強請り屋 静寂のイカロス

柚緒駆

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次は誰だ

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 次に誰が殺されるんだろう。予言通りなら、そして五味さんの推理通りなら、犯人はあと二人殺そうとするはず。私の頭の中は、それでいっぱいだった。こうして体を動かしていなければ、そればかり考えて頭がおかしくなりそう。

 もしかして私だろうか。でも不思議と、そう考えても怖くなかった。本当に怖いのは、その逆。私だけをおいて、みんなどこかに行ってしまう事。独りぼっちになる事。だけど。

 一と一と三。

 最初の一は弁護士の下臼さん。次の一は和馬叔父様。最後の三は小梅さんとあと二人。だったらその二人は、普通に考えれば、大松さんと竹中さんじゃないんだろうか。



「普通に考えるなら、大松と竹中の二人だ」

 部屋の真ん中で胡座をかくオレの言葉に、原樹は目をみはり、築根は仁王立ちで眉を寄せた。

「間違いないのか」
「問題はそこだな」

 ああ、タバコが吸いてえ。タバコが吸いてえよ、クソッ。

「一と一と三。これを一人一組が二つと、三人一組が一つ、そう考えるのなら、この三人は小梅、竹中、大松の可能性が高い。だが」

 何かがオレの中で違うと叫ぶ。考えが綺麗にまとまらない。

「この犯人が、果たしてそんなに素直に考えるのか、オレには疑問だ」

 築根は問う。

「何故疑問に思う」
「もし三人一組でまとめるなら」そうだ、シンプルに三にこだわるなら。「どうして三人一緒に殺さなかった」

「いやいやいや、それはおかしいだろう」

 原樹が勢いよく突っ込んで来た。

「三人殺すのは大変だから、一人殺しただけで予言が成立するようにした、っておまえ言ってなかったか。矛盾してるだろ」

「珍しくいいところに気が付いたじゃねえか。そうだ、一人ずつ殺すより三人同時に殺す方が難しい。だがそんな当たり前の理屈が通るんなら、犯人は最初から三人同時に殺す事は眼中になかったって話になる。て事は、何が何でも小梅、竹中、大松の三人を全員殺さなきゃならない理由はない」

 原樹は首をかしげた。

「どういう事だ?」

 築根はうなずく。

「先に小梅さんが殺されれば、竹中さんと大松さんは警戒するに決まっている。それはわざわざ殺人のハードルを上げる事にしかならない」
「つまり、犯人にとって大事なのは、数だけなのかも知れない」

 そのオレの言葉に、しかし、と築根は言う。

「そうなると、次の被害者を予測するなんて事実上無理だぞ。いまこの建物の中には五十人ほどの人間がいる。確立二パーセントで誰でも殺される可能性があるなんて」
「まあ五十人しか居ないんだから、全員が一箇所に集まって互いを見張り合う、なんて手もあるが、それで何日過ごせるかだ」

「結局ここから出られない限り、次の殺人を止める手段なんてないって事か」
「それなんだが」

 ああ、頭が回らねえ。て言うか、何でオレは頭使ってるんだ、畜生。

「アンタらがここに来たのは、ストーカーの写真があるって連絡が入ったからだよな」
「ああ、そうだ」

「それ、誰からの連絡だった」

 築根の顔に緊張が走り、目が見開かれた。

「……小梅さんだ」
「つまり小梅は、刑事が来る日時を知っていた。なら犯人も、その日時を知っていた可能性がある。同じ日に、和馬は給孤独者会議を連れて来た。これも犯人が知っていたとしたら」

 築根が唸る。

「私たちと給孤独者会議がぶつかったのは、偶然じゃない?」
「そう考えると、やっぱり数じゃなく、殺す相手には意味があるのかも知れん」

「おい、どっちなんだ」

 原樹の素直な突っ込みに、オレは笑ってしまった。

「それがわかりゃ苦労はしねえよ」

 これからタバコは三箱持ち歩く事にしよう。もしここにタバコが一カートンあったら、こんな事件くらいすぐ解決してやるのに。

「一と一と三」オレはもう一度繰り返した。「最初の一はストーカー殺人。犯人は捕まってる。続く一と三は同一犯の可能性が高い。その合計は四だ」

 原樹がまた首をかしげた。

「それが?」
「いま、この建物の中には四つのグループが居る」

「三つじゃないのか」

 築根の顔が険しくなる。オレは右手を挙げて、指を一本ずつ折って行った。

「いや、四つだ。まず天晴宮日月教団、だがコイツらは二つに分かれてる。朝陽派と夕月派だな。三つ目は給孤独者会議だ。そして残る四つ目は、当然ここに居るオレたち四人って事になる」

 原樹は呆気に取られている。ホントいつまでも自覚ねえなコイツは。

「和馬は夕月を教祖にしようとしていた。つまり夕月派だ。そして小梅は朝陽の側近だから、当然朝陽派だよな。予言通りなら、あと二人殺される。残ってるのは給孤独者会議とオレたち。どっちが先かは犯人のみぞ知る、ってとこかもよ」

「警部補!」原樹が突然声を上げた。「自分と五味が道を切り開きます、警部補は逃げてください!」

 何でオレが計算に入ってるんだよ、と突っ込む間もなく、築根の人差し指が原樹の鼻の頭を強く打った。

「ふがぁっ?」

 鼻を押さえる原樹に築根は笑う。

「落ち着け。まだ助かるチャンスはあるよ。そうだろ、五味」

 オレはそれには答えず、腕を組んで二人を見上げた。自信を持って答えられるほど、頭が回っていない。

「典前和馬は自室で殺された。て事は、あの時間に和馬の部屋を訪れても、警戒されない相手が犯人だ。小梅太助は六階に呼び出されて殺された。て事は、小梅を呼び出してもおかしくない相手が犯人だ」

「……教祖なら、無理なく筋が通るな」

 苦笑する築根に、オレはうなずいた。

「教祖がムキムキのワンダーウーマンなら話が早いんだが」

「とにかく」築根は言った。「誰かから呼び出されるような事があれば注意しよう。仮にそれが、ここにいる自分以外の三人からであってもだ。あと、この四人はなるべく一緒に行動する。まずは身を守る事から始めよう」

 原樹もうなずく。オレは部屋の隅っこで膝を抱えているジローに声をかけた。

「ジロー、わかったな。もう時計の間に行くのはナシだ」

 しかしジローは虚空を見つめて反応しない。まあいつもの事だ。

「とりあえず、次の午前三時がポイントになる。何かあるならこの時間だろう」

 断言はしなかった。出来なかった。オレはまだ犯人について、何もわかっちゃいなかったからだ。午前三時がポイント。普通ならそうだ。だが普通って何だ。そもそもこの犯人は普通なのか。それも午前三時になればわかるかも知れない。自分が殺されなければの話だが。アレ、いまのうちにタバコ吸っておいた方が良くないか?
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