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雨の中、傘もささずに歩いてる唯華の横に車が止まった。
パワーウィンドウが下がり声をかけられた。
「大丈夫?」
知らない人について行ったら駄目なんだ。そんなの子供でも知ってる。それに軟派なら尚のこと相手にする訳にはいかない。目を合わすことなく唯華は、冷たく言い放つ。
「平気なので」
もう、どうなってもいいのだ。誰も自分を心配したりしない。またフラフラと歩き始めると、視界がぐにゃりと崩れていく。寒い。寂しい。助けて。誰にも頼ることが出来ない唯華は、そんな感情にのみこまれていった。
車はハザードを点灯させる。運転席から降りて来たその人に抱き抱えられて助手席に放り込まれ直ぐにドアが閉められた。運転席側に戻って、助手席のシートを軽く倒した。フェイスタオルで顔は優しく拭かれ、髪の毛は少し雑に水分をとる。大きな手が額に触れた。
「寒いか?熱が出てるっぽいな」
「知らない、人はだめ……」
ガタガタと震えている唯華に抵抗する力は少しも残っていなかった。
「俺は医者だよ、ほらここを戻った角の芹澤クリニック。そこの医者が悪さなんて出来ないと思いますが……だから信じて。戻れば大きなタオルとかあるから。このまま放置なんて出来ないよ。風邪どころか肺炎になるからね。治療させて」
「先生?」
このエリアで割と評判のクリニックだ。2年くらい前に出来た所なのに、今では患者が多くて予約が大変って聞いたことがある。なら大丈夫なのかな……寒くて震えが止まらない唯華は、頷いた。
「患者を診るだけだから」
そう言って車がUターンをした。ガクガクと震える身体に色々な思いが込み上げて涙が溢れてきた。
そっと頭を撫でられた後の記憶が飛んだ。
唯華は、しばらくして目が覚めた。ここは一体何処なのか記憶を辿ってみる。自分の部屋ではない。そう言えば芹澤クリニックの先生に運ばれた事を思い出した。
でも診察室には見えなかった。それでも点滴の針が固定された腕を見て、本当にあの人は医者だったのだと納得した。
「ここは、どこ?」
熱を持つ身体には、力が入らない。何となく呟いた言葉に返事が返ってきた。
「うちは、入院施設は無いんだ。かと言って時間外のこんな時間に診察室のベットじゃね。クリニックが開いてると思って誰か来たら困るから。スタッフ部屋の隣にある俺の仮眠が出来る個室だよ」
そうなんだ……ぼんやりとしながら先生の話を聞いていた。
びしょ濡れだった服はいつの間にか全部着替えている。大きい襟ぐりの開き具合で先生のシャツかなと思った。
「なんか、いい香りがする」
優しくて温かい。気持ちが落ち着いていく。どうしてこんな気持ちになるのか分からない。先生のシャツだからなのかな……そんな訳ないか。また、睡魔に襲われてくる。
「大丈夫、そばに居るから。安心して唯華」
どうして、名前を知ってるの?まぶたがくっついてしまう。手を先生が居る方へ伸ばしてみた。大きな手がその手を取ってくれた。そのまま、深く眠りについた。
朝になってもまだ熱が少しある。それでもここに居ては仕事の邪魔になってしまう。
邪魔になりたくない。落ち着かない。早く帰りたい。帰る場所なんてないのに。そんな唯華の様子に気が付いたのか、芹澤が笑った。
「今日は日曜日だから休みだよ。服は洗濯して乾燥させたから、着替えるかい?」
良かったこのシャツで帰るのはさすがに似合わないと、頷いて受け取った。
「着替えたら帰ります。治療費も請求して下さい」
他人の職場だ。休みだとしても出ていかないとだめだろう。幸いカードは持っている。お金は払って帰れるはずだ。
「治療費は気にしないで。ただごめん。荷物を確認したんだ。学生証とスマホ」
多分顔色が変わったことに先生は気が付いたんだと思う。
「何度もLimeのメッセージ音が聞こえてね……」
先生は困ったように笑った。
パワーウィンドウが下がり声をかけられた。
「大丈夫?」
知らない人について行ったら駄目なんだ。そんなの子供でも知ってる。それに軟派なら尚のこと相手にする訳にはいかない。目を合わすことなく唯華は、冷たく言い放つ。
「平気なので」
もう、どうなってもいいのだ。誰も自分を心配したりしない。またフラフラと歩き始めると、視界がぐにゃりと崩れていく。寒い。寂しい。助けて。誰にも頼ることが出来ない唯華は、そんな感情にのみこまれていった。
車はハザードを点灯させる。運転席から降りて来たその人に抱き抱えられて助手席に放り込まれ直ぐにドアが閉められた。運転席側に戻って、助手席のシートを軽く倒した。フェイスタオルで顔は優しく拭かれ、髪の毛は少し雑に水分をとる。大きな手が額に触れた。
「寒いか?熱が出てるっぽいな」
「知らない、人はだめ……」
ガタガタと震えている唯華に抵抗する力は少しも残っていなかった。
「俺は医者だよ、ほらここを戻った角の芹澤クリニック。そこの医者が悪さなんて出来ないと思いますが……だから信じて。戻れば大きなタオルとかあるから。このまま放置なんて出来ないよ。風邪どころか肺炎になるからね。治療させて」
「先生?」
このエリアで割と評判のクリニックだ。2年くらい前に出来た所なのに、今では患者が多くて予約が大変って聞いたことがある。なら大丈夫なのかな……寒くて震えが止まらない唯華は、頷いた。
「患者を診るだけだから」
そう言って車がUターンをした。ガクガクと震える身体に色々な思いが込み上げて涙が溢れてきた。
そっと頭を撫でられた後の記憶が飛んだ。
唯華は、しばらくして目が覚めた。ここは一体何処なのか記憶を辿ってみる。自分の部屋ではない。そう言えば芹澤クリニックの先生に運ばれた事を思い出した。
でも診察室には見えなかった。それでも点滴の針が固定された腕を見て、本当にあの人は医者だったのだと納得した。
「ここは、どこ?」
熱を持つ身体には、力が入らない。何となく呟いた言葉に返事が返ってきた。
「うちは、入院施設は無いんだ。かと言って時間外のこんな時間に診察室のベットじゃね。クリニックが開いてると思って誰か来たら困るから。スタッフ部屋の隣にある俺の仮眠が出来る個室だよ」
そうなんだ……ぼんやりとしながら先生の話を聞いていた。
びしょ濡れだった服はいつの間にか全部着替えている。大きい襟ぐりの開き具合で先生のシャツかなと思った。
「なんか、いい香りがする」
優しくて温かい。気持ちが落ち着いていく。どうしてこんな気持ちになるのか分からない。先生のシャツだからなのかな……そんな訳ないか。また、睡魔に襲われてくる。
「大丈夫、そばに居るから。安心して唯華」
どうして、名前を知ってるの?まぶたがくっついてしまう。手を先生が居る方へ伸ばしてみた。大きな手がその手を取ってくれた。そのまま、深く眠りについた。
朝になってもまだ熱が少しある。それでもここに居ては仕事の邪魔になってしまう。
邪魔になりたくない。落ち着かない。早く帰りたい。帰る場所なんてないのに。そんな唯華の様子に気が付いたのか、芹澤が笑った。
「今日は日曜日だから休みだよ。服は洗濯して乾燥させたから、着替えるかい?」
良かったこのシャツで帰るのはさすがに似合わないと、頷いて受け取った。
「着替えたら帰ります。治療費も請求して下さい」
他人の職場だ。休みだとしても出ていかないとだめだろう。幸いカードは持っている。お金は払って帰れるはずだ。
「治療費は気にしないで。ただごめん。荷物を確認したんだ。学生証とスマホ」
多分顔色が変わったことに先生は気が付いたんだと思う。
「何度もLimeのメッセージ音が聞こえてね……」
先生は困ったように笑った。
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