自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景

文字の大きさ
5 / 17

5

(次は何の本を読もうかしら)

昨日読み終わったイーサン・ブロックの本も素晴らしく、その余韻に浸れば幸福感に口元が緩む。広大な王立図書館では読書に最適な中庭やゆとりのある読書スペースが各所に設けられており、ジーナは人目を気にすることもなく閉館時間までゆっくりと読書を楽しんでいた。

隣国の伝統工芸についての書かれた本を読んでいると、ふと思いついたことがありノートに書きだしていく。隣国の技術革新は目覚ましく、ジーナも前世の記憶に家電製品などの知識があればひと財産築くことが出来ただろう。
大きなものは無理でも小さなものならと応用できそうな物とその仕組みなどを連ねていくうちに、あっという間に時間になった。

卒業後はどこかに就職しないといけないが、まだどんな仕事に就くかは決めていない。何かの役に立てばいいなという軽い気持ちだったが、実用化されたらどうなるだろうと考えるとわくわくした気持ちになるのだ。
唯一惜しむべくはジーナが不器用だということだが、アイデア次第では自分にも作れるものがあるかもしれないと前向きな気持ちでジーナは家路へと着いた。


翌朝、いつものように教室に入れば、どこか遠巻きに自分を見つめるクラスメイトの姿があった。よそよそしく不穏な雰囲気にジーナは机を確認したが、特に異変はない。

(身の回りの物は無事だし、他の貴族の方たちと特に問題も起こしていないわ……)

教科書を水浸しにされて以降、目立った嫌がらせや陰口は沈静化していたため正直なところ油断していたが、思い当たることがない。

「ジーナ嬢、話がある。付いて来てもらおう」

居丈高な口調が気になったが、相手はヴィルヘルムの従者で、確か生徒会の一員でもあるエリゼオ・ヴァーレン伯爵令息だ。あまり良い話ではなさそうだが、ジーナに拒否権はない。

生徒会室に連れて行かれるとそこにはヴィルヘルムとブリュンヒルト、そして名前を知らない令嬢が待っていた。手に巻いた白い包帯がやけに目に付いたが、エリゼオの声にジーナは顔を上げた。

「昨日の放課後、どこにいた」
「温室横の物置の掃除をして、王立図書館に立ち寄ったあと帰宅いたしました」

詰問口調に辟易しながらも、平坦な口調で答えればエリゼオは眉を顰めた。

「何故物置の掃除などをする必要がある?正直に答えないと立場を悪くするだけだぞ」
「理由は私にも分かりかねますわ。当番制だと伺いましたので、掃除したまでですから」

答えながらもジーナはじわじわと嫌な予感を覚えていた。同じクラスの男爵令嬢から急に当番だと告げられて、単純に面倒だからと掃除を押し付けられただけだと考えていたが、恐らくもっと厄介なものに巻き込まれているに違いない。

「昨日クラウディア・アドルナート伯爵令嬢が薬品を浴びて怪我を負った。使われた薬品は君が掃除したと主張する物置にあった物と一致している。さらに君には令嬢に恨みがあるそうじゃないか」

軽蔑したように言い放つエリゼオから視線を外し、ブリュンヒルトの横にいる令嬢に目を凝らす。包帯を巻いていることから、恐らく彼女がクラウディア・アドルナート伯爵令嬢に違いないが、恨みも何も見覚えがない。

「……こちらのご令嬢と面識はございませんが」
「まあ白々しいこと。クラウディアがわざわざ貴族の在り方を説いてあげたのに、怖い顔で睨んでいたじゃない」

ブリュンヒルトの言い方から、どうやら絡まれた時に共にいた令嬢の中にクラウディアもいたらしい。

「あの時ご助言頂いたご令嬢の中にアドルナート伯爵令嬢もいらっしゃったのですね。人数が多かったため認識しておらず、失礼いたしました」

いちいち恨んでなどいないが、その時の状況をさりげなく伝えるとともにジーナは頭の中で無実を訴えるためにはどうしたら良いか考えていた。

「薬品を浴びて怪我をしたということですが、どのような状況だったのでしょうか?薬品が入っていたのは瓶ですか?それとも何か革袋などに入れられていたのでしょうか?怪我をされたのは左手だけですか?ああ、それから制服は昨日と同じ物をお召しですか?あと気になるのは――」

