【R18/BL/完結】エンドライン/スタートライン

ちの

文字の大きさ
21 / 25
第二部

スタートライン 7

しおりを挟む
 
 なにもかもが初めてだった。しかもその相手が、教科書がないと言って強引に隣へ机を持ってきたふざけた同級の男だなんて。直視するのもはばかられるあいつのものが俺の中に入ってきた時は、痛くて死にそうだった。西川はもう女を経験していただろうし、どうして男なんかを抱く気になったのかも不思議でならない。頭は大丈夫なのかと本気で心配した。俺に、そういう性癖を思わせる部分があったのか。男が好きそうな?もしくはもともと男が好きだった?
 西川は二回果てて疲れたのかそのまま眠ってしまった。俺は何回達したのかもう覚えていない。思い出すと恥ずかしくなるような嬌声を何度も上げてしまっていた。だいぶ好き勝手してくれたものだから腰が痛くてたまらない。隣でよだれを垂らしている男を盗み見たが、あんまり無防備に眠っているので舌打ちしか出てこなかった。
 理不尽な仕打ち、男としてのプライドの侵害、犯されたという事実。最低な奴なのには変わりがない。どうしてか、受け入れてしまう。西川だから、許すのか。
 ちゃんと腰に力が入るのかわからなかったが、いつまでも裸でいるわけにもいかないので服を着ようと立ち上がった。ベッドの下に散乱した残骸に手を伸ばす。下着を履いてシャツだけ上に羽織っておく。今何時だろう。ぴったり締め切られたベランダを覗こうと窓のほうへ寄った。

『トキ、どこ行くの、』

『お前、今日どうするんだ』

『んー、お泊まり』

 むくりと起き上がった西川は、眠たそうに眼をこすった。そして、はぁ、とおおきな溜息をつく。俺はカーテンの隙間から一度外を確認した。溜息をつきたいのはこっちのほうだ。

『朝まで一緒に寝よう。ほら、おいで寒いから』

『部屋で寝る』

『なんだよ賢者タイム?冷たい男だね』

『誰かのせいで腰が痛いんだよ』 

『トキだって気持ち良くなってたじゃん、』

『もう気が済んだだろ、』

 西川はよろよろと近づいてきて左手で俺の手を持ち上げる。最中のときとは違ってぎこちない動きで指を絡ませてきた。俺はじっとその様子を見ていた。やがて五指を交差させて手を繋ぐと、反対の手で羽織ったシャツを払い落とし、そのまま腰の内側に指を這わせてくる。

『なに脱がせてんだよ、』

『うさぎは寂しいと死んじゃうって、本当なのかな』

『は?だから、やめろって』

『俺って結構さみしがり屋なんだよ。そばにいてよ』

『本当にいいかげんに、』

『やらなかったら一緒に寝てくれる?』

『っ西川、』

 西川は悪戯する子供のような笑みを浮かべて俺を担ぎ上げた。そそくさと俺の部屋まで運び、ベッドの上にどさりと投げる。腰に響いて思わず身を屈めると、後ろから西川に抱きすくめられた。

『おい、俺は風呂にっ』

『中に出してないし大丈夫だよ朝で』

『そういう話じゃない、』

『もうしないよ。こうやって、そばで眠りたいだけ』

 西川の表情は見えない。首の後ろに擦れる髪の毛がくすぐったくて、俺は身体の力が抜けた。
 しばらくじっとしていたら、背中から規則正しい寝息が聞こえてくる。俺は静かに寝返りを打ち、西川を前に見据えた。肌と肌を合わせたまま微睡む心地よさは本物だった。俺は無意識のうちに脚が触れるように身をよじっている。
 寂しいのは俺だ。自分を解放できないでいる俺の方だと思った。









 ベッドで眠る西川はすやすやと規則正しい寝息をたてている。握る手のひらは少しひんやりしていた。握り返す感触はない。早く気がつけばいいのに。あの時みたいに手を繋いでくれたら。
 寂しいと死んでしまうと言ったのは目の前の男で、俺が同類の人間であることはこいつも周知のことなのに。
 
「大丈夫そうなんで、俺もう帰りますね。西川の弟さんがもうすぐ着替えとか持ってくるってさっき連絡があったそうです」

 振り向くと染谷はもう帰る準備をしていて、ドアに手をかけていた。俺は手を離して慌てて病室を一緒に出た。染谷には予想以上に迷惑をかけてしまった。突然意識を失った西川に動転している俺の横で、冷静にタクシーを呼んで近くの病院まで同行してくれた。もう夜の十時だ。明日も学校があるのにこんな遅くまで付き合ってもらうことになってしまい、申し訳なさばかりが募った。

「タクシー代、今度必ず返すな」

「今度も会ってくれるんですか?」

 染谷は冗談のようにそう言った。まだ好きだと言った彼の言葉は本当なんだろう。染谷が俺を甘やかすたびに、俺はどんどん最低な人間になっていく。自分のいいように利用することに慣れてしまうと、俺は自分でもう制限できない。それが怖い。俺が今一番恐れているものととても似ているものだ。

「今日はほんとに、迷惑かけた」

「俺は別に、謝ってほしいわけじゃないんですけどね」

「すまない」

「いいじゃないですか。迷惑かけたって。西川先輩だって同じ意見だと思いますよ、先輩が気にするからあの人も言わないだけで……だれも、そんな先輩を嫌いだなんて一言も言ってないでしょう」

 染谷の言葉がやさしくて、やさしくて、俺は込み上げる苦しさを我慢した。唇を噛んで堪えていると、染谷の顔が静かに下りてくる。

「そんな顔をさせたかったわけじゃないのに、」

「染谷、」

「ごめんなさい。これで、最後にしますから」

 染谷の唇は熱かった。苦しんでいた心臓まで、燃えるように熱くなった気がした。
 いつだって、ほしい言葉と。態度と。笑顔をくれた。西川にはないものをたくさん持っていた。俺は何度も染谷に救われたよ。感謝の気持ちは腐るほどあるのに、おそらくほとんど伝えられていない。それだけが、胸につっかえる。
「ありがとう」と言えればどんなに楽だったか。申し訳なさが勝ってしまう今の俺には無理だった。
 軽く触れるだけの口づけをして、染谷は帰っていった。

 早く目が覚めてくれたらいい。
 寂しいのは、俺の方だ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...