30 / 40
第2章
勝手な思い込み
「やらかしたわ……」
ヴィオラは小屋の中で一人落ち込んでいた。昨晩の夕食時もセオドアに告げられた言葉がずっと頭から離れず、意識をセオドアのほうに向けすぎていたせいで、フォークを取り落とすという失態を晒してしまったのだ。
目を細め、眉を僅かにひそめたものの、セオドアは何も言わなかった。それが逆に居たたまれなくて席を立ちたかったが、それもまたマナー違反だ。
料理を味わう余裕もなく、これ以上の失敗を避けるためひたすら黙々と食事を終わらせることに専念した結果、その後は何事もなく終えることができたと思っていた。
だけど今日、朝食にセオドアは現れず一人で朝食を済ませたヴィオラは、昨日の出来事を反芻しては溜息を吐いている。何も言われなかったからといって、夕食での出来事と無関係だとは思えない。
フォークもまともに使えないと呆れられたのかもしれない。
(ヴィーがいれば……)
ずっと傍にいた存在は近くて遠い。お守りのようなぬいぐるみも今はカイルとともにいる。
いつだってヴィーの存在に助けられていたのだと改めて実感するとともに、何とかしなければという気持ちが湧いてきた。
一緒に幸せになろうねと言ったヴィーの笑顔が浮かび、自然と口の端が上がる。
「うん、幸せになるために自分で選んでここに来たのだもの」
レイが娘にならないかと言ってくれて、新しい家族が出来たと思った。セオドアに望まれていないのは悲しいが、できることなら家族になりたい。
貴族らしい振る舞いや教養が身に付けば少しは認めてくれるかもしれない。生まれ育ちはどうしても変えられないけど、公爵家の一員として認めてもらうためには何が必要なのか。
(人に認めてもらうには、ううん、誰かと仲良くなるためにはどうしたら良かったんだっけ?)
両親や村の人たちと良好な関係を築くのを諦め、師匠に引き取られてからもヴィオラは師匠以外の人と積極的に関わらずにいた。仕事を覚え一人でも生きていけることを優先した結果、というのは言い訳だ。
根っこのところでは人を信じることが怖かった。
優しかった両親が掌を返すように嫌悪を浮かべて非難の言葉を浴びせられるのは、幼く柔らかい心に深い傷を残していた。
こんな時こそ前世の記憶が有用だというのに、ヴィーと一緒になって地面に足が付いたような感覚と引き換えに、今はほとんど失われている。
人生は一度きり。ヴィオラがこの世界で生きていくのに本来は不要なものだったのだろう。
(嫌われているのに近づくのは怖いし、お互いにそのほうが良いのだと思っていたけど、話してみないと結局はすれ違ったままだわ。あれ、でもだったら……)
セオドアのことを考えているうちに、何かが引っ掛かった。小さな違和感とこれまで考えていなかった発想にあり得ないと思いながらも、セオドアの言動を思い出す。
「セオドア様は私をアスタン公爵家に迎え入れることに反対している」
これは事実で、本人も明言していることだ。
だけどその理由をセオドアの口から聞いたことはない。
「生まれも育ちも平民だからと思っていたけど、もしかしてそうじゃない?」
レイは自由な気質で、身分を笠に着るような人ではない。そんなレイが引き取って育てた息子が、生まれを理由に公爵家の一員になることを拒否するだろうか。
(それにレイお父様が決めたことを、冷静で生真面目なセオドア様が感情論だけで反対するかしら……?)
不在の間に託されたという理由で一緒に食事を摂ったり、食事の世話をするような人だ。気遣う部分が食に限定されているのは、衣食住のうち他の二つは既に十分に与えられているからだろう。
決してヴィオラが食いしん坊だと思われているのではないと信じたい。
「………私、セオドア様のこと、何も知らないわ」
レイの息子でありアスタン公爵令息――高位貴族だとしか認識しておらず、セオドア自身のことを何も見ようとしていなかった。
嫌われているかもしれないという不安。平民だからといって勝手に萎縮し、誰よりも身分を気にしていたのはヴィオラのほうだ。
セオドアは一度もヴィオラに侮蔑の眼差しを向けることなく、非難や嫌悪の言葉を口にしなかったというのに。
勝手な思い込みで決めつけるなんて、ヴィオラを悪者だと決めつけた村の人たちと変わらない。
「セオドア様に謝ろう」
ヴィオラに足りないのは人と向き合う勇気と覚悟だ。すぐに変われないとしても変わる努力をしていかなければ、ヴィオラを受け入れてくれたレイやカイルに顔向けができない。
勢いよく立ち上がったヴィオラは、そのまま執事の元へと向かった。今日の予定はもう埋まっているかもしれないが、短い時間でも良いから話をする時間が欲しい。
「すみません、ルドルフさんは今どちらに――」
邸に入り、偶然見かけた侍女に声を掛けようとしたヴィオラだったが、彼女の顔に焦りが浮かんでいるのを見て、言葉を呑み込んだ。
「お嬢様、その、大変申し訳ございませんが、今取り込んでいる最中ですので、お部屋にお戻りいただけますでしょうか。ご案内いたします」
何があったのか聞きたかったが、早口に話す侍女の表情に切迫したものを感じ取って、ヴィオラは即座に頷いた。
ほっとした表情の侍女の後に付いて行こうとした時、近くの扉が開く音がして振り向いたのは無意識のことだった。
「………ヴィオラ?」
しまったというように顔を顰めたルドルフの前に、緩く巻かれた艶やかな胡桃色の髪の女性がいた。驚いたように見開かれた瞳はエメラルドのように鮮やかで、何だか嫌な予感がせり上がってくる。
「まあ、こんなに大きくなって。ヴィオラ、会いたかったわ!」
駆け寄ってくる女性にどうしていいか分からずにいると、ヴィオラを背後に庇うように侍女が半歩前に立ってくれた。はしゃいだように笑みを浮かべていた女性は、一転して不満そうに尖った眼差しを向けている。
「ようやく会えた娘との再会を邪魔するなんてひどいわ」
「先ほども申し上げたとおり、彼女の保護者は現在留守にしている。出直していただきたい」
ヴィオラと同じ瞳をした女性は悲しげに眉を下げたが、セオドアはどこか冷ややかな口調で毅然とした態度を崩さない。
その雰囲気から招かれざる客であることが明らかな女性は、ヴィオラを捨てたはずの母親らしい。
何故という言葉だけが頭の中を駆け巡り、言い知れない不安にヴィオラはその場に立ち竦むばかりだった。
ヴィオラは小屋の中で一人落ち込んでいた。昨晩の夕食時もセオドアに告げられた言葉がずっと頭から離れず、意識をセオドアのほうに向けすぎていたせいで、フォークを取り落とすという失態を晒してしまったのだ。
目を細め、眉を僅かにひそめたものの、セオドアは何も言わなかった。それが逆に居たたまれなくて席を立ちたかったが、それもまたマナー違反だ。
料理を味わう余裕もなく、これ以上の失敗を避けるためひたすら黙々と食事を終わらせることに専念した結果、その後は何事もなく終えることができたと思っていた。
だけど今日、朝食にセオドアは現れず一人で朝食を済ませたヴィオラは、昨日の出来事を反芻しては溜息を吐いている。何も言われなかったからといって、夕食での出来事と無関係だとは思えない。
フォークもまともに使えないと呆れられたのかもしれない。
(ヴィーがいれば……)
ずっと傍にいた存在は近くて遠い。お守りのようなぬいぐるみも今はカイルとともにいる。
いつだってヴィーの存在に助けられていたのだと改めて実感するとともに、何とかしなければという気持ちが湧いてきた。
一緒に幸せになろうねと言ったヴィーの笑顔が浮かび、自然と口の端が上がる。
「うん、幸せになるために自分で選んでここに来たのだもの」
レイが娘にならないかと言ってくれて、新しい家族が出来たと思った。セオドアに望まれていないのは悲しいが、できることなら家族になりたい。
貴族らしい振る舞いや教養が身に付けば少しは認めてくれるかもしれない。生まれ育ちはどうしても変えられないけど、公爵家の一員として認めてもらうためには何が必要なのか。
(人に認めてもらうには、ううん、誰かと仲良くなるためにはどうしたら良かったんだっけ?)
