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第12話 もう一人
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検視官はまだ秋嶺山荘に到着していない。亀森警部と鶴樹警部補は現場に残る刑事たちに指示を与えた後、すぐに総合医療センターへと向かった。見張りの刑事二人も新たな持ち場に向かい、防災監視室に残るのは式村憲明と五十坂の二人だけ。
式村はまた事務椅子に座り、深々とため息をついた。
「日和オーナーまで殺されるなんて。やっぱり犯人は唐島源治なのかな」
「そいつはどうだろうねえ」
五十坂は操作盤をいじりながら、モニター画面を熱心に眺めている。並ぶモニターには館内の様子が、五秒置きに切り替わりながら映し出されていた。
「システムは古いしカメラの解像度も低い。しかしただの監視ならこれでも十分役に立つ。刑事たちの姿を見かけなかったはずだ、ずっとここに詰めてたんだからな」
そう言いながら五十坂が見つめている正面のモニター画面では、映像が巻き戻っていた。五十坂の手が画面下のボタンに伸びているのを見て、式村の背中には冷たい汗が浮かんだ。
「おい、これは証拠だぞ。勝手にいじったりしたら」
「別に映像を消す訳じゃない、問題ないって」
そしてある部分で映像は停止し、そこから順送りになる。五十坂は目を皿のようにして見つめた。いったい何が気になるのだろう。面白半分に警察の捜査に首を突っ込んでも、邪魔になるだけで誰も得をしないのに。確かに五十坂の頭のキレは凄いものだが、餅は餅屋である。
式村がそんなことを考えている目の前で、映像はまた巻き戻り、また順送りになり、さらにまた停止した。
「どういうこった」
「どうした。何かあったのか」
餅は餅屋だと思いながらも、やはり気になるものは気になるのだ。五十坂は式村の顔をチラリと見た後、促すようにまた画面に目を向けた。
「玄関のカメラの映像だ。唐島源治が一瞬だけ映ってる」
「えっ」
停止していた映像がまた少し巻き戻され、今度はコマ送りになった。
「ここで玄関に走り込んで来るのは日和義人だろう。その少し後、画面の端に一瞬映ってるのは、おそらく追いかけて来た唐島源治だ。だが唐島は玄関から入っては来ず、反転して逃げ出した。そして」
五十坂の言葉に合わせるように映像は一階ホールに切り替わる。玄関に向けて走って行く刑事が四人映っていた。
「ここで刑事が登場し、唐島を追いかけたが取り逃がした。どう思う」
どう思う? いったい何をどう思えというのだ。式村は困惑した。
「どう思うって、唐島は日和オーナーを追いかけて来たとき、刑事が現れたのを見て逃げ出したんだろう。何も不思議はない」
しかし五十坂は、ニッと歯をむき出して首を振った。
「違うね。そうじゃないんだよ、式村さん」
映像はまた巻き戻される。そして唐島源治と思われる影を捉えたところで停止した。
「唐島はここで止まった。で、即反転して逃げ出したんだ」
「だから?」
「この時点ではまだ刑事は階段を下りていない。なのに唐島は逃げ出した」
「声か足音が聞こえたんじゃ」
「かも知れない。その可能性はある。あるが」
「あるが、何だよ」
「他の可能性もあるとしたら」
「他の可能性?」
「ああ、このときもう一人誰かが居たって可能性がな」
もう一人の人物。この状況でその考えは極めて不穏だ。
「それは、いったい誰が」
「そいつがわかりゃ苦労はないさ。ただ、そのもう一人が居たと考えれば、イロイロ説明がつく。日和義人は何故こんな時間に建物の外に出たのか。もしそれが唐島源治を誘い出すためなら、何故ヤツが近くに居ることに気付いたのか。見張り兼ボディガードが待ち構えていたんだとすれば納得だろ」
式村は返事ができない。何だ、いったい何なのだこの五十坂という男は。もはや感心するより背筋が寒くなるレベルだ。
しかし当の五十坂は、青ざめる式村になど関心を持たない。
「ま、警察だってこのくらいはすぐ気付くだろう。俺がどうこう言うこっちゃない。さて、部屋に戻って寝る用意でもするかね。できればその前に車で一服したいところなんだが」
五十坂は立ち上がり、一人で防災監視室を出て行く。残された式村は立ち上がることができなかった。
――気付くだろうか。本当に警察はこのことに気付くだろうか
――私はこれを誰かに話すべきなのだろうか
――そうして自らの行動を不問に付してもらいたいのか。実はそれが本心なのか
式村憲明はもはや、どうすればいいのかわからなくなっていた。
県警のパトカーが一台、サイレンを鳴らしながら到着した。後部座席から中年の男が一人飛び出し、秋嶺山荘の玄関へと入って行く。
五十坂は少し倒したクラウンの運転席で、車内をもうもうと煙で埋め尽くしながらタバコを咥えていた。中年の男は検視官だろうか、何か新しい事実でも見つかるのかね。まあいまさらどうでもいいが、なんてことをつらつらと考えながら。
今回の仕事は失敗だ。途中までは上手く行っていたように思うんだがな、五十坂はヤニで暗い色に染まったクラウンの天井をにらみつける。
せっかくフリーライターの設定を考えて名刺まで作って準備をしたのに、日和義人に死なれたのでは全部おじゃんである。警察が文句を言わないなら、明日にでも帰って次の獲物を探さないと早晩干上がってしまうだろう。まったく不景気な話だ。
コンコン、窓が音を立てた。目をやれば夜の闇の中、パトカーの赤色灯に照らされて、車の外に誰か立っている。そのスマートなシルエットには見覚えがあった。手に持ったウーロン茶の缶にも。五十坂は窓を下ろし顔を出す。
「どうした、何かあったか」
「いえ、別に何もないんですけどね。ただ中にいると警察の人が僕にばっかりイロイロ訊いて来るもので、ちょっと参っちゃって」
困り顔のケンタは冷えたウーロン茶を手渡してため息をついた。五十坂は苦笑を浮かべるしかない。
「まあ実際のとこ一番状況がわかってるように見えるからな、仕方ない。人生諦めは肝心だぞ」
「僕はそんなに理解力がある訳でも、判断力がある方でもないんですけど」
「そいつは謙遜だろ。ここでおまえさんより頭が回りそうなのって八科先生くらいじゃないのか」
「夜叉は……いや、八科は確かに頭がいいですが」
「その分、厳しいってか」
陰で夜叉なんて仇名されてるくらいだ、それなりの理由があるのだろうことは想像に難くない。五十坂が向けた水に、ケンタは乗っかって来た。
「外面がいいんです、あの人は。親とか役所の人間とか、そういう人にはいつも丁寧で。でも僕らにはすぐガミガミガミガミ」
「へえ、役所の人間も来るんだな、ここ」
「県庁の人としては、認可施設になって欲しいみたいですよ。単なる私塾じゃ都合悪いみたいで」
まあ役所にも「実績」という言葉は通用する。手柄が欲しいヤツもいれば、クレーム対応に追われて困ってるヤツもいるのかも知れないが、どっちの理由にせよ秋嶺山荘が認可施設になれば実績は評価されるだろう。そんなことを五十坂が考えていると、ケンタはこうつぶやいた。
「でも最近は役所の人を見かけないんですよね。何かあったのかな」
五十坂の眉がピクリと動く。
「どうかしました?」
ケンタが首をかしげれば、五十坂はごまかすようにウーロン茶の口を開けた。
「いや、何てこたぁない」
咥えていたタバコを灰皿に突っ込んでウーロン茶を一口飲む。実際、何てことはない話なのだ、とりあえずもう自分には関係ないという意味で。
「一つ訊いていいですか」
「何だ改まって」
五十坂が顔を上げると、ケンタは興味津々といった目で見つめている。
「狭庭さんの死体を見つけたの、五十坂さんなんですよね」
「いいや、見つけたのは刑事だ。俺はあるんじゃないかって言っただけだよ」
「何で死体がエレベーターの上にあると思ったんですか」
「エレベーターの上で音がした。二〇一号室の客がどこかに行ったまま消えてしまった。ならエレベーターの上にいるんじゃないか、その程度の連想ゲームだな」
かなり端折ってはいるが、嘘はついていない。しかしこれにケンタは不満なようだ。
「もうちょっと凄い奇抜な推理とかあると思ったんですけど」
「おまえね、人が死んでんだぞ。あんまり面白がるもんじゃねえよ。名探偵の名推理はフィクションの中で満足しときな」
「はーい」
拍子抜けしたかのように気のない返事をすると、ケンタは背中を向けた。
「じゃあ僕は他の子たちを寝かしつけなきゃいけないんで。五十坂さんも早く寝てくださいね」
「言われなくてもそうするよ」
五十坂がウーロン茶の缶を軽く振ったとき。
「あれ?」
ケンタの声に視線を向ければ、山荘の玄関から出て来る人影。あのジローが外に居る。
「何してるんだ、こんなところで」
「何してるんだ、こんなところで」
例によって例の如く、またジローは物真似をしているらしい。
「もう寝るぞ、ほらおいで」
「もう寝るぞ、ほらおいで」
「それはいいから」
「それはいいから」
二つの声は遠ざかって行く。その行く末を見据えるかのような五十坂の静かな眼差し。だが突然、その目の奥が動揺した。
「あいつ、まさか」
五十坂は一つため息をつくと、いま思いついたことをキャンセルするかのように、冷や汗の浮いた顔を撫でた。手のひらが僅かに湿る感覚。
「悪い癖だな、まったく」
苦虫を嚙み潰したよう、とはこんな顔を言うのだろう。クラウンのルームミラーに映ったそれを、五十坂はしばし見つめた。そして心に言い聞かせる。この件は終わりだ。終わったんだ。俺はもう降りたんだからな。後は警察が好きにすればいい。俺の知ったこっちゃない。そうだ、誰かのために頭を絞るなんぞまっぴらだ。くだらねえ、心底くだらねえと。
式村はまた事務椅子に座り、深々とため息をついた。
「日和オーナーまで殺されるなんて。やっぱり犯人は唐島源治なのかな」
「そいつはどうだろうねえ」
五十坂は操作盤をいじりながら、モニター画面を熱心に眺めている。並ぶモニターには館内の様子が、五秒置きに切り替わりながら映し出されていた。
「システムは古いしカメラの解像度も低い。しかしただの監視ならこれでも十分役に立つ。刑事たちの姿を見かけなかったはずだ、ずっとここに詰めてたんだからな」
そう言いながら五十坂が見つめている正面のモニター画面では、映像が巻き戻っていた。五十坂の手が画面下のボタンに伸びているのを見て、式村の背中には冷たい汗が浮かんだ。
「おい、これは証拠だぞ。勝手にいじったりしたら」
「別に映像を消す訳じゃない、問題ないって」
そしてある部分で映像は停止し、そこから順送りになる。五十坂は目を皿のようにして見つめた。いったい何が気になるのだろう。面白半分に警察の捜査に首を突っ込んでも、邪魔になるだけで誰も得をしないのに。確かに五十坂の頭のキレは凄いものだが、餅は餅屋である。
式村がそんなことを考えている目の前で、映像はまた巻き戻り、また順送りになり、さらにまた停止した。
「どういうこった」
「どうした。何かあったのか」
餅は餅屋だと思いながらも、やはり気になるものは気になるのだ。五十坂は式村の顔をチラリと見た後、促すようにまた画面に目を向けた。
「玄関のカメラの映像だ。唐島源治が一瞬だけ映ってる」
「えっ」
停止していた映像がまた少し巻き戻され、今度はコマ送りになった。
「ここで玄関に走り込んで来るのは日和義人だろう。その少し後、画面の端に一瞬映ってるのは、おそらく追いかけて来た唐島源治だ。だが唐島は玄関から入っては来ず、反転して逃げ出した。そして」
五十坂の言葉に合わせるように映像は一階ホールに切り替わる。玄関に向けて走って行く刑事が四人映っていた。
「ここで刑事が登場し、唐島を追いかけたが取り逃がした。どう思う」
どう思う? いったい何をどう思えというのだ。式村は困惑した。
「どう思うって、唐島は日和オーナーを追いかけて来たとき、刑事が現れたのを見て逃げ出したんだろう。何も不思議はない」
しかし五十坂は、ニッと歯をむき出して首を振った。
「違うね。そうじゃないんだよ、式村さん」
映像はまた巻き戻される。そして唐島源治と思われる影を捉えたところで停止した。
「唐島はここで止まった。で、即反転して逃げ出したんだ」
「だから?」
「この時点ではまだ刑事は階段を下りていない。なのに唐島は逃げ出した」
「声か足音が聞こえたんじゃ」
「かも知れない。その可能性はある。あるが」
「あるが、何だよ」
「他の可能性もあるとしたら」
「他の可能性?」
「ああ、このときもう一人誰かが居たって可能性がな」
もう一人の人物。この状況でその考えは極めて不穏だ。
「それは、いったい誰が」
「そいつがわかりゃ苦労はないさ。ただ、そのもう一人が居たと考えれば、イロイロ説明がつく。日和義人は何故こんな時間に建物の外に出たのか。もしそれが唐島源治を誘い出すためなら、何故ヤツが近くに居ることに気付いたのか。見張り兼ボディガードが待ち構えていたんだとすれば納得だろ」
式村は返事ができない。何だ、いったい何なのだこの五十坂という男は。もはや感心するより背筋が寒くなるレベルだ。
しかし当の五十坂は、青ざめる式村になど関心を持たない。
「ま、警察だってこのくらいはすぐ気付くだろう。俺がどうこう言うこっちゃない。さて、部屋に戻って寝る用意でもするかね。できればその前に車で一服したいところなんだが」
五十坂は立ち上がり、一人で防災監視室を出て行く。残された式村は立ち上がることができなかった。
――気付くだろうか。本当に警察はこのことに気付くだろうか
――私はこれを誰かに話すべきなのだろうか
――そうして自らの行動を不問に付してもらいたいのか。実はそれが本心なのか
式村憲明はもはや、どうすればいいのかわからなくなっていた。
県警のパトカーが一台、サイレンを鳴らしながら到着した。後部座席から中年の男が一人飛び出し、秋嶺山荘の玄関へと入って行く。
五十坂は少し倒したクラウンの運転席で、車内をもうもうと煙で埋め尽くしながらタバコを咥えていた。中年の男は検視官だろうか、何か新しい事実でも見つかるのかね。まあいまさらどうでもいいが、なんてことをつらつらと考えながら。
今回の仕事は失敗だ。途中までは上手く行っていたように思うんだがな、五十坂はヤニで暗い色に染まったクラウンの天井をにらみつける。
せっかくフリーライターの設定を考えて名刺まで作って準備をしたのに、日和義人に死なれたのでは全部おじゃんである。警察が文句を言わないなら、明日にでも帰って次の獲物を探さないと早晩干上がってしまうだろう。まったく不景気な話だ。
コンコン、窓が音を立てた。目をやれば夜の闇の中、パトカーの赤色灯に照らされて、車の外に誰か立っている。そのスマートなシルエットには見覚えがあった。手に持ったウーロン茶の缶にも。五十坂は窓を下ろし顔を出す。
「どうした、何かあったか」
「いえ、別に何もないんですけどね。ただ中にいると警察の人が僕にばっかりイロイロ訊いて来るもので、ちょっと参っちゃって」
困り顔のケンタは冷えたウーロン茶を手渡してため息をついた。五十坂は苦笑を浮かべるしかない。
「まあ実際のとこ一番状況がわかってるように見えるからな、仕方ない。人生諦めは肝心だぞ」
「僕はそんなに理解力がある訳でも、判断力がある方でもないんですけど」
「そいつは謙遜だろ。ここでおまえさんより頭が回りそうなのって八科先生くらいじゃないのか」
「夜叉は……いや、八科は確かに頭がいいですが」
「その分、厳しいってか」
陰で夜叉なんて仇名されてるくらいだ、それなりの理由があるのだろうことは想像に難くない。五十坂が向けた水に、ケンタは乗っかって来た。
「外面がいいんです、あの人は。親とか役所の人間とか、そういう人にはいつも丁寧で。でも僕らにはすぐガミガミガミガミ」
「へえ、役所の人間も来るんだな、ここ」
「県庁の人としては、認可施設になって欲しいみたいですよ。単なる私塾じゃ都合悪いみたいで」
まあ役所にも「実績」という言葉は通用する。手柄が欲しいヤツもいれば、クレーム対応に追われて困ってるヤツもいるのかも知れないが、どっちの理由にせよ秋嶺山荘が認可施設になれば実績は評価されるだろう。そんなことを五十坂が考えていると、ケンタはこうつぶやいた。
「でも最近は役所の人を見かけないんですよね。何かあったのかな」
五十坂の眉がピクリと動く。
「どうかしました?」
ケンタが首をかしげれば、五十坂はごまかすようにウーロン茶の口を開けた。
「いや、何てこたぁない」
咥えていたタバコを灰皿に突っ込んでウーロン茶を一口飲む。実際、何てことはない話なのだ、とりあえずもう自分には関係ないという意味で。
「一つ訊いていいですか」
「何だ改まって」
五十坂が顔を上げると、ケンタは興味津々といった目で見つめている。
「狭庭さんの死体を見つけたの、五十坂さんなんですよね」
「いいや、見つけたのは刑事だ。俺はあるんじゃないかって言っただけだよ」
「何で死体がエレベーターの上にあると思ったんですか」
「エレベーターの上で音がした。二〇一号室の客がどこかに行ったまま消えてしまった。ならエレベーターの上にいるんじゃないか、その程度の連想ゲームだな」
かなり端折ってはいるが、嘘はついていない。しかしこれにケンタは不満なようだ。
「もうちょっと凄い奇抜な推理とかあると思ったんですけど」
「おまえね、人が死んでんだぞ。あんまり面白がるもんじゃねえよ。名探偵の名推理はフィクションの中で満足しときな」
「はーい」
拍子抜けしたかのように気のない返事をすると、ケンタは背中を向けた。
「じゃあ僕は他の子たちを寝かしつけなきゃいけないんで。五十坂さんも早く寝てくださいね」
「言われなくてもそうするよ」
五十坂がウーロン茶の缶を軽く振ったとき。
「あれ?」
ケンタの声に視線を向ければ、山荘の玄関から出て来る人影。あのジローが外に居る。
「何してるんだ、こんなところで」
「何してるんだ、こんなところで」
例によって例の如く、またジローは物真似をしているらしい。
「もう寝るぞ、ほらおいで」
「もう寝るぞ、ほらおいで」
「それはいいから」
「それはいいから」
二つの声は遠ざかって行く。その行く末を見据えるかのような五十坂の静かな眼差し。だが突然、その目の奥が動揺した。
「あいつ、まさか」
五十坂は一つため息をつくと、いま思いついたことをキャンセルするかのように、冷や汗の浮いた顔を撫でた。手のひらが僅かに湿る感覚。
「悪い癖だな、まったく」
苦虫を嚙み潰したよう、とはこんな顔を言うのだろう。クラウンのルームミラーに映ったそれを、五十坂はしばし見つめた。そして心に言い聞かせる。この件は終わりだ。終わったんだ。俺はもう降りたんだからな。後は警察が好きにすればいい。俺の知ったこっちゃない。そうだ、誰かのために頭を絞るなんぞまっぴらだ。くだらねえ、心底くだらねえと。
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