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しおりを挟むある時、大勢の兵士達が、丘の下の街に来た。
その兵士を率いる将軍が、声高らかに街の住人に言った。
「今日より、この神木の街は我らグラバー帝国の物とする!抵抗する者は容赦しないと思え!服従する者には、恩恵を約束する!」
争いの殆ど無い街は、混乱をした。服従を良しとする者、良しとしない者。武力では敵わない事を本能で感じ無気力になる者。
しかし、この穏やかな街に武力で押さえつけ、無理矢理服従させようとする事に、当然住人達は心の奥底で強い反発を覚える。
暫くの間は妙な緊張感と共に、何事も無く只、時が過ぎ去る。
が、たった1人の兵の暴挙によって、仮初めの平和が崩れた。
「いやぁぁぁー!!!!」
静寂が支配する暗闇の中、1人の女の悲鳴が闇に突き刺さる。
巡回中の中年の兵が、夕暮れ時の仕事帰りの女の目を付けたのだ。女が街の小さな食事処で、夕食を済ませた頃には、すっかり日が沈み辺りは薄暗くなっていた。
今まで、少々暗くなっても物騒な事は1つも無かったのに、この日は違った。
物騒な事が無いとはいえ、帰り道を急ぐが、途中から違和感を感じ走り出す。
だが、付けていたと気付かれた兵は、追い付き追い詰め、女を蹂躙した。
女は抵抗したが、所詮男の、しかも兵士として鍛えられた男の力に敵う訳も無い。
異変に気が付いた近くの住人が駆けつけるも既に遅く、凌辱された後だった。
住人達が見たのは、走り去って行く帝国の兵士の後ろ姿だった。
襲われた女には、婚約者がいた。半年後にはあの樹木の下で結婚式を挙げ幸せになる筈だった。婚約者は嘆き悲しんだが、傷物になった女を捨てた。それに絶望した女は、食事が喉を通らなくなり、寝込む様になり、悲しみの中、たった1人の家族・・・兄に看取られた。
兄は、妹に誓った。この悔しさ、この恨み、この憎悪の根源を討ち滅ぼすと!
兄は、神木と呼ばれるようになった私に願掛けをした。
「俺に!祝福をください!妹の・・・!!恨みを・・・仇を・・・討ちたい!!」
だが、私にはそんな彼の願を聞き入れる理由が無いし、力も無い。
私が、与えるのは、“五穀豊穣”と守護。
「無理を言うでは無いぞ。」
その老人は集落の頃から居る古い血筋の語り部。代々この樹木の言い伝えを語り継ぐ一族。
私は、この一族の夢枕に、たまに現れ自然災害を知らせていた。
「御神木様には、その様な力は無いぞ。只々、静かに佇み我らを見守って下さる。」
「見守っているのなら!妹も守ってくれても良いじゃ無いか!」
「儂らは、天に試されているんじゃ。御神木様では無いぞ。」
「・・・!!天なんか!!神なんか!!なんにも!!俺達は何もして無いじゃあ無いかぁぁ!試練なんか糞食らえ!妹を!!!妹を・・・返してくれぇぇぇ!!」
男の慟哭は星が瞬く闇夜に吸い込まれていった。
あれから、何度かの季節が過ぎ去り、この丘を巡り色々な国が争い、元からの住人達を奴隷の様に扱う。
私は花が咲かせなくなった。
ドリュアス様・・・悲しいの?
よくわからない・・・只・・・彼らの、涙を見るとなんだか、こう・・・憂鬱?になる。
ドリュアス様・・・
そして、私は決断した。
私の足元で、不快な彼奴ら・・・・
彼らに、私の 祝福をやってくれ。
「うわー!!」「なんだ!?これはっ!!」
普段は兵士達に怯え静かな街は、男達の怒号が響きわたる。見えない相手に怯え、逃げ惑う者、剣を振るう者、どさくさに紛れ強奪をしようとする者、あるいは住人に向けて威嚇する者・・・
だがしかし、限りなく伸び続けありとあらゆる物を絡める蔦、突然、天高く空を貫かんとばかりに伸びる木々、なだらかな丘、裾野に広がる穏やかだった街はあっという間に樹海となって近隣の街への道は途絶された。
とある兵士は樹木に呑まれ、押し潰され、またある者は逃げ出し、そして侵入者達はいなくなった。残されたのは、以前からいた住民のみ。
そして、私は季節外れの花を咲かせた。
ひらひらと舞い落ちる花弁を、精霊達が大事に拾い上げ、住人達の口の中に押し込む。
それを口にした住人達に、私は語りかける。
『このまま樹海に住むも良し、去るも良し。もしここに留まるので有れば、私の加護で樹海と共に暮らすが良い。』
「何?」
「神木様の声!?」
「えっ!」
ざわざわと、騒々しく話す人の群れの中で、1人の若者が私の名を呼んだ。
「ドリュアス・・・・?」
・・・・お前は アメリアか・・・・?
とたんに、大粒の涙を流し私に赴いた。
「い・・今の名前は、アンリと言います。ドリュアス・・・・俺はここに留まりあなたと共に居たい。」
『そうか、だが、こうして話す事が出来るのは今だけだ。今はまだ強力な精霊力がここに残っているからな。』
「・・・え?どうしてですか?」
『ふむ・・・この度の事で、精霊力を使い過ぎた。私は暫くは眠りに付く。精霊達は私を守ってくれるが、彼らはお前達を守らない。だから、加護、を与えるが、人の暮らしには向かないとは思う。』
そこまで聞いた住人の半分はここから立ち去る事を決め早々に樹海を後にした。
残された住人達は、今まで帝国や王国に理不尽な事をされたり、私を慕ってくれる者達だ。
『では、残った者達には、私の花を丸ごと与えよう。食すが良い。この花には私の加護があり、お前達には、人としては優れた力を得る。この樹海で暮らして行く為の助けになるだろう。だが、しかと覚えよ、私の事を忘れれば、全ての加護の効果は無くなり只人になるということを。』
「ドリュアス・・・様、眠りに付くのですか?」
『そうだ。いつ目覚めるかはわからない。』
「そんな・・・やっと、思い出して・・・話も出来たのに・・・」
『アメリア、いや、アンリだったな。生きていればまた再び話が出来る。私が目覚める迄、息災でな。』
ドリュアス様ー
若様ー
おやすみなさいー
おやすみ・・・後は、頼んだよ・・・
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