最後の一局

ももノとし

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最後の一局

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 「忘れられない約束」

 それは
 おじいちゃんとの
 「最後の一局」



 僕が囲碁を始めたのは小学生の頃だった。
名作の某囲碁漫画の影響で囲碁を覚え始めた。
 しかし、周りの友達には碁を打てる人はおらず、一人で碁盤に石を打つことしかできなかった。

 そんな時、唯一碁の相手をしてくれたのは、おじいちゃんだった。
 孫が碁を始めたのが嬉しかったのか、会う度に僕が「一局打とう!」と声をかけると、「おう、やるか!」と言って、押し入れの奥から碁盤を引っ張り出してくれた。

 ハンデありでも、おじいちゃんに勝てることはなかった。
 それでも、おじいちゃんと碁が打てるのが楽しかった。

 一方、おじいちゃんから碁を誘われることは、あまり無かった。自分から誘うのは嫌だったのか、すでに碁に対して興味がなかったのか…
 昔はよく友達と打っていたらしいが、今はもう普段から碁を打つことはなくなった、とおばあちゃんが言っていた。
 思えば碁盤も、いつも押し入れの奥にしまわれていた。

 それでも、たまに「一局打とう!」と声をかけると、「おう、やるか!」と碁盤を引っ張り出してくれた。
 その度僕は「付き合ってくれてありがとう」と、心の中で思いながら、碁盤と、おじいちゃんと向き合っていた。

 そんな時々碁を打つ関係が、思春期を超え、一緒にお酒を飲むようになってからも続いていた。





 それから数年してからだった。おじいちゃんのガンが見つかったのは…



 ステージ4…それも、末期だった。



 余命は半年。





 いずれ来るものだと分かっていても、ショックを隠せなかった。

 それでも、おじいちゃんは笑っていた。笑って僕に会ってくれた。
 だから僕も、悲しい顔は見せず、笑顔で残りの時間を過ごした。

 帰る間際に思い出した。最近、おじいちゃんと碁を打てていないことを…
 だから僕は声をかけた、「今度一局打とう!」。
 おじいちゃんは、「おう、やるか!」と答えてくれた。



 おじいちゃんの容態が悪くなったのは、それから少し後だった。
 次会った時には、酸素ボンベからのチューブを鼻に入れ、重そうな足で歩く、おじいちゃんの姿があった。


 "その時"が迫ってくるのを実感した。


 相変わらず、僕とは笑顔で話してくれたが…その後ろの窓に反射して見えたのは、辛そうにしている小さな背中だった。



 別れる前に一局打ちたい。最後の一局を…



 でも、さすがに今の身体で小一時間座って碁を打つのは、もう辛いかもしれない…





 
 僕は…      誘わなかった…     






 おじいちゃんも忘れていたのか、碁の話はせず、その日はそのまま別れた。





 それが最後の別れと知ったのは、その半月後だった。




 おじいちゃんは静かに天国へ逝った。








 遺品のほとんどは処分する、と言う父に、形見としておじいちゃんの碁盤をもらうことになった。
 「今度は俺が押し入れの奥から出さなきゃな…」、そんなことを思いながら、押し入れを開けた。






 碁盤はそこにあった。
 押し入れを開けたすぐ目の前に…






 いつも奥から出すのは大変だからと、出しやすいところに置いて、いつでも孫と打てるようにしていたんだと、おばあちゃんが話してくれた。
 ガンが発見される少し前のことだったと…







 久方ぶりにその碁盤に打たれたのは石ではなく…

 僕の数滴の涙だった。





「忘れられない約束」

それは"果たせなかった"
おじいちゃんとの
「最後の一局」
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