1 / 38
0.雪の序章
しおりを挟む
しんしんと雪は降り積もる。都市から離れた森の中、一軒の小さな家で二人は暮らしていた。小窓から漏れる光が夜の闇の中に浮かんだ。
「坊や、雪は降っているの」
その母の声に、まだ幼く見える少年は、赤い髪を揺らして窓から振り返った。
「うん、随分冷えてきたよ。母さまは大丈夫?」
母親はベッドの上でニッコリと微笑んだ。しかしこの少年の母親という割には、随分と老いているように見えた。顔も手もしわくちゃで、背中も少し曲がっている。
「今は大丈夫。でも準備と心構えだけはしておきなさい。もうすぐ母さまはいなくなるのだから」
母親の不穏な言葉に、少年は走り寄ると、ベッドに顔を伏せた。
「ねえ母さま、やっぱり都市に行こう。修理してもらおうよ」
母親は少年の赤い髪をなでると、優しい声で説いた。
「可愛い坊や、よくお聞き。命は修理できないの。年老いて滅び行く、それが命あるものの宿命」
少年は涙を浮かべて母の顔を振り仰いだ。
「でも母さまがいなくなるのは嫌だよ。僕ひとりじゃ寂しい」
しかし母親は笑顔で首を振った。
「ひとりにはなりません。坊やのことは、神さまにお願いしてあるから」
「神さまに?」
「ええ、母さまが神さまによくお願いしてあるから、後のことは心配しなくて良いのですよ」
神さまのことは長い年月――そう、人間の幼年期を何十回も繰り返せるほどの、本当に長い年月――母から繰り返し聞かされてきた。それは子守歌であり、おとぎ話。内容をそらんじることさえできる。だが少年は母に甘えた。この幸せな時間が、もうすぐ終わってしまうのであろうことを予感しながら。
「ねえ母さま。また神さまのお話聞かせて」
「いいですとも、オメガの息子よ。それは優しい神さまの物語。鉄のハートと歌う世界の物語。始まりはそう、ごうごうと吹き付ける酷い吹雪の中……」
「坊や、雪は降っているの」
その母の声に、まだ幼く見える少年は、赤い髪を揺らして窓から振り返った。
「うん、随分冷えてきたよ。母さまは大丈夫?」
母親はベッドの上でニッコリと微笑んだ。しかしこの少年の母親という割には、随分と老いているように見えた。顔も手もしわくちゃで、背中も少し曲がっている。
「今は大丈夫。でも準備と心構えだけはしておきなさい。もうすぐ母さまはいなくなるのだから」
母親の不穏な言葉に、少年は走り寄ると、ベッドに顔を伏せた。
「ねえ母さま、やっぱり都市に行こう。修理してもらおうよ」
母親は少年の赤い髪をなでると、優しい声で説いた。
「可愛い坊や、よくお聞き。命は修理できないの。年老いて滅び行く、それが命あるものの宿命」
少年は涙を浮かべて母の顔を振り仰いだ。
「でも母さまがいなくなるのは嫌だよ。僕ひとりじゃ寂しい」
しかし母親は笑顔で首を振った。
「ひとりにはなりません。坊やのことは、神さまにお願いしてあるから」
「神さまに?」
「ええ、母さまが神さまによくお願いしてあるから、後のことは心配しなくて良いのですよ」
神さまのことは長い年月――そう、人間の幼年期を何十回も繰り返せるほどの、本当に長い年月――母から繰り返し聞かされてきた。それは子守歌であり、おとぎ話。内容をそらんじることさえできる。だが少年は母に甘えた。この幸せな時間が、もうすぐ終わってしまうのであろうことを予感しながら。
「ねえ母さま。また神さまのお話聞かせて」
「いいですとも、オメガの息子よ。それは優しい神さまの物語。鉄のハートと歌う世界の物語。始まりはそう、ごうごうと吹き付ける酷い吹雪の中……」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる