食糧自給の要であるコムギ先生を想起させた。彼女もまた、日輪の国アマテラスの南方“アラハエ”出身である。

「名前と御託はいい。こいつらはオキナを手玉に取るほどの腕を持つ、そのことに意味がある」
「わざわざ四季家会合の場に連れてきて、懇願する程の価値があるのか。オレ達は知らんがな」

 言葉と語気が強い男親と娘の声に肌がざわつく。
 和服にマントのような外套を身に着けている二人は睨むように、こちらから目を離さない。どことなく敵意すら感じる。
 外套に刺繍された見覚えのある花柄が雰囲気を柔らかくする……などということもなく。
 身体を隠すような怪しげな見た目と、あまりにも見え透いて無神経すぎる為かユキの尻尾が警戒を示していた。

「いくらシノノメ家の身内が参入しているクランの一員だとして、部外者である事実に変わりはない。そこな男は日輪の国アマテラスの人間に見えるが、仔細は定かでないのだろう? 疑わしいにも程がある」
「待て、結論を急いても意味は無い! それに、彼らは四季家をよく知らないはずだ!」
「面通しは済ませたのだっ。今度はこちらが名を明かそうっ!」

 個性の塊みたいな四季家の方々とのやり取りを眺めつつ、口を開いてよいものか分からないままに事態が進んでいく。

「まずは我から名乗らせてもらおう! 春夏秋冬になぞらえた夏の武家、現当主! 性をフヅキ、名をホフミという!」
「こちらはホフミを父に持つ息子、フミヒラと申すっ。お見知りおきをっ」

 フミヒラさんは自身の胸に指を差してから、二人どもども頭を下げる。

「相変わらず暑苦しいわぁ。でも、流れには乗っときましょうか」
「ウチは冬の武家、クレシ・キリといいます。こっちの妙齢な方が母であり、クレシ家当主のビワになります」
「代わりに紹介してくれたんはありがたいけど、悪意ないかえ?」

 身内ノリで名乗るキリさんは隣のビワさんの睨みつけを流していた。

「私らは秋のムナビ家だ。こっちは息子のシグレで」
「親のシモツだ。四季家の中じゃあんまり目立たねぇから、影が薄いんだよなぁ」
「これ、事実だが滅多なこというもんじゃねぇ」

 ユキと同じ程度の背丈なシグレさんの頭を、シモツさんが軽く小突いた。

「……春の武家、コクウ・シュカ」
「娘のマチだ。これ以上は言わん」

 嫌悪を隠さず、簡潔な挨拶を終えたコクウ家の二人はそっぽを向いた。
 他の三家と比べて、やっぱり警戒心というか敵愾心てきがいしんが強いなぁ。理解は示すけど、せめて隠そうよ。
 でも、貴族とか名家の心持ちとしては正しいのか? 今まで関わってきた権力者は気さくな人が多かったから……認識を改めないと。

「彼らはそれぞれ得意とする武具に特化した武術を継承し、日輪の国アマテラスの護国を担う側面も持ち合わせている。その武術の根幹にシノノメ家が誇る舞踊剣術が、形を変えて取り込まれているという訳だ」
「だから駅の構内でフヅキ家の方々が演舞を披露してたんですよね」
「そうだ。……君たちの、特にクロトの特異性を示す良い機会か。納得を得られるやもしれない、彼らがどんな武具を使えるか言い当てられるか?」
「えっ。フヅキ家は大太刀、クレシ家は弓、ムナビ家は鎖鎌、コクウ家は槍というか長物じゃないですか?」

 既に先程の受け答え、身格好、わずかな身動みじろぎ。
 手の平に垣間見えた武器特有のマメや傷の付き方、手首の可動域の癖。
 諸々もろもろを観察させてもらったので即答したのだが……時季じき御殿ごてんの空気が冷えたように感じる。四季家からの視線が強まり、より警戒された感じがぬぐえない。

「……俺、もしかしてなんかやらかした?」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

処理中です...