両親や村の人たちと良好な関係を築くのを諦め、師匠に引き取られてからもヴィオラは師匠以外の人と積極的に関わらずにいた。仕事を覚え一人でも生きていけることを優先した結果、というのは言い訳だ。
根っこのところでは人を信じることが怖かった。
優しかった両親が掌を返すように嫌悪を浮かべて非難の言葉を浴びせられるのは、幼く柔らかい心に深い傷を残していた。
こんな時こそ前世の記憶が有用だというのに、ヴィーと一緒になって地面に足が付いたような感覚と引き換えに、今はほとんど失われている。
人生は一度きり。ヴィオラがこの世界で生きていくのに本来は不要なものだったのだろう。
(嫌われているのに近づくのは怖いし、お互いにそのほうが良いのだと思っていたけど、話してみないと結局はすれ違ったままだわ。あれ、でもだったら……)
セオドアのことを考えているうちに、何かが引っ掛かった。小さな違和感とこれまで考えていなかった発想にあり得ないと思いながらも、セオドアの言動を思い出す。
「セオドア様は私をアスタン公爵家に迎え入れることに反対している」
これは事実で、本人も明言していることだ。
だけどその理由をセオドアの口から聞いたことはない。
「生まれも育ちも平民だからと思っていたけど、もしかしてそうじゃない?」
レイは自由な気質で、身分を笠に着るような人ではない。そんなレイが引き取って育てた息子が、生まれを理由に公爵家の一員になることを拒否するだろうか。
(それにレイお父様が決めたことを、冷静で生真面目なセオドア様が感情論だけで反対するかしら……?)
不在の間に託されたという理由で一緒に食事を摂ったり、食事の世話をするような人だ。気遣う部分が食に限定されているのは、衣食住のうち他の二つは既に十分に与えられているからだろう。
決してヴィオラが食いしん坊だと思われているのではないと信じたい。
「………私、セオドア様のこと、何も知らないわ」
レイの息子でありアスタン公爵令息――高位貴族だとしか認識しておらず、セオドア自身のことを何も見ようとしていなかった。
嫌われているかもしれないという不安。平民だからといって勝手に萎縮し、誰よりも身分を気にしていたのはヴィオラのほうだ。
セオドアは一度もヴィオラに侮蔑の眼差しを向けることなく、非難や嫌悪の言葉を口にしなかったというのに。
勝手な思い込みで決めつけるなんて、ヴィオラを悪者だと決めつけた村の人たちと変わらない。
「セオドア様に謝ろう」
ヴィオラに足りないのは人と向き合う勇気と覚悟だ。すぐに変われないとしても変わる努力をしていかなければ、ヴィオラを受け入れてくれたレイやカイルに顔向けができない。
勢いよく立ち上がったヴィオラは、そのまま執事の元へと向かった。今日の予定はもう埋まっているかもしれないが、短い時間でも良いから話をする時間が欲しい。
「すみません、ルドルフさんは今どちらに――」
邸に入り、偶然見かけた侍女に声を掛けようとしたヴィオラだったが、彼女の顔に焦りが浮かんでいるのを見て、言葉を呑み込んだ。
「お嬢様、その、大変申し訳ございませんが、今取り込んでいる最中ですので、お部屋にお戻りいただけますでしょうか。ご案内いたします」
何があったのか聞きたかったが、早口に話す侍女の表情に切迫したものを感じ取って、ヴィオラは即座に頷いた。
ほっとした表情の侍女の後に付いて行こうとした時、近くの扉が開く音がして振り向いたのは無意識のことだった。
「………ヴィオラ?」
しまったというように顔を顰めたルドルフの前に、緩く巻かれた艶やかな胡桃色の髪の女性がいた。驚いたように見開かれた瞳はエメラルドのように鮮やかで、何だか嫌な予感がせり上がってくる。
「まあ、こんなに大きくなって。ヴィオラ、会いたかったわ!」
駆け寄ってくる女性にどうしていいか分からずにいると、ヴィオラを背後に庇うように侍女が半歩前に立ってくれた。はしゃいだように笑みを浮かべていた女性は、一転して不満そうに尖った眼差しを向けている。
「ようやく会えた娘との再会を邪魔するなんてひどいわ」
「先ほども申し上げたとおり、彼女の保護者は現在留守にしている。出直していただきたい」
ヴィオラと同じ瞳をした女性は悲しげに眉を下げたが、セオドアはどこか冷ややかな口調で毅然とした態度を崩さない。
その雰囲気から招かれざる客であることが明らかな女性は、ヴィオラを捨てたはずの母親らしい。
何故という言葉だけが頭の中を駆け巡り、言い知れない不安にヴィオラはその場に立ち竦むばかりだった。
あなたにおすすめの小説
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…