70 / 81
69終わりのために②
しおりを挟む
ほんの一分も満たないキスから、レライエの魔力が送り込まれる。
不安な気持ちを、取り去るように。
「セーレが消えないように」
「──そ、そうなんだ。あ、ありがと?」
羞恥で、挙動不審になっていると見知った二人が傍にきた。
「レライエ様もセーレ様も何やってるんですか……イチャイチャは、部屋でやって下さい。セーレ様は私の後ろにいて下さいね」
多分見えてはないが、何をしていたかはバレているので、恥ずかしさに素直に従う。
その近くにはディードがいる。
「──あの、メイシア」
「神子からも、守りますから」
「神子からも?」
メイシアが、人指し指唇にあてて、これ以上の会話はダメだと言う合図に思えて、頷いた。
テオドール殿下の傍に寄った神子が、キリエと何か話して、キリエの先程の笑顔は消えている。
神子も無表情のようになっていて……仄暗いような、何か見落としている気がする。
「レライエ」
そう、テオドール殿下に呼ばれ、一通りの説明を受けた後、二手に別れて浄化を試すようだ。
王太子殿下は神子とキリエと護衛のほとんどがつき十名以上のチームで、こちらは、いつもの四人と神官が二人だ。
合図などの連絡は、キリエが担ってくれる。
とにかく、ここで出来ることをして、全部終わらせる方法はまた考えないといけない。選択肢を増やすしかないのだとしても、覚悟をしなければ。
王太子殿下のチームと離れ、姿も見えなくなった頃、流石に浄化と言われるだけあって、空気が澱んでいくのが分かる。
奥へと進むと空気の重さに、呼吸がしにくそうだ。
特に神官の二人の顔色が悪い。
「ごめん。レイ……試してもいい?」
「そうだな。だが無理はだめだ。体に異常がでた時は、言って」
「うん」
フードを降ろして魔導書を捲るようにイメージすると、パラパラとページが動いていくのを感じる。実際はレライエのベルトの所に魔導書が収納されている。
範囲が広いことも踏まえ、レライエの魔力も借りることにした。
手を繋くことで魔力を重ねていく。青くレライエの魔力に染まったセーレの浄化が展開されて、重い空気が霧散していった。これでしばらくは、このチームの周りの空気は正常化するはず。
「すごい……」
こちらに参加している神官からの感嘆の声が聞こえる。青ざめていた顔色から、血の気が戻ってきた。
(すごいのはレライエの魔力なんだけどね)
「さすがセーレ様。体が軽くなりました」
ディードが剣を構えている。メイシアも細長杖を手にした。
──始まった。
「神官は、防御壁を!」
「メイシアに従え!」
メイシアとディードの声が続く。
一気に膨らんだ闇。
魔獣が木々の影から、飛び出してきた。
それを、レライエが剣に魔力を込めて薙ぎ払う。
もっと元凶に近づかないとキリがない。
メイシアが細長杖を構えて、軽く百を超えそうな光の矢を放った。
形勢はこちらが有利と思った時、地響きがしてバランスを崩しそうになる。傍に来たレライエに抱えられて、しがみつく。
「一体……」
「テオドール……殿下たちの方?」
メイシアが、詠唱して十メートル近く上空へと浮かび上がる。
神官二人が、メイシアを見上げ、緊張が走った。
「こっちに……くる。セーレ様!結界を!」
こちらに来たのは翼竜の姿のキリエと、首の辺りに魔法で落ちない様に固定されているテオドール殿下だった。
「キリエ……怪我してる!」
「俺じゃない!テオだ!」
「殿下?」
慌てて、結界の中にテオドール殿下を入れるとキリエが少年の姿に戻る。
「セーレ。治癒を!頼むから」
キリエにも怪我がありそうだが、金色の髪が薄く灰銀に変わっていく。
「テオ!テオ!」
テオドール殿下の顔色が悪過ぎる。触れると冷たくて、迷う暇はない。
「レイ。お願い力を貸して!皆はこの結界の中から出ないで」
レライエが背中から抱きつき魔力を送ってくれて、一気に魔力が流れてきた。深く美しい青い世界に包まれてテオドール殿下の手を握りしめる。
「お願い……」
少しづつ、殿下の顔色が戻り始めた時──
結界の周りにいた魔獣を払い除けた黒髪の人影が、結界の透明の壁に手を当てて笑っている。
「やっぱり、俺の──魔導書はお前?」
そう言って、神子が結界を砕き始めた。
不安な気持ちを、取り去るように。
「セーレが消えないように」
「──そ、そうなんだ。あ、ありがと?」
羞恥で、挙動不審になっていると見知った二人が傍にきた。
「レライエ様もセーレ様も何やってるんですか……イチャイチャは、部屋でやって下さい。セーレ様は私の後ろにいて下さいね」
多分見えてはないが、何をしていたかはバレているので、恥ずかしさに素直に従う。
その近くにはディードがいる。
「──あの、メイシア」
「神子からも、守りますから」
「神子からも?」
メイシアが、人指し指唇にあてて、これ以上の会話はダメだと言う合図に思えて、頷いた。
テオドール殿下の傍に寄った神子が、キリエと何か話して、キリエの先程の笑顔は消えている。
神子も無表情のようになっていて……仄暗いような、何か見落としている気がする。
「レライエ」
そう、テオドール殿下に呼ばれ、一通りの説明を受けた後、二手に別れて浄化を試すようだ。
王太子殿下は神子とキリエと護衛のほとんどがつき十名以上のチームで、こちらは、いつもの四人と神官が二人だ。
合図などの連絡は、キリエが担ってくれる。
とにかく、ここで出来ることをして、全部終わらせる方法はまた考えないといけない。選択肢を増やすしかないのだとしても、覚悟をしなければ。
王太子殿下のチームと離れ、姿も見えなくなった頃、流石に浄化と言われるだけあって、空気が澱んでいくのが分かる。
奥へと進むと空気の重さに、呼吸がしにくそうだ。
特に神官の二人の顔色が悪い。
「ごめん。レイ……試してもいい?」
「そうだな。だが無理はだめだ。体に異常がでた時は、言って」
「うん」
フードを降ろして魔導書を捲るようにイメージすると、パラパラとページが動いていくのを感じる。実際はレライエのベルトの所に魔導書が収納されている。
範囲が広いことも踏まえ、レライエの魔力も借りることにした。
手を繋くことで魔力を重ねていく。青くレライエの魔力に染まったセーレの浄化が展開されて、重い空気が霧散していった。これでしばらくは、このチームの周りの空気は正常化するはず。
「すごい……」
こちらに参加している神官からの感嘆の声が聞こえる。青ざめていた顔色から、血の気が戻ってきた。
(すごいのはレライエの魔力なんだけどね)
「さすがセーレ様。体が軽くなりました」
ディードが剣を構えている。メイシアも細長杖を手にした。
──始まった。
「神官は、防御壁を!」
「メイシアに従え!」
メイシアとディードの声が続く。
一気に膨らんだ闇。
魔獣が木々の影から、飛び出してきた。
それを、レライエが剣に魔力を込めて薙ぎ払う。
もっと元凶に近づかないとキリがない。
メイシアが細長杖を構えて、軽く百を超えそうな光の矢を放った。
形勢はこちらが有利と思った時、地響きがしてバランスを崩しそうになる。傍に来たレライエに抱えられて、しがみつく。
「一体……」
「テオドール……殿下たちの方?」
メイシアが、詠唱して十メートル近く上空へと浮かび上がる。
神官二人が、メイシアを見上げ、緊張が走った。
「こっちに……くる。セーレ様!結界を!」
こちらに来たのは翼竜の姿のキリエと、首の辺りに魔法で落ちない様に固定されているテオドール殿下だった。
「キリエ……怪我してる!」
「俺じゃない!テオだ!」
「殿下?」
慌てて、結界の中にテオドール殿下を入れるとキリエが少年の姿に戻る。
「セーレ。治癒を!頼むから」
キリエにも怪我がありそうだが、金色の髪が薄く灰銀に変わっていく。
「テオ!テオ!」
テオドール殿下の顔色が悪過ぎる。触れると冷たくて、迷う暇はない。
「レイ。お願い力を貸して!皆はこの結界の中から出ないで」
レライエが背中から抱きつき魔力を送ってくれて、一気に魔力が流れてきた。深く美しい青い世界に包まれてテオドール殿下の手を握りしめる。
「お願い……」
少しづつ、殿下の顔色が戻り始めた時──
結界の周りにいた魔獣を払い除けた黒髪の人影が、結界の透明の壁に手を当てて笑っている。
「やっぱり、俺の──魔導書はお前?」
そう言って、神子が結界を砕き始めた。
260
あなたにおすすめの小説
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる