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贈り物と由来
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「おはようございます、トーカ様」
「おはようございます」
顔を上げて挨拶をしたものの、しっかりと目を合わせることが出来ず透花はすぐに俯いてしまった。
フィルは透花の瞳を褒めてくれたが、これまで嫌がられることの方が圧倒的に多かったのだ。せっかく受け入れてくれたのに普通に接することが出来ない自分が情けない。
「今日はトーカ様に贈り物をお持ちしました」
そんな透花にフィルはいつもと変わらない穏やかな声で話しかけてくれる。
「少しだけお顔の近くを触れますが、よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です……?」
耳の上あたりに何かを差し込まれる感覚があり、顔の前に何かが揺れた。
「トーカ様、お顔を上げてみてください」
レースのカーテンが掛かったように少し不鮮明だが、見えないわけではない。フィルを見ると、少し残念そうな表情で透花を見つめている。
「私からはトーカ様の美しい瞳が見えませんが、トーカ様のご視界に問題ございませんか?」
「え、そうなんですか?」
試しにと鏡を覗き込んでみれば、眉から鼻尖あたりまでベールで顔を覆った姿が映る。髪留めのようなもので固定しているため、簡単に付け外しができるしベールがずれることもない。
「もしまだ慣れないようであればそちらをお使いください。トーカ様のご負担の少ない形でお過ごしいただければと思います」
頑なに顔を上げようとしない透花が少しでも過ごしやすいようにと考え、用意してくれたものなのだろう。叱ったり呆れたりするのではなく、寄り添ってくれたことに心の奥がほかほかと温かくなる。
「――フィル様、ありがとうございます!」
「トーカ様に喜んでいただけて何よりです」
優しい表情で口元を綻ばせたフィルを見て、嬉しくなった透花は先ほどまでの嫌な気持ちをすっかり忘れてしまった。
「まずは魔力についてご説明いたします」
淡々としたジョナスの声に透花は居住まいを正した。貴重な時間を割いてもらって教えてもらうのだから、しっかり学ばなければならない。
「魔力には水、火、土、風の四属性があり、それぞれ使える魔法が異なります。ただし御子様はいずれの属性でもなく、それゆえに女神の愛し子と呼ばれているとも言われています」
フィルは風属性、ジョナスは水属性の魔法を使うことが出来る。先日ジョナスが一瞬で壁の方に移動したのは、透花から引き剥がすためにフィルが風魔法を使って吹き飛ばしたからだ。
「魔力を制御できず、本人の意思に反して魔法が発動されることがあります。これは魔力暴走と呼ばれていて非常に危険な状態のため、魔力持ちは国に登録して教育を受けるよう義務付けられています。御子様の場合は魔法のない世界にいたため、魔力があっても発動することはなかったのでしょう。代々の御子様もこちらに来て魔法が使えるようになったと記録されています」
ジョナスの説明に少し気になることがあり、透花はそろりと手を上げた。
「ジョナス先生、質問しても良いですか?」
「どうぞ」
最初はジョナス様と呼ぼうとしたが、本人は平民だからと言って嫌がられてしまった。呼び捨てにするのは抵抗があり、ジョナスさんと呼べばフィルからも同じように呼んでほしいと言われて困ったのは透花だ。
結局教えてもらうのだから先生と呼ぶことで落ち着いたのだった。
「魔力が発動しなかったのに、どうして私の魔力は足りない状態なんですか?」
使わなければ減らないのではないだろうか。そんな透花の疑問にジョナスは僅かに顔を顰める。
「それは私も気に掛かっておりました。欠乏状態になったのは何らかの原因があったものと思われますが、今の段階では何とも言えません」
特に困っているわけでもなかったので、透花は気にしないことにした。
集中しているとあっという間に時間が過ぎ、区切りの良いところでお茶の時間となった。
「御子様の国の文字は随分と複雑ですね」
透花のメモを見てジョナスはぽつりとつぶやいた。そう言われて透花は今更ながらに不思議なことに気づく。言葉は通じるし文字も読めるのだが、書くことは出来ないのだ。
すぐに困ることはないが、今後のことを考えると覚えたほうが良いだろう。
「えっと、ひらがなとカタカナ、漢字の三種類の文字を使い分けないといけないので、難しいと聞いたことがあります」
「トーカ様のお名前はどのように書かれるのですか?」
ノートの端っこに小さく書くと、フィルは真剣な表情で見つめている。
「曲線が多く優美な形ですが、覚えるのは難しそうですね」
「ご署名にはそちらを使って頂いた方が偽造防止になりそうです」
興味津々といった様子の二人がいつもより幼く見えて、透花は余計な一言を口にしてしまった。
「漢字には一文字ずつに意味があるんですよ」
「それは面白いですね。御子様のお名前に使われている文字にはどのような意味があるのですか?」
そんな質問が返ってくるのは当然のことだった。
「とうは透明とか透き通っているという意味で、かはお花を意味しています。ジョナス先生やフィル様のお名前には何か由来や意味がありますか?」
なるべくさりげなく話題を逸らしたつもりだったが、フィルが一瞬気遣うような目で透花を見た気がした。
「あまり気にしたことがなかったので、今度両親に訊ねてみようと思います。トーカ様、お茶のお代わりはいかがですか?」
穏やかな声で尋ねるフィルに、透花はベールを被っていて良かったと心から思った。きっと顔を見ればフィルには気づかれてしまう。
(――透明な花なんて存在しないから)
小学校の時、透明だから幽霊だと揶揄われたことがあった。母も生まれてきて欲しくなかったと思ったから、こんな名前を付けたのだろうか。
そう考えたものの、肯定されるのが怖くて訊ねたことはなかったため、本当のところは分からない。
『トーカの名前の響きが好きなんだ』
大切な友人の声が頭をよぎり、トーカは無意識に首を振った。
これ以上思い出してはいけないと自分に強く言い聞かせながら、透花は温かいお茶に口を付けた。
「おはようございます」
顔を上げて挨拶をしたものの、しっかりと目を合わせることが出来ず透花はすぐに俯いてしまった。
フィルは透花の瞳を褒めてくれたが、これまで嫌がられることの方が圧倒的に多かったのだ。せっかく受け入れてくれたのに普通に接することが出来ない自分が情けない。
「今日はトーカ様に贈り物をお持ちしました」
そんな透花にフィルはいつもと変わらない穏やかな声で話しかけてくれる。
「少しだけお顔の近くを触れますが、よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です……?」
耳の上あたりに何かを差し込まれる感覚があり、顔の前に何かが揺れた。
「トーカ様、お顔を上げてみてください」
レースのカーテンが掛かったように少し不鮮明だが、見えないわけではない。フィルを見ると、少し残念そうな表情で透花を見つめている。
「私からはトーカ様の美しい瞳が見えませんが、トーカ様のご視界に問題ございませんか?」
「え、そうなんですか?」
試しにと鏡を覗き込んでみれば、眉から鼻尖あたりまでベールで顔を覆った姿が映る。髪留めのようなもので固定しているため、簡単に付け外しができるしベールがずれることもない。
「もしまだ慣れないようであればそちらをお使いください。トーカ様のご負担の少ない形でお過ごしいただければと思います」
頑なに顔を上げようとしない透花が少しでも過ごしやすいようにと考え、用意してくれたものなのだろう。叱ったり呆れたりするのではなく、寄り添ってくれたことに心の奥がほかほかと温かくなる。
「――フィル様、ありがとうございます!」
「トーカ様に喜んでいただけて何よりです」
優しい表情で口元を綻ばせたフィルを見て、嬉しくなった透花は先ほどまでの嫌な気持ちをすっかり忘れてしまった。
「まずは魔力についてご説明いたします」
淡々としたジョナスの声に透花は居住まいを正した。貴重な時間を割いてもらって教えてもらうのだから、しっかり学ばなければならない。
「魔力には水、火、土、風の四属性があり、それぞれ使える魔法が異なります。ただし御子様はいずれの属性でもなく、それゆえに女神の愛し子と呼ばれているとも言われています」
フィルは風属性、ジョナスは水属性の魔法を使うことが出来る。先日ジョナスが一瞬で壁の方に移動したのは、透花から引き剥がすためにフィルが風魔法を使って吹き飛ばしたからだ。
「魔力を制御できず、本人の意思に反して魔法が発動されることがあります。これは魔力暴走と呼ばれていて非常に危険な状態のため、魔力持ちは国に登録して教育を受けるよう義務付けられています。御子様の場合は魔法のない世界にいたため、魔力があっても発動することはなかったのでしょう。代々の御子様もこちらに来て魔法が使えるようになったと記録されています」
ジョナスの説明に少し気になることがあり、透花はそろりと手を上げた。
「ジョナス先生、質問しても良いですか?」
「どうぞ」
最初はジョナス様と呼ぼうとしたが、本人は平民だからと言って嫌がられてしまった。呼び捨てにするのは抵抗があり、ジョナスさんと呼べばフィルからも同じように呼んでほしいと言われて困ったのは透花だ。
結局教えてもらうのだから先生と呼ぶことで落ち着いたのだった。
「魔力が発動しなかったのに、どうして私の魔力は足りない状態なんですか?」
使わなければ減らないのではないだろうか。そんな透花の疑問にジョナスは僅かに顔を顰める。
「それは私も気に掛かっておりました。欠乏状態になったのは何らかの原因があったものと思われますが、今の段階では何とも言えません」
特に困っているわけでもなかったので、透花は気にしないことにした。
集中しているとあっという間に時間が過ぎ、区切りの良いところでお茶の時間となった。
「御子様の国の文字は随分と複雑ですね」
透花のメモを見てジョナスはぽつりとつぶやいた。そう言われて透花は今更ながらに不思議なことに気づく。言葉は通じるし文字も読めるのだが、書くことは出来ないのだ。
すぐに困ることはないが、今後のことを考えると覚えたほうが良いだろう。
「えっと、ひらがなとカタカナ、漢字の三種類の文字を使い分けないといけないので、難しいと聞いたことがあります」
「トーカ様のお名前はどのように書かれるのですか?」
ノートの端っこに小さく書くと、フィルは真剣な表情で見つめている。
「曲線が多く優美な形ですが、覚えるのは難しそうですね」
「ご署名にはそちらを使って頂いた方が偽造防止になりそうです」
興味津々といった様子の二人がいつもより幼く見えて、透花は余計な一言を口にしてしまった。
「漢字には一文字ずつに意味があるんですよ」
「それは面白いですね。御子様のお名前に使われている文字にはどのような意味があるのですか?」
そんな質問が返ってくるのは当然のことだった。
「とうは透明とか透き通っているという意味で、かはお花を意味しています。ジョナス先生やフィル様のお名前には何か由来や意味がありますか?」
なるべくさりげなく話題を逸らしたつもりだったが、フィルが一瞬気遣うような目で透花を見た気がした。
「あまり気にしたことがなかったので、今度両親に訊ねてみようと思います。トーカ様、お茶のお代わりはいかがですか?」
穏やかな声で尋ねるフィルに、透花はベールを被っていて良かったと心から思った。きっと顔を見ればフィルには気づかれてしまう。
(――透明な花なんて存在しないから)
小学校の時、透明だから幽霊だと揶揄われたことがあった。母も生まれてきて欲しくなかったと思ったから、こんな名前を付けたのだろうか。
そう考えたものの、肯定されるのが怖くて訊ねたことはなかったため、本当のところは分からない。
『トーカの名前の響きが好きなんだ』
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これ以上思い出してはいけないと自分に強く言い聞かせながら、透花は温かいお茶に口を付けた。
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