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35話 英雄の帰還
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「アンタ、自分があの女に引導渡すって最初からわかってたでしょ」
ゴーネの裂け目を渡る銀色の馬車の中、右肩の上でたずねたアタイに、タクミ・カワヤはやれやれといった風にため息をついた。
「別の結末があるかも知れないって期待したんだけどね」
人間の向かいに座るブロックは、フェルンワルドに戻るっていうのに浮かない顔だ。
「でもあれで良かったのかな、あの人」
「何よブロック、あの迷惑女に同情してんの」
「だって、可哀想だよ。確かにやったことは悪いけど、否定するだけしてほったらかしなんて」
「あーら、じゃあいまから戻ってぶっ殺してくる?」
「それは、嫌だけど」
うつむくブロックにタクミ・カワヤは微笑みかける。
「最良の答ではなかったかも知れないね。でも僕らは僕らなりにやるべきことをしたんだ、それ以上を望むのは欲張り過ぎなんじゃないかな。彼女のことは結局、彼女自身が決めるしかない訳だし」
「あの人、もう呪言獣を使ったりしないかな」
「できないだろうね」
フン。何さ、偉そうに。
「アンタそんなこと言ってるけど、あの女に嘘ついたじゃない。アタイ見て来て知ってるんだから、あの世界破滅したりしないよね」
「嘘はついてないさ。あの世界は破滅する。それまでに何百年、何千年かかるかは知らないけど」
そう言ってタクミ・カワヤはニッと歯を見せた。ホント嫌なヤツ。そりゃブロックも唖然とするわよね。
満月から伸びる光の道を銀色の馬車が駆け、楽隊のラッパが鳴り響く中を世界樹宮殿の前に音もなく停止する。王宮の前には女王様と大臣と大臣補佐が待っていた。
「よくぞ戻ってまいりました、救国の英雄たち。キーシャ、ブロック、そして人間タクミ・カワヤ」
歌うような女王様の言葉に、アタイたちは馬車を降りる。ちょっと気恥ずかしいけど、ちょっといい気分。ブロックはガッチガチに緊張してるし、人間は相変わらずヘラヘラ笑ってる。女王様の前なんだから、二人ともしゃんとしてよ、もう。
「あなた方三名の命がけの冒険が、呪言獣の脅威からこのフェルンワルドを救いました。ありがとう。この国のすべての民を代表して感謝します。本当にありがとう」
そこまでの大冒険はしてないんだけどな、と思ったりはしたけれど、それはいま言うことじゃない気がする。アタイだって空気くらい読めるのだ。
「ことにタクミ・カワヤ。あなたはこの国の民ではないにも関わらず、その身を呈して私たちを救ってくれました。どれほど感謝の言葉を並べても足りません。できれば褒美を取らせたいのですが、何か欲しい物はありますか。何でも望む物を用意しましょう」
と女王様が、アタイたちの女王様が言ってくださったのに、この人間はまったく。
「いえ、それはいいです」
一言で断りやがって! 何様!
「宝物をもらっても、たぶん人間世界に持って帰る訳にも行かないでしょうし、ご褒美はキーシャとブロックにあげてください。僕は約束を守っていただければそれだけで」
女王様はちょっと残念そうだったけど、すぐに笑顔になってくださった。女王様は凄い方なんだからね! だから怒らないけど、普通だったら怒られるんだからね! ああ、このバカ人間にそう言ってやりたい。でもいまは我慢。
「わかりました。あなたとの約束、このフェルンワルドの女王の名誉にかけて、そして妖精の誇りにかけて必ずや守りましょう」
女王様がそう断言されると、その周囲に花が咲き乱れ山となる。輝きが増した星空にはオーロラがはためき、女王様は、アタイ達の女王様の温かい視線はアタイを見つめてくださった。
「ではキーシャ、フェルンワルドの子よ。疲れているでしょうが、タクミ・カワヤを人間世界に無事送り届けてください。頼みましたよ」
「はい! 女王様!」
アタイは張り切って返事をした。
まあ、アタイもリコットのところに戻るんだから、ついでなんだけどさ。
銀色の馬車がハースガルドの屋敷の窓の外に停まると、リコットが窓辺に駆け寄ってきた。
「キーシャ!」
「リコット! 会いたかったよー!」
アタイが飛びつくと、リコットもキャッキャと喜んでくれた。ああ、これなのよ。こうでなきゃ。人間は可愛げが大事。
少し遅れて馬車から降りて来た、可愛げのないタクミ・カワヤがリコットにたずねる。
「結局、あれからどれくらい時間が経ったの」
「五分くらいかな」
「なるほど。そんな昔話もあったっけ」
何一人で納得してんだか。でも、そうか。もう右肩から降りたんだから、アタイの声も聞こえないし姿も見えないんだよね。だったら。
「べろべろばぁ~!」
「ダメだよキーシャ、そんなことしちゃ」
慌てるリコットの頭に座ってアタイはタクミ・カワヤをあざ笑った。
「いーのいーの。コイツはアタイがいたおかげで……」
「キーシャがいてくれたおかげで本当に助かったんだ。ちょっとやそっとじゃ腹を立てたりしないさ、大丈夫」
「なっ」
何を笑顔でそんなこと言ってんのさ、このバカ人間。アタイの声、聞こえてないよね。見えてないよね。やだコイツ。
そんなアタイのことがやっぱり見えてないんだろうタクミ・カワヤは、ちょっと困ったような顔でしゃがみ込むと、視線を合わせてリコットにこう話した。
「それより当面の問題は明日かな」
ああそうか、明日。すっかり忘れてた、明日はアイツがここに来るんだった。
ゴーネの裂け目を渡る銀色の馬車の中、右肩の上でたずねたアタイに、タクミ・カワヤはやれやれといった風にため息をついた。
「別の結末があるかも知れないって期待したんだけどね」
人間の向かいに座るブロックは、フェルンワルドに戻るっていうのに浮かない顔だ。
「でもあれで良かったのかな、あの人」
「何よブロック、あの迷惑女に同情してんの」
「だって、可哀想だよ。確かにやったことは悪いけど、否定するだけしてほったらかしなんて」
「あーら、じゃあいまから戻ってぶっ殺してくる?」
「それは、嫌だけど」
うつむくブロックにタクミ・カワヤは微笑みかける。
「最良の答ではなかったかも知れないね。でも僕らは僕らなりにやるべきことをしたんだ、それ以上を望むのは欲張り過ぎなんじゃないかな。彼女のことは結局、彼女自身が決めるしかない訳だし」
「あの人、もう呪言獣を使ったりしないかな」
「できないだろうね」
フン。何さ、偉そうに。
「アンタそんなこと言ってるけど、あの女に嘘ついたじゃない。アタイ見て来て知ってるんだから、あの世界破滅したりしないよね」
「嘘はついてないさ。あの世界は破滅する。それまでに何百年、何千年かかるかは知らないけど」
そう言ってタクミ・カワヤはニッと歯を見せた。ホント嫌なヤツ。そりゃブロックも唖然とするわよね。
満月から伸びる光の道を銀色の馬車が駆け、楽隊のラッパが鳴り響く中を世界樹宮殿の前に音もなく停止する。王宮の前には女王様と大臣と大臣補佐が待っていた。
「よくぞ戻ってまいりました、救国の英雄たち。キーシャ、ブロック、そして人間タクミ・カワヤ」
歌うような女王様の言葉に、アタイたちは馬車を降りる。ちょっと気恥ずかしいけど、ちょっといい気分。ブロックはガッチガチに緊張してるし、人間は相変わらずヘラヘラ笑ってる。女王様の前なんだから、二人ともしゃんとしてよ、もう。
「あなた方三名の命がけの冒険が、呪言獣の脅威からこのフェルンワルドを救いました。ありがとう。この国のすべての民を代表して感謝します。本当にありがとう」
そこまでの大冒険はしてないんだけどな、と思ったりはしたけれど、それはいま言うことじゃない気がする。アタイだって空気くらい読めるのだ。
「ことにタクミ・カワヤ。あなたはこの国の民ではないにも関わらず、その身を呈して私たちを救ってくれました。どれほど感謝の言葉を並べても足りません。できれば褒美を取らせたいのですが、何か欲しい物はありますか。何でも望む物を用意しましょう」
と女王様が、アタイたちの女王様が言ってくださったのに、この人間はまったく。
「いえ、それはいいです」
一言で断りやがって! 何様!
「宝物をもらっても、たぶん人間世界に持って帰る訳にも行かないでしょうし、ご褒美はキーシャとブロックにあげてください。僕は約束を守っていただければそれだけで」
女王様はちょっと残念そうだったけど、すぐに笑顔になってくださった。女王様は凄い方なんだからね! だから怒らないけど、普通だったら怒られるんだからね! ああ、このバカ人間にそう言ってやりたい。でもいまは我慢。
「わかりました。あなたとの約束、このフェルンワルドの女王の名誉にかけて、そして妖精の誇りにかけて必ずや守りましょう」
女王様がそう断言されると、その周囲に花が咲き乱れ山となる。輝きが増した星空にはオーロラがはためき、女王様は、アタイ達の女王様の温かい視線はアタイを見つめてくださった。
「ではキーシャ、フェルンワルドの子よ。疲れているでしょうが、タクミ・カワヤを人間世界に無事送り届けてください。頼みましたよ」
「はい! 女王様!」
アタイは張り切って返事をした。
まあ、アタイもリコットのところに戻るんだから、ついでなんだけどさ。
銀色の馬車がハースガルドの屋敷の窓の外に停まると、リコットが窓辺に駆け寄ってきた。
「キーシャ!」
「リコット! 会いたかったよー!」
アタイが飛びつくと、リコットもキャッキャと喜んでくれた。ああ、これなのよ。こうでなきゃ。人間は可愛げが大事。
少し遅れて馬車から降りて来た、可愛げのないタクミ・カワヤがリコットにたずねる。
「結局、あれからどれくらい時間が経ったの」
「五分くらいかな」
「なるほど。そんな昔話もあったっけ」
何一人で納得してんだか。でも、そうか。もう右肩から降りたんだから、アタイの声も聞こえないし姿も見えないんだよね。だったら。
「べろべろばぁ~!」
「ダメだよキーシャ、そんなことしちゃ」
慌てるリコットの頭に座ってアタイはタクミ・カワヤをあざ笑った。
「いーのいーの。コイツはアタイがいたおかげで……」
「キーシャがいてくれたおかげで本当に助かったんだ。ちょっとやそっとじゃ腹を立てたりしないさ、大丈夫」
「なっ」
何を笑顔でそんなこと言ってんのさ、このバカ人間。アタイの声、聞こえてないよね。見えてないよね。やだコイツ。
そんなアタイのことがやっぱり見えてないんだろうタクミ・カワヤは、ちょっと困ったような顔でしゃがみ込むと、視線を合わせてリコットにこう話した。
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