「ちょっと待て、質問が多すぎるだろう!というか何故お前がそんなに根ほり葉ほり聞く必要があるのだ!」

矢継ぎ早に訊ねるジーナに、呆然としていたエリゼオが我に返って遮った。

「何故と言われましても、私の無実を証明するために必要なことですので」
「……お前が犯人ではないのか?」

「エリゼオ様、騙されないでくださいませ。こんな野蛮な真似を良識ある貴族子女がするはずがありませんわ」

仮にジーナが仕返しをするとしても、こんなあからさまな真似はしない。もちろんそんなことを口に出せば難癖を付けられるので、事実と推測を口にした。

「私はこの学園に友達がおりません。貴族の繋がりもなく、学年の違うアドルナート伯爵令嬢の予定を把握するのは難しいでしょう。身分違いの私がアドルナート伯爵令嬢に近づけば目立ちますし、偶然出会って犯行に及んだとすれば私はいつも薬品を持ち歩いていることになり、そうなれば私がわざわざ薬品を取りに温室横の物置に出入りする必要もありません」

ジーナがこのように理路整然と反論してくるなど予想外だったのだろう。ブリュンヒルトとエリゼオはぽかんとした表情で固まっている。クラウディアは不安そうに眉を下げていて、そんな中ヴィルヘルムは感情が窺えない表情を保っていることが気になった。

「……クラウディア、貴女何か見たのではないの?!」

苛立ったようにブリュンヒルトがきつい口調で声を上げれば、クラウディアは身体を竦めて申し訳なさそうに言った。

「……突然だったので、制服の一部しか見えず女性だったことしか分からなくて……。咄嗟に顔を庇った左手が熱くなって、痛みと恐怖でうずくまってしまいましたの」

その時の状況を思い出したのか、ぽとりと一粒の涙が零れた。

「クラウディア嬢――!俺が傍にいますから、心配しないでください。か弱い女性をお守りするのが騎士としての役目ですから」

エリゼオが跪いて熱のこもった視線でクラウディアに伝えている。恋愛感情を抱いているというよりも、職務に忠実な自分に酔いしれているような気がした。

「その娘が無実だと言う証拠もありませんわ。犯人かもしれない者を野放しにしておくのですか?」

ジーナを犯人に仕立てようと躍起になっているブリュンヒルトこそ怪しいのだが、平民一人を排除するのにそこまで危険を冒す必要があるのだろうか。

(それに、この方意外と単純な気がするわ……)

「それはこの学園内のご令嬢全員に当てはまることですわ。先ほど申し上げたとおりアドルナート伯爵令嬢の制服に残留した薬品と現場の状況を調べれば、犯人の背丈や利き腕ぐらいは分かるでしょう。あとは犯人にも薬品が付着した可能性がありますから、生徒全員の制服を調べれば手掛かりに繋がるかもしれません」

「あの、そんなに大事になるのなら……もう、大丈夫ですわ。両親に心配を掛けたくありませんの」

不安そうな表情でヴィルヘルムに嘆願したのはクラウディアだ。それはジーナの推測を一つ補強する要素の一つになったが、口にするのは賢明ではない。

「ならばこの件は一旦こちらで預かろう。ジーナ嬢、教室に戻って構わない」

平坦なヴィルヘルムの口調に、ジーナは一礼して生徒会室を後にしたのだった。
感想 19

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

婚約破棄される前に、帰らせていただきます!

パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。 普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

神の愛し子と呼ばれていますが、婚約者は聖女がお好きなようです

天宮花音
恋愛
ミュンバル公爵家の令嬢ローゼリカは神の愛子とされ、幼い頃よりアモーナ王国第一王子リュシアールの婚約者だった。 16歳になったローゼリカは王立学園に入学することとなった。 同じ学年には、第2王子で聖騎士に任命されたマリオンと 聖女となった元平民でメイナー子爵家の養女となった令嬢ナナリーも入学していた。 ローゼリカとナナリーは仲良くなり、リュシアール、マリオン含め4人で過ごすようになったのだが、 ある日からナナリーの様子がおかしくなり、それに続きリュシアールもローゼリカと距離を取るようになった。 なろうでも連載中です。