Alice Zero

百はな

文字の大きさ
上 下
39 / 55
第5章 アリスとアリス

ジャックとミハイル I

しおりを挟む


同時刻 ジャックside

目を閉じるとゼロが刺される光景がフラッシュバックする。

ギシッ。

教会の古びたベットに腰を下ろすと部屋に軋む音が響いた。

ゼロは無事なのか?

止血は一応したが、ちゃんとした手当てはしていない。

カチカチッ。

口に咥えた煙草に何度もライターで火を付けているが、中々火が点かない。

「ッチ。」

俺は乱暴に煙草をテーブルに置いた。

どうして、俺は今まで意識がなかったんだ。

血を流すゼロを見てハッと我に帰れた。

まるで魔法に掛かっていたかのような感覚だった。

アリスの能力か何かに掛かっていたのか?

計画を立てる必要があるな。

アリスの隣にいるあの仮面の男の正体を暴き、内部からEdenを壊す。

とりあえずはアリスの能力に掛かったフリをする必要がある。



少し前の事ー

ゼロの事を抱き寄せていたロイドの耳元で俺はある事を伝えた。

「アリスは俺が止める。だから、ゼロの事を頼む。」

「お前、洗脳に掛かってるんじゃないのか?」

「ゼロの血を見て解けた。じゃ、そろそろ行くわ。」

俺はそう言ってアリスの元に戻った。


アリスの目的はゼロを殺す事と自分の世界を作り上げる事だ。

アリスは何故、ゼロの事を毛嫌いしているのか。

まずは、仮面の男に接触し正体を暴く。

ゼロ…。

「無事だよなゼロ。」

真っ暗な空に浮かび上がる月を見て呟いた。


A.m 7:00

コンコンッ。

「ジャックー。起きてる?朝ご飯食べましょ?」

ドアのノック音とアリスの声が聞こえて来た。

愛おしく感じていたアリスの声だったのに、今は何
も思わなくなってしまった。

ゼロの少しだけ鼻声の低めの声の方が心地良く感じている。

「ジャックー?」

アリスの声に我に帰った俺はドアを開けた。

フリフリの服を着たアリスが抱き付いて来た。

「もー!!起きてたなら返事ぐらいしてよ!!」

「悪い。」

「許してあげる。あたしの愛しい人だからね。さ、こっちに来て。」

アリスが俺の手を掴んで歩き出した。

どうして、今までアリスの行動に不信感を抱かなかったのだろうか。

毎日夜中に抜け出して、ピンク街に行ったり、色んな男と寝ている事にすら怒りを覚えなかった?

アリスが何か事情があって行ったのだろうと思っていたんだ?

この世界はアリスは正しい事をしていると思うようになっている?

教会の外に出た俺達は庭に着くと、テーブルと椅子がセットされていた。

「遅いよー2人共。」

「朝ご飯が冷めちゃうよー。」

包帯だらけのディとダムが声を掛けて来た。

「そんなに時間経ってないでしょ?」

「僕達はお腹空いてるんだよー。」

アリスがディに話し掛けるとディは少し不機嫌な声を出した。

「お前等。あまりアリスに迷惑を掛けるなよ。」

ティーセットを持った仮面の男がディの頭をトンッ
と軽く叩いた。

異様な光景だな。

仮面舞踏会みてぇだなこりぁ…。

「どうしたの?」

「あ、いや、何でもないよアリス。」

俺は近くにあった椅子に腰を掛けた。
アリスも俺の隣に腰を下ろした。


テーブルには目玉焼きとベーコン、ソーセージにサラダ。

クロワッサンにミネストローネが置かれていた。

いかにも朝食って感じだな。

「さ、いただきましょう。」

「「いただっきまーす!!」」

アリスがそう言うとディとダムが手を合わせ声を出した。

そして、ディとダムは朝食を食べる為に仮面を外した。

仮面から現れたのは子供らしい幼い顔が現れた。

水色の瞳はビー玉のようにキラキラ輝いていた。

結構、幼い顔してんだなコイツ等。

エグい殺し方してんにな…。

で、この仮面の男は仮面を外す気はないか。

そう思っていると、仮面の男も仮面を外した。

「っ!?」

ミ、ミハイル!?

仮面の男の正体はミハイルだったのか!?

な、何で?

何でミハイルが?!

俺は驚きを隠せないでいるとアリスが腕を絡ませて来た。


「驚いた?ミハイルはあたしの犬なの。」

「犬…だ?」

「あ、砂糖がないな。取って来る。」

ミハイルはそう言って立ち上がり歩き出そうとした。

俺はミハイルの後を急いで追い掛けた。

ダダダダダダダッ!!

教会の中に入って行ったミハイルを急いで追い掛けた。
「おい!!ミハイル!!」

俺はミハイルの肩を乱暴に掴み壁に押し付けた。

「やぁ、ジャック。ご機嫌斜めのようだね。」

「テメェが仮面の男だったのか。」

「まぁね。」

「何でゼロの事を刺した!!」

俺がそう言うとミハイルはキョトンとした。

「怒る所はそこなの?と言うか洗脳解けたの?」

「ゼロが刺された所見て戻ったんだよ。何であんな事をした。」

「怖いなぁー。ジャックはアリスが好きなんだろ?だったら別にゼロが死んだって良いじゃん。」

ブチッ!!

ミハイル言葉に俺の中の何かが音を立てて切れた。

俺はミハイルの胸ぐらを掴み強く壁に叩き付けた。

「ゼロが死んだら良いだ?テメェふざけてんなよ。お前等の目的はなんだ。今度ゼロに手を出してみろ。その時は殺すぞ。」

俺がそう言うとミハイルが笑い出した。

「何が可笑しい。」

「可笑しいに決まってるじゃん。お前に俺は殺せねぇよ。何?お前ゼロの事好きなの?」

「なっ!!今はその話は関係ねぇだろ。」

「関係あるよ。ゼロかアリスか。」

「何の関係だよ一体…。」

俺がそう言うとミハイルがジッと俺の目を見つめてきた。

「この世界に2人もアリスはいらない。アリスはお姫様にならなきゃいけないんだよ。」

「2人もいらない…?」

「俺はこんなにもアリスの為に動いているのに、どうしてアリスはお前が好きなんだよ。」

「え?」

ミハイルの突然の言葉に俺は驚いた。

もしかして、ミハイルは…。

「アリスの事が好き…なのか?」

「好きなんて言葉で簡単にまとめるな。俺はアリスをずっと、ずっと前から愛してるんだよ。体を何度も何度も何度も重ねてもアリスの心はお前に向いてんだよ!!」

「っ!?お前、アリスと寝ていたのか。」

「アリスはお前の事を想像しながら俺に抱かれてたんだよ。俺はお前の事なんか嫌いで仕方がないんだ。」

ドンッ!!!
そう言ってミハイルは俺の体を突き飛ばした。

「俺と同じような境遇で育ったのに何でだよ!!」

ミハイルは叫びながら俺の胸グラを掴み床に思いっ
切り倒して来た。

ミハイルは俺と一緒にいた時からそう思っていたいのか?

ミハイルは俺とアリスをくっ付けようとしたのも、
アリスの為か。

「だから、アリスの世界を壊そうとする奴は殺して来た。それはこれからも変わらない。」

ミハイルの胸元に黒い棘のタトゥーが見えた。

「ゼロは俺が殺す。それがアリスの願いだからな。」

「ゼロは殺さねぇ。」
 カチャッ。

俺はそう言ってミハイルの胸元に銃口を突き付けた。

カチャッ。

ミハイルも俺の頭に銃口を向けていた。

俺はミハイルの腹を蹴り飛ばした。

ドカッ!!

ミハイルの手が胸元から離れた事を確認した俺はすぐに距離を取り銃口を向けた。

それはミハイルも同様で、ミハイルも俺に銃口を向けていた。

俺達の間に静かな空気が流れた。

「俺とお前の意見が食い違った。その意味はもう分かるよな?ジャック。」 

そう言い放ったミハイルの目には殺意しかなかった。

ゼロを殺すと言うミハイルの意見とゼロを殺させないと言う俺の意見。

その時点で俺達の道は2つに分かれてしまった。

ミハイルと俺はもう、隣を歩く事がない。

俺達は何も言わずに引き金を引いた。
しおりを挟む

処理中